厄難

2010年06月01日 00:00

私がそのメールを開いたのは、昼を少し回った頃だった。
差出人はブースカさん。送信日時は、今日の午前9時49分と記してあった。
『wabiさん!緊急』の件名を見て、私は急いでメールを読みはじめた。

そこにはサンマが足から血を流し、小屋で寝ていると書いてあった。
ブースカさんは実家に向かう飛行機の時間が迫っていたため、私にメールを出したのだ。




私は遣り掛けの仕事を放り出し、自転車でエサ場へ向かった。



サンマは既に小屋の中にいなかった。
しかし、小屋に敷いてあったタオルを見て、サンマの怪我が現実であることを知った。

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さらに、タオルの下にあったクッションに残るどす黒い血の跡を見て、サンマの怪我が重傷であることも、知った。
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私は最悪の事態を考えはじめていた。


だが、肝心のサンマの姿が見えない。
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ミケは植込みの中で、のん気に日向ぼっこをしていた。
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長閑な昼下がりの光景に、私は一瞬サンマの怪我のことを忘れてしまった。
私はその時、Iおばさんが午前中エサ場を訪れていることに思い至った。
「そうか、サンマはもう病院へ連れて行かれたんだ」



ところが、そこへ現れた猫好きおじさんに訊くと、「サンマならさっきまでそこにいたよ」と言い、私を案内してくれた。
しかし、その場所にもサンマの姿はなかった。

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私は目を凝らして、辺りの植込みの中を探った。
その私の目が、薄暗い植込みの中に、あるモノを発見した。
私は猫好きおじさんに大声で「サンマだ、サンマがいた!」と言いながら、植込みの中へ跳びこんだ。



サンマは植込みの奥でうずくまっていた。
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「サンマ、お前生きてたか!」


しかし、サンマの後足を見た私は、思わず唸り声を出した。
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右の後足はどす黒い血に砂がこびり付き、左の足先は大きく腫れ上っていた。


取り敢えず、サンマを抱きかかえてエサ場まで連れてきた。
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そして、猫好きおじさんに手伝ってもらい、サンマの後足をペットボトルの水で洗うことにした。
その間、サンマは悲鳴のような鳴き声を上げ続けた。
私はサンマに「ちょっと我慢してくれ」と言いながら、傷に付いた砂を落とした。



私は、サンマをタオルの上にそっと寝かせた。
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サンマの傷が露になった。
その傷を見た私は「誰にやられたんだ!?」とつい声に出した。



陽射しが強いので、サンマを涼しい日陰に移した。
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サンマが上体を起こし、立ち上がろうとしている。


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そのサンマを、猫好きおじさんが優しく宥め、身体を元に戻した。
このおじさんは家を持っていないが、そんなものよりずっと価値のあるモノを持っている。



ミケがエサ場へ戻ってきた。
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ミケの表情は憎たらしいほど穏やかだ。


サンマはオシッコをしたあと、ヒョコヒョコと歩きだした。どうやら酷い骨折はしていないようだ。
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私はこの時、サンマが植込みの奥にあるエサを食べに行くものと思っていた。


ところが、サンマは人が入れない植込みの奥に座りこんでしまった。
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私には遣り掛けの仕事が待っていた。
後のことを猫好きおじさんに頼み、私はエサ場をあとにした。






仕事を片付けた私は、消毒薬、タオル、ティッシュを袋に詰め再びエサ場へ駆けつけた。


エサ場には、あらしさん、KおじさんKおばさん夫妻、それに猫好きおじさんがいた。
サンマのことを訊くと、植込みの奥に入って出てこないと言う。
そこで私が植込みに潜りこみ、サンマの首根っこをしっかりと掴んで引っ張り出した。
こんな時、よけいな憐憫など必要ない。



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Kおじさんがサンマの頭を優しく撫でる。あらしさんはサンマの足を握っている。


私はサンマの傷口に消毒薬をたっぷりと吹きつけた。
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さんまの傷は思いの外深く、肉がえぐれて一部白い骨が覗いている。


相談の結果、サンマを病院に連れて行くことにした。
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そのためのキャリングケースを借りに、あらしさんがIおばさんの家へ向かった。


サンマが小さく震えていたので、暖かい日向へ移した。
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陽射しのせいか、顔見知りの人に囲まれたせいか分からないが、サンマがやっと落ち着きを取り戻してきた。


サンマは眼を閉じ、動かなくなった。
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人間がサンマと同じ傷を負ったら、激痛に耐えられず泣き叫んでいるはずだ。
生き物の中で痛みに一番弱いのは、おそらく人間だろう。



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Iおばさんが血相を変えてやって来た。
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そして、サンマを見るなり「サンマちゃん、どうしたの!?」と声を上げ、駆け寄っていった。
その光景は、まるで我が子に駆け寄る母親のようだった。
午前中、Iおばさんがエサを持ってきたときには、ミケもサンマもエサ場にいなかったそうだ。
その時サンマは、私が発見した植込みの奥でうずくまっていたのだろう。



Iおばさんは、サンマをそっとキャリングケースに入れ‥‥
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病院へ向かって行った。


KおじさんKおばさん夫妻とあらしさんも、Iおばさんのあとを追った。
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私はエサ場の片付けをするため、ひとり残った。
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ミケはいつの間にか植込みへ戻り、日向ぼっこの続きをしていた。
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それも妙な格好で‥‥


浜に出てふと上を見ると、抜けるような青空が広がっていた。
今日の空がこんなに青いことを、私はその時初めて知った。

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でも、青い空もそれを映した青い海も今の私には疎ましく思えた。


私も病院に向かおうと、荷物を取りにエサ場へ戻った。
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そこへ、一昨日ミケを訪ねてくれた女の子とそのお母さんがやって来た。
サンマのことを話すと、驚き「うちの結(ゆう)も明日同じ病院へ連れて行くからサンマちゃんのこと訊いてみます」と言ってくれた。



病院には、KおじさんKおばさん夫妻とあらしさんがいた。
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Iおばさんは用事があるので既に帰っていた。


話を訊くと、診察を待っている人が多く、すぐには診られないとのこと。
そこで、サンマを一晩預けることにしたと言う。

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診察結果は、明日の朝Iおばさんが電話で訊くことになっている。



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2010年06月02日 00:00

PM 03:40
私がエサ場に駆けつけると、KおじさんKおばさん夫妻とあらしさんが来ていた。
挨拶もそこそこに「サンマは?」と私が訊くと、Kおばさんが「帰ってきてるわよ」と応えた。

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サンマは、病院に行く時使ったキャリングケースにそのまま入っていた。
話を訊くと、午前中にIおばさんが病院から連れ戻したと言う。



サンマの表情は、いつもと明らかに違っていた。
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傷が痛むのか、それとも傷を負った時のトラウマに襲われているのか、私には分からない。

サンマの傷は、どう見ても犬やカラスなどの動物に負わされたモノではない。
彼らにサンマの後足二本を同時に傷付けることなどできはしないからだ。
右足の傷ならその可能性もなくはないが、左足に外傷をつけることなく腫れ上がるほどの力を加えるのは不可能だ。
私は、サンマの傷は人為的なモノだと確信している。
ただ、誤解を招くといけないので付け加えると、それが故意に行われたと言っている訳ではない。
私の推測はこうだ。
周りから得た情報を総合すると、サンマが危難に遭ったのは5月31日の夜遅くから翌朝までの間だと思われる。
エサ場前のサイクリングロードは車両の乗り入れが禁止されているが、夜には時折バイクが走る。
信号がないサイクリングロードは、先を急ぐには絶好の道だからだ。
そして、サンマは昼間でも平気でサイクリングロードに、うずくまったり横たわったりする。
サイクリングロードを走るバイク、そしてそこに横たわるサンマ、このふたつが不幸にも重なったと私は思っている。
勿論、この推測が当たっている証拠はどこにもないし、外れている可能性も高い。
事実を知っているのはサンマとサンマを傷つけた犯人だけだ。

私の推測は見事に外れたようだ。
その訳は明日の記事で報告します。



Kおじさんが、サンマに手ずからエサを与える。
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その様子を、あらしさんが心配そうに覗いていた。


Kおばさんの提案で、サンマを陽の当たる場所へ移動させた。
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すると、サンマがゆっくりと身体を起こしはじめた。


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そして、後足をかばいながらキャリングケースから出てきた。


サンマはオシッコがしたかったのだ。
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この時、サンマは痛みに耐えていた。
実は昨日からそうなのだが、サンマは後足の痛みでちゃんと座ることができないのだ。



後足を横にしたこの姿勢じゃないと、サンマは苦痛を感じる。
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サンマの眼の前にエサと水を持ってきた。食欲があればいいのだが‥‥。


サンマはエサに口をつけないで、水を少しずつ飲みはじめた。
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いつまで経っても、サンマはエサを食べようとしない。


あらしさんがサンマの好物であるカツブシを与えると、初めて口をつけた。
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しかし、他のエサを食べることは、ついになかった。


サンマの眼は何かを見つめているようだが、その視線の先にこれと云った対象物はない。
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サンマが見ているのは今ここにあるモノではないと、私は思った。


サンマを抱いてキャリングケースに戻した。
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しばらくすると、サンマは眠りに就いた。


サンマが眠ったのを見届けたKおじさんとKおばさんは、エサ場をあとにした。
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あらしさんも自宅へ帰っていった。


ミケは昨日と全く同じ場所で日向ぼっこをしている。
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よっぽどこの場所が気に入ってるようだ。


Iおばさんがサンマの様子を見に来た。
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通りかかった人もつい足を止め、サンマのことを心配そうに見ていく。


そこへ結(ゆう)ちゃんが飼い主さんに連れられやって来た。
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飼い主さんは今朝、サンマを預けた病院へ結ちゃんの薬をもらいに行っていた。
その際、退院前のサンマの様子をわざわざ見てくれていた。
その様子をブログを通じて私に知らせようとしたが、コメントの仕方が分からず、直接私に会いに来たと言う。
「他のちゃんは鳴いていたけど、サンマちゃんだけおとなしくしていたの」と、その時の状況を教えてくれた。



サンマはよほど疲れているのか、近くで重機が立てる騒音も気にせず眠り続けている。
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サンマの左足の腫れは昨日とほとんど変わっていない。
歩く際は傷を負った右足より、腫れ上がった左足をかばっている。



ミケは、私が呼びかけても知らん顔だ。
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皆がサンマばかり構うから、すねているのかも知れない。も嫉妬深い動物なのだ。


さっきの場所が陰ったので、キャリングケースを陽の当たるところへ移した。
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移す際も、サンマが目覚めることはなかった。


エサ場から人がいなくなり、私ひとりになった。
私は眠り続けるサンマの側で海を眺めていた。

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あらしさんが、サンマのために新しいタオルを持ってエサ場へ戻ってきた。
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サンマの入ったキャリングケースを、傘の盾で囲った。


サンマは相変わらずこんこんと眠り続けている。
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「サンマ、夜中に様子を見に来るからな」


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夜中過ぎ、私は再びエサ場を訪れた。
今夜は月が出ているからまだいいが、そうでないと夜中の防風林は漆黒の闇に包まれる。

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私はミケとサンマを起こさぬよう、静かにエサ場の奥へ入っていった。


しかし、キャリングケースはサンマごとなくなっていた。
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この置手紙を見た私は「やっぱりな‥‥」と呟いた。
実は、あらしさんと私は夕方サンマの事で長い間話し合った。
その時、時間をずらしてサンマの様子を見に来る約束を交わした。
しかし、話している時あらしさんの人となりを垣間見た私は、こういうこともあるだろうと予想していた。


ミケの小屋を覗くと、もぬけ殻だった。
「どいつもこいつも心配かけやがって!」

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私は昼間ミケがいた場所へ直行した。果たして、ミケはそこにいた。
「どんだけ好きなんだ、その場所が!?」

暗闇でいきなりにフラッシュを浴びせるのは厳禁だ。
の眼は強い光に弱く、最悪失明することすらある。
この時、私はミケの顔の向きを確認し、遠くからソフトフラッシュで撮影した。

【お詫び】
今回、多くの方からコメントを頂き驚いています。
そして、それ以上に感謝しています。
そのコメントへのご返事が遅れていることをお詫びします。
時間が取れ次第ご返事いたしますので、それまでお待ちください。

wabi




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対策

2010年06月04日 00:00

PM 03:30
ミケはいつもの植込みではなく、防風林の中でうずくまっていた。
そこは前に潅木、後ろには防風ネットがある比較的安全な場所だった。

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しかしミケの表情は、とても寛いでいるとはいい難いモノだった。


そこへ相前後して、IおばさんとK夫妻がやって来た。
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ミケの側には、雨の日に二度会った少年とその友人が立っていた。
傘を持たない少年の姿を見るのは、今日が初めてだ。



K夫妻と入れ違いに、ブースカさんがエサ場を訪れた。
サンマが怪我をしていることを最初に発見したブースカさんを、K夫妻に紹介した。

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私の計画に賛同してくれたKおじさんとは、明日の午後ここで会うことになった。


ブースカさんが、今日二度目の訪問ですと言った。
午前中は椅子を持参し、ミケを長い時間膝に乗せていたそうだ。
その時もミケはここにいたと言う。するとミケは数時間ここに居続けていることになる。

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その時ブースカさんは、リードなしの犬を遊歩道で二度目撃していた。


そこへ、次々と新たな訪問者が現れた。そして、一匹のを囲んだ。
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Iおばさん、ゆきママさん、ねこみどりさん、ブースカさん‥‥、この人達と私は顔見知りだが、四人の中には初めて会う人同士もいるようだ。でも、私には誰と誰が初対面だか分からない。
面倒だから紹介することもせず、側で女性四人の話をただ聞いていた。



Iおばさんが帰ったあと、誰が言ったか忘れたが『美女三人』と云う言葉が私の耳に入ってきた。
私はそれに対して、無反応を決めこんだ。ヘタな発言をすると、後々困ると思って‥‥。

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ミケがその言葉を理解できたら、きっと反論するだろう。
「ワタシを忘れていませんか」と。



ブースカさんを見ていると、ミケとサンマの事をどんなに愛しく思っているかが痛いほど分かる。
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ペット禁止のマンションに住むブースカさんにとって、ミケとサンマは大切な愛なのだ。


エサ場を去る間際まで、ブースカさんはミケを撫でつづけた。
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ブースカさんには、ご主人のウータンさんと営んでいる飲食店の開店時間が迫っていた。


私の不注意でミケの機嫌を損ねてしまった。
ミケは植込みの中へ入り、私がいくら謝っても振り返りもしない。

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大好きなねこみどりさんが声を掛けても、ミケの機嫌は直らない。


私は柵を乗り越え、ミケに近づいた。そして、ミケを宥めすかした。
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そして、機嫌が直ったミケを私は抱き上げ、柵の外にいたねこみどりさんに手渡した。


ねこみどりさんが、ミケの好物を手ずから与える。
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すると、ミケはゆっくりと食べはじめた。


しかしミケは食べるのを途中で止め、また植込みの中へ入ってしまった。
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サンマが怪我をした日を境に、ミケの様子は明らかに変わってしまった。


ねこみどりさんが再びエサを与えようとしたが、ミケは口を付けない。
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ミケの心にも、大きな傷が残っているのだろう。


好きおじさんも、そんなミケが心配でならない様子だ。
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ミケはあの日以来、小屋には入らずここで夜を明かしているようだ。
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湘南海岸には、もうじき梅雨が来る。いつまでもここにいる訳にはいかない。


そのミケを見つめるねこみどりさんの横顔が泣いているように、私には見えた。
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その後、ミケがねこみどりさんを振り返ることはなかった。


エサ場を去るねこみどりさんの後姿は、いかにも悲しげだった。
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ミケとサンマの心の傷は、周りの人にも伝播しはじめていた。


私は昨日あらしさんからのコメントを読み終えた時、ある決断をした。
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今の場所から、ミケとサンマの小屋を移動させる。


二匹の小屋は潅木の陰にあり、遊歩道からは容易に見えない。
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しかし、鼻が利く動物に視覚的な隠蔽は何の役にも立たない。


そこで、他の動物が容易に入れない植込みの中へ、小屋を移すことにした。
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ここは、あの日サンマが傷の痛みに耐え、身を隠していた場所でもある。


明日の午後、Kおじさんと一緒に作業することになっている。
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サンマは今、あらしさんの庇護の元、治療に専念している。
あらしさんからの報告では、サンマの傷は少しずつ治っているそうだ。




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トラウマ

2010年06月05日 00:00

PM 02:55
湘南海岸には数十m置きに、こういう看板が立っている。

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しかし、遊歩道やサイクリングロードでリードをしていないと何度も遭遇する。
小型ならまだしもリードなしの大型に近づかれると、私でさえ怯む時がある。
実際、今年の一月三日にミケとサンマは、私の目の前で大型の急襲を受けた。
たしか日本の文盲率は世界の中でも低いはず‥‥では何故、リードなしのが平然と歩いているのだろう。まさか、ここに住む人たちの文盲率が殊更高いってこともあるまい‥‥
私には、この事がどうしても理解できない。

ちなみに、私は毎日海岸へ行っているが、今まで一度も野良を見たことがない。
発症すると死亡率ほぼ100%の狂犬病を持つ可能性がある野良犬を放っておくほど、日本は平和ボケしていないと思っている。



ミケは、昨日と寸分違わない場所にうずくまっていた。
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この場所が安全であることを、ミケは知っているのだろう。


私の存在に気づいても、ミケは以前のように擦り寄って来なくなった。
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私をチラリと見ただけで、ミケはすぐに眠りに就いた。


今日は、これからミケとサンマの小屋を移動させる。
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勿論小屋を移動しても、同じことが二度と起こらないと云う保証はない。
でも、私はそうせずにいられない。サンマのあの惨状を目の当たりにしたからには‥‥



じきにやって来たKおじさんと、小屋の移動作業を始めた。
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私たちは、元の場所から必要な物全てを運び出した。


そこへ、あらしさんとKおばさんがやって来た。あらしさんがサンマの近況を話しはじめる。
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あらしさんはサンマを毎日病院へ連れて行き、傷の手当を受けている。
その甲斐あって、損傷を受けた箇所には少しずつ肉がついてきているそうだ。
そして、自宅では朝晩飲み薬を与えている。
しかし仕事を抱える身のあらしさんは、十分な看護ができないと悩みを打ち明けた。
本当はサンマを病院に預けたいのだが、そうなると費用の問題に直面すると言う。
私はサンマに直接関わっている人や、このブログを見た人からカンパの申し出があることをあらしさんに伝えた。
しかし、あらしさんは自分の名前や口座番号をネットへ載せることに抵抗を示した。
実は、私もあらしさんの本名を知らされていない。何か良い方法はないものだろうか‥‥



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遊歩道から見づらい場所を、私は慎重に探した。


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安全性、世話をする人の出入り、日当たりなどを考慮した末、私は小屋を置く場所を決定した。


TANYさんも小屋の移動が気になるのか、しばらく我々の様子を見ていた。
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ミケを捜すと、これまた見事に昨日と寸分違わない場所で丸くなっていた。
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今のミケにとって、日当たりとか寝心地の良さはどうでもよく、外敵から発見されないことが必須の条件なのだ。


エサ場を訪れた、ねこみどりさんとIke君がそのミケを心配そうに見ている。
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好きおじさんもミケの様子を見にやって来た。


さらに、以前会ったことのある町田市に住むご夫婦が、二匹のことを心配してエサ場にやって来た。
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サンマの怪我のことも、このブログを見て知っていた。


私は昨日同様、植込みにいるミケを抱きかかえ、ねこみどりさんに託した。
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しかし、大好きなねこみどりさんに抱っこされても、ミケの表情は険しいままだった。


ねこみどりさんは、ミケに優しく語りかける。
以前のミケは、こういう時小さな声で返事をしていた。

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しかし今のミケは、ねこみどりさんの顔を見ることさえできなくなっていた。
自分が今いる、この場所が嫌なのだ。
サンマが襲われたエサ場は、ミケにとって忌避したい場所でしかない。



ミケは逃げるように、防風林の中へ入っていった。
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好物であるカツブシのスティックを差し出されても、ミケは見ようともしない。
以前はサンマの分まで食べていたのに‥‥



いったいミケは、あの日何を目撃したのだろう‥‥
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いや、ミケ自身もサンマと同じ恐怖を味わったはずだ。
でないと、ミケのこの変わりようを説明できない。



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小屋の移動が完了した。
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果たして、この小屋へ以前のようにミケとサンマが入ることはあるのだろうか?


ミケがねこみどりさんの膝から跳び降りて、再び植込みの中へ入っていった。
ねこみどりさんの膝からミケ自ら降りるなんて、これが初めてのことだ。

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さすがにみんな心配になり、ミケを覗きこんだ。


好物のスティックは半分以上食べたと、ねこみどりさんが教えてくれた。
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「Kおじさん、お疲れ様でした」


ミケの心の扉は日毎閉じられているのではないだろうか‥‥?
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今夜もミケはここで夜を明かす。
今朝植込みの一番奥から姿を現したミケは、昨夜の雨に打たれて全身びしょ濡れだったと、ゆきママさんから報告を受けた。
さらに、そこへ居合わせたTさんがティッシュでミケを優しく拭いてくれたことも併せて報告してくれた。



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ねこみどりさんは、長い間その場から離れようとしなかった。


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心の扉

2010年06月06日 00:00

PM 03:20
エサ場にはK夫妻が来ていた。
私が「ミケは?」と尋ねると、Kおばさんが「あそこにいるわよ」と教えてくれた。

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いつもの場所に、ミケはいた。
最近のミケは、以前のお気に入りである、よしずの上や、日向ぼっこデッキには一切近づかなくなった。


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ミケは明らかに何かを恐れ、警戒している。


ミケの食事の世話を終えたKおじさんは、最後に傘の汚れを落とした。
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そしてふたりは、いつものように肩を並べて帰っていった。


K夫妻と入れ違いにTさんがやって来た。Tさんは毎朝このエサ場を訪れている。
昨日の朝は、姿が見えないミケをゆきママさんとふたり、広範囲に渡って捜した。
そして見つけた全身ずぶ濡れのミケを、Tさんがティッシュで優しく拭いたと、ゆきママさんから聞いた。
このTさんも怪我をした野良猫を引き取り、育てている。

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そこへ、ウータンさんブースカさん夫妻が来訪した。ふたりは今日、三度目の訪問だと言う。
一度目は店が終わった夜中過ぎ、そして午前中もミケの様子を見に来ていた。
午前中には、やはりミケのことを心配してエサ場へ向かうねこみどりさんと遭遇したと言う。
夜中の訪問時、ミケの姿はどこにもなかった。
ところが、エサ場の前にいると、ミケが浜の方から駆け寄ってきて、ウータンさんの膝の上に乗ってきた。
その時のミケは、昨夜の雨に打たれ全身ずぶ濡れだったそうだ。
それは先月の27日、私が雨の中エサ場を訪れた時と全く同じ状況だった。
すると、ミケは二日続けて雨に濡れそぼっていたことになる。



ミケは知らぬ間に、いつもの植込みへ移動していた。
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ふたりは心配そうにミケを見つめている。


私は今日も柵を越えた。そしてミケを抱きかかえ、ブースカさんに託した。
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ふたりはミケが安心できる防風林へ入っていった。


そこへ、TANYさんも加わった。TANYさんも毎日ミケの顔を見にやって来る。
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ご主人のウータンさんが開店準備のため店へ向かっても、ブースカさんはその場へ残った。
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そのブースカさんの膝の上で、ミケは身体を丸くしている。


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ブースカさんは、閉じられたミケの心の扉を開けようとしているのだ。


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ブースカさんが、ミケを膝に乗せてから既に一時間以上経っていた。


タイムリミットを迎えたブースカさんが、ミケを膝から降ろそうとした。
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しかし、ミケは逆らった。そして再びブースカさんの膝にしがみついた。


ミケエリア100606-14.jpg
ブースカさんは「ねこみどりさんの気持ちがよく分かります」と言った。
ねこみどりさんは以前私にこう言った「夕方ミケちゃんを膝に乗せると切なくなるの」と。


再びブースカさんが、ミケを膝から降ろそうと試みた。
ミケエリア100606-15.jpg
ミケは必死に抵抗する。


ミケエリア100606-16.jpg
「夕方ミケちゃんを膝に乗せると切なくなるの」
私の頭の中で、ねこみどりさんの言葉がリフレインする。



ブースカさん、三度目の試み。
ミケエリア100606-17.jpg
ミケの滑稽な姿を見ても、私は笑うことができなかった。


ブースカさんも笑顔を見せているが、笑ってはいない。
ミケエリア100606-18.jpg
真っ暗な砂浜で独り雨に打たれていたミケを知るブースカさんは、いつまでもミケを抱いてあげたいのだ。


ミケエリア100606-19.jpg


ブースカさんは、ご主人の待つ店へ小走りで向かって行った。
ミケエリア100606-20.jpg


残されたミケは、いつもの場所にうずくまった。
ミケエリア100606-27.jpg
ミケの心の扉を開く鍵はどこにあるのだろう。


ふと前方を見ると、チビ太郎がいた。
ミケエリア100606-29.jpg
長靴おじさんの飼いチビ太郎は、サンマのライバルである。


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私はチビ太郎に近づき、言った。「サンマはいないよ。犬に咬まれて大怪我したんだ」


「チビ太郎、お前も気をつけろよ」
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チビ太郎が私の足元にうずくまった。私はそんなチビ太郎をしばらく撫でてやった。


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乾き

2010年06月07日 00:00

昨夜遅く、あらしさんから一通のメールが届いた。



そのメールに添付された写真には、一匹のが写っていた。



写真のは、こちらに背を向けて寝ているので表情を窺うことはできない。



しかし、きっと安らかな表情で眠っているに違いないと、私は思った。











サンマ近影100607-01.jpg
サンマは今、病院で借りた大型犬用のケージの中で暮らしている。
その中にはトイレ、エサ、水、そして寝床がある。
通院によるストレスを軽減させるため、病院には数日置きに通っていると言う。
傷の手当はあらしさんがしている。
食欲はかなり戻り、よく眠っているそうだ。夜はイビキをかいていると言う。
医者からも、思ったより治りが早いかもしれないと言われたそうだ。
右の写真は、サンマの自宅用治療セットだ。
抗生物質の飲み薬、傷口を洗うスポイド、化膿止めの塗り薬、そして包帯‥‥

でも、その中に傷ついたサンマの心を治す薬はなかった。




PM 03:30
今や定席となった植込みに、ミケはいた。

ミケエリア100607-01.jpg


ミケが私の姿を認め、顔を上げた。
ミケエリア100607-02.jpg
ミケの表情は今日も冴えない。


ややあって、ミケは私の存在を無視するように再び眼を閉じた。
ミケエリア100607-03.jpg
私は今日も柵を越えた。


そしてミケを膝に乗せた。
ミケエリア100607-04.jpg


私はそのまま柵越しに海を眺めることにした。
その間サイクリングロードを、何人もの人が行き交った。

ミケエリア100607-05.jpg
道行く人からは私の頭しか見えない。
その人達の反応は‥‥一瞬驚く、奇異な目で見る、慌てて目を逸らすなど、様々だ。
私はそういう人達の表情も、景色と一緒に楽しんだ。



今日も、近くで重機が砂を掘っていた。
ミケエリア100607-06.jpg
その重機が時折大きな音を立てる。


するとミケは、その度に体をビクンと震わせる。
ミケエリア100607-07.jpg
そのミケの怯えが、私の膝に直接伝わってきた。


そこへ現れたK夫妻にミケを手渡した。
ミケエリア100607-08.jpg


Kおじさんがミケのために新しい缶詰を開けたが、ミケは見ようともしない。
ミケエリア100607-10.jpg
ミケが満腹なのか、それとも食欲が失せているのか‥‥その時の私には分からなかった。


Kおじさんも、そんなミケの様子を見て心配顔だ。
ミケエリア100607-11.jpg
水だけはたっぷりと飲むが、エサに口をつけることは、ついになかった。


K夫妻と入れ違うようにTANYさんがやって来た。
そして地面へ腰を下ろし、ミケを膝に乗せた。

ミケエリア100607-12.jpg



ミケエリア100607-13.jpg



ミケエリア100607-14.jpg
「ここを揉んでやるとは喜ぶんですよ」とTANYさんは言い、ミケの首を優しく揉みはじめた。


ねこみどりさんが、ミケの好物であるカツブシのスティックを持ってきた。
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しかし、ミケは見つめるだけで口をつけようとしない。


そこで、ねこみどりさんは持参してきたトレーにスティックを移し、ミケの眼の前に置いた。
ミケエリア100607-16.jpg
そのねこみどりさんを、ミケは申し訳なさそうな眼で見つめている。


この時も、ミケは水だけを飲み‥‥
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TANYさんの膝へ駆け登っていった。


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その様子を見た私は知った‥‥ミケの食欲が失せていることを。


ねこみどりさんも、ミケの変わりように戸惑い気味だ。
ミケエリア100607-19.jpg
その時、TANYさんが「ミケの鼻、乾いてますね。病気かもしれませんよ」と言った。


TANYさんは「ミケ、食べないとお前死んじゃうよ」と言いながら、ミケを再びエサの前に連れていった。
ミケエリア100607-20.jpg
しかし、ミケは頑として好物に口をつけなかった。


「それじゃ、また」と言って、TANYさんは帰っていった。
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ミケは、ねこみどりさんに委ねられた。


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しばらくすると、ミケは寝息を立てはじめた。


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Ike君のお母さんが、ミケを心配して訪ねてきていた。
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サンマの事は、このブログを見て知ったと言う。


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好きおじさんは、日に何度もミケの様子を見にくる。
「昼間エサをやったけど、ミケは食べなかった」とおじさんは言った。



以前にも書いたが、も夢を見ると、私は信じている。
ミケエリア100607-27.jpg
ねこみどりさんの膝で眠るミケがどんな夢を見ているのか‥‥知る由もないが‥‥


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せめて夢の中だけは平穏であってほしいと、私は切願した。


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氷下魚

2010年06月08日 00:00

PM 03:35
ミケは好きおじさんの左膝にちょこなんと座っていた。

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「さっきエサをやったけど、ちょっとしか食わない」とおじさんは言い、心配そうにミケを見ている。
ミケの食欲は、やはり戻っていなかった。



そこへIおばさんがやって来て、ミケに話しかけはじめた。
Iおばさんは、今まで世話をしている海岸を膝に乗せたことがないと言う。

ミケエリア100608-02.jpg
それを聞いた私はミケを抱き上げ、Iおばさんの膝の上に乗せた。


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今のミケが安心して寛げる場所は、膝の上だけかも知れない。
ミケエリア100608-04.jpg
でもミケの心の扉は、まだ開いていない。


その扉を開けようと、ブースカさんがエサ場にやって来た。
ミケエリア100608-05.jpg


私がエサ場の外にいると、顔見知りの玄ちゃんが玄パパさんに連れられ通りかかった。
玄ちゃんは玄パパさんの「お座り!」にちゃんと応える。

ミケエリア100608-06.jpg
でも玄パパさんの話では、玄ちゃんは今まで何度も家人に咬みついている。
飼い犬に手を咬まれることは決して珍しいことではない。
私の実家にはいつも犬がいたが、彼らを100%信用したことは、ただの一度もない。



ブースカさんは、ミケのためにエサを持ってきていた。
近づいた私は、自分の目を疑った。

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ミケがそのエサを、むさぼるように食べている。


私はブースカさんにエサの正体を訊いた。
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「コマイです」とブースカさんは言った。
私は海の側に住んでいながら、魚の知識をほとんど持っていない。



氷下魚と書いてコマイと読みます」ブースカさんは説明を続けた。
それは、凍てつく北の海で獲れる魚だった。

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厳冬期に氷を割って漁獲したことから、この名がついた。


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ミケは、氷下魚を完食した。


氷下魚を食べ終えたミケが、ブースカさんの目を見ながら小さな声で話しはじめた。
お話するミケを見るのは久し振りだ。

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語が不得意な私にも、ミケの言っていることが何となく解った。
おそらくミケはこう言ったのだろう。
「ブースカさん‥‥オサカナおいしかったワ‥‥ア・リ・ガ・ト・ウ」と。



ミケはそう言うと、ブースカさんの膝に跳び乗った。
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ブースカさんは困惑して「ミケちゃん、ごめん、今日は時間がないの」と言った。


しかし、ブースカさんもミケの言葉が解ったのか、すぐに膝から降ろそうとはしなかった。
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氷下魚を獲るため硬い氷を割った漁師のように、ブースカさんはミケの閉ざされた心の扉を少し開けたようだ。
ミケエリア100608-14.jpg


今日もIke君のお母さんが、ミケの顔を見にエサ場へやって来た。
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ついに、ブースカさんにタイムリミットがきた。


ブースカさんはミケを膝から降ろし、別れの挨拶をしている。
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ミケもやっと諦めたようだ。


ブースカさんが帰ったあと‥‥
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ミケは独りエサ場に残された。


私はそれからエサ場の外で、長い間海を眺めていた。
ミケエリア100608-19.jpg
その私の膝にはミケが眠っている。


私の腕を枕に、ミケはどんな夢を見ているのだろう‥‥?
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その夢の中に元気なサンマが出てくるといいのだが‥‥


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語らい

2010年06月09日 00:00

PM 03:45
ミケは、二本の傘に護られていた。

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「ミケ、エサはちゃんと食べたのか?」


その問いに応える代わりなのか、ミケは私に一瞥をくれた。
ミケエリア100609-02.jpg
しかしすぐに顔を伏せ、眼を閉じてしまった。


私は、遊歩道から今のミケがどう見えるか確認した。
ミケエリア100609-03.jpg
防風林でミケの体は、否でも目立つ。念のため、私は傘の向きを少し変えた。


ミケエリア100609-05.jpg
その時、遊歩道の奥で小さな音がした。
ミケは体をビクつかせ、音がした方を向き、しばらくジッとしていた。



そのミケが、今度はエサ場の方を見つめはじめた。
私が振り向くと、防風ネット越しに人影が見えた。

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それは、Tさんだった。
本来、Tさんの海岸散策は早朝だけだったはず‥‥
それなのに、何故かこの時刻に会う機会が増えていた。



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しばらくミケを見ていたTさんが「しかし、ミケは全然動かないですね~」と言った。
元々動きが少なかったミケだが、あの日以来、ますますその傾向が強くなっている。



ミケが動いたのは、TANYさんがエサ場を訪れた時だった。
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私がカメラを構える前に、ミケはTANYさんの膝へ跳び乗った。


そして、ミケはTANYさんの膝に体を沈めた。
ミケエリア100609-09.jpg


TANYさんの健康チェックがはじまった。
まず、蚤がいないかミケの毛を掻き分けた。

ミケエリア100609-10.jpg
次は眼。目頭に溜まった目ヤニを丁寧に取りのぞく。


「指の間にダニがいることもあるんですよ」とTANYさんは言い、ミケの指の間を丹念に調べた。
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耳を掃除されるミケの表情は、とても穏やかに見えた。


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そして最後に、TANYさんはミケの耳を裏返した。


その時、エサ場の前をふ~さんに連れられたハッピーちゃんが通りかかった。
ミケエリア100609-13.jpg
ハッピーちゃんは、11歳になる女の子だ。


TANYさんが「そのワンちゃん、ミケのこと舐めてくれないかなぁ」と、とんでもない事を言いだした。
すると「この子、に接するとどんな行動とるか分からないから、に近づけたことないです」とふ~さんは応えた。

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「何もこんな時に‥‥」
私は内心ためらったが、人生の大先輩でもあるTANYさんに従うことにした。



ふ~さんとハッピーちゃんは、ゆっくりとミケに近づいていった。
ミケエリア100609-15.jpg
ミケは眼を剥き、ハッピーちゃんを睨みつけた。


先に眼を逸らしたのは、ハッピーちゃんだった。
ミケエリア100609-16.jpg
ハッピーちゃんの姿が見えなくなっても、ミケはしばらくエサ場の外を睨み続けていた。


午後5時を告げる音楽が大音量で流れた。
TANYさんは「ミケちゃん、僕そろそろ帰りますよ」と言いながらミケを抱きかかえた。

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そして、ミケが再び膝に乗る前に、TANYさんは素早く立ち上がった。


TANYさんは、今日他の用事があった。そのことを思い出したのは、ミケを膝に乗せたあとだった。
「どうして僕、ここに来ちゃったんだろう?」その時、TANYさんはそう独りごちた。

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以前小屋のあった方を見つめたミケは、そのまま動かなくなった。
ミケエリア100609-19.jpg
サンマが大怪我をした時のことを思い出しているのだろうか‥‥?


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ミケが私の足元に近づいてきた。私があっと思った時は、既に遅かった。
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ミケが私の膝に跳び乗ってきた。
そのミケを膝に乗せたまま、私は柵に凭れかかった。



ミケエリア100609-26.jpg
そうして私は、昨日と全く同じ風景を眺めるハメになった。


私達の目の前を、幾人もの人が行き交っていく。
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私はその人達を見た感想を、片言の語でミケに語りはじめた。


その時、ミケがどんな顔をしているのか、私は窺い知ることができなかった。
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初老のこの女性は、いつもリードを犬に引きずらせながら散歩させている。
杖をつく身では犬の散歩も大変だろうと、思ってはいたのだが‥‥
それが、今日はちゃんとリードを手にしていた。



いつまでも続く飼い主同士の立ち話に閉口気味のワンコに、私は小さく口笛を吹いた。
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すると、二匹は同時に振り返った。
彼らの眼には私達がどう映っているのだろう‥‥?
でも、それを知るには犬語を習得しなければならない。今の私は、語だけで手一杯だった。



私の腰と足はそろそろ限界に近づいていた。
「ミケ、もう降りてくれないか‥‥」

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私は、ミケの顔をモニターで確認した。


ミケは舌を出して、熟睡している。
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ミケがいつ眠ったのか、私には分からなかった。


ミケエリア100609-33.jpg


【お礼】
サンマの怪我に際して、同じブロガー仲間の方々からも多くのコメントを頂きました。
その中には、貴重なページを割いて当ブログを紹介して頂いた方がいます。
aquaさん、プシュケさん、本当にありがとうございます。

aquaさんのブログ『Ca va?』
プシュケさんのブログ『プシュケの小箱』



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猫好きおじさん

2010年06月10日 00:00

PM 03:30
エサ場へ近づく私の耳に、聞き慣れた声が飛びこんできた。
その声の主はKおばさんだった。

ミケエリア100610-01.jpg
Kおじさんは防風林の中で、何かを地面に敷いている。


それは『よしすだれ』だった。Kおじさんが自宅から持ってきたものだ。
ミケは、その感触を確かめるようにすぐに体を横たえた。

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この日、湘南海岸は夏日を迎えていた。
冷たいよしすだれが気持ちいいのか、ミケはそこから動かなくなった。



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一仕事終えたふたりは、汗をかきながら帰っていった。


私が戻ると、ミケは体勢を変えていた。
ミケエリア100610-04.jpg
ミケは眼を半眼にして、考え事でもしているようだ。


そこへ、エサを持ってIおばさんがやって来た。
ミケエリア100610-05.jpg
Iおばさんが、ミケの眼の前にエサを置いた。


しかし、ミケはそのエサから視線を外す。
ミケエリア100610-06.jpg
ミケは、私が与えた水をまず飲みはじめた。


Iおばさんがいくら勧めても、ミケはエサに口をつけない。
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サンマと一緒にいた時、Iおばさんが来るとその足元に擦り寄っていたミケだが、今は振り返ることもない。
日頃はエサをやるとすぐに次のエサ場へ向かうIおばさんも、さすがにミケの変わりように戸惑いを隠せないようだ。



海岸から引き取ったを三匹飼うIおばさんだが、エサを与える海岸に触れることはほとんどない。

ミケエリア100610-08.jpg
次のエサ場へ向かうIおばさんと入れ違いに、好きおじさんがエサ場を訪れた。


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「これなら食べるよ」とおじさんは言い、ミケの眼の前に違うエサを置いた。
ミケエリア100610-10.jpg


しかし、ミケがエサを口にすることはなかった。
ミケエリア100610-11.jpg
ゆきママさんからは、早朝ミケにササミを与えたら少し食べたと報告があった。


好きおじさんも諦めたようだ。
ミケエリア100610-12.jpg
ミケは、また水を飲みはじめた。


水を飲み終えたミケが、防風林へ入っていく。
ミケエリア100610-13.jpg
遊歩道の奥から何か物音がすると、ミケの表情は一変する。
この時、遊歩道から人の足音が聞こえてきた。



ミケは遊歩道の脇にうずくまった。
ミケエリア100610-14.jpg
そして遊歩道の奥を凝視しはじめた。


ミケエリア100610-14-15.jpg


海風がにわかに強くなり、その風に飛ばされた病葉が頭上から降ってきた。
ミケエリア100610-15.jpg
その時、好きおじさんが再びエサ場へやって来た。


そしておじさんは、ミケの眼の前にトレーを置くと‥‥
ミケエリア100610-16.jpg
氷の入った袋から冷たい水を注ぎはじめた。


それは市販の氷だった。でも、氷は今日の暑さで既に融けかかっている。
ミケエリア100610-17.jpg
防風林の中にあるおじさんの家に冷蔵庫は、おそらくない。
そもそもその家には電気が通っていないと思われる。
勿論、こんなモノはどこにも落ちてない。



ミケが暑さで参っているとでも思ったのか、好きおじさんはどこかの店で氷を買ってきたのだ。
ミケエリア100610-18.jpg
ミケは、そのおじさんの後姿をしばらく見送っていた。


猫好きおじさんの気持ちが通じたのか、ミケはそっとその水に口をつけた。
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そして、美味しそうに飲みはじめた。


ミケエリア100610-20.jpg
猫好きおじさんはすぐに去らず、エサ場の前に腰を下ろしていた。


私はそのおじさんの膝の上にミケを乗せた。
おじさんの膝が、いかにもミケを待っているように感じたからだ。

ミケエリア100610-21.jpg


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このおじさんが日に何度ミケに会いにきているか、私にも分からない。
ただ、暗い夜にもミケの様子を見に来ていることは知っている。

ミケエリア100610-23.jpg
海岸猫の動向を知りたいなら、このおじさんに尋ねるのが一番正確だ。
私が傷ついたサンマを植込みの中で発見できたのも、このおじさんのお陰だ。



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人の価値は地位や職業で決まるモノではないと思っている。
金や地位を持っている偽善者より、家も持たないこのおじさんのほうを、私は敬愛している。

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私も猫好きおじさん同様金や地位は持っていない。
でも、偽善者になってまでそれらを得たいとは‥‥思わない。



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