ニューエリアの猫

2012年06月26日 12:30

早朝の海岸に着き、風景を撮影しようとした私は、いきなり名を呼ばれた。
目を遣ると、そこにいたのは、声の主であるゆきママさんと、ゆきパパさんだった。

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「いつもここまで散歩に来るんですか?」と訊くと、今朝は涼しいから、いつもより足を伸ばしたの、とゆきママさんは言った。


確かに、空を覆った灰色の雲のせいで、今朝は暑さが和らいでいる
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その曇天の下、ぜひとも確認したいことがあって、私はあるエリアを目指した。


郷里から帰宅してしばらく経った頃だったから、4月の初旬だと思う‥‥。
まだ海岸猫たちの顔を見る心境ではなかった私は、dodoさんとTさんに会うためだけに海岸へ赴いた。

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その途中、1匹の若いキジ白と遭遇した。
キジ白が現れた場所は、今までに海岸猫が棲みついたことのないエリアだった。



そのキジ白のことが酷く気がかりだったが、それ以後、姿を見ることはなかった。
それでも、海岸へ行くたびに、ついそのエリアで足を止めてしまう。

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そうして、この日も“ニューエリア”の前で立ち止まり、防砂林の中を窺った。


すると、1匹のキジ白が足早に歩み寄ってきた。
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以前会った猫が、このキジ白だったのか‥‥、正直いって、私は確信が持てないでいた。


この子も若く、同じように人懐こい。が、どこか印象が違っている。
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それに、かのキジ白はそのとき、明らかに妊娠していた。時期を考えると、すでに出産を終えているはずである。


目の前のキジ白も、またメス猫で、身体の大きさなどから、まだ1歳になっていないと思われる。
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とはいっても、猫は生後半年もすれば、受胎が可能なので、このキジ白が“妊娠猫”だった可能性も否定出来ない。


前述したとおり、このエリアはこれまで海岸猫がいない“空白のエリア”だった。
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ところが、『海猫伝説』の管理人であるまるこめさんから、このエリアで新顔の猫を7匹確認したという情報を直接得た。


おそらく、ほかの猫はこのキジ白の眷族だろう。120531-07.jpg
「それはそうと、お前は何処から来たんだ?」
あり得なくはないが、7匹同時に遺棄されたとは考えにくい‥‥。



ニューエリア近くには、国道の下を横断する隧道が、完全な形で現存している。
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海岸を安住の地にしようと、街猫がこの隧道を通り抜けてきたのかもしれない。
しかし、猫にとって海岸は楽園でもユートピアでもない、
野良である限り、何処に住もうが、厳しい生存競争が待ち受けているだけだ。



若いというより幼いといったほうが相応しいこのキジ白も、何かを追い求めて、眷族ともども海岸へやって来たのだろうか?
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このとき、キジ白の表情が、にわかに険しくなった。
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まるで射るような視線を、ゆっくりと巡らせている。


どうやら、私の後ろを何者かが通り過ぎたようだ。その気配は、私にも伝わってきた。
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予想したとおり、それは散歩中の犬だった。


猫と犬は元来仲が悪くない。特に幼い頃から同居させて、仲良くしている例はいくらでもある。
仲の悪いたとえとして“犬猿の仲”という言葉はあるが、“犬猫の仲”という言葉がないのがその証左だと、私などは思っている。

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だから、この幼い海岸猫が犬を警戒するには、やはりそれなりの理由があるはずだ。


これまで異種である犬との接触を殆ど経験していないか、敵視する、なにがしかの出来事があったのだろう。
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海沿いの道は、様々な犬種が行き交い、朝夕などさながらドッグショーのようだ。


「キジ白よ、一つ教えておいてやる。お前より多少体格が大きいくらいの犬が相手なら、喧嘩に負けることはない」
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「ついでに、もう一つ教示しておくと‥‥、“逃げるが勝ち”という教えどおり、無用な争いなどしないほうが賢明だ」


「お前が、母親ならなおさらだ。お前に不測の出来事があれば、乳飲み児は餓死するしかないぞ」
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私の話を理解したのか、キジ白はおもむろに防砂林のほうへ向かって歩みはじめた。


ところが、いきなり踵を返すと、足早に近づいてきた。
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そして、甘えた鳴き声を上げながら、私の脚に体をすり寄せてきた。


なかなか離れようとしないキジ白を誘うように、私は防砂林の中へ足を踏み入れた。
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私の後を付いてくるキジ白に尋ねた。「お前の家族もこの防砂林にいるのか?」


だがキジ白は、その問いかけには答えず、物寂しい表情を見せた。
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そのとき、私の目に留まったのは、被毛から顔を出している乳首だった。
「すると、あのときのお腹の大きなキジ白は、お前だったのか‥‥」



とすれば、この近くに仔猫がいるはず‥‥。だが、巧妙に隠しているので、簡単に見つけることは出来ない。
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それに、仔猫は一様に警戒心が強く、母猫以外の鳴き声に反応しない。


仔猫の居場所を知っているのは、この幼い母猫だけだ。
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当然のことながら、私が居場所を訊いても、絶対に教えてはくれないだろう。


私はそれから、防砂林の中を見て回った。
といっても、仔猫の居場所を探ったわけではなく、居たと聞いているほかの猫の姿を求めてのことだ。

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しかし、防砂林の中で動くものといえばカラスばかりで、1匹の猫も発見出来なかった。
まるこめさんが確認したという猫たちは、一体何処へ行ったのだろう?



物哀しい面持ちのキジ白は、相変わらず何も応えず、ただ佇んでいる。
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もしかしたら、このキジ白は出産したせいで、ココへ独り残されたのかもしれない。


そう考えると、やたらと人懐こいことや、こうして見せる悲哀漂う表情も説明がつく。
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私は、何とかしてこの子の実情を知りたいと思った。


このエリアには、シートで作られた住居が数軒点在している。
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私は、“家を持たない人”を特別視しないし、忌避もしない。
それは、私にとって“車を持たない人”や“高級ブランド品を持たない人”と同義だからだ。



ブルーシートをタープ代わりに張った下は、ちょっとした社交場の様相で、3人の男性が歓談していた。
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いつの間に先回りしたのか、キジ白が男性の足許で寛いでいた。


い、いや、違う。この猫はさっきまで一緒にいたキジ白ではない!
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顔も似て、体の大きさもおっつかっつだが、被毛の色が違っている。


全体的に毛色が薄いのだ。茶の面積が広いといったほうが適確かもしれない。
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更によく観察すると、尻尾の形状も異なっていた。長さが同じでも、この子のは丸く巻いている。


このとき、私は心の中で「あっ!」と驚嘆の声を上げた。
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このキジ白も、子供を産んでいたのか‥‥!


やがて、ずっと胸中にあったわだかまりが、徐々にほぐれてきた。
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「そうか、お前だったのか‥‥、あの日、大きなお腹を抱えて私にすり寄ってきたのは」


そこへ、さっきのキジ白も姿を現した。
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ココの住人に話を訊くと、この2匹は姉妹だと言う。
容姿からすると、同じ父親を持つ双子だと断定しても差し支えないだろう。



記事を書くのに煩瑣なので、さっそく呼び名を決めることにした。
毛色の濃いキジ白を“リン”

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そして、毛色の薄いキジ白を“ラン”と命名した。
私と同世代の読者なら、名前の由来をすぐに察するだろう。



共に母親、授乳のために栄養をつけなければならないので、揃って食欲は旺盛だ。
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住人の話によると、出産したのはリンのほうが先で、仔猫の数は4匹だったそうだ。
ただ、ランが何匹の仔猫を産んだのかは、まだ分からないと言う。



食事を終えたランは、男性に抱かれてご満悦の態である。
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男性の目を嬉しそうに見つめるラン‥‥、何とも心温まる光景だ。
前回の記事にも書いたが、やはり猫が一番心安らぐ場所は人の膝の上である。



このシーンに、私の拙いキャプションは邪魔になるだけだ。
ランの表情を見ているだけで、きっと何かを感じるだろう。

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一方、リンはというと、まだ食事の真っ最中だ。
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腹を空かせた4匹の可愛い子供のために、リンはひたすら食べる。


やがて、やっと満腹になったのか、リンは用意されている水を飲みはじめた。
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リンとランは、ココの人たちに可愛がってもらっているようだ。


テーブルの上には、いつでも食べられるようにカリカリも置かれている。
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しかし、今は2匹だが、いずれ仔猫を含めた大所帯になるのだ‥‥。


「ラン、お前の子供は何匹いるんだ?」と、つい訊きたくなる。
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更に住人から話を訊くと、確かに以前はこのエリアにリンとランの親兄弟も一緒に暮らしていたが、ある日突然、2匹を残してほかへ移動した、と言う。


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想像したとおり、リンとランは子育てのために、自らココへ残ったのだ。自身もまだ親に甘えたい年頃なのに、だ。


いとま乞いをした私を、リンが名残惜しそうに途中まで追ってきて、見送ってくれた。
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いかにも儚げな幼い母猫の姿を見ていたら、私は胸がいっぱいになった。
だから、思わず声をかけた。「頑張れよ、お母さん‥‥」



家路についた私の心は沈鬱だった‥‥。
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それでなくても、よく眠れないのに、この日はリンとランのことが頭から離れず、なかなか寝つくことが出来なかった。



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姉妹猫

2012年08月23日 09:00

ある早朝の湘南海岸‥‥。
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私がエリアに到着するやいなや、リンが出迎えてくれた。ランにはそこまで私を歓待する気はないようだ。
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今朝は、途中で出会った猫好きおじさんと一緒にエリアを訪問した。
さっそく愛想をふりまくリン。



今はこうして人馴れしているが、ここに現れた当初は警戒心が強くて、手懐けるのに苦労したと、防砂林に住まう人が話してくれた。
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トレイにカリカリを盛ると、ランもいそいそと駆けつけてきた。現金なやつだ。
この2匹、朝食はすでに小屋で貰っているはずだ。



リンは4匹の仔猫の母である。
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子供らに乳を与えるためには、まず自分自身が栄養を摂る必要があり、だからいくら食べても腹が減るのだろう。


ランも、リンのすぐ後に仔猫を産んだと聞いている。
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ただ、生まれた仔猫が複数匹というだけで、正確な数はまだ判明していない。


猫好きおじさんが見守るなか、脇目もふらず黙々と食べ続ける姉妹猫。
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思えば、この母猫たちもまだまだ食べ盛りの幼い猫なのだ。


「たくさん食べて大きくなれ。そして、海岸の過酷な暮らしにも屈しない体力を付けるんだ」
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シメは、姉妹猫の好物である“焼かつお”だ。
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ランがすぐさま、かつおに食らい付く。


私が2つ目の封を開けるのに手間取っている間に、匂いを嗅ぎつけたリンがランのかつおを奪おうとしている。
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姉妹に諍いが起こらぬよう、リンにも急いでかつおを与えた。


焼かつおをあっという間に平らげたリンを、猫好きおじさんが優しく撫でる。
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私の脚に、ランが甘えた声をあげてすり寄ってきた。もっとかつおをちょうだい、と訴えているのだろう。


猫好きおじさんは、本来こんなところで油を売っている暇はない。
生業である空き缶集めのため、これから自転車で海岸を一日かけて回るのだ。

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そのおじさんを、リンとランが視線だけで見送る。


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やがてランが、やおら防砂林の中から出てきた。
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そして、草むらに鼻先を突っ込み、何かを探しはじめた。そこは、さっきリンが焼かつおを食べていた場所だ。


そのランの様子を、リンがじっと見つめている。
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おそらくリンも、ランの行動の目的が分かっているのだろうが、その表情からは何を思っているのか読み取れない。


ランはやっと、目的のモノを見つけたようだ。
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おそらく、それはリンが食べ残した焼かつおの欠片だろう。リンは焼かつおがよほどお気に入りのようだ。


ランが食べるのを中断し、ついと顔をあげた。
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その面持ちはいつになく真剣で、耳をそばだて防砂林の中を凝視している。
何かに意識を集中している様子だ。



すると、ランは体を起こして、急ぎ足で防砂林の中へ入っていった。
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怪訝に思った私が後を追うと、ランは立ち止まった。


そして、その場に留まったまま、私を顧みた。
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意味ありげなランの行動に誘われて、私はランの側に歩み寄った。


ところがランはそわそわと落ち着かず、明らかに行動をためらっている様子だ。
「私に遠慮することはない。お前には行くべきところがあるんだろ」ランの気持ちを察して、私はそう言った。

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私の言葉を理解したのか、やがてランは防砂林の奥へ向かって歩を進めはじめた。


途中で私のほうを振り返り、ランは「ニャアーッ」と一声鳴いた。別れの挨拶か、それともこれ以上追ってくるなと警告しているのか‥‥?
私の感得したところ、この鳴き声には後者の意味が含まれているようだ。

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それを裏付けるように、私が留まっていると、ランはその後二度と振り返ることなく、足早に私から離れていった。
猫の聴力は、人は勿論のこと犬よりも優れていて、音の発生場所の特定や識別の能力は極めて高い。
ランはさっき、子供たちが自分を呼ぶ声を聞いたのだ。



一方リンは、というと、私の傍らで所在無げに佇んでいる。
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そして、いきなり大きなアクビをした。


「リン、お前にも腹を空かした子供たちが待っているんだろ‥‥。早く行ってやったらどうだ」
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だがリンは、私の忠告など意に介さず、草むらに体を横たえて寛ぎはじめた。
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振り返ると、ランの姿はどこにもなかった。
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ランは、この防砂林の人目に付かない安全な場所に、子供たちを巧妙に隠している。


リンはその後も、私にまとわり付き、側から離れようとしない。
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こういう態度をとられると、私の心はつい揺れ動いてしまう‥‥。


そんな波立つ自分の心を誤魔化すため、再びリンに焼かつおを与えた。
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無心にかつおを頬張るリン。


その姿を見ていると、この子もまだまだ幼い猫なのだ、と改めて思い知る。
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「でも、今のお前には母親という大切な務めがあるもんな‥‥」


やがて、私が海岸を離れる時間が迫ってきた。
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「リン、また来るからな‥‥」リンの体を撫でながら、私は別れの挨拶を告げた。


リンも自分の立場をよく心得ていて、エリアから出てまで追ってくることはない。
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そんな諦観した態度を見せられると、こちらが切なくなってしまう。


と、その時、リンの表情が一変した。
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にわかに厳しい目付きになり、それまでの幼い顔貌が消え失せた。


そして踵を返して、防砂林の中へ戻って行く‥‥。リンもまた、子供たちの声を聞いたのだろう。
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ところが、リンは途中で立ち止まると‥‥、


帰り支度をしている私に再び近づいてきた。
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そしてリンは、私の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
こんな風に見送られると、私の心の揺れは益々大きくなってしまう‥‥。



私は後ろ髪を引かれる思いで、エリアを後にし帰途に就いた。

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途中、ベンチ猫のサブのところへ立ち寄ってみた。
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サブは警戒心ゼロで爆睡していた。


野良猫がこんな場所で、こんな格好で寝ることは普通あり得ないのだが‥‥。
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どうやら、食事を終え、満腹になったので睡魔に誘われるまま眠ってしまったようだ。


私が近づいても、サブに目を覚ます気配は微塵も感じられない。
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猫も人と同じように夢を見るし、寝言も言う。


サブは今、どんな夢を見ているのだろう‥‥?
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捨て猫のサブが楽しい夢を見ていることを願いつつ、私は静かにその場から離れた。


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付記
今回の記事は、帰省前に途中まで編集してあったものを故郷のネットカフェで仕上げました。



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新天地

2012年10月13日 20:00

私が湘南を不在にしていた一ヶ月半のあいだに、ベンチ猫以外にも様々な変動のあったことが徐々に分かってきた。
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帰宅した翌朝にリンとランのエリアを訪ねた私は、そこに住まう人から意外なことを聞かされた。
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このエリアからランが離れ、ほかのエリアで暮らしはじめたというのだ。


ここに残ったリンにも大きな出来事が起こっていたが、それはいずれ機会をみて記事にするつもりでいる。
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リンの身に起こったことは、私が帰省する直前まで危惧していたことなのだが‥‥。


幼い猫が何故こんな辛酸を嘗めなければいけないのか、それを思うと私の心は重く沈む。
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「リン、私がいないあいだに辛い目に遭ったようだな」
リンは私の言葉にも以前のような反応をしめさず、その眼には暗い影が宿っているようだった。



防砂林に住まう人からランの居場所を訊いた私は、そこへ向けて自転車を駆った。
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そのエリアに到着すると、すぐにランが仔猫ともども姿を現した。。
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今春ランは3匹の子供を産んだが、一緒に連れてきたのはそのうちの2匹だ。


仔猫たちは母の遺伝子を素直に受けつぎ、同じキジ白で見分けがつかないほど似ている。
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帰省前に何度かこの子たちと会ったことがあるが、一ヶ月半のうちに大きく成長していた。


あと一月もすれば、体の大きさも母のランとおっつかっつになるだろう。
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何故ランは仔猫を連れて元のエリアを離れたのか、そして何故1匹だけ残してきたのか、その理由を何とかしてランから聞きだしたいと私は思った。


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オスの仔猫2匹の食欲は旺盛で、母猫の猫缶を遠慮せず横取りする。


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やがて慌ただしい食事が終わり、仔猫たちも落ち着きを取りもどした。
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この子は警戒心が強く、彼が定めたパーソナルスペースを僅かでも犯すと一散に逃げてしまう。


久しぶりに会ったランは、母としての自覚をしっかり持ったようで、面持ちにもそれが表れていた。
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だがこの母猫自身まだ幼く、仄聞したところによると今年2月に防砂林の中で生まれたという。


それからしばらくして、リンとランの母猫はほかの家族とともに、子供を出産した直後の2匹を残して何処へともなく姿を消した。
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そして今度はランが生まれ育ったエリアに自ら別れを告げたのだ。
私はつくづく思った。猫というのは自立心が強い生き物なんだなぁ、と。



ランは地面に端座すると、道路を行き交う人の観察をはじめた。
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厳密にいうと違うのだが、私はこの行為を“猫のマンウォッチング”と呼んでいる。ミケも柵の上からよく道行く人を観ていた。


それにしても、いったい猫は人を観察して何を得ようとしているのだろう?
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この場合は、宿敵である犬への警戒心だが‥‥。


と、そこへ一羽のカラスがゆっくりと近づいてきた。
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理由は知らないが、カメラを向けられると、大抵のカラスは慌てて逃げ去ってしまう。しかしこのカラスは、私が構えるカメラの存在など歯牙にもかけていない。


もし猫缶のおこぼれに与ろうと思ってのことなら、残念だがとっくにトレイごと片付けてある。
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ランがカラスの接近に気づき目を瞠った。


この海岸猫は向こう意気が強く、敵わぬ相手でも向かってゆく。その傾向は子供を持つ身になってからいや増すばかりだ。
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ランは自分の体を出来るだけ大きく見せるために四肢を伸ばし背を丸めて威嚇のポーズをとる。


さかしらなカラスのことだ、自分の旗色が悪いのを察したのか、それとも食べ物がないのを知ったからか、おもむろに踵を返した。
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仔猫も母にならって警戒の姿勢でカラスを見つめる。


しかしこのカラスも肝が据わったヤツで、去るときも悠々と歩いていった。
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カラスを見送るランは一気に緊張がとけた様子だ。
気丈なランだが、本心はカラスと無益な争いなどしたくないはず‥‥。

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2匹の仔猫も、そろって安堵した横顔を見せている。


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この子らを、いつまでも“仔猫”と呼んでいては、色々と不都合が生じると思われるので、早々に名前を付けることにした。


向かって左の子の名を“チャゲ”‥‥。
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そして右の子の名を“アスカ”とする。
ちなみに、先ほど警戒心が強いと紹介したのはこのアスカのほうである。



そのチャゲとアスカがいきなり組み合った。
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ところがすぐに両者はいったん離れた。呼吸が合わずに仕切り直しか?


が、勝負はあっさりとついてしまった。アスカが自ら倒れこんでしまったからだ。
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この場合決まり手が何になるのか私は知らないが、チャゲの勝ちは揺るがない。


しかし、2匹とも戦いをやめようとしない。相撲だと思ったのは私の勘違いで、柔道での勝負のようだ。
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柔道のルールに疎い私には、チャゲとアスカのどちらが優勢なのか判断できない。


なんと、ここでチャゲの左フックがアスカの顔面にヒット。
どうやら柔道だと思ったのも私の早とちりで、総合格闘技のようだ。

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チャゲの猫パンチが存外効いたのか、アスカが自ら戦いの場から離れていく。


ヤル気満々のチャゲは、そのアスカを誘うように前脚をのばすが‥‥、
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アスカは戦意喪失した様子でチャゲに背を向けた。よくやく勝敗が決したようだ。


と、次の瞬間、アスカが牙をむいてチャゲに襲いかかった。
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不意をつかれたチャゲは防戦一方である。観戦している私も騙された、アスカの見事なフェイク戦法だ。


ところがまた、自分の優位を放棄するようにアスカがチャゲから離れていく。
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アスカは完全に格闘ごっこに飽きて、興味の対象をほかに向けている様子だ。


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独り残されたチャゲは、しばらくアスカの後ろ姿を恨めしそうに見つめていた。


そのころ母親のランは‥‥、
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物陰でのんびりと寛いでいた。


新天地でこれからラン親子にどんな運命が待ち受けているのか、私にもまったく予見できない。
ただ叶うものなら、親子3匹いつまでもつつがなく暮らしてほしい‥‥。

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私もランたちのために、出来るだけのことをしようと思っている。
そこで同じ轍を踏まないために、私はある決意をした‥‥。




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別離

2012年10月25日 13:00

ランはどんな理由で、3匹の子供のうち2匹だけを連れてエリアを移ったのだろう?
あるいは、その仔猫はどんな理由で、元のエリアに残ることになったのだろう?

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さらに別離の決定はどちらが下したかという疑問もある。母であるランの意志なのか、それとも仔猫の意志で残ったのか‥‥?
私はその答を知りたくて、防砂林に住まう人の小屋を訪ねることにした。



その私を最初に迎えてくれたのはリンだった。
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最近のリンの表情は硬く、以前の人懐こさもすっかり影を潜めてしまった。


さらに時折見せる沈鬱な面持ちは、見る者を憂いに誘う。
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持っていた猫缶をここの住人の人に渡し、リンに与えてくれるようお願いした。
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すると、どこからか黒シロの仔猫が現れ、リンと一緒に猫缶を食べはじめた。


この子がランの3匹目の子供だ。
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ほかの2匹とは被毛の色を異にし、無言で父親が違うことを示している。


つまりこの子は、チャゲとアスカとは異父兄弟の間柄になる。そしてリンは伯母叔母)にあたる。
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そのことがこの子に何らかの影響をもたらしているのだろうか?そして今回の別離との関連性は‥‥。


リンはそれほど空腹ではないのか、猫缶を少し食べただけでその場を離れてしまった。
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ランの子は脇目もふらず猫缶を食べつづけている。


食べ盛りゆえなのか、それともリンより空腹だったのか?
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ここに住まう人に訊くと、食事のとき以外はあまり小屋に寄りつかないそうだ。日中は大抵独りで防砂林の中で過ごしているという。


リンはシートの陰に身を隠し、物思いに耽るように目を伏せている。
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やがてリンはついと顔を上げると、まるで任意の意志にスイッチが入ったように目を大きく見開いた


そしてその意志に導かれるまま、迷いのない足取りで歩きだした。
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そうしてある地点まで来ると、ごく自然に座りこんだ。その場所に特別な意味があるかのように。


ランの子も食事を終え、一息入れている。
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この子にも帰省する前に何度か会っているのだが、私の顔はすっかり忘れられてしまったようだ。


リンはその場から動かず、まわりの気配を丹念に窺っている。
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おそらく聴覚をフルに働かせて、聞き慣れた音を防砂林の中に探っているのだろう。


だがしかし、その音がリンの耳に届くことは永遠にない。おそらくは。
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リンはこの一連の行動を1日に何度繰り返しているのだろう?


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とぼとぼと小屋に戻るリンの足取りはいかにも重く、後ろ姿も消沈して見える。


まだ人馴れしていない仔猫は、見慣れぬ私がいるからか、低木の下に身を隠した。
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そして、胡乱な目で私を見つめ返してくる。


実は、ほかの2匹の兄弟とこの子の決定的な相違は、父親の違いだけではない。
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ランの子供の中で、この子が唯一のメスなのだ。


つまり、ランにとっては唯一の娘になる。
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母や兄弟たちと離別することになったのは被毛の違いだけでなく、このことも原因ひとつかもしれない。


また姉妹であるリンの存在が、ランの行動に深く影響していることも十分考えられる。
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リンとランはけっして仲の良い姉妹ではなかった。そしてその子供たちもまた、母に倣ってか、従兄弟として打ち解けているとはいえなかった。


ランの子が残った猫缶に鼻先を近づけてきた。もう腹が減ったのか‥‥?
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しかし口を付けることなくついと離れていった。


と、今度はリンがおもむろに猫缶の入った食器に近寄ってきた。
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そしていきなり猫缶に食らいついた。その様子を落ち着かない素振りで見つめるランの子。


さっきのように一緒に食べようと、近づくが‥‥、
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何故か怯えたように後ずさりして離れていく。


リンの身体からは、人には感じられない威圧感がオーラのように出ているようだ。
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結局、リンが残りの猫缶を食べているあいだ、ランの子はただそれを見ているだけだった。


ここに住まう人に言わせると、リンはランの子を忌避し、食事も優先的に食べるのだそうだ。
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親兄弟とも別れ、伯母叔母にも疎外されるこの子に同情の念を禁じ得ない。


猫缶を食べ終わったリンが、先ほどと同様まっすぐ前を向いて歩いていく。
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そしてさっきより手前の地点に座ると、どんな物音も聞き逃さないとばかりに耳をすませている。
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リンが防砂林の中から聴きとろうとしているのは、今春産んだ4匹の子供たちの鳴き声だろうと思われる。


2012年6月17日、リンは4匹の子供たちを、私に初めて紹介してくれた。
そのうちの3匹はビール壜ケースのなかにひしめくように身を隠していた。

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初めて見る私の姿を、警戒と驚愕がないまぜになった目で見つめる。


この子は甘えん坊で、リンの姿をいつも求め後を追っていた。
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そして、人の存在に気づくと慌てて物陰に隠れてしまう。


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ところが、その仔猫たちは7月以降、つぎつぎと姿を見せなくなり、私が帰省する直前にはついに1匹となった。
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そしてこの甘えん坊の仔猫も私が実家に帰っているあいだに、やはり姿を消してしまった。


リンには子供たちが何故姿を消したのか、おそらく理解出来ていないのだろう。
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だからこうして、子供たちの声を防砂林の中から聴きのがすまいと同じ行動を繰り返しているのだ。


子供をなくした母猫と、母と別れた仔猫。お互いの喪失感を埋めるために仲良くすればいいと、つい思ってしまうのだが。
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しかしそんな考えはしょせん人の勝手な理想論であり、猫の社会ではまったく通用しないようだ。


ところでいつまでもこの子を“ランの子”と呼ぶのは都合が悪い。この子にも呼び名を付けてやらねば‥‥。
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いつまでも家族とつながっているよう願いをこめて、この子を“ユイ(結)”と呼ぶことにする。


ユイはふと思い出したように、残った猫缶を再び食べはじめた。
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それを戻ってきたリンが見つめる。


ただそうやって一瞥をくれるだけで、リンがユイに関心を示すことは、ついになかった。
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リンは大好きなNさんの座る椅子に身体を滑りこませた。


好きな人に寄り添っていても、リンの表情はやはり硬くこわばって見える。
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いなくなったリンの4匹の子供たち‥‥。ここに住まう人の話では、仔猫を可愛がっている人たちがいたので、その人たちに保護されたのでは、ということである。


楽観的に過ぎるかもしれないが、私もその推測に同意したい。
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ユイが羨ましそうにランを見上げている。ユイとしては嫌われていてもリンの側にいたいのだろうか?


「ユイ、お前は自ら望んでここに残ることにしたのか?それとも、母や兄弟たちに置き去りにされたのか‥‥?」
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この子をラン親子が移り住んだエリアへ連れていってみてはという考えが、私の頭をふと掠めた。


しかしもし、そこでも排斥されたら、この子は行き場をなくしてしまう。
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そしてそれは大きな傷としてユイの心に残り、この子をさらに苦しめるかもしれない。


さらに「野良の特権は、たとえそれが様々な危険を孕むにしても、“自由気まま”であるから、徒に人が介入することは避けるべきだ」そんな囁きがどこからか聞こえてきた。
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人間社会にも“親はなくとも子は育つ”という諺があるし、生きるという点では人より遥かにタフな猫なので、ユイがこのまま逞しく育ってくれることを祈るばかりだ。


もちろん、ベンチ猫のサブのように心優しい人に保護されれば、それに越したことはないが。
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ともあれ、家族と離別して暮らすようになったユイがこれからどうなっていくのか、私としては気になって仕方がない。


ここで暮らしていれば、少なくとも雨風はしのげるし、じきにやってくる寒さにも耐えられるだろう。
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しかし、それがリンやユイにとって幸せであるのかどうか‥‥、正直私には分からない。


今まで、防砂林に住まう人たちへ批判の矛先が向くのを恐れて黙していたが、読者に誤解を与えないためにも、そして海岸猫のためにも実情を明かすことにした。
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理由は様々あると思うが、ここに住まう人たちは何の前触れもなく突然防砂林から去っていく。
だがペットを飼える環境を得るのは簡単ではなく、ほとんどの場合猫は防砂林に残される。



リンやランやその家族も、このエリアに移動してきたのではなく、実際は以前から防砂林に住まう人の小屋で一緒に暮らしていたのだ。
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ところがこの春、その人は防砂林から立ち去り、その際全ての猫を置き去りにした‥‥。


リンとユイを見守ってくれている人たちも、それぞれ状況は違えどいずれ防砂林から去っていく。
そのときに猫たちを連れて行くことは、おそらくないだろう。

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海岸へ出ると、私の気持ちを表すように、江ノ島が靄のむこうで模糊としていた。



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幻想家族

2012年11月14日 14:00

湘南海岸、早朝‥‥。
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まず最初にラン親子が棲むエリアへ赴いた。
ところが、私が自転車のスタンドを立てる音を聞きつけて姿を現すのが常なのに、今朝は3匹の気配は何処にもなく、防砂林の中に動くものはなかった。

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エサ場を覗いたが、朝食をした形跡はない。
こんなことは、あの親子がこのエリアへ移り住んでから初めてだ



しばらくエサ場近くに留まり、ラン親子が現れるのを待ったが、無駄だった。
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心の中で得体のしれないものがざわざわと蠢動し、私はにわかな焦燥感に襲われた‥‥。


今まで何度も経験しているが、海岸猫はある日忽然と姿を消してしまう。
そして大抵の場合、二度と海岸へ戻ってくることはない。

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私は胸騒ぎを抱えたまま、他のエリアへ向かった。


珍しくリンが防砂林から出てきて、私の脚にすり寄ってきた。
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この海岸猫が以前ように道路近くに姿を見せることは、殆どなくなった。


リンが食事をしていると、草むらの中からユイが姿を現した。
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リンに視線を注ぐユイの表情には緊張感がはっきりと見て取れる。


食事を中断したリンが見つめ返すと、ユイはつと視線を外した。
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前回防砂林に住まう人から聞いたように、やはりリンとユイの仲はうまくいってないようだ。


それでも猫缶の匂いが気になるのか、ユイは慎重な足取りでリンに近づいてきた。
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リンはそんなユイを無視するように、再び猫缶を食べはじめた。


食べ物のことでリンと姪であるユイが諍う光景は見たくない、と思った私は急いでユイにも猫缶を与えた。
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ところがユイは、味見をするごとく猫缶に数回口を付けただけだった。


どうやら、防砂林に住まう人からすでに朝食は貰ったようだ。では何を欲して鳴いているのか。
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リンは相変わらずユイには無関心で、猫缶を味わうように食べている。


と、今度は水を飲みだしたリンにユイが恐る恐る近づいていく。
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気をもんだが、心配した諍いは起こらなかった。リンが寛容になったからか‥‥?


水を飲み終えたリンは、そそくさと防砂林の奥へ消えていった。
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防砂林に住まう人の朝は存外早い。彼らは日の出とともに起きるのだ。だからリンとユイの朝食もいきなり早くなる。朝の6時に腹が満たされている海岸猫はあまりいない‥‥。


ユイもリンの後を追って、ねぐらであるテント小屋に戻るかと思ったが、やはり不仲なためか独り残った。
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ランの娘でありながら、何故か1匹だけ置き去りにされたユイ‥‥。そして、同じエリアに棲むリンには邪険な扱いを受けているという。


そんな境遇にいる幼い子にどう処すればいいのか‥‥。
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とりあえず、草を猫じゃらしにして遊ぶことにした。


本来ならチャゲやアスカとじゃれ合っているはずのユイ‥‥。
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なのにこんなありあわせの猫じゃらしに素直に反応する。その様子を見ているうちに、不意に胸が一杯になってきた。


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「ユイ、家族と一緒に暮らしたくないのか?」


家族”‥‥、日本では社会の最小単位とされ、傍目には堅固に繋がっているように見える。
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が、その繋がりは思いのほか脆く、顧みず安穏としていると忽ち崩壊してしまう。


そうはいっても、持たぬ者からすれば、“家族”は憧憬の対象でありつづける。
たとえそれが砂上の楼閣であったとしても‥‥。

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はたして、この子にとって家族とはどんな存在なのか‥‥。


「ユイ、今度ゆっくり話を聞かせてくれよ」
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「それからユイ、もし母や兄弟たちに会いたくなったら、ここをひたすら真っすぐ歩いて行きな」


ユイに別れを告げて、私は再びランエリアへ向かった。
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エサ場に着くと、すぐにランが姿を見せた。
「ラン、今まで何処へ行っていたんだ」私が声をかけたら、ランはゆっくりと近づいてきた。

120913-23.jpgそして、いきなりその場に身体を横たえた。


さらに仰向けになったまま、気持ちよさそうに身体をくねらせ始めた。
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この行動の意味するところは相手への敵意の無さ、つまり信頼を表し、同時に遊びに誘っているのである。
いつもなら野良猫にこんな態度をされると嬉しいのだが、今はそんな気分ではない。



私が話しかけようとすると、ランは慌てて身体を起こし鋭い眼差しを道路の方へ向けた。
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見開いたランの眼には、明らかな警戒感がこもっていた。


さらに視線を据えたまま、ゆっくりと歩を進めはじめた。
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コンクリの上に腰を下ろしたランは、頭を少し低くし警戒モードのレベルを1段階アップした。


ランの視線を辿ってふり返ると、そこには一人の釣人がいた。その釣人は胡乱な目付きのランを見て、少々戸惑っている。
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そして、誰に向けられたか判然としない苦笑いを浮かべながら去っていった。


すぐにでもこの場にいないチャゲとアスカのことをランに問い質したかったが、あまりことを急いても良い結果は得られない。
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そこで、よくドラマの刑事が被疑者に対して食べ物で懐柔するシーンを思い出し、それに倣って食事を与えることにした。


何にしても、行動範囲の狭いと思われる仔猫が、未だに揃って姿を現さないというのは、どう考えても普通ではない。
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のんびりと食事をしているところを見ると、ランは息子たちの居場所を知っているのだろうか?


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食事を終えたランは盛んに周りを気にしている。


この行動と2匹の仔猫がいないこととは何か関連性があるのか?
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ランの表情が防砂林の中を見据えたまま、険しさを増した。
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やがて、ランはゆっくりとした歩度で防砂林へ向かって歩きはじめた。あたかも目的があるように。


とにかく私はランの後を追うことにした。
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ランはしばらく防砂林の中を歩き回った。


そのままチャゲとアスカのいる場所へ案内してくれると思ったのだが、案に相違してランは木の根元に寝転がってしまった。
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「おいラン、のんびりと寛いでいる場合じゃないだろ。チャゲとアスカは何処へ行ったんだ?」


ランの顔からはさっきまであった緊張感が跡形もなく消えていた。
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「ラン、お前はチャゲとアスカの居所を知っているから、そんなにのんびりとしていられるのか?」


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何を勘違いしたのか、ランはいきなり私の手にじゃれついてきた。


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ただこういう場合の手加減をランはちゃんと心得ていて、爪は立てないし、あくまでも甘噛みである。


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ランは、子供の居場所を知っているから落ち着いていられるのか、それとも子供が何処へ行こうが関心がないのか‥‥、私は判断に苦慮した。


だがこれ以上ランを問い詰めても、何も語ってくれそうにない。
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またあまり執拗に質すことによって、頑なになられては元も子もないし‥‥。


それに私的なことを、他人から不躾に詮索される不快さは私も何度か経験している。
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本意ではないが、今はそっとしておくしかない。


そうして私は、心配の種を心に抱いたまま帰途についた。
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ご報告

この子たちの里親さんが決まりました。
それも、ブログを見たその方からの申し入れでは、
兄弟一緒に引き取ってくれるというのです。
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「良かったな、いっぱいいっぱい愛してもらって、幸せになるんだよ!」

里親さんには近日譲渡することになっています。
その模様は後日、ブログで紹介する予定です。

先住猫

2012年11月23日 13:00

早朝の湘南海岸‥‥。
何はさておき、昨日
チャゲとアスカが姿を見せなかったランエリアへと私は向かった。
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「い、いた!」
防砂柵の中にアスカがいた‥‥。

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眠ってはいないようだが、さりとて覚醒もしていない何とも中途半端な表情をしている。


母猫のランは、私の訪問を知ってすでにエサ場から出てきている。
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やがてアスカも、おぼつかない足取りでエサ場から出てきた。


「アスカ、昨日は何処へ行ってたんだ?あんまり心配させるなよ」。
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アスカはこうして確認できたが、チャゲがまだ姿を現していない。


「アスカ、チャゲは一緒じゃないのか?」
そう私が尋ねても、やはりまだ完全に目覚めていないようで、如何にも瞼が重そうだ。

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ところが、一瞬のうちにアスカは目を見開き、緊張の表情に一変した。


頭を下げ、警戒心と敵愾心がないまぜになった険しい目付きで身構えている。
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アスカの視線が向けられていたのは、縫いぐるみかと見紛う可愛いトイプードルだった。
この子の名は“ミミちゃん”。私の顔馴染みのワンコで、何故か猫に興味津々なのだ。



何のことはない、猫缶を開けたら、その匂いを嗅ぎつけてチャゲが防砂林の中から小走りで出てきた。
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猫缶をしゃぶりつくように食べている2匹を見て、私は胸を撫で下ろした。


やはり食事のときは家族が揃っているべきだ。猫も、人も‥‥。
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昨朝もランは知っていたのだ。2匹の子供が無事なことを。少なくとも私はそう思いたい‥‥。


おそらく昨日は、兄弟揃って防砂林の中で遊びに夢中になっていたのだろう。
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仲の良い兄弟を見ていると、たとえそれが猫であっても、私はいつも羨ましく思う。
私にも2つ違いの弟がいた。でも私にとって唯一無二のその弟は、順番をたがえて14年前に先に逝ってしまった。



チャゲにとってのアスカ、アスカにとってのチャゲも無二の存在に変わりはない。
だからいつまでも仲良くしてほしい。さらに、ここへユイが加わってくれれば申し分ないのだが。

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あまり腹は減っていないのか、チャゲは猫缶を残した。


水を飲む母の姿を見下ろしているチャゲ。どうやら喉が渇いているようだ。
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そしてチャゲは、ランを押しのけるようにトレイの水を飲みはじめた。


そんなわがままなチャゲの態度にも、ランは嫌な顔ひとつしないで、一緒に水を飲みつづける。
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幼くてもやはり母は母である。母性本能から生じる情愛がランを母親たらしめるのだろう。


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慌ただしかった食事もそろそろ終わりそうだ。


満腹になったチャゲは、防砂ネットの側で悠然と毛繕いをはじめた。
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一方用心深いアスカはネットの下をくぐり、防砂林の中へ身を隠してしまった。
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エリアには食後のまったりとした時間が流れている。


外で暮らす猫にとって、こういうひとときは貴重であるはずだ。
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チャゲとアスカの保護者であるランも、ほっと気を抜ける時間なのだろう。


そんな母を横目にチャゲは、防砂林から戻ったアスカを相手にプロレスごっこをはじめた。
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これもまた、今が平穏だから出来ることである。


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2匹のじゃれ合う光景を見ていると、子供の頃に弟と遊んだ遠い記憶が蘇ってくる。


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世の中の自然にしろ、事物にしろ、その存在が己にとって如何に大切だったかを知るのは、皮肉にもそれを失ってからだ。


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幼いチャゲとアスカにそんなことを説いても、今はまだ理解出来ないだろう。この私がそうであったように‥‥。


それからしばらくの間、ラン親子は全員揃って姿を見せてくれた。
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ところが、それから数日後‥‥。
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エリアを訪れた私に真っ先に駆け寄ってきたくれたのはチャゲだった。
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そして私の足許に身体を横たえ、盛んに遊びに誘ってくる。


しかし、今朝はアスカの姿が見えない。
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人懐こいチャゲと違って、アスカは警戒心が強く、見知らぬ人にはけっして近づかない。だから、何者かに保護されたとは考えにくいのだが‥‥。


近くにいれば、猫缶の匂いに誘われて姿を見せるはずである。
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食事に専念していたランとチャゲが同じ方向を向いて、にわかに警戒心をあらわにした。


2匹の視線を辿ると、そこには見慣れぬキジ斑(ぶち)の猫がいた。
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骨太な立派な体躯からオスだと推察できる。
キジ斑はカメラを構える私を認めても、顔色一つ変えずに泰然としている。



ランとチャゲは食事をするのも忘れて、いきなり現れたキジ斑から視線を外さない。
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やがてキジ斑は踵を返すと、ゆっくりとした足取りで防砂ネットの内側へと姿を消した。


キジ斑が防砂林の中へ入ったのを確認したランは食事を再開した。
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が、さっきまで側にいたはずのチャゲの姿がない。


ランが食事を中断して振り返る。
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その視線の先にチャゲがいた。キジ斑の出現に驚いて防砂柵の中へ逃げ込んでいたのだ。


不安のこもった面持ちで母を見つめるチャゲ。
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そこで新たなエサをトレイに盛って側まで持っていった。


それでもチャゲは、先程の怯えが残っているのか、キジ斑の消えた辺りをさかんに気にしている。
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食事を終えたチャゲは一気に緊張が解けたのか、ぐったりと身体を横たえた。
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外で暮らす幼い猫にとっては、本来仲間である猫も脅威の対象なのだ。


と、ランが全身に警戒心をまとい、慎重な歩みで防砂ネットへ近づいていく。
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「い、いた、あのキジ斑だ!」キジ斑は立ち去ったと見せかけて、防砂林を通ってエサ場近くまで来ていたのだ。


防砂ネットの裂け目からこちらの様子を窺っている。
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側に私がいるからか、それとも初めから持久戦が望みなのか、キジ斑は地面に静かにうずくまった。


それからもキジ斑はその場に留まったまま、身じろぎしない。
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ランも警戒を解かずに、顔はこちらを向けても、耳だけは防砂林の物音に集中している。


チャゲは不安げな面持ちでランに寄り添っている。
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その様子をネット越しにじっと窺っているキジ斑。動きがないだけに一層不気味だ。


チャゲはそんな緊迫感に耐えられなかったようで、ランの側からそっと離れた。
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緊張から解き放たれて、今度は脱力感に襲われたようだ。
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だが、やはり母と離れるいることに不安を感じたのか、また元の場所へ戻っていく。


そしてチャゲはランにキスをした。
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ところが、次の瞬間ランとチャゲは気配を感じ同時に防砂林の方へ向き直った。


見ると、キジ斑が防砂ネットに開いた穴からこちらへ侵入してきていた。
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その眼光は鋭く、2匹を威圧するようゆっくりと歩を進めてくる。


怯えたランとチャゲは、慌てて一散に逃げた。するとキジ斑は堂々と姿を晒し、身体を低くし攻撃態勢をとった。
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そして、睥睨するように辺りをゆっくりと見回した。


私には、この険相な海岸猫から敵愾心しか感じられない。120920-18.jpg
少なくともランたちに対して、友好的な交誼を結ぼうとしていないことだけは確かだ。


キジ斑は示威行動を中断し、コンクリの匂いを嗅ぎはじめた。
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そこはかつて何度かランたちへ食事を与えた場所である。おそらくそのときの匂いが残っているのだろう。


このとき、私の記憶の断片がいきなり形を整えて、浮上してきた。
「この猫とは初見ではない。以前、それも数年前に何度か会っている」

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会った場所はやはりここ。そしてその時分この海岸猫は、サンマを始めとする多くの仲間たちといっしょだった。


それは今から4年前の2008年秋‥‥。
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医者に勧められて海岸を散歩するようになって、すぐのことだ。
ちなみに、野良猫ブログを始めることなど、この頃の私の頭には微塵もなかった。
ミケと出会うまでは‥‥。



ランは目を閉じ香箱座りでキジ斑と相対している。これは争いを避けるためにあえてとっている姿勢だと思われる。
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猫の場合、相手の眼を見つめるということは、敵意があることを意味する。人に対しても例外ではなく、だから初見の猫に近づくときには、けっして視線を合わさず、場合によっては眼を瞑ったままのほうがいい。


キジ斑の気持ちを落ち着かせるため、持っていた“またたび”の粉末を目の前に置いてみた。
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猫によってはあまり反応しなかったり、逆に怒りを表す場合もあるなど個体差がはっきりしているのだが‥‥。


キジ斑はまたたびに忽ち反応し、盛んに頬をコンクリに擦りつけはじめた。
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この所作は、またたびに酔ってきた証だ。


キジ斑はさらに体全体を横たえ、如何にも気持ちのよさそうな表情をつくった。
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その様子を見ていたチャゲも、キジ斑の急変に戸惑い気味だ。


ランが足音を忍ばせてキジ斑へ向かっていく。
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そしてキジ斑の死角から近づき、そっとおしりの匂いを嗅いだ。


が、ランにそんなことをされても、キジ斑は振り返ることもしない。ランもどう対応していいのか当惑顔だ。
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最初に見せた威圧感をかなぐり捨てたキジ斑は、またたびの酔いに身を任せて動かなくなった。


さすがに気が抜けたのか、ランはそんなキジ斑を少し離れたところから、ただ眺めている。
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幼いチャゲの顔には未だに緊張感が残っているが、母に倣ってキジ斑を見つめている。


またたびの酔いが覚めてきた頃合いを見計らって、こんどは猫じゃらしで遊びに誘った。
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これでキジ斑の心もいくぶん和んだはずだ。


そこで今度は、猫缶での懐柔作戦に切り替えた。
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ところが猫缶の匂いに誘われて、チャゲが近づいてきた。それを知ったキジ斑は威嚇の唸り声を上げる。
「チャゲ、お前は引っ込んでいろ!」私は慌てて声をかけた。



幼いが故の行動なのだろうが、チャゲの大胆さには驚かされた。
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腹が減っていたと見えて、キジ斑は猫缶を完食した。


しかしこの海岸猫の数年ぶりの出現は、私にとってやはり唐突の感は否めない。
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いったい今まで何処にいたのか?そして、このタイミングで姿を現したのは何故なのか?
‥‥疑問だらけだ。



まだ腹が満たされていないのか、キジ斑はエサ場へ近づいていく。
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いや、狙いはエサではなくランのようだ。ランは怯えた面持ちで身構えた。


そして新旧2匹の海岸猫は、看板を挟んでしばし睨み合った。
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おそらく争いになったら、幼いランに勝ち目はないだろう。私は間に割って入る時機を見計らっていた。


ところが意外にも、矛を収めたのはキジ斑だった。
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『機を見るに敏』これは兵法にも通じる戦いの定石である。
ランはキジ斑が後退したのを見て、攻勢に転じた。



が、やはりまともにやりあっては勝機がないと感じたのだろう、ランはあっさり退却した。
賢明な判断だと思う。これもまた、『機を見るに敏』である。

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「う~ん、この海岸猫は去勢手術を受けてなかったのか‥‥」
ならば、コトを急がなくてはならない。私はこのとき強くそう思った。



ランの好戦的な態度に多少の脅威を感じたのか、キジ斑は踵を返した。
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だが、簡単にここを離れる気はなさそうだ。こうなるとエサを与えたことが却って仇となったかもしれない。私は自分の軽率な行動を後悔しはじめていた。


かといって、このキジ斑にも海岸で生きてゆく権利があるからには、ランたちを護るためとはいえ無下に排除するわけにもいかない。
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それでも、私はこの幼い母と仔猫を何としても擁護してやりたかった。


と、そのとき、いきなり背後から大きな声を浴びせられた。
「リュウ、リュウじゃないか!」
振り返ると、一人の男性が自転車のハンドルに手をかけてキジ斑を見つめていた。

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男性に訊くと、このキジ斑は自分の飼い猫だという。そして、離れたところにいた女性に「おーい、リュウがいたよ!」と声をかけた。
この男性とは初対面だが、女性とは過去に何度か会っている。
やがて二人は、ネットを潜って防砂林の中へ入っていった。



男性の話しぶりから、あのキジ斑は一時的に小屋から逃げ出してきたと思われる。
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しかし、二度と逃げ出さないという保証など何処にもない。


それにしても、去勢していないオス猫が近くにいるというのはやはり剣呑である。
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チャゲの場合

2012年12月24日 07:00

雨上がりの湘南海岸。早朝‥‥。
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砂浜には細波(さざなみ)が寄せてくるだけで、海はまだ深い眠りについていた。


私の来訪を察知したランとチャゲがさっそく姿を現した。
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まず最初に私を迎えてくれたのは、母親のランだった。


つぎに近づいてきたのは、人懐こいチャゲだ。臆病なアスカは柵の陰からこちらの様子を窺っている。
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同じ両親から生まれた兄弟でも、その性格は大きく異なる。これは、人にもまた、同じことがいえる。


チャゲはいきなり私の手にじゃれついてきた。おそらくこの子は、母であるランの遺伝子を多く引き継いだのだろう。
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そして怯懦で慎重なアスカは、父親の遺伝子を受け継いだのかもしれない。


そのアスカが、人通りの殆どない道路へ歩を進める。
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今の境遇から救い出してくれる誰かを待ちわびている、そんな後姿にも見える。


するとアスカの背後に、ランがそっと近づいた。
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そして回りに警戒の眼を光らせる。幼くても、やはりランは母親の自覚をちゃんと持っているようだ。


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母子揃っての食事風景‥‥。見ているだけで、思わず微笑んでしまう。
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昨日遅くに食事をしたのだろうか、いつもなら貪るように食べるチャゲとアスカがゆっくりと猫缶を頬張っている。


そして、早々と食事を終え、各々の場所へ落ち着いた。
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今朝は、母猫のランが珍しく最後まで残って食事をつづけている。


それでも、結局缶詰にして半分ほどを残した。
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稀なことだが、早朝から腹が満たされているというのは、決して悪いことではない。


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警戒心の強いアスカは、防砂ネットを潜って、防砂林のなかへ入ってしまった。


ランは防砂林の入り口に陣取って、ガードマンよろしく危険が迫っている兆しがないか監視中。
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野良が警戒心を緩めたら、害意をいだく敵からすれば恰好の標的になってしまう。


だからチャゲにも、もう少しニンゲンに対して猜疑心を持ってほしい。悲しいことだが‥‥。
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これからも、野良として生きてゆくなら必要なことだ。


チャゲにその覚悟が出来るまでは、母であるランが護るしかない。
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でも幼い母に、その重責を担わせるのは酷かもしれない。野良にとって、この国は暮らし易いとは、とても言えないからだ。


ランにしたところで、自分独り生きていくのが精一杯だろう。
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以前にも述べたが、ランは防砂林に住むホームレスの人に養われていた。


ところが、その人がこの春、防砂林から出ていく際、姉妹であるリンやほかの眷族ともども置き去りにされたのだ。
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だからだろう、生粋の野良より警戒心が薄いのは‥‥。
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臨月の腹を抱えたランが、初見の私にすり寄って来たのを、今でもはっきり憶えている。


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ランもまた、ニンゲンの都合のせいで苦渋な生活を強いられているのだ。


その子供であるチャゲは、これからどんな生涯を送るのだろう?
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今の私に出来るのは、健やかに育ってほしいと願うことくらいだ。我ながら、慙愧に堪えないのだが‥‥。


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翌朝‥‥。
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この日も、湘南海岸の空は灰色の雲に覆われ、日の出を拝むことは叶わなかった。


名を呼ぶと、ランが植込みの中から防砂柵の上に跳び乗って、いきなり大きな鳴き声をあげた。
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何とも派手で、直截的な出迎えに、私の頬はつい緩んでしまった。


「おいおい、そんなとこでクネクネするなよ。落っこちるぞ」。
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周りに脅威となるモノが存在しないか、ランは警戒を怠らない。


「ラン大丈夫だよ。変な奴はいないから降りてきな」
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こうして海岸猫の歓待を受ける瞬間、それは私にとって至福の時である。


明日をも知れぬ境遇の野良である。だから、元気な姿を見られただけでも嬉しいのに、親しげにすり寄ってこられると言葉に出来ないほど感激する。
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逆に姿を見せない日が数日つづくと、私の心には不吉な黒い雲が垂れ込めてくる。


その雲を払拭するには、こうやって以前会ったときと変わらない姿を確認するしか術がない。
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ランは夏前まで生まれ育ったテント小屋で暮らしていた。それがどういう訳があってか、2匹の子供を連れてこのエリアに移動してきた。


姉妹であるリンとの間に何らかの軋轢が生じたのか、はたまた子供たちのためにより良い環境を求めて決断したのか、私には仔細を知る由もない。
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元来この海岸猫には放浪癖があった可能性もなくはない。今でも時折、このエサ場から数百メートルも離れた防砂林の中で遭遇することがあるからだ。


そんな時、私がこのエリアに誘導すると、ランは素直に後を追ってくる。
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そんなことより、今朝は2匹の仔猫たちの姿が見えないが‥‥。
「ラン、チャゲとアスカはどうした?腹を減らしていればとっくに現れているはずなのに」



取りあえず、まずランに食事を摂らせることにした。
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いつもなら子供たちにエサを横取りされて、落ち着いて食べることなど少ないランのことだ、たまにはこういう日があってもいい。


にしても、チャゲとアスカは何処で何をしているのだろう?
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普段なら、空きっ腹を抱えて鳴きながら姿を見せるはずなのに‥‥。


ところが、ランのトレイを見て、私は少々驚いた。ほんの少ししか食べていなかったからだ。
そこで、私は思った‥‥。

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もしかしたら、私より早い時間にこのエリアを訪れるエサ遣りさんがいるのかもしれない、と。


そうなら、チャゲとアスカが姿を現さないのも合点がいく。
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でもやはり、後顧の憂いを無くすためには、チャゲとアスカの元気な姿を見たいと思った。
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そこで私は、時間の許す限りチャゲとアスカが戻ってくるのを待つことにした。


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しばしの間、長閑な時間が流れていった。


海は凪ぎ、沖を航行する釣り船のディーゼルエンジンの音が軽やかに聞こえてくる。
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海岸沿いの道路に人影はなく、朝陽が雲の向こうで茫と霞んでいる。


と、そこへ「ニャーニャー」と派手な鳴き声をあげて一匹の猫がエサ場に姿を現した。
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それは、臆病なアスカだった。


改めて猫缶を開けると、さっきはほとんど食べ残したランもアスカと一緒に食べはじめた。
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が、こんどは落ち着いて食べていられない。自分の分をあっという間に平らげたアスカは母のトレイに躊躇うことなく顔を突っ込んできた。


ランはただ呆然と、息子の健啖ぶりを見ているだけだ。
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そこで今度はドライフードをトレイに足してみた。アスカは猫缶派でドライは好きではない。


ところが、それでも母の食べているドライが美味しく見えたのか、アスカは強引に割り込んだ。
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『隣の芝生は青い』。他人のものが良く見えるという、この諺は猫にも見事に当てはまる。


だが今回は、ランも簡単には引き下がらない。アスカの頭を突き上げるようにして押しのけた
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アスカも意外な母の抵抗に遭い、諦めて自分のドライを食べはじめた。


‥‥かに見えたが、すぐにランのトレイに三度(みたび)トライする。
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さすがに今度ばかりは、ランもアスカの押しの強さに屈服したようだ。


ランはトレイを潔くアスカに譲り、足早に歩き去っていく。
母はあくまで寛容だ。子供のためなら自らが犠牲になることも厭わない。

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その母の後を、アスカが物憂そうな足取りで追っていく。


自分の行為を省みて、やはり後ろめたく思ったのか、アスカは母を通り越していった。
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そしてランの目の前に、同じ方を向いて腰を下ろした。


それにしても‥‥、チャゲはいったいどうしたのだろう?
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てっきりアスカと一緒だと思ったのだが‥‥。


私が写真を撮るため浜へ出ると、ランとアスカも後を追ってきた。
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木製の散歩道にランが躰を横たえると、アスカもそれに倣って寝そべった。


母が側にいるからか、それとも私が見守っているからか、アスカにしては大胆な行動だ。
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この頃、雲間からやっと顔を覗かせた太陽が暖かな日差しを投げかけている。


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母と息子はその恵みの光を可能な限り浴びようと、躰を大きく伸ばした。


適度な板材の温もりと頭上から降り注ぐ陽光の暖かさに、ランは眼を細める。
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と、そんな悦楽の境地にいるとき、ランたちにとっては招かれざる客が訪れた。
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このアフガン・ハウンドのクッキーちゃんとトイ・プードルのミミちゃんは私の顔見知りのワンコたちだ。


気丈夫なランも、さすがにクッキーちゃんの大きさには尻尾を巻いて逃げるしかない。
まあ、元々ランの尻尾は巻いているのだが‥‥。

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体も大きいが、クッキーちゃんは度量もそれに見合って大きいようで、周章狼狽するランを見ても優しげな視線を送るだけだ。


そこにさらに新たなワンコが加わって、さながらプチドッグショーの趣だ。
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ランは看板の陰から、そっとその様子を窺っている。
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これはあくまで私の勝手な想像だが、ランの心理状態は、たとえばティラノサウルスと相対した私のそれと同じくらいかもしれない。


何処かに身を隠していたのだろう、アスカがやっと道路を渡って母の側にやってきた。
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「ラン、これに懲りたら、もう目立つ場所で寛ぐのは止めるんだな」


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この日チャゲは、最後までとうとう姿を現さなかった‥‥。


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そしてこれ以降、チャゲを海岸で目撃した人は、誰もいない。




楽観的に過ぎるかもしれないが、人懐こいチャゲのことだから誰かに保護された可能性が高い、と私は思っている。




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そう思わせてくれるのも、ベンチ猫のサブの一件があったからだ。
かく言う私も、4年前に関係者へ知らせることなく、一匹の海岸猫を保護している。



それに、そうでも考えないと、永く海岸猫と係わっていくことなど出来はしない。
少なくとも私には‥‥。

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「チャゲ、お前とは短い付き合いだったけど、いっぱい遊んでくれてありがとね」
「そして‥‥、サ・ヨ・ナ・ラ」




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【ご報告】
今回の記事を書いているのは、薄暗い郷里のネットカフェ‥‥。

父の一周忌と、母の看病のため帰省しています。
見事に世間と隔絶された実家には、クリスマスも正月もありませんが、
しばらくのんびりと過ごすつもりです。

実家はPCもネットもない環境なので、データがあっても更新もままならず、
また皆様のところへも頻繁に訪問出来ませんが、ご容赦ください。

管理人:wabi

家族

2013年01月07日 13:30

チャゲがいなくなった湘南海岸‥‥。早朝。
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まず最初に姿を現したのは、母猫のランだった。
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ランは朝日を浴びながら穏やかな面持ちで私を迎えてくれた。


息子チャゲとの別れを、ランはどう思っているのだろう?
そして‥‥。

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いつも一緒いて、仲良く遊んでいたアスカは、兄弟の不在を受け容れたのだろうか?


物陰から所在無げに、そっと母を見遣るアスカ。
母に遊んでもらおうとでも思っているのか、アスカはそうやってしばらくランの様子を窺っていた。

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しかし、母にその意思が無いのを察したようで、アスカは寂しげにランに背を向けた。


するとアスカは、地面に落ちていた雑草を相手に独りで遊びに興じはじめた。
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誤解を与えないためにいっておくが、草の反対側を私が持っているわけではない。
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アスカは、地面に捨ておかれた草に自らじゃれついているのだ。


その雑草を、いったい何に見立てているのだろう‥‥?
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まるでアスカが、独りの寂しさを紛らすために、動かぬ草と無理から戯れているように、私には見えた。
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事情を知らなければ、無邪気に遊ぶ仔猫の姿に目を細めるところだが‥‥。


独り遊ぶアスカの胸中を忖度するうちに、私は徐々に遣る瀬無くなってくる。
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アスカ自身もさすがに虚しくなってきたのだろう。


遊ぶのを唐突に止めると‥‥、
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植込みの中へとぼとぼと歩き去っていった。


「アスカ‥‥、兄弟をなくしたお前の気持ち、私にも少し分かるよ」
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この世でたった一人の弟を亡くしている私には、アスカの寂しさが想像出来た。でも私の場合は、幼い時分に2歳違いの弟とよく遊んだので、アスカよりはまだ良いほうだ。


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私の姿を認めた一羽のカラスが、あわよくばおこぼれにあずかろうと、さっきから防砂ネット上でそわそわしている。


そのカラスに促されるように、私はランとアスカのために猫缶を開けた。
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母と息子の2匹だけの食事風景。


その食事風景に僅かな寂寥感を感じるのは、私の思いすごしなのか。
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ただ、アスカの食べ方がいつもより長閑やかに感じた‥‥。


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ランはあっさりとトレイから離れた。アスカもそれまで、母のトレイに横槍を入れることなく、おとなしく猫缶を食べていた。
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今朝は鳴りを潜めていたが、アスカの食欲もじきに元へ戻るだろう。


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ちなみに、弟が急逝した直後の私は、五感のすべてが鈍麻になってしまった。なかんずく、味覚は完全に麻痺し、何を食べても味を感じることがなかった。


チャゲの場合は死んだわけではないが、アスカにとっての喪失感はそれとおっつかっつだと思われる。
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そしてその喪失感は、同じ家族の情でしか埋めることが出来ないだろう‥‥。


一般的に猫は情が薄いなどと言われているが、それは大きな誤解である。
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ニンゲンに対する愛情の深いことは、ベンチ猫のサブや首輪をしたまま遺棄されたミイロを見ていてよく分かった。


一緒に暮らしている元海岸猫などは、私が落ち込んでいると、そっと近づいてきて、手や腕を優しくグルーミングしてくれる。だから私は、この子がいないと生きていけない、とまで思ってしまう。
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だから、親子や兄弟同士の情愛も、猫とニンゲンはほぼ比肩していると、私は勝手に決めつけている。


ランやアスカが、海岸を去ったチャゲにどんな感慨を抱いているのか‥‥?
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ニンゲンと同等の感情を持っている猫相手でも、そこまでの機微を読むことは私には出来なかった。


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ランとアスカに別れを告げた私は、ランのもう一匹の子供であるユイが棲むエリアへ足を運んだ。
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ユイは人馴れしていないので、名を呼んでも素直に姿を見せることはない。


しばらく待っていると、下草の中からユイが姿を現した。
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ユイは慎重にゆっくりと、そして用心深く朝日に身を晒していく。


私はそんな警戒心の強いユイを誘いだすために、猫缶を入れたトレイを見やすい場所に置いている。
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食べ物の存在を確認してもなお、ユイは安易に近づこうとしない。


周囲に私しかいないのを視認したユイが、やおら行動を開始した。
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それでも決して急がず、緩やかな足取りで、トレイに近づいていくユイ。


なおもユイは警戒を解かず、いつでも遁走出来る態勢で猫缶に口を付けた。
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ユイはリンと共に防砂林に住まう人と暮らしている。なので、その人たちと一緒にいるときは、これほど警戒はしない。


おそらく、護ってくれる人が側にいることと、自分のテリトリーであることが安心を生むのだろう。
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ユイにとっては、その人たちが主であり、家族なのだから‥‥。


私の背後で何かの気配がしたのだろう、ユイは食事を中断してその方向へ振り返った。
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周りに脅威を感じなくなったのか、ユイはようやくトレイが置かれている鉄骨の台座によじ登った。


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そうして、残りの猫缶を一心に食べはじめた‥‥。


猫缶を食べ終わったユイは、しばらくその場に佇んでいた。
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ややあって、姿を現した同じ下草の中へと、ユイは入っていく。


この草むらの奥は人目に付かず、安息を得ることが出来るのだろう。
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トレイの隅に残された猫缶に、ユイの性格を垣間見たような気がした。


離散してしまったラン親子が今後どうなっていくのか、私は感興を持って見守っていきたい。
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何といっても、今の私の最大の関心事が“家族”であるから‥‥。



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ランの警戒

2013年03月09日 11:00

夕刻の湘南海岸。
久しぶりに向かい合った湘南の海は、灰色の雲におおわれ、タールような重苦しい表情で横たわっていた。

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それでも、このパノラマを眼前にすると、「嗚呼、還ってきたんだなぁ」という実感を覚える。


私は見当をつけて防砂林に向かって名を呼んだ。すると、時をおかずに甘えた鳴き声がした。声の主はアスカだとすぐに分かった。
ややあって、まずランが軽々と、つづいてアスカが難渋して防砂柵を乗り越えてきた。

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ランとアスカの母子は、私の声をちゃんと覚えてくれていた。こういうとき、私の心中はホクホクとした温かい思いに溢れる。


猫は冷淡で情が薄いなどという、根拠のない虚言に惑わされてはいけない。
このように猫は情が厚く、誠実な動物なのだ。

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(あることがあって以来、私はこの母子にことさら強い想い入れを持っている)


こうしてランとアスカが以前と変わらず息災でいられるのも、ボランティアさんのお陰である。
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365日、ほぼ休まず海岸猫にエサを与え続けているその方たちには頭が下がる思いだ。


私が食事を与えることなど、自分の慰みのためだと言われても、反論のしようがない。
しょせん私は、此処でも気まぐれな傍観者に過ぎないのだ。

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いつの間にか、息子は母より大きくなっていた。


外敵の多い野良は、一時たりとも気が抜けない。
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たとえ食事中であっても、周囲への警戒を緩めることは出来ない。


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アスカは自分のトレイに猫缶が残っているのに、悠然とした足取りで母に近づいていく。


そうして、強引に母のトレイを奪いとる。ランはそんなアスカの横紙破りな行為にも腹をたてることなく、あっさりと猫缶を譲る。
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ランは息子が食べ残した猫缶を食べはじめた。


アスカはこうして、やや強引に母から食べ物を譲ってもらい、結果ここまで大きくなったのだろう。
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私の訪れた時刻が遅かったので、既にほかのボランティアの人からエサを貰ったようだ。


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念入りに毛繕いするアスカの後ろ姿は、あのソックスを彷彿とさせる。


振り返ると、ランの姿が消えていた。慌てて周りを見回すと、植込みの中で動く影を発見した。
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植込みの中を覗くと、不安げな面持ちのランと眼があった。


そのランの眼光は、警戒の色を帯びている。まるで何かに怯えているように。
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私が湘南を離れているあいだに、何かあったのだろうか?ランをして、ここまで警戒させる何事かが‥‥。


私は独り砂浜に下り、刻々と朱色が濃くなってゆく情景を眺めた。
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しばらくそうしていると、ランが防砂林から出て、砂浜にやってきた。
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ランの表情が心許なげに見えるのは、私の気のせいだろうか。
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「ラン、どうした?」
私はそんなランの様子が気になり、そう問いかけた。



するとランは私の足許にやって来て、身体をすり寄せた。
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誰にも庇護されない野良は、自分の身は自分で護るしかない。
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そして自衛するには、持って生まれたこの敏捷な身体と動物の本能だけが頼りだ。


すべての外敵に対抗して野良として生きていくのは恐らく、並大抵のことではないと思われる。(私には想像も出来ないが)
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浩々たる海を背にすると、ランの姿はあまりにも小さく、そして如何にも脆く儚げに見える。


ランはやにわに防砂林へ向かって駆けだした。
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周囲に身を晒す砂浜は、小さな猫とてやはり目立ってしまう。それを危惧してのことだろうか。


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こうやって防砂林の中にいれば、雉模様は保護色の役目をはたす。


恐らく猫は、そのことを本能で自覚していると思われる。
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と、いきなりランが目を大きく見開いた。


ランは防砂ネットへ一気に駆け寄ると、身を沈めて防砂林の奥を見つめたまま動かなくなった。
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ランのあとを追った私も防砂林の奥に目を凝らしたが、それらしきものは見つけられない。


そのとき何を思ったのか、アスカがランと私の間に割りこんでくると、いきなり地面に寝ころがった。
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このおおらかな息子には、母の緊張感が伝わっていないようだ。


考えてみれば、なりは大きくても、生まれて1年経たぬ幼子なのだ、この子は。
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緊張を解いたランは、ネットから離れてそんな息子を見つめている。


だが、いつもなら食後は長閑にしていたのに、ランの面持ちは依然として険しい。
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ふたたびランが目を瞠った。


ランの視線の先には、散歩中の犬の姿があった。
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「ラン、何処へ行くんだ?」
ところがランは、私の質問に応える余裕もないのか、防砂林の中へ走っていく。

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そして植込みへ潜りこみ、そのまま姿を消してしまった。


遅れて母を追ってきたアスカが、植込みの中を窺う。
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「アスカ、私が居ないあいだに何があったんだ?」


しかし幼いアスカには私の趣旨が伝わらないようで、不安げな鳴き声をあげると私の足許に身を寄せてきた。
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久しぶりに会ったランが何に怯えていたのか‥‥、私はのちに知ることとなる。
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ところで私が何故、この母子に特別の想いを抱いているのか、次回は少し過去に遡って事情を述べたいと思う。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

『血まみれの毛皮』


日本では今、ファー(毛皮)が流行している、という。

ファーは上着のフードや襟や袖口、そして手袋、帽子、ブーツ、バッグ、アクセサリー、ケータイストラップと、実に様々なものに使われる。
そして、デパート、スーパー、専門店はもちろんのこと、今や100円ショップでも売られている。


ところで、これらの製品を作るために、多くの動物が生きたまま皮を剥がされている事実を、あなたは知っていますか?


「ここに、その事実を伝える映像がある」
ただし、かなりショッキングな映像なので、相応の覚悟をして観るように。
ちなみに私は、この映像を観たとき、あまりの衝撃に嗚咽と吐き気がしばらくとまらなかった。
そして‥‥、自分がニンゲンであることを心底嫌悪した。



最近では、フェイクファー(人工毛皮)より安価というだけでリアルファーが作られるそうだ。
それがため、アジアでは犬猫だけでも毎年200万匹が殺されている。
しかも、その毛皮のほとんどが日本へ輸出されるという。

あなたはこの事実を知っても、まだファー(毛皮)を身に付けますか?


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『血まみれの毛皮Part2』


今や死語となった感は否めないが、『鬼畜』という言葉がある。
仏教用語の『餓鬼・畜生』の略語だ。

『餓鬼』とは餓鬼道に墜ちた強欲な死者のことである。
『畜生』とは本能のままに生きていて仏の教えを得ることが出来ないニンゲン以外の生き物のこと。


ともあれ、鬼畜とは欲深く酷薄な生き物を指す、最大級の蔑称である。
(太平洋戦争中は敵国であるアメリカ、イギリスを『鬼畜米英』と呼んで蔑んでいた)

アジアでは犬猫も例外ではなく捕獲、飼育し、生きたまま皮を剥がしている。
そうやって作られた毛皮はほかの動物の名前に変えられ、その多くが日本に輸出されている。


以下の映像に写っているのはニンゲンと犬と猫だが、果たして鬼畜と呼ぶに相応しいのはどの生き物だろう?



誰が観ても、答は明らかだ。

防寒に毛皮が不可欠だった時代ならいざ知らず、金儲けのためにほかの動物を虐殺してその毛皮を剥いでいるニンゲン、そして虚栄心を満足させるために動物の死骸である毛皮を身に付けているニンゲンって‥‥
もはや鬼畜以下ではないのか


毛皮製品を買う行為は間接的にせよ、動物を殺すことに加担している。
いつまでも知らないでは済まされないだろう。



詳しい実情を知りたい方は下記のサイトへ。
あなたに出来ることもきっとあるはず。

地球生物会議ALIVE
JAVA
ヘルプアニマルズ
アニマルライツセンター




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ランの事情

2013年03月25日 19:00

湘南海岸、朝‥‥。
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この日ランは、本来のエサ場から数ブロック離れた防砂林から出現した。
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ランが居場所を移動しはじめたのは昨年の秋頃だ。


何者かに生活を脅かされたからか、それとも別の理由があるのか‥‥、ランは教えてくれない。
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そのとき、ふいに私の視界に1匹の猫の姿が入りこんできた。


近づいてみると、それは以前エサ場に出没した、ホームレス夫婦に飼われているキジ斑だった。
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このキジ斑はオス、それも去勢手術をしていない真正の“オトコ”だ。


ランが厭い、警戒していたのはキジ斑だったのだろうか。
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しかし、キジ斑に発情の様子は見られない。通常オス猫の発情は、メス猫に誘引される形で起こる。


ランとキジ斑が出現した場所は人通りが多い。そこで人目に付かない元のエサ場へランを誘導することにした。
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私が「ラン、付いておいで」と言うと、ランは狭い柵の上を伝って後を追ってくる。


エサ場へ戻るとすぐに、待っていたアスカともども猫缶を与えた。
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アスカの食欲はいつもと変わらず、旺盛だ。


腹が満たされた母子は朝の陽射しを受けて寛ぎはじめた。
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改めて見ると、アスカは本当に大きくなった。‥‥もっと直截的に言うと、太った。


寒さが厳しい海岸の冬に備えて、己の体に脂肪を蓄える海岸猫はいる。だが、昨年春に生まれたアスカは冬の寒さを知らない。
海岸の冬を経験し、同じ環境で暮らす母のランに体重の増減はない。

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野良の本能で厳冬を予見した結果なのか、それともただの大食漢だったのか。
「どっちだ、アスカ?」



こうして比較すると、アスカは母親のランより二回りほど大きな体躯をしている。
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膂力でも、アスカはとっくに母を凌駕しているだろう。
ランのエサ場を離れる原因が、大きくなり過ぎた息子だとは思いたくないが‥‥。



たとえ親子であっても、競合相手となりうる野良社会ではあり得ないことではない。
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気になる物音がしたのか、突然アスカが振り返り、そのまま動かなくなった。


先に動いたのは母のランだった。
ランは道路近くまで足早に行くと、周囲に警戒の視線を巡らせる。

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アスカが慎重な足取りで防砂ネットへ近づいていく。その気配を察知したランが振り返った。
動物の勘が鈍麻したニンゲンである私も、何者かの存在を感知した。

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私は急いでアスカの背後に回り込んだ。
ややあって顔を出したのはさっきのキジ斑だった。飼い主のホームレスの男性が“リュウ”と呼んでいた猫だ。



ランを追ってきたのか、それとも猫缶の匂いに誘われるまま此処へ辿りついたのか。
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さっきは気づかなかったが、左耳の周りの毛が抜け地肌が覗いている。
怪我‥‥、疾病‥‥?



キジ斑の意図を探ろうと、試しに猫缶を与えてみた。すると素直に猫缶を食べはじめた。
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耳の周りに目立つ傷口は確認出来ないが、脱毛の範囲は思ったより広い。


喧嘩で負った傷だとしても、相手はアスカではなさそうだ。
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このエリアでキジ斑と体力的に伍する猫といえば、これまでブログで紹介の機会はなかったが、アスカの父猫と思われるキジ白くらいしか思いつかない。
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だが、去年の10月11月には時折出没していたのに、12月に入ったらぱったりと姿を見せなくなった。


植込みから出てきたキジ斑は、背を向けたランに気づくと、動きを止めた。
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そして、思いを定めるようにくるりと踵を返すと‥‥、


元来た植込みの奥へ従容とした足取りで歩いていった。
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トレイには猫缶が残されていた。此処へやってきた理由は空腹のためだけではなかったようだ。
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けっきょく、何故キジ斑がランの後を追ってきたのか、私には明確な動機が分からなかった。


さらに、キジ斑が負った傷の原因もまた、突きとめることが出来なかった。
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アスカなら原因となる出来事を目撃している可能性は高いが、普段はよく喋るくせにこういうときは口をつぐむ。


キジ斑対して敵意を表すでもなく、黙殺ともいえるランのにべない態度もまた、私には不可解だ。
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だが、後ろへ向けられた耳からは、無関心を装っているだけで警戒を緩めていないことが窺える。


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何やら不穏な状況を呈しているが、いずれにせよ私としては、ランとアスカが諍いの側杖を食うことのないよう祈るばかりだ。


それから数日後。
この日私は、日没直前の遅い時刻に海岸を訪れた。

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いつもの場所で、食事をするランとアスカ。


そのとき、夕闇が濃くなった防砂林の奥から、猫の鳴き声が聞こえてきた。
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それも発情した猫が発する独特の鳴き声だ。声の主を確かめようと、私は薄暗がりに目を凝らした。


「お、お前は‥‥!」
薄闇から現れたのは、なんと、シシマルエリアの暴れん坊ユキムラだった。

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発情したユキムラは、メスを求めて自分のエリアから数百メートルの距離を移動してきたのだ。
エリアの新参者なので、ユキムラはまだ去勢手術を受けていない。



このとき、私は思った。キジ斑に傷を追わせたのはユキムラかもしれない、と。
そして、ランが警戒していたのもこの海岸猫の可能性が高い、とも。

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色気より食い気が勝ったようで、エサを完食したユキムラは哀しげな声を上げながら防砂林の闇へ消えていった。


ここで話を少し過去に戻す。


やはり去年の秋の頃だった‥‥。
リンとランが棲むエリアに、複数のオス猫の影がちらつきだしたのは。

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そこで私は行動を起こした。


防砂林に住まう人のテントに暮らすリンとユイも懸念されたが、まずランの不妊手術を優先しようと決めた。
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が、いくら人馴れしているとはいえ、ランは野良猫だ。今までの経験から、一度失敗すると警戒され、しばらく捕獲できないことも十分考えられる。
それならばと、私は慎重を期して、決行日の前に予行することにした。

ところが、結果は皮肉なものだった。



〈次回へつづく〉


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

問わず語り

私は今の季節が苦手だ。

寒さが日毎和らぎ、春めいてくるこの時期とすこぶる相性が悪いのだ。
青年期までは、環境が変わるのが煩わしくて嫌悪していた。
まだ“五月病”などという言葉がなかった頃だ。

そして心を病んでからは、ことさらこの時節が疎ましくなった。
春を迎えて周りが華やいでくると相対的にも落ちこむのだ。
3月に自殺者が多いというデータも頷ける。

今年は母の罹病も加わり、さらなる低空飛行を強いられている。
PCモニターに向かう気力も長つづきせず、ブログの更新も遅延する始末。
今はただ、失速して墜落しないように操縦桿を握りしめている。

季節が巡れば上昇の兆しも見えるだろう。
それまでは息を潜め、静かに耐えるしかない‥‥。



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不妊手術 その壱『必要悪』

2013年04月03日 23:30

捕獲決行日の前日、私はキャリーバッグを持参し海岸へ赴いた。
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私がエリアに着くと、ランは間をおかず防砂林の中から姿を現した。
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「今日は飽くまでも捕獲の予行だ」私は自分に強く言い聞かせた。


欲を出して、あわよくば捕獲しようなどと考えると、鋭敏な勘を持つ猫にすぐ見抜かれる。
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犬猫の不妊手術に異議を唱える人たちがいる、と聞いた。動物の生殖器官を強制的に摘除することは虐待行為だ、というのだ。
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「T.N.R.‥‥。それは猫からすれば、いきなり拉致され、移送された病院で有無をいわさず生殖器官を摘出されること」


「自分が同じ目に遭うことを想像すれば、その行為が如何に理不尽か分かるだろう」
まったき正論である。反駁のしようがない。
が、しかし‥‥。

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今の日本のペット事情は、そんな正論や理想論がまったく通用しない状況だ。


我が国では年間20~30万匹もの犬猫が殺され、ゴミと同じ扱いで焼却処分されているのだ。
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今度は別の方向から「犬猫は、増え続けるので処分するしかない」という声が聞こえてきそうだ。が、実際にドイツでは犬猫を殺処分していない。【ドイツからのレポート】


犬猫の殺処分ゼロは可能なのだ。
とどのつまりは意識の問題だろう。我々一人ひとりが小さな命の尊厳を重んじるかどうかの。

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そんなドイツでもやはり、犬猫問題の唯一の解決策は不妊手術だという。
ニンゲン社会にも、ほかに術がなく不本意ながらもやらなくてはならないことが沢山ある。



その“必要悪”とでもいうべき不妊手術を、ランに受けされるため、今回私は行動を起こした。
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私はまず、捕獲に備えてランをキャリーバッグに慣れさせることにした。防砂林に住まう人の小屋で生まれたランは、今までキャリーバッグを見たことすらないだろうから。


母の様子を植込みの中から覗いていたアスカが、好奇心に負けて姿を現した。
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私は、可能ならアスカにも去勢手術を受けさせたいと考えていた。


手術をすればほかのオスとの諍いが減るし、発情のストレスも経験しなくてすむ。
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そうはいっても、『二兎を追う者は一兎をも得ず』の諺どおり、ニンゲン欲をかくと碌なことがない。


そこで今回は、ランの捕獲を最優先に考えている。
このまま放置しておけば、ランは1年に数回の妊娠出産を繰りかえし、毎年10匹以上の子を産む可能性がある。そうなると、母体のことも心配だ。

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海岸で生まれた仔猫のなかで、陸と空のように優しい里親が見つかることなど稀なこと。


これからも海岸で暮らすであろうアスカは常に外敵に怯え、夏の暑さや冬の寒さに耐え、怪我を負い病を得てもすぐには対処してくれない。
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野良猫の平均寿命は家猫のそれに比べ、半分以下の4~6歳であることが、厳しい外での暮らしを如実に表している。


初めて目にするキャリーバッグに、アスカも興味津々だ。
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こわごわとキャリーに頭を入れ、中の様子を仔細に窺っている。


すでに母ランの匂いが付いているから安心したのか、アスカはいきなりキャリーへ半身を突っ込んだ。121005-06.jpg
アスカにとっては、キャリーバッグも遊びの道具と何ら変わらないようだ。


遊びに興じているうちに、アスカの全身がほぼキャリーの中へ収まった。
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ランのときもそうだったが、私はこのまま扉を閉じてしまいたい誘惑に駆られた。だがそこで、本来の目的を思い出しぐっと我慢した。


母子に、キャリーバッグを慣らすという意図は、何とか成功したように思う。
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だから、明日の捕獲は是が非でも成功させたかった。



そして。


‥‥翌朝。ランの捕獲決行日が訪れた。
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この日も、私が名を呼ぶと、ランは防砂柵の上に姿を現した。
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ランは柵の上から睥睨するように辺りを見回し、脅威になる外敵がいないのを確認すると、やおら道路側に身を乗りだした。


ランは私の企てに気づいていない‥‥、はず。
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だが勘の鋭い猫のこと、こちらが日頃と違う雰囲気を漂わせただけで見抜かれる恐れがあった。


ランに気取られないように、私は努めて平静を装った。いつもの表情をして、いつもの立ち居を心がける。
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しかし、態度とは裏腹に私の胸中は穏やかではなかった。「捕獲の失敗は絶対許されない」と思い詰めていたからだ。


私は覚悟をしていた。
捕獲が成功しようが失敗しようが、それをきっかけとしてランは私に不信感をいだくだろうと。

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そしてランは私を忌避し、今までのように慕ってくれることはないだろうと‥‥。
だから、どのみち嫌われるなら、最後に不妊手術を受けさせたかった。



しばらく待っていると、アスカも姿を現した。
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ランの捕獲が成功し、それを目撃したアスカが逃げないでその場に留まるようなら、一緒に捕獲するつもりでいる。


そのために、この日はキャリーバッグを2つ用意した。
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もう1つはゆきママさんから拝借した。
そして独りでは心許ないので、ゆきママさんに手伝ってもらうことにした。



ゆきママさんには、前もってキャリーバッグを持って防砂柵の陰に隠れてもらった。
そうして私は、さり気ない調子でランを両手で抱き上げた。いつものことだから、ランも素直に身を任せてくれる。

「ゆきママさん、いきますよ」と私はゆきママさんに声をかけた。
その合図を聞いたゆきママさんが、扉を開けたキャリーバッグを持って防砂柵の陰から出てきた。

私はゆきママさんへ近づき、キャリーバッグの中へ、ランを入れようとした。
と、ゆきママさんの出現に驚いたのか、ランはいきなり暴れはじめた。
それでも私は、ランをキャリーバッグへ押入れようと一段と力を込めた。
だが、ランも必死に抗う。「凄まじい力だ!」

私は捕獲を断念し、ランを抱いた手の力を緩めた。
ランは私の手を振りきると、防砂柵を越えて防砂林の中へ走り去った。



私の腕には、ランに引っ掻かれた傷が一筋残った。
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しかし、自己嫌悪と敗北感に襲われていた私は、傷の痛みなどまったく感じなかった。


防砂林の奥へ姿を消したランは、私に裏切り者としての烙印を押すだろう。
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こうして、ランの捕獲作戦は、想定しうる最悪の結果に終わった‥‥。


失策の要因はいくつかあったが、この期に及んで顧みても詮ないことだ。
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この結果をもって、ランの捕獲は、しばらく冷却期間をおかざるを得なくなった。


同日、夕刻。
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ランとアスカの様子が気になったので、私は再び海岸へ足を運んだ。


母子は、何事もなかったようにエサ場にいた。
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アスカは、私が与えた猫缶を何の迷いもなく食べはじめた。


ところが、ランはトレイに背を向け口を付けようともしない。
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やはり、朝の出来事にわだかまりを持っているのか。


私が近づこうとすると、ランは防砂林の奥へ足早に逃げていった。
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ランの反応は、昨日までと明らかに違っている。


私は追うのをやめた。すると、ランも立ち止まり、私の方へ向き直った。
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逃げ去ることなく、私と微妙な距離を保っているラン。
「完全に嫌われたのではないのか?」ランの様子を見て、私は一縷の望みをいだいた。



そこで私は、捕獲に至った事情を、ランに諄々と説明した。
「いきなりで驚いただろうけど、お前のことを思ってのことなんだ‥‥」

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果たしてランは、私の本心を理解してくれるだろうか‥‥。私はランの反応を静かに待った。


やがて、ランはおもむろに腰を上げると、こちらに向かって歩みはじめた。
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そして私の足許まで来ると、何も言わず寄り添うように佇んだ。
「ありがとう、ラン‥‥」私は、自分の胸に熱いものが染み渡るのをリアルに感じた。



愛情をもって付き合えば、猫とニンゲンも心が通じあえる。たとえ野良であっても。
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望外の展開でランとの信頼関係は修復出来たが、私は彼女に不妊手術を受けさせることを諦めたわけではない。


〈次回へつづく〉



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