幻想家族

2012年11月14日 14:00

湘南海岸、早朝‥‥。
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まず最初にラン親子が棲むエリアへ赴いた。
ところが、私が自転車のスタンドを立てる音を聞きつけて姿を現すのが常なのに、今朝は3匹の気配は何処にもなく、防砂林の中に動くものはなかった。

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エサ場を覗いたが、朝食をした形跡はない。
こんなことは、あの親子がこのエリアへ移り住んでから初めてだ



しばらくエサ場近くに留まり、ラン親子が現れるのを待ったが、無駄だった。
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心の中で得体のしれないものがざわざわと蠢動し、私はにわかな焦燥感に襲われた‥‥。


今まで何度も経験しているが、海岸猫はある日忽然と姿を消してしまう。
そして大抵の場合、二度と海岸へ戻ってくることはない。

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私は胸騒ぎを抱えたまま、他のエリアへ向かった。


珍しくリンが防砂林から出てきて、私の脚にすり寄ってきた。
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この海岸猫が以前ように道路近くに姿を見せることは、殆どなくなった。


リンが食事をしていると、草むらの中からユイが姿を現した。
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リンに視線を注ぐユイの表情には緊張感がはっきりと見て取れる。


食事を中断したリンが見つめ返すと、ユイはつと視線を外した。
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前回防砂林に住まう人から聞いたように、やはりリンとユイの仲はうまくいってないようだ。


それでも猫缶の匂いが気になるのか、ユイは慎重な足取りでリンに近づいてきた。
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リンはそんなユイを無視するように、再び猫缶を食べはじめた。


食べ物のことでリンと姪であるユイが諍う光景は見たくない、と思った私は急いでユイにも猫缶を与えた。
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ところがユイは、味見をするごとく猫缶に数回口を付けただけだった。


どうやら、防砂林に住まう人からすでに朝食は貰ったようだ。では何を欲して鳴いているのか。
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リンは相変わらずユイには無関心で、猫缶を味わうように食べている。


と、今度は水を飲みだしたリンにユイが恐る恐る近づいていく。
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気をもんだが、心配した諍いは起こらなかった。リンが寛容になったからか‥‥?


水を飲み終えたリンは、そそくさと防砂林の奥へ消えていった。
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防砂林に住まう人の朝は存外早い。彼らは日の出とともに起きるのだ。だからリンとユイの朝食もいきなり早くなる。朝の6時に腹が満たされている海岸猫はあまりいない‥‥。


ユイもリンの後を追って、ねぐらであるテント小屋に戻るかと思ったが、やはり不仲なためか独り残った。
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ランの娘でありながら、何故か1匹だけ置き去りにされたユイ‥‥。そして、同じエリアに棲むリンには邪険な扱いを受けているという。


そんな境遇にいる幼い子にどう処すればいいのか‥‥。
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とりあえず、草を猫じゃらしにして遊ぶことにした。


本来ならチャゲやアスカとじゃれ合っているはずのユイ‥‥。
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なのにこんなありあわせの猫じゃらしに素直に反応する。その様子を見ているうちに、不意に胸が一杯になってきた。


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「ユイ、家族と一緒に暮らしたくないのか?」


家族”‥‥、日本では社会の最小単位とされ、傍目には堅固に繋がっているように見える。
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が、その繋がりは思いのほか脆く、顧みず安穏としていると忽ち崩壊してしまう。


そうはいっても、持たぬ者からすれば、“家族”は憧憬の対象でありつづける。
たとえそれが砂上の楼閣であったとしても‥‥。

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はたして、この子にとって家族とはどんな存在なのか‥‥。


「ユイ、今度ゆっくり話を聞かせてくれよ」
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「それからユイ、もし母や兄弟たちに会いたくなったら、ここをひたすら真っすぐ歩いて行きな」


ユイに別れを告げて、私は再びランエリアへ向かった。
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エサ場に着くと、すぐにランが姿を見せた。
「ラン、今まで何処へ行っていたんだ」私が声をかけたら、ランはゆっくりと近づいてきた。

120913-23.jpgそして、いきなりその場に身体を横たえた。


さらに仰向けになったまま、気持ちよさそうに身体をくねらせ始めた。
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この行動の意味するところは相手への敵意の無さ、つまり信頼を表し、同時に遊びに誘っているのである。
いつもなら野良猫にこんな態度をされると嬉しいのだが、今はそんな気分ではない。



私が話しかけようとすると、ランは慌てて身体を起こし鋭い眼差しを道路の方へ向けた。
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見開いたランの眼には、明らかな警戒感がこもっていた。


さらに視線を据えたまま、ゆっくりと歩を進めはじめた。
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コンクリの上に腰を下ろしたランは、頭を少し低くし警戒モードのレベルを1段階アップした。


ランの視線を辿ってふり返ると、そこには一人の釣人がいた。その釣人は胡乱な目付きのランを見て、少々戸惑っている。
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そして、誰に向けられたか判然としない苦笑いを浮かべながら去っていった。


すぐにでもこの場にいないチャゲとアスカのことをランに問い質したかったが、あまりことを急いても良い結果は得られない。
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そこで、よくドラマの刑事が被疑者に対して食べ物で懐柔するシーンを思い出し、それに倣って食事を与えることにした。


何にしても、行動範囲の狭いと思われる仔猫が、未だに揃って姿を現さないというのは、どう考えても普通ではない。
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のんびりと食事をしているところを見ると、ランは息子たちの居場所を知っているのだろうか?


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食事を終えたランは盛んに周りを気にしている。


この行動と2匹の仔猫がいないこととは何か関連性があるのか?
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ランの表情が防砂林の中を見据えたまま、険しさを増した。
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やがて、ランはゆっくりとした歩度で防砂林へ向かって歩きはじめた。あたかも目的があるように。


とにかく私はランの後を追うことにした。
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ランはしばらく防砂林の中を歩き回った。


そのままチャゲとアスカのいる場所へ案内してくれると思ったのだが、案に相違してランは木の根元に寝転がってしまった。
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「おいラン、のんびりと寛いでいる場合じゃないだろ。チャゲとアスカは何処へ行ったんだ?」


ランの顔からはさっきまであった緊張感が跡形もなく消えていた。
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「ラン、お前はチャゲとアスカの居所を知っているから、そんなにのんびりとしていられるのか?」


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何を勘違いしたのか、ランはいきなり私の手にじゃれついてきた。


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ただこういう場合の手加減をランはちゃんと心得ていて、爪は立てないし、あくまでも甘噛みである。


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ランは、子供の居場所を知っているから落ち着いていられるのか、それとも子供が何処へ行こうが関心がないのか‥‥、私は判断に苦慮した。


だがこれ以上ランを問い詰めても、何も語ってくれそうにない。
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またあまり執拗に質すことによって、頑なになられては元も子もないし‥‥。


それに私的なことを、他人から不躾に詮索される不快さは私も何度か経験している。
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本意ではないが、今はそっとしておくしかない。


そうして私は、心配の種を心に抱いたまま帰途についた。
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ご報告

この子たちの里親さんが決まりました。
それも、ブログを見たその方からの申し入れでは、
兄弟一緒に引き取ってくれるというのです。
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「良かったな、いっぱいいっぱい愛してもらって、幸せになるんだよ!」

里親さんには近日譲渡することになっています。
その模様は後日、ブログで紹介する予定です。

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海岸猫たちの朝

2012年11月07日 22:00

明け方の湘南海岸‥‥。
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ランエリア
この春生まれたランの子チャゲは、すでに目覚めていた。

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そしてアスカも、エサ場から出てきて私を迎えてくれた。


人がそうであるように、猫も同じ親から生まれた兄弟であっても資質や性格はそれぞれ違う。
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チャゲとアスカ兄弟の性格の相違も徐々に分かってきた‥‥。


私との距離のとり方にも、その違いがすでに表れている。
チャゲは好奇心が強く積極的な行動をとる。対してアスカは慎重で消極的な子だ。

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チャゲは人慣れしていて、私が近づくといきなり地面に体を横たえ愛らしい仕草を見せる。


父親の性格が不明なので確かなことは言えないが、この人懐こさは母親譲りだろう。
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チャゲは甘えた鳴き声を発して、盛んに私に訴えかける。実に直截的な表現で、何を言いたいのか私にも伝わってくる。


ランの立ち振る舞いは落ち着きを増し、ますます母親らしくなってきた。
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でもランがまだ1歳にも満たない幼い猫であることを知っている私は、その変化に切なさを感じてしまう。


チャゲの訴えに応えて、さっそく朝食にした。
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早朝のこの時刻は、野良が一番腹が減っているころである。日中は複数のボランティアの人がこの子たちにエサを与えている。


仔猫たちの食欲は相変わらず旺盛だ。2匹は脇目も振らず一心不乱に猫缶を頬張る。
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よく見ると、まともに咀嚼しないで飲み込むように食道へ送りこんでいる。


先に猫缶を平らげたチャゲの視線はアスカのトレイに注がれている。
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そして、アスカがほかに注意を逸らした隙を逃さなかった。


しかしアスカは、そんなチャゲの暴挙を責めもせず、猫缶を仲良く食べる。
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そんな兄弟の食事風景を、私は微笑ましく、そして羨ましく眺めた。


食べ盛りの仔猫にはまだ足りないらしく、チャゲが缶に残った欠片を漁りだした。
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すると、それを見たアスカも缶の中に顔を突っ込み、缶の内側をぺろぺろと舐める。


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仔猫たちのために追加分をトレイに盛ったのだが、それへ最初に口を付けたのは母親だった。
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朝食を続けるのはランとアスカだけで、チャゲの姿はすでになかった。


周囲を見回すと、チャゲは防砂ネットの陰に身を潜めていた。
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私が名を呼んでも、もう近づいてはこない。理由は明瞭だ。腹が満たされたのでニンゲンに愛想を振りまく必然性が無くなったからだ。
それでいい、野良で生きていくには最低限の警戒心は必須だ。



結局、最後まで残ったのはランだっった。思えば、この猫もまだ育ち盛りなのだ。
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アスカもトレイから離れ、満足気に舌なめずりをしている。
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アスカのお気に入りの場所は防砂ネットの側だ。ここならネットの下を潜り抜ければ安全な防砂林へ逃げ込める。


ランもやっと腹が満たされたようだ。身体を起こし、おもむろに辺りを見回す。
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私はランに問い質したいことがある。他でもない、元のエリアに残してきた娘のユイのことだ。


父親が違うから残してきたのか、それともメスだから残してきたのか‥‥。
しかし当然ながらランからはっきりした理由を聞くことは出来ない。

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私は考える。ランとユイに元の母娘の絆を取り戻させる良い方法はないものだろうか、と。


私はラン親子に別れを告げて、別の海岸猫に会うため海岸沿いの道を東へ向かった。
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テント小屋に着いて名を呼ぶと、チビ太郎は小屋の中からおもむろに姿を現し、私の目の前で端座した。
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チビ太郎の様子と食器の状態から、今朝はまだ世話をしている猫おじさん猫おばさん夫妻が来ていないことが分かった。


ただ、たまたま私のほうが早かっただけで、いずれ夫妻はここを訪れるはずだ。かといって、いつ来るか分からない二人を待つことも、腹を減らしたチビ太郎をそのままにして立ち去ることも私には出来なかった。
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夫妻には今度会った時に事情を話せばいい。だいいち、こんなことで気分を損ねる人たちでもない。


長靴おじさんの話では、チビ太郎とミケは一時期ここで一緒に暮らしていたそうだ。ミケがボウガンの矢で首を射抜かれ、3ヶ月の入院治療を受けたあと、長靴おじさんが引き取ったのだ。
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ところがチビ太郎は成長するとミケをしつこく追い回すようになり、やがてミケ自ら別のエリアへ移ったと聞いている。


そしてその後もチビ太郎はミケのエサ場へ現れては、小さな諍いを起こしていた。
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ミケのエサ場に棲みついたサンマとチビ太郎が険悪な雰囲気で睨み合うのを目撃したのも一度や二度ではない。


だが何度記憶を辿っても、実際にチビ太郎が他の猫と喧嘩をしているところを目撃したことはただの一度もなかった。
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チビ太郎は相手が自分の姿に怯えるのを、ただ見つめていただけだった。


当時私にはチビ太郎の底意を知る由もなかったが、もしかしたらミケに特別な感情を持っていたのかもしれない、と今になって思うことがある。
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母として姉として慕っていたのか、それとも異性として心を寄せていたのか‥‥。


いまさらそんなことを質しても、この海岸猫は素直に答えてくれないだろう。
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「野暮なこと訊くなよ、終わったことだ」とはぐらされるのが関の山だ。


満腹になったチビ太郎はゆっくりと歩き始めた。
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そして発泡スチロールの上に座ると、遠くを見るような仕草を見せた。
チビ太郎が見つめている方向には、この防砂林の出入り口がある。



防砂林の側道に人の気配を感じ、主の長靴おじさんが帰ってきたと思ったのかもしれない。
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それからチビ太郎は、防砂林の出入り口を向いたまま微動だにしなくなった。


忸怩たるものがあるが、私はこの海岸猫にかける言葉を持ち合わせていない。
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ただチビ太郎の願いと私の願いが同じだということを伝えるしかない。
「チビ太郎、おじさんが早く帰ってくるといいな‥‥」



陳腐な私の慰めは、この野良の心情を1ミリも動かしていないだろう。
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だが、今の私に何が出来るというのか?
せいぜい時折訪ねてエサを与え、益体もない贅言をくりかえすことくらいだ。



そんな思いにかられている私をおいて、チビ太郎は小屋の屋根へ跳び乗った。
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私は慌てて後退りして屋根の上を見上げた。
チビ太郎は確かな足取りで屋根の頂まで歩んでいった。



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そしてそのまま屋根の反対側へ姿を消した。


小屋の裏へまわってみると、シートの切れ目からチビ太郎が顔を覗かせていた。
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笑っているように見えるが、むろん猫は微笑まない。この表情がチビ太郎の普通の状態なのだ。口吻の歪みも幼い頃に患った病気の後遺症だと思われる。


顔を引っ込めたチビ太郎は、ブルーシートをハンモック代わりにして身体を横たえた。
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あの場所は彼のお気に入りの場所なのだろう。おそらくずっと以前から。


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この道を通って、長靴おじさんが帰ってくる日は果たしてやって来るのだろうか‥‥?


私はさらに東を目指して自転車のペダルを漕いだ。何としても会いたい海岸猫がいるからだ。
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故郷から戻って何度も足を運んだのだが、タイミングが合わなかったようで、未だ顔を見られずにいる。


元気だということは仄聞しているが、やはり自分の目で確かめないと気が済まない。
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しかし今回も、以前と変わらずこのエリアにいるだろう僅かな証を確認しただけだった。


「今度来たときには元気な姿を見せてくれよ、ソックス」
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脚注
このハンドルネームはご本人からの申し出によるものです。


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11月10日。
郵便受けに入らないからと、配達員から直接レターパックを手渡された。

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表書きを見ると、送り主は大阪に住む友人の『大阪 Cat Story』の管理人桐生明さんだった。

中には壁掛け用のカレンダーと卓上用のカレンダー、そして前回の個展に出展された写真が入っていた。
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写真がカレンダーに採用されるようになってから、桐生さんはこうして毎年カレンダーを郵送してくれる。
「桐生さん、ありがとうございました!」

この猫カレンダーは全国の書店とネットショップで購入できます。
来年1年を愛らしい猫と一緒に過ごしたい方はこちらへ。



そして12月には、大阪で桐生さんの個展が開催されます。

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「大阪 リバーサイドキャッツⅡ 大きな橋の下の猫家族」
12月11日(火)~23日(日)。17日は定休日。
大阪・東三国の猫カフェ「キャッテリア クラウドナイン」にて。




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その数時間後、今度は宅配便が届いた。
部屋番号を確認した
宅配便ドライバーは「重いですよ」と言ってダンボール箱を私に手渡した。
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フタを開けると、中にはキャットフードがぎっしりと詰まっていた。
送り主は『always』の管理人であるダージリンさんだ。これまでもダージリンさんからは海岸猫のために何度もキャットフードが届いている。



その中に手提げ袋が入っていた。最初は小分けのキャットフードだと思ったが、違った。
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同封されていた手紙を読むと、それは私のためのドリップコーヒーだという。
私としてはありがたいやら恐縮するやらで、しばらく気持ちが落ち着かなかった‥‥。
「ダージリンさん、ありがとうございました!」


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別離

2012年10月25日 13:00

ランはどんな理由で、3匹の子供のうち2匹だけを連れてエリアを移ったのだろう?
あるいは、その仔猫はどんな理由で、元のエリアに残ることになったのだろう?

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さらに別離の決定はどちらが下したかという疑問もある。母であるランの意志なのか、それとも仔猫の意志で残ったのか‥‥?
私はその答を知りたくて、防砂林に住まう人の小屋を訪ねることにした。



その私を最初に迎えてくれたのはリンだった。
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最近のリンの表情は硬く、以前の人懐こさもすっかり影を潜めてしまった。


さらに時折見せる沈鬱な面持ちは、見る者を憂いに誘う。
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持っていた猫缶をここの住人の人に渡し、リンに与えてくれるようお願いした。
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すると、どこからか黒シロの仔猫が現れ、リンと一緒に猫缶を食べはじめた。


この子がランの3匹目の子供だ。
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ほかの2匹とは被毛の色を異にし、無言で父親が違うことを示している。


つまりこの子は、チャゲとアスカとは異父兄弟の間柄になる。そしてリンは伯母叔母)にあたる。
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そのことがこの子に何らかの影響をもたらしているのだろうか?そして今回の別離との関連性は‥‥。


リンはそれほど空腹ではないのか、猫缶を少し食べただけでその場を離れてしまった。
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ランの子は脇目もふらず猫缶を食べつづけている。


食べ盛りゆえなのか、それともリンより空腹だったのか?
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ここに住まう人に訊くと、食事のとき以外はあまり小屋に寄りつかないそうだ。日中は大抵独りで防砂林の中で過ごしているという。


リンはシートの陰に身を隠し、物思いに耽るように目を伏せている。
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やがてリンはついと顔を上げると、まるで任意の意志にスイッチが入ったように目を大きく見開いた


そしてその意志に導かれるまま、迷いのない足取りで歩きだした。
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そうしてある地点まで来ると、ごく自然に座りこんだ。その場所に特別な意味があるかのように。


ランの子も食事を終え、一息入れている。
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この子にも帰省する前に何度か会っているのだが、私の顔はすっかり忘れられてしまったようだ。


リンはその場から動かず、まわりの気配を丹念に窺っている。
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おそらく聴覚をフルに働かせて、聞き慣れた音を防砂林の中に探っているのだろう。


だがしかし、その音がリンの耳に届くことは永遠にない。おそらくは。
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リンはこの一連の行動を1日に何度繰り返しているのだろう?


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とぼとぼと小屋に戻るリンの足取りはいかにも重く、後ろ姿も消沈して見える。


まだ人馴れしていない仔猫は、見慣れぬ私がいるからか、低木の下に身を隠した。
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そして、胡乱な目で私を見つめ返してくる。


実は、ほかの2匹の兄弟とこの子の決定的な相違は、父親の違いだけではない。
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ランの子供の中で、この子が唯一のメスなのだ。


つまり、ランにとっては唯一の娘になる。
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母や兄弟たちと離別することになったのは被毛の違いだけでなく、このことも原因ひとつかもしれない。


また姉妹であるリンの存在が、ランの行動に深く影響していることも十分考えられる。
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リンとランはけっして仲の良い姉妹ではなかった。そしてその子供たちもまた、母に倣ってか、従兄弟として打ち解けているとはいえなかった。


ランの子が残った猫缶に鼻先を近づけてきた。もう腹が減ったのか‥‥?
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しかし口を付けることなくついと離れていった。


と、今度はリンがおもむろに猫缶の入った食器に近寄ってきた。
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そしていきなり猫缶に食らいついた。その様子を落ち着かない素振りで見つめるランの子。


さっきのように一緒に食べようと、近づくが‥‥、
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何故か怯えたように後ずさりして離れていく。


リンの身体からは、人には感じられない威圧感がオーラのように出ているようだ。
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結局、リンが残りの猫缶を食べているあいだ、ランの子はただそれを見ているだけだった。


ここに住まう人に言わせると、リンはランの子を忌避し、食事も優先的に食べるのだそうだ。
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親兄弟とも別れ、伯母叔母にも疎外されるこの子に同情の念を禁じ得ない。


猫缶を食べ終わったリンが、先ほどと同様まっすぐ前を向いて歩いていく。
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そしてさっきより手前の地点に座ると、どんな物音も聞き逃さないとばかりに耳をすませている。
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リンが防砂林の中から聴きとろうとしているのは、今春産んだ4匹の子供たちの鳴き声だろうと思われる。


2012年6月17日、リンは4匹の子供たちを、私に初めて紹介してくれた。
そのうちの3匹はビール壜ケースのなかにひしめくように身を隠していた。

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初めて見る私の姿を、警戒と驚愕がないまぜになった目で見つめる。


この子は甘えん坊で、リンの姿をいつも求め後を追っていた。
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そして、人の存在に気づくと慌てて物陰に隠れてしまう。


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ところが、その仔猫たちは7月以降、つぎつぎと姿を見せなくなり、私が帰省する直前にはついに1匹となった。
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そしてこの甘えん坊の仔猫も私が実家に帰っているあいだに、やはり姿を消してしまった。


リンには子供たちが何故姿を消したのか、おそらく理解出来ていないのだろう。
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だからこうして、子供たちの声を防砂林の中から聴きのがすまいと同じ行動を繰り返しているのだ。


子供をなくした母猫と、母と別れた仔猫。お互いの喪失感を埋めるために仲良くすればいいと、つい思ってしまうのだが。
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しかしそんな考えはしょせん人の勝手な理想論であり、猫の社会ではまったく通用しないようだ。


ところでいつまでもこの子を“ランの子”と呼ぶのは都合が悪い。この子にも呼び名を付けてやらねば‥‥。
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いつまでも家族とつながっているよう願いをこめて、この子を“ユイ(結)”と呼ぶことにする。


ユイはふと思い出したように、残った猫缶を再び食べはじめた。
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それを戻ってきたリンが見つめる。


ただそうやって一瞥をくれるだけで、リンがユイに関心を示すことは、ついになかった。
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リンは大好きなNさんの座る椅子に身体を滑りこませた。


好きな人に寄り添っていても、リンの表情はやはり硬くこわばって見える。
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いなくなったリンの4匹の子供たち‥‥。ここに住まう人の話では、仔猫を可愛がっている人たちがいたので、その人たちに保護されたのでは、ということである。


楽観的に過ぎるかもしれないが、私もその推測に同意したい。
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ユイが羨ましそうにランを見上げている。ユイとしては嫌われていてもリンの側にいたいのだろうか?


「ユイ、お前は自ら望んでここに残ることにしたのか?それとも、母や兄弟たちに置き去りにされたのか‥‥?」
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この子をラン親子が移り住んだエリアへ連れていってみてはという考えが、私の頭をふと掠めた。


しかしもし、そこでも排斥されたら、この子は行き場をなくしてしまう。
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そしてそれは大きな傷としてユイの心に残り、この子をさらに苦しめるかもしれない。


さらに「野良の特権は、たとえそれが様々な危険を孕むにしても、“自由気まま”であるから、徒に人が介入することは避けるべきだ」そんな囁きがどこからか聞こえてきた。
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人間社会にも“親はなくとも子は育つ”という諺があるし、生きるという点では人より遥かにタフな猫なので、ユイがこのまま逞しく育ってくれることを祈るばかりだ。


もちろん、ベンチ猫のサブのように心優しい人に保護されれば、それに越したことはないが。
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ともあれ、家族と離別して暮らすようになったユイがこれからどうなっていくのか、私としては気になって仕方がない。


ここで暮らしていれば、少なくとも雨風はしのげるし、じきにやってくる寒さにも耐えられるだろう。
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しかし、それがリンやユイにとって幸せであるのかどうか‥‥、正直私には分からない。


今まで、防砂林に住まう人たちへ批判の矛先が向くのを恐れて黙していたが、読者に誤解を与えないためにも、そして海岸猫のためにも実情を明かすことにした。
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理由は様々あると思うが、ここに住まう人たちは何の前触れもなく突然防砂林から去っていく。
だがペットを飼える環境を得るのは簡単ではなく、ほとんどの場合猫は防砂林に残される。



リンやランやその家族も、このエリアに移動してきたのではなく、実際は以前から防砂林に住まう人の小屋で一緒に暮らしていたのだ。
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ところがこの春、その人は防砂林から立ち去り、その際全ての猫を置き去りにした‥‥。


リンとユイを見守ってくれている人たちも、それぞれ状況は違えどいずれ防砂林から去っていく。
そのときに猫たちを連れて行くことは、おそらくないだろう。

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海岸へ出ると、私の気持ちを表すように、江ノ島が靄のむこうで模糊としていた。



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新天地

2012年10月13日 20:00

私が湘南を不在にしていた一ヶ月半のあいだに、ベンチ猫以外にも様々な変動のあったことが徐々に分かってきた。
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帰宅した翌朝にリンとランのエリアを訪ねた私は、そこに住まう人から意外なことを聞かされた。
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このエリアからランが離れ、ほかのエリアで暮らしはじめたというのだ。


ここに残ったリンにも大きな出来事が起こっていたが、それはいずれ機会をみて記事にするつもりでいる。
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リンの身に起こったことは、私が帰省する直前まで危惧していたことなのだが‥‥。


幼い猫が何故こんな辛酸を嘗めなければいけないのか、それを思うと私の心は重く沈む。
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「リン、私がいないあいだに辛い目に遭ったようだな」
リンは私の言葉にも以前のような反応をしめさず、その眼には暗い影が宿っているようだった。



防砂林に住まう人からランの居場所を訊いた私は、そこへ向けて自転車を駆った。
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そのエリアに到着すると、すぐにランが仔猫ともども姿を現した。。
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今春ランは3匹の子供を産んだが、一緒に連れてきたのはそのうちの2匹だ。


仔猫たちは母の遺伝子を素直に受けつぎ、同じキジ白で見分けがつかないほど似ている。
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帰省前に何度かこの子たちと会ったことがあるが、一ヶ月半のうちに大きく成長していた。


あと一月もすれば、体の大きさも母のランとおっつかっつになるだろう。
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何故ランは仔猫を連れて元のエリアを離れたのか、そして何故1匹だけ残してきたのか、その理由を何とかしてランから聞きだしたいと私は思った。


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オスの仔猫2匹の食欲は旺盛で、母猫の猫缶を遠慮せず横取りする。


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やがて慌ただしい食事が終わり、仔猫たちも落ち着きを取りもどした。
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この子は警戒心が強く、彼が定めたパーソナルスペースを僅かでも犯すと一散に逃げてしまう。


久しぶりに会ったランは、母としての自覚をしっかり持ったようで、面持ちにもそれが表れていた。
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だがこの母猫自身まだ幼く、仄聞したところによると今年2月に防砂林の中で生まれたという。


それからしばらくして、リンとランの母猫はほかの家族とともに、子供を出産した直後の2匹を残して何処へともなく姿を消した。
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そして今度はランが生まれ育ったエリアに自ら別れを告げたのだ。
私はつくづく思った。猫というのは自立心が強い生き物なんだなぁ、と。



ランは地面に端座すると、道路を行き交う人の観察をはじめた。
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厳密にいうと違うのだが、私はこの行為を“猫のマンウォッチング”と呼んでいる。ミケも柵の上からよく道行く人を観ていた。


それにしても、いったい猫は人を観察して何を得ようとしているのだろう?
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この場合は、宿敵である犬への警戒心だが‥‥。


と、そこへ一羽のカラスがゆっくりと近づいてきた。
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理由は知らないが、カメラを向けられると、大抵のカラスは慌てて逃げ去ってしまう。しかしこのカラスは、私が構えるカメラの存在など歯牙にもかけていない。


もし猫缶のおこぼれに与ろうと思ってのことなら、残念だがとっくにトレイごと片付けてある。
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ランがカラスの接近に気づき目を瞠った。


この海岸猫は向こう意気が強く、敵わぬ相手でも向かってゆく。その傾向は子供を持つ身になってからいや増すばかりだ。
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ランは自分の体を出来るだけ大きく見せるために四肢を伸ばし背を丸めて威嚇のポーズをとる。


さかしらなカラスのことだ、自分の旗色が悪いのを察したのか、それとも食べ物がないのを知ったからか、おもむろに踵を返した。
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仔猫も母にならって警戒の姿勢でカラスを見つめる。


しかしこのカラスも肝が据わったヤツで、去るときも悠々と歩いていった。
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カラスを見送るランは一気に緊張がとけた様子だ。
気丈なランだが、本心はカラスと無益な争いなどしたくないはず‥‥。

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2匹の仔猫も、そろって安堵した横顔を見せている。


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この子らを、いつまでも“仔猫”と呼んでいては、色々と不都合が生じると思われるので、早々に名前を付けることにした。


向かって左の子の名を“チャゲ”‥‥。
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そして右の子の名を“アスカ”とする。
ちなみに、先ほど警戒心が強いと紹介したのはこのアスカのほうである。



そのチャゲとアスカがいきなり組み合った。
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ところがすぐに両者はいったん離れた。呼吸が合わずに仕切り直しか?


が、勝負はあっさりとついてしまった。アスカが自ら倒れこんでしまったからだ。
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この場合決まり手が何になるのか私は知らないが、チャゲの勝ちは揺るがない。


しかし、2匹とも戦いをやめようとしない。相撲だと思ったのは私の勘違いで、柔道での勝負のようだ。
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柔道のルールに疎い私には、チャゲとアスカのどちらが優勢なのか判断できない。


なんと、ここでチャゲの左フックがアスカの顔面にヒット。
どうやら柔道だと思ったのも私の早とちりで、総合格闘技のようだ。

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チャゲの猫パンチが存外効いたのか、アスカが自ら戦いの場から離れていく。


ヤル気満々のチャゲは、そのアスカを誘うように前脚をのばすが‥‥、
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アスカは戦意喪失した様子でチャゲに背を向けた。よくやく勝敗が決したようだ。


と、次の瞬間、アスカが牙をむいてチャゲに襲いかかった。
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不意をつかれたチャゲは防戦一方である。観戦している私も騙された、アスカの見事なフェイク戦法だ。


ところがまた、自分の優位を放棄するようにアスカがチャゲから離れていく。
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アスカは完全に格闘ごっこに飽きて、興味の対象をほかに向けている様子だ。


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独り残されたチャゲは、しばらくアスカの後ろ姿を恨めしそうに見つめていた。


そのころ母親のランは‥‥、
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物陰でのんびりと寛いでいた。


新天地でこれからラン親子にどんな運命が待ち受けているのか、私にもまったく予見できない。
ただ叶うものなら、親子3匹いつまでもつつがなく暮らしてほしい‥‥。

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私もランたちのために、出来るだけのことをしようと思っている。
そこで同じ轍を踏まないために、私はある決意をした‥‥。




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