2010年06月01日 00:00
私がそのメールを開いたのは、昼を少し回った頃だった。
差出人はブースカさん。送信日時は、今日の午前9時49分と記してあった。
『wabiさん!緊急』の件名を見て、私は急いでメールを読みはじめた。
そこにはサンマが足から血を流し、小屋で寝ていると書いてあった。
ブースカさんは実家に向かう飛行機の時間が迫っていたため、私にメールを出したのだ。
私は遣り掛けの仕事を放り出し、自転車でエサ場へ向かった。
サンマは既に小屋の中にいなかった。
しかし、小屋に敷いてあったタオルを見て、サンマの怪我が現実であることを知った。

さらに、タオルの下にあったクッションに残るどす黒い血の跡を見て、サンマの怪我が重傷であることも、知った。

私は最悪の事態を考えはじめていた。
だが、肝心のサンマの姿が見えない。

ミケは植込みの中で、のん気に日向ぼっこをしていた。

長閑な昼下がりの光景に、私は一瞬サンマの怪我のことを忘れてしまった。
私はその時、Iおばさんが午前中エサ場を訪れていることに思い至った。
「そうか、サンマはもう病院へ連れて行かれたんだ」
ところが、そこへ現れた猫好きおじさんに訊くと、「サンマならさっきまでそこにいたよ」と言い、私を案内してくれた。
しかし、その場所にもサンマの姿はなかった。

私は目を凝らして、辺りの植込みの中を探った。
その私の目が、薄暗い植込みの中に、あるモノを発見した。
私は猫好きおじさんに大声で「サンマだ、サンマがいた!」と言いながら、植込みの中へ跳びこんだ。
サンマは植込みの奥でうずくまっていた。

「サンマ、お前生きてたか!」
しかし、サンマの後足を見た私は、思わず唸り声を出した。

右の後足はどす黒い血に砂がこびり付き、左の足先は大きく腫れ上っていた。
取り敢えず、サンマを抱きかかえてエサ場まで連れてきた。

そして、猫好きおじさんに手伝ってもらい、サンマの後足をペットボトルの水で洗うことにした。
その間、サンマは悲鳴のような鳴き声を上げ続けた。
私はサンマに「ちょっと我慢してくれ」と言いながら、傷に付いた砂を落とした。
私は、サンマをタオルの上にそっと寝かせた。

サンマの傷が露になった。
その傷を見た私は「誰にやられたんだ!?」とつい声に出した。
陽射しが強いので、サンマを涼しい日陰に移した。

サンマが上体を起こし、立ち上がろうとしている。

そのサンマを、猫好きおじさんが優しく宥め、身体を元に戻した。
このおじさんは家を持っていないが、そんなものよりずっと価値のあるモノを持っている。
ミケがエサ場へ戻ってきた。

ミケの表情は憎たらしいほど穏やかだ。
サンマはオシッコをしたあと、ヒョコヒョコと歩きだした。どうやら酷い骨折はしていないようだ。

私はこの時、サンマが植込みの奥にあるエサを食べに行くものと思っていた。
ところが、サンマは人が入れない植込みの奥に座りこんでしまった。

私には遣り掛けの仕事が待っていた。
後のことを猫好きおじさんに頼み、私はエサ場をあとにした。
仕事を片付けた私は、消毒薬、タオル、ティッシュを袋に詰め再びエサ場へ駆けつけた。
エサ場には、あらしさん、KおじさんKおばさん夫妻、それに猫好きおじさんがいた。
サンマのことを訊くと、植込みの奥に入って出てこないと言う。
そこで私が植込みに潜りこみ、サンマの首根っこをしっかりと掴んで引っ張り出した。
こんな時、よけいな憐憫など必要ない。

Kおじさんがサンマの頭を優しく撫でる。あらしさんはサンマの足を握っている。
私はサンマの傷口に消毒薬をたっぷりと吹きつけた。

さんまの傷は思いの外深く、肉がえぐれて一部白い骨が覗いている。
相談の結果、サンマを病院に連れて行くことにした。

そのためのキャリングケースを借りに、あらしさんがIおばさんの家へ向かった。
サンマが小さく震えていたので、暖かい日向へ移した。

陽射しのせいか、顔見知りの人に囲まれたせいか分からないが、サンマがやっと落ち着きを取り戻してきた。
サンマは眼を閉じ、動かなくなった。

人間がサンマと同じ傷を負ったら、激痛に耐えられず泣き叫んでいるはずだ。
生き物の中で痛みに一番弱いのは、おそらく人間だろう。

Iおばさんが血相を変えてやって来た。

そして、サンマを見るなり「サンマちゃん、どうしたの!?」と声を上げ、駆け寄っていった。
その光景は、まるで我が子に駆け寄る母親のようだった。
午前中、Iおばさんがエサを持ってきたときには、ミケもサンマもエサ場にいなかったそうだ。
その時サンマは、私が発見した植込みの奥でうずくまっていたのだろう。
Iおばさんは、サンマをそっとキャリングケースに入れ‥‥

病院へ向かって行った。
KおじさんKおばさん夫妻とあらしさんも、Iおばさんのあとを追った。

私はエサ場の片付けをするため、ひとり残った。

ミケはいつの間にか植込みへ戻り、日向ぼっこの続きをしていた。

それも妙な格好で‥‥
浜に出てふと上を見ると、抜けるような青空が広がっていた。
今日の空がこんなに青いことを、私はその時初めて知った。

でも、青い空もそれを映した青い海も今の私には疎ましく思えた。
私も病院に向かおうと、荷物を取りにエサ場へ戻った。

そこへ、一昨日ミケを訪ねてくれた女の子とそのお母さんがやって来た。
サンマのことを話すと、驚き「うちの結(ゆう)も明日同じ病院へ連れて行くからサンマちゃんのこと訊いてみます」と言ってくれた。
病院には、KおじさんKおばさん夫妻とあらしさんがいた。

Iおばさんは用事があるので既に帰っていた。
話を訊くと、診察を待っている人が多く、すぐには診られないとのこと。
そこで、サンマを一晩預けることにしたと言う。

診察結果は、明日の朝Iおばさんが電話で訊くことになっている。
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差出人はブースカさん。送信日時は、今日の午前9時49分と記してあった。
『wabiさん!緊急』の件名を見て、私は急いでメールを読みはじめた。
そこにはサンマが足から血を流し、小屋で寝ていると書いてあった。
ブースカさんは実家に向かう飛行機の時間が迫っていたため、私にメールを出したのだ。
私は遣り掛けの仕事を放り出し、自転車でエサ場へ向かった。
サンマは既に小屋の中にいなかった。
しかし、小屋に敷いてあったタオルを見て、サンマの怪我が現実であることを知った。

さらに、タオルの下にあったクッションに残るどす黒い血の跡を見て、サンマの怪我が重傷であることも、知った。

私は最悪の事態を考えはじめていた。
だが、肝心のサンマの姿が見えない。

ミケは植込みの中で、のん気に日向ぼっこをしていた。

長閑な昼下がりの光景に、私は一瞬サンマの怪我のことを忘れてしまった。
私はその時、Iおばさんが午前中エサ場を訪れていることに思い至った。
「そうか、サンマはもう病院へ連れて行かれたんだ」
ところが、そこへ現れた猫好きおじさんに訊くと、「サンマならさっきまでそこにいたよ」と言い、私を案内してくれた。
しかし、その場所にもサンマの姿はなかった。

私は目を凝らして、辺りの植込みの中を探った。
その私の目が、薄暗い植込みの中に、あるモノを発見した。
私は猫好きおじさんに大声で「サンマだ、サンマがいた!」と言いながら、植込みの中へ跳びこんだ。
サンマは植込みの奥でうずくまっていた。

「サンマ、お前生きてたか!」
しかし、サンマの後足を見た私は、思わず唸り声を出した。

右の後足はどす黒い血に砂がこびり付き、左の足先は大きく腫れ上っていた。
取り敢えず、サンマを抱きかかえてエサ場まで連れてきた。

そして、猫好きおじさんに手伝ってもらい、サンマの後足をペットボトルの水で洗うことにした。
その間、サンマは悲鳴のような鳴き声を上げ続けた。
私はサンマに「ちょっと我慢してくれ」と言いながら、傷に付いた砂を落とした。
私は、サンマをタオルの上にそっと寝かせた。

サンマの傷が露になった。
その傷を見た私は「誰にやられたんだ!?」とつい声に出した。
陽射しが強いので、サンマを涼しい日陰に移した。

サンマが上体を起こし、立ち上がろうとしている。

そのサンマを、猫好きおじさんが優しく宥め、身体を元に戻した。
このおじさんは家を持っていないが、そんなものよりずっと価値のあるモノを持っている。
ミケがエサ場へ戻ってきた。

ミケの表情は憎たらしいほど穏やかだ。
サンマはオシッコをしたあと、ヒョコヒョコと歩きだした。どうやら酷い骨折はしていないようだ。

私はこの時、サンマが植込みの奥にあるエサを食べに行くものと思っていた。
ところが、サンマは人が入れない植込みの奥に座りこんでしまった。

私には遣り掛けの仕事が待っていた。
後のことを猫好きおじさんに頼み、私はエサ場をあとにした。
仕事を片付けた私は、消毒薬、タオル、ティッシュを袋に詰め再びエサ場へ駆けつけた。
エサ場には、あらしさん、KおじさんKおばさん夫妻、それに猫好きおじさんがいた。
サンマのことを訊くと、植込みの奥に入って出てこないと言う。
そこで私が植込みに潜りこみ、サンマの首根っこをしっかりと掴んで引っ張り出した。
こんな時、よけいな憐憫など必要ない。

Kおじさんがサンマの頭を優しく撫でる。あらしさんはサンマの足を握っている。
私はサンマの傷口に消毒薬をたっぷりと吹きつけた。

さんまの傷は思いの外深く、肉がえぐれて一部白い骨が覗いている。
相談の結果、サンマを病院に連れて行くことにした。

そのためのキャリングケースを借りに、あらしさんがIおばさんの家へ向かった。
サンマが小さく震えていたので、暖かい日向へ移した。

陽射しのせいか、顔見知りの人に囲まれたせいか分からないが、サンマがやっと落ち着きを取り戻してきた。
サンマは眼を閉じ、動かなくなった。

人間がサンマと同じ傷を負ったら、激痛に耐えられず泣き叫んでいるはずだ。
生き物の中で痛みに一番弱いのは、おそらく人間だろう。

Iおばさんが血相を変えてやって来た。

そして、サンマを見るなり「サンマちゃん、どうしたの!?」と声を上げ、駆け寄っていった。
その光景は、まるで我が子に駆け寄る母親のようだった。
午前中、Iおばさんがエサを持ってきたときには、ミケもサンマもエサ場にいなかったそうだ。
その時サンマは、私が発見した植込みの奥でうずくまっていたのだろう。
Iおばさんは、サンマをそっとキャリングケースに入れ‥‥

病院へ向かって行った。
KおじさんKおばさん夫妻とあらしさんも、Iおばさんのあとを追った。

私はエサ場の片付けをするため、ひとり残った。

ミケはいつの間にか植込みへ戻り、日向ぼっこの続きをしていた。

それも妙な格好で‥‥
浜に出てふと上を見ると、抜けるような青空が広がっていた。
今日の空がこんなに青いことを、私はその時初めて知った。

でも、青い空もそれを映した青い海も今の私には疎ましく思えた。
私も病院に向かおうと、荷物を取りにエサ場へ戻った。

そこへ、一昨日ミケを訪ねてくれた女の子とそのお母さんがやって来た。
サンマのことを話すと、驚き「うちの結(ゆう)も明日同じ病院へ連れて行くからサンマちゃんのこと訊いてみます」と言ってくれた。
病院には、KおじさんKおばさん夫妻とあらしさんがいた。

Iおばさんは用事があるので既に帰っていた。
話を訊くと、診察を待っている人が多く、すぐには診られないとのこと。
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