木陰の猫

2011年10月15日 07:47

町の中心部に行くルートを、私は3つ持っていて、その日の気分で使い分けている。
実は、もう一つルートがあるのだが、今回の帰省では2度しか通っていない。

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何故なら、途中民家に阻まれ道幅が極端に狭くなっていて、自転車では人とすれ違うことも困難だからだ。


なのでこの時、どうしてその道選んだのか、私にもよく分かっていない‥‥。
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ともかく、日頃使わぬ道を自転車で進んでいる時だった‥‥。
その猫と遇ったのは。


鉄の橋を渡り切ると、前方の道の真中に小さな動くモノが私に目に入った。
すぐに猫だと分かった私は、警戒されないように手前で自転車から降り、そっとカメラを取り出した。

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猫も私の姿を認めたようだ。私は慌ててカメラを構えた。
しかし、シャッターを押すよりも先にその猫が動いた。逃げるつもりなのだろう‥‥、私はそう思った。が、そのキジトラはそんな私の予想を裏切り、こっちに向かって歩を進めはじめた。



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その後もキジトラは、初見のニンゲンに向かってずんずん近づいてくる。


そして‥‥、
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私の足許で歩みを停めると、「ニャア」と鳴いた。


金網フェンスの向こうは公園になっている。
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数個のコンクリ製のベンチと鉄棒があるだけなので、“広場”と呼んだほうが相応しいかもしれないが。


後ろを振り向くと、キジトラもゆっくりとした歩調で公園に入ってきた。
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このオスのキジトラ、首輪をしている。そうであるからには、飼猫なのだろうが‥‥。
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キジトラのその鈴の付いた首輪をよく見ると、随分と年季が入ったシロモノで、いたる所が剥げ、擦り切れ、そしてささくれ立っていた。
「近くに家があるのか?」訊いてみたが、返事はない。



写真を撮るために、私が遠ざかると‥‥、
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キジトラは慌てて私の足許にすり寄ってくる。


再び私が、後退りしながら離れると‥‥、
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今度は、頭を押し付けてきた。


「こんなに接近されると、写真が撮れないんだけどなぁ‥‥」
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そこで私は、一気にキジトラから距離を取った。


するとキジトラは、ゆっくりとした足取りで、私の後を追ってきた。
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その後も、私の動きに合わせて何処までもついてくる。「ニャア、ニャア」と甘えた声を上げながら‥‥。


この日は10月とは思えない気温の高さで、日向にいると汗ばむほどだ。
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私はキジトラを引き連れたまま、さっきまでいた木陰に戻った。
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このキジトラが私に何を求めているのか分からないが、しばらく側にいることにした。


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「お前の家は何処にあるんだ。そこで待ってる人がいるんじゃないのか?」
そう言いながらキジトラを撫でていると‥‥、



私の背後から、白いハンチングを被った女の子が唐突に現われた。
キジトラは、その女の子にも屈託なく甘えはじめる。

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「この猫のこと知ってるの?」私は女の子に訊いてみた。
「何処の猫か知らないけど、前にこの公園のベンチにいるのを見かけことがあります」
女の子は、その時のことを思い出すように答えた。



さらに、この辺りに野良猫のいる場所はないかと尋ねてみた。
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すると女の子は、口をすぼめて「う~ん」と言いながら、しばらく考えていたが、結局野良猫のいる場所が彼女の口から出ることはなかった。


その代わりと言って、女の子は首輪をしたシャム猫を目撃した場所を地図を交えながら丁寧に教えてくれた。
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そして女の子は、用事でも思い出したように、慌ただしく去っていった。


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私が女の子を見送っている間、キジトラは独り木陰で寛いでいた。


キジトラは、私が傍らにいると安心するのか、毛繕いをしはじめた。
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この後も、私はこのキジトラと共に、いくつかの出会いを経験することになる‥‥。

<つづく>



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木陰の猫 その弐『別れ』

2011年10月19日 08:00

季節外れの暑さを記録した10月のある日、私は実家近くの公園で1匹のキジトラと遭遇した。
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時刻は午後1時過ぎ‥‥。この日は休日なのだが、公園に人影は見えない。


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当のキジトラは私の存在など忘れたように、さっきから涼しい木陰で毛繕いに余念がない。


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ところが、私と目が合うと‥‥、


とたんに毛繕いをやめ、おもむろに近づいてくる。
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そしてキジトラは、私の脚に体をすり付けてきた。


さらに、私の足許にうずくまると、「ニャア、ニャア」と何かを訴えるように鳴く。
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そんなキジトラに対して、今の私にしてあげられるのは、こうやって体を触れることだけだ。


このキジトラはいつもこうやって、誰彼の区別なしに纏いついているのだろうか?
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私がしばらく頭を撫でると、キジトラは気持良さそうに眼を細めた。


「なあ、お前はいつもこうして独りでいるのか。一緒に遊ぶ友達はいないのか?」
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しかしキジトラは眼を細めたまま、何も応えない。どうやら、私が覚えた湘南訛りの猫語はここでは通じないようだ。


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ともあれ、飼猫なら帰る家もあるだろうし、温かく迎えてくれる飼い主もいるのだから、束の間の滞在者である私には、あれこれ詮索する資格などないのだ。


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その後も、キジトラは私の側から離れようとしない。


私はあらぬ方向を眺めはじめたキジトラの隙を窺い、そっと離れた。
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「おっと、気づかれた」


それにしても、キジトラのこの異常ともいえる人懐こさは、いったい何に起因するのか‥‥。
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ボロボロの首輪をしたキジトラ‥‥。彼がいったいどんな事情を抱えているのか、私の興味は尽きない。


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私がその場を離れたにもかかわらず、キジトラに動く気配はなく、緊張の面持ちで何かを見つめている。


キジトラの視線を追って振り返ると、散歩中の犬が近づいて来ていた。
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キジトラはその犬から、一瞬足りとも眼を放さない。


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キジトラは尚も犬の後姿を凝視しつづける。人懐こいこのキジトラも、さすがに犬は警戒すべき対象のようだ。


犬の姿が完全に見えなくなると、キジトラはホッとした表情で振り返った。
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と、思ったのも束の間‥‥、


キジトラがまた、緊張の眼差しで体を強張らせた。
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小型犬なのだろう、フェンスが邪魔をしてよく見えないが、また散歩中の犬やって来たようだ。
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体の大きさが自分とおっつかっつの小型犬だからか、キジトラの態度にはさっきより余裕が見える。猫もちゃんと相手を見て反応しているのだ。


犬もそんなキジトラを気にとめることなく、飼い主を急き立てるように公園を横切っていく。
111008-38.jpgにもかかわらず、キジトラは犬から決して視線を外さない。


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そうしてまた‥‥、


公園にはキジトラと私だけが残された。
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何事もなかったように、毛繕いを再開するキジトラ。


それでも時折、胡乱な眼つきで辺りを見回す。
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その眼つきは、私と接している時には決して見せない険しいものだ。


それからしばらくの間、10月の爽やかな風が通る木陰で、キジトラは毛繕いをつづけ‥‥、
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私はそんなキジトラを、ただ見ていた。


と、その時、私は背後に人の気配を感じ、振り返った。
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自転車に乗った少年が、我々のすぐ側まで来ていた。
「クロちゃん、ここで何してるんだ?」少年は親しげにキジトラに話しかけた。
「この猫のこと知ってるの?家は近くにあるの?」
私は急いでいる風の少年を慌てて引き止めて、質問を浴びせた。



「ぼくの近所の家で飼っている猫で、“クロちゃん”っていうんです」
家の方角を訊くと、少年は後ろを振り返り指をさして教えてくれた。
「それにしても、この猫すごく人懐こいねぇ」
「クロちゃんは人に甘えるから‥‥」少年はキジトラを見つめながら笑った。

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「クロちゃん、バイバイ」公園を出ると、少年はキジトラに声をかけた。
するとキジトラは、フェンスまで歩み寄って少年を見送った。



「そうか‥‥、お前の名前は“クロ”というのか‥‥」
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このキジトラに帰る家があることを知り、私の胸の中にあった疑念は解消された。


そこへさっきの犬が戻ってきた。クロちゃんがそれを察知し、身を低くし構える。
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金網越しに犬と対峙したクロちゃんは「ニャ~ゴ」と威嚇の声をあげた。だが犬はそんなクロちゃんを、ただ穏やかな眼で見つめるだけだ。


クロちゃんは私の脚に体を押し付けながら、犬の動向を見つめつづけた。
「お前、よほど犬が嫌いみたいだなぁ‥‥」

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犬が立ち去ると、クロちゃんはついと私から離れフェンスの下から頭を突き出し、辺りの様子を窺いはじめた。


そして誰もいないのを確認すると、フェンスをすり抜けて道路に出た。
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道端に腰を下ろしたクロちゃんは、そこでも周りの様子を見回すと‥‥、


身をひるがえし用水路に跳び降りた。
「!!」
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用水路の水は、山からの水と湧き水とが混ざり合い、清らかに透き通っている。


クロちゃんはその水を味わうように、ゆっくりと時間をかけて飲んでいる。
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おそらく、ここはクロちゃんお気に入りの水飲み場なのだろう。


水を飲み終えたクロちゃんは、足早に公園の中へ入っていった。
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現われた時と同様、しっかりとした足取りだ。


そして、そのまま公園を芝の上を、躊躇うことなく進んでゆく。こちらを一度も振り返ることなく‥‥。
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そんなクロちゃんを、私はその場に佇みながら静かに見送った。


私には分かった‥‥。クロちゃんは家へ帰るつもりなんだ、と。
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クロちゃんが向かう先は、果たして自転車の少年が指さして教えてくれた、クロちゃんの家の方角だったからだ。


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クロちゃんの姿が見えなくなった後、初対面の私と1時間あまりも付き合ってくれたことに感謝したい気持ちが膨らんできた。
「クロちゃん、ありがとう。縁があったらまた会おうな」
私は別れを惜しみながら、心のなかで呟いた。



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‥‥縁があったらしく、数日後、私はクロちゃんとの再会を果すことが出来た。

ところがその時、思いがけないことからクロちゃんの奇妙な実情を知ることになった。
さらに、飼猫には似つかわしくない首輪をしている理由もまた、知ることになる‥‥。


<つづく>



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木陰の猫 その参『首輪の謎』

2011年10月26日 12:00

クロちゃんと別れた後、白いハンチングの女の子から教わった、首輪をしたシャム猫が出没するという空地を訪れてみた。
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しばらくその近辺を探してみたが、猫がいる気配はない。


空地には、打ち捨てられた自転車が無残な姿を晒しているばかりだ‥‥。
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間の悪いことに、辺りには草刈機の甲高い音が鳴り響いていて、これでは猫も現れないだろうと断念した。





数日後‥‥。
私は再びあの狭い道を通って、クロちゃんと出会った場所へ向かった。

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公園の手前の川に架かる、鉄の橋にさしかかったときだった。私の視界に一瞬猫の後姿が入ってきたのは‥‥。
私はとっさに、あれはクロちゃんだ、と思い、自転車を漕ぐ脚に力を入れた。



ところがその場に着いたとき、クロちゃんの姿は既になかった。私は完全にクロちゃんを見失ってしまった。
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前方の道路にも公園の中にも姿は見えず、身を隠したとすれば、この辺のはずなのだが‥‥。
私は見当をつけて、一軒の家に近づいていった。



私を迎えてくれたのは三頭の犬だった。
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この犬はたしか、先日クロちゃんと金網越しに対面した犬‥‥。双子のように似ているので、どちらかは分からないが。


と、そこへ1匹の茶トラが姿を現した。この茶トラと見間違えたのか‥‥?
いやしかし、さっきの後姿はこの茶トラとは違っていた。

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私がしばらくそこに佇んでると、先日犬の散歩をしていた中年の女性が現れたので、挨拶をすると「ああ、この間公園で写真を撮っていた方ね」と先方も私のことを覚えてくれていた。

そこで、キジトラのことを訊くと「あの子は野良猫で、毎日うちにエサを食べに来るの。さっきも来たけど、犬に驚いて何処かへ行ってしまったわ」と女性。
不思議に思った私は、先日会った自転車の少年が言ったことを伝えた。
すると女性は、訝しげな表情で「橋の向こうの家でも每日エサを貰っているし、あの首輪はうちの飼猫のお古なの。野良猫だとイタズラされるといけないから」と言った。



ちなみにこの茶トラは野良猫で、やはり每日ここでエサを貰っているという。
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この家の飼猫にイジメられるので、その飼猫の天敵であるこの白い犬の側にいつも避難しているそうだ。


茶トラはこの家を殆ど離れず、いつもこの安全な場所で寛いでいるという。
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だから行動範囲の広いクロちゃんと違って、この茶トラには首輪が必要ないのだろう。


この白い犬は猟犬で、猪狩りの際にハンターであるご主人に帯同するという。
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そんな逞しい犬をボディガードにするとは、この茶トラもなかなかしたたかだ。


つづけて女性は、こんな逸話を教えてくれた。
近所で飼っている鶏がネズミの被害に遭っていたのだが、クロちゃんと茶トラがそのネズミを退治してくれるので感謝されているという。

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この女性の話で分かったのは、クロちゃんは地域の人に愛されているということだ。
飼猫か野良猫かにかかわらず‥‥。



私はクロちゃんが現れるのを公園で待つことにした。
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この日も季節外れの残暑で、夏日を記録した。


そして‥‥、待つこと20分。公園に1匹の猫が姿を見せた。
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「クロちゃんだ!」
クロちゃんは脇目もふらず、真っすぐ公園を横切っていく。



「おーい、クロちゃん」
私はクロちゃんの後を追いながら声をかけた。

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クロちゃんは一瞬、警戒の表情を見せたが、すぐに私だと分かったようで、踵を返した。


そして、私の足許にうずくまると‥‥、
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「ニャア、ニャア」と甘えた声をあげた。


「さっき、お前のこと色々聞いたけど‥‥何が本当なのか教えてくれよ」
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日向は暑いので、クロちゃんを涼しい木陰に誘うことにした。


私がゆっくりと、その場を離れると‥‥、
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クロちゃんも、ゆっくりとした歩調で後を追ってきた。


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そしてそのまま、私が待つ木陰へやって来た。


私は女性の話を聞いて、クロちゃんが飼猫なのか野良猫なのか分からなくなっていた。
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飼猫でも所謂“別宅”をいくつか持っていて、そこでエサを貰うことはよくあることだ。


でも‥‥、自転車の少年の近所で本当に飼われているなら、誰が付けたか分からないこんなボロボロの首輪をそのままにしておくだろうか?
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普通、飼い主の自覚があるならこの首輪を外すか、新しいモノに替えるのではないだろうか。ちなみに、私ならそうする。


「クロちゃん‥‥、お前は飼猫か野良猫か、どっちなんだ?」
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おそらくクロ自身は、そんなこと意に介していないに違いない。


周りの人たちに愛され、食べ物をくれる家をいくつも持っていれば生きていけるからだ。
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でも寒さを凌ぐねぐらは必要だろう。それに病気になったときは誰が世話をしてくれるのだろう‥‥?


首輪についての疑念がどうしても頭から離れないが、このことだけでクロちゃんを野良だと断定することが早計なのは、私にも分かっている。
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そしてまた、何もしてあげられない今の私にそんな心配をする資格がないことも分かっている。


今はただ、この人懐こいキジトラが幸せに暮らしていることを願うばかりだ。
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涼しい木陰に腰を落ち着けたクロちゃんは、今日も毛繕いに余念がない。
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毛繕いを終えたクロちゃんは、周りを見回しはじめた。天敵である犬の接近を警戒しているのだろうか‥‥。
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私がそんなクロちゃんの写真を撮るために距離をとると‥‥、


クロちゃんはすぐに後を追ってくる。
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本当に、このキジトラは甘ったれだ。


この気質は生まれつきなのか、それとも生きるために身につけた処世術なのか分からないが‥‥。
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この人懐こさがあるから、この猫は多くの人に愛されているのだろう。


通りすがりの言わば余所者の私も、クロちゃんの魅力に惹かれるくらいだから‥‥。
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でもそんな私には、僅かの間一緒に過ごすことしか出来ない。


私自身はクロちゃんと接していると、心が癒されるのだが‥‥、
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クロちゃん的にはどうなのだろう?


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クロちゃんは木陰ですっかり寛いでいるが、私が呼び止める前は何か目的がある様子だったはず。
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ひょっとしたら、私に気を使って敢えて道草を食っているのかもしれない。


「クロちゃん、お前何か用事があって急いでいたんじゃないのか?」
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しかし、私の問いかけにクロちゃんは馬耳東風で、毛繕いをつづける。


そんなクロちゃんがいきなり動いた。
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公園を出て用水路へ向かっていく。


そして、先日と同じように用水路へ降りていった。
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やはりここは、クロちゃんお気に入りの水飲み場だったのだ。


山からの水と途中に幾つかある湧き水が混ざり合った用水路の水は、澄み切っている。
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このときも、クロちゃんは味を楽しむように時間をかけてゆっくりと水を飲みつづけた。


喉の渇きを癒したクロちゃんが公園に戻ってきた。
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木陰に座ったクロちゃんは、何やら考えごとでもするように眼を据えた。
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そしてついには眼を閉じ、瞑想しはじめた。


しばらくそうしていたが、何かを思い立ったように、クロちゃんはおもむろに立ちあがると歩を進めはじめた。
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どうやら私が声をかける前に目指していた目的地を思い出したようだ。


クロちゃんが向かったのは、先日と同様、自転車の少年が言ったクロちゃんの家がある方角だ。
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果たしてクロちゃんには、寝床が用意された家があるのだろうか‥‥?


クロちゃんは途中で歩みを停めると‥‥、
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私の方を振り返り「ニャアーッ」と一際大きな鳴声をあげた。


クロちゃんにすれば別れの言葉だったのだろうが、私には『あんたもクヨクヨしないで、しっかりしなよ』と言われたように感じた。
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「ありがとう、クロちゃん。私もお前を見習って周りから愛されるような人になれるよう努力してみるよ」


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飼猫だろうが、野良猫だろうが、クロちゃんはこれからも皆に愛されて暮らしていくだろう。私はそんなクロちゃんが少し羨ましかった。


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退院の目処が立たない父、そしていくつもの持病を持ち常に体調不良を訴える独居の母を目の当たりにして、私の心は勢い塞ぎがちになる。
そんな私の心を束の間和ませてくれたクロちゃんには大いに感謝している。
そして多少大袈裟だが、今回のクロちゃんとの交流を経て、私は思った‥‥。
“ああ‥‥、自分は猫によって生かされているんだなぁ”と。




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故郷の猫 『邂逅』

2013年01月20日 15:00

この日、母に診療を受けさせるため、私は付き添って病院へ行った。
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今回の治療は、点滴を含み2時間半から3時間を要する。
私はその時間を利用して、母に代わって役所と銀行の用件を済ませることにした。



そして用事を終わられた私は、病院へ戻るために、街の中心部を通り抜けようとした。
そのときだった‥‥。



私の視界の隅を1匹の猫が掠めたのは。
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ここは飲食店に隣接する駐車場。


私はその茶シロの猫とある程度の距離を保ちながら、ゆっくりと駐車場へ入っていった。
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茶シロは、突然現れた闖入者の私を、胡乱な眼でじっと見つめる。


どうやら、茶シロのパーソナルスペースは私のそれより狭かったようだ。そして知らぬうちに、そのスペースを私が侵したらしく、茶シロは駐車場の奥へ逃げていった。
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と、そこには、冬の陽射しを全身に浴びて昼寝をしているキジ白がいた。


さっきの茶シロの性別は定かではないが、この不敵な面魂は間違いなくオスだ。
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(あ、起きた‥‥)
私の気配を感じたらしく、キジ白がうっすらと眼を開けた。



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「気持よく眠っていたのに、どうしてオレの昼寝の邪魔をした‥‥」
そんな台詞が聞こえてきそうな面持ちだ。



やがてキジ白は、おもむろに起き上がると、私から離れていった。
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そこで私は、キジ白と一定の距離を保って、そっと接近した。


キジ白は、しばらく私を観察していたが、やにわに体を翻すと、路地の奥へ悠然と歩いていった。
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私が表通りへ戻って、建物の反対側に回り込むと、キジ白は逃げないで、まだそこにいた。


キジ白と私のちょうど真ん中あたりに、透明のトレイが転がっている。
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そして、そのトレイからこぼれたと思われるカリカリが道路に散らばっていた。どうやらここには、猫に給餌する人がいるようだ。


となると、キジ白も茶シロも野良である可能性が高い。
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私が育ったこの街では、野良猫をほどんど見かけない。一昨年の夏、漁港へ何度も足を運んだが、ついに1匹の野良も発見出来ずに終わった。


だから、野良が2匹揃っているところを見られるなど、想像もしていなかった。
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もしかしたら、私は探す場所を間違えていたのかもしれない。
‥‥根本的に。



海岸へ行けば、いつでも猫に会えるという状況に慣れてしまっていた私は、言わば猫を探すアンテナを鈍麻させていたのだ。
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先にも述べたが、ここは“飲食街”。寄る辺ない野良が食べ物を得るには絶好の場所である。
そして、身を隠すのに適し、時には暖を取ることも出来る“駐車場”もまた、猫が好む場所だ。



このキジ白も恐らく、己が生きていくため、“ここ”に棲みついたのだろう。
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穏やかな表情をした、この茶シロも‥‥。


私は猫から視線を外し、改めて辺りを見回してみた。
目の前に山門が見える。飲食店が並ぶその通りは、寺の参道でもあった。

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巡らした私の視野の端に、白いものが入り込んできた。


私は、思わず目を大きく見開いた。
(白猫だ。それも生まれて4、5ヶ月の仔猫だ!)

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体の一部がグレーなのは、元来の被毛の色なのか、それとも汚れなのか‥‥、確かめたくても、敵意さえ含んだその険しい目付きは、これ以上の接近を許してくれそうにない。


私はさらに目を瞠った。奥にもう1匹猫の姿を認めたからだ。
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(長毛のキジ白‥‥)
私は長毛のキジ白を見るのは、この時が初めてだった。



背後で音がしたので振り返ると、店先に別の仔猫がうずくまっていた。
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この子などは体全体がグレーに見えるが、本来は白猫だと思われる。


再び山門の方へ振り向くと、眼ぢからの強い子は物陰に身を潜めていた。
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そこへ店先にいた子が近づく。体の大きさから見ても、この2匹はキョウダイだろう。


今度は先ほどのキジ白が、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。
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私の目の前を通り過ぎるときも歩度を変えず、飽くまでも泰然とした態度のままだ。


そして私に一瞥もせず、長毛のキジ白へ向かっていく。
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2匹のキジ白は、挨拶もしない代わりに牽制もせず、すんなりと擦れ違った。


短毛のキジ白が去るのと相前後して新たな猫が現れた。
毛色は“シルバータビー”。直訳すると、“銀縞”?

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純血種なのか雑種なのか、残念ながら私には判断できない。


さらに性別が定かではないので、この愛情表現が如何なるものなのか‥‥、それもまた、分からない。
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とまれ、この2匹が仲睦まじいことだけは確かである。


この寺の存在は憶えていたが、周りの様子がすっかり変わってしまっていて、にわかに思い出せなかった。
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当時、この山門の前は何度か通ったことがあるが、境内に入った記憶はない。


せっかくなので、参拝がてら中を見学することにした。
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本堂の側には樹齢が高そうな樹木が聳えている。
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私がこの街で暮らしていたときも、この銀杏の木は、すでにこうして立っていたのだろう。


山門を潜って参道に戻ると、さっきの薄汚れた仔猫が日向ぼっこをしていた。
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この子は、パーソナルスペースが狭いからか人馴れしているからか、私が近づいても逃げる素振りを見せない。


いったい、この仔猫の出自は如何なるものなのか‥‥。
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遺棄されたのか、それともここで生まれ育ったのか分からないが、すっかり野良としての暮らしに染まっている。


重症ではないが、猫風邪を患っているようで、時折小さなくしゃみをする。
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さらによく観察すると、猫風邪のせいか左目を眇めている。こういう子を見ると、胸が痛む。


気配を感じて視線を巡らせると、植込の中に新たな猫を発見した。
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まだ若そうなそのハチワレは、初めて見る私に興味があるようで、目を逸らせようとしない。


今回確認出来た猫は、これで7匹目。このエリアには、いったい何匹の野良がいるのだろう。
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本心はもう少し、この辺りを探索したかったのだが、母を病院へ迎えに行く時間が迫っていた。私は後ろ髪を引かれる思いで、寺を後にした。


翌日、再びこのエリアを訪れた私は、野良たちの過酷な実情を知ることになる。


〈次回へつづく〉



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故郷の猫 その弐『運命』

2013年01月23日 16:00

寺の参道で数匹の野良と遭遇した翌日‥‥。
この日も前日に引き続いて、銀行に用事があり、私は外出した。そしてその帰途、寺の門前に立ち寄った。



すると、昨日は姿を見せなかった茶シロが松の根元にうずくまっていた。
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私がカメラを向けると、茶シロは物憂げに振り返った。


が、私の存在など歯牙にもかけない様子で、すぐに視線を戻した。
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何気なく、茶シロの視線を辿ると‥‥、そこにも猫がいた。それも初見の猫である。


よく見ると、まだ成長し切っていない幼い猫だ。
縞模様がはっきりしていないが、広義にはサバトラの範疇に入るのだろう。

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見知らぬニンゲンに興味津々ながら、警戒心がそれを抑えている、という面持ちだ。


さらに辺りを見回すと、植込みの中に、昨日ゴミ袋の脇にいた仔猫を発見。
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近くに比較する白い物がないからか、それとも懸命に毛繕いしたのか、昨日より体が綺麗に見える。


私との距離は2メートルあまり。
それでも警戒心のかけらも見せず、飽くまでも鷹揚な態度である。
(‥‥やはりこの仔猫はそうとう人馴れしている)

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実際は陽射しに目を細めているのだろうが、その穏やかな物腰のせいで、私には微笑んでいるように見える。


白い仔猫とは違って、このサバトラは私が少しでもパーソナルスペースを侵すと、一目散に逃げてしまう。
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私には、この子の出自を知る由もないが、生粋の野良のような印象を受ける。


ここで野良である母猫から生まれたのか、仔猫のときに遺棄されたのか‥‥、どちらにしても、無責任なニンゲンの犠牲者であることに違いはない。
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それでも完全に逃げ失せることなく、ある程度の距離を置くと、そこに留まる。


このとき、私とサバトラとの隔たりは5メートルほど。恐らくこの距離が、彼のパーソナルスペースの最高限度なのだろう。
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たいていの猫は、人への信頼度によって、顔つきまで変わってしまう。勿論、彼らのせいではない。そうしてしまったのは、我々ニンゲンだ。


そのとき、参道の方から唐突に人の声がした。
すると仔猫が、それに呼応するように声がした方へ駆けていく。
私も仔猫の後を追って、参道へ向かった。



どうやら、さっきの声は、この家の住人が猫たちに食事の時間を報せる合図だったようだ。
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私はトレイの中を見て、愕然とし、そして暗澹たる気分になった‥‥。


トレイに入っていたのは、中華麺と食パンだ
仔猫は、それらをごく当たり前のように食べていて、常食であることを窺わせる。

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ニンゲンのために作られた麺やパンには、猫にとって過剰な糖分や塩分が含まれていて、食べつづけると肥満を招いたり心臓や腎臓に大きな負担をかける。


猫に与えてはいけないモノは多岐にわたっているし、その危険度も様々だ。雑誌、書籍などの印刷物やネットで調べれば容易に情報を得られるが、それら全てを憶えるのは大変なこと。


だが、私に言わせれば、そんなしち面倒なことをする必要は、ない。
憶えるのは、たったこれだけだ。

“専用に作られたキャットフード以外は、猫に与えない”
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なので、同じペットフードだからといって、ドッグフードを猫に与えてはいけない。そして同じ理由で、その逆も厳禁だ。


顔を上げた仔猫を見て、私は驚いた。
「オッドアイだ!」実際にオッドアイの猫を見たのは、初めてだった。

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けれど、青い瞳は一部が瞬膜に覆われ、瞼の開きも右に比べて狭い。
この場合、眼球自体の損傷が一番疑われる‥‥。



しかし、ここの環境だと動物病院で治療を受けている可能性は低そうだ。
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今のままの状況では、この仔猫が家猫のように長く生きることはないだろう。
が、それもこの子の運命だ。



オッドアイの白猫のことを神奈川に住む知人にメールで知らせたら、「オッドアイの子は珍しいから、こっちならすぐに里親さんが見つかるのに」と返信があった。
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猫の場合、人よりもさらに、生まれた環境によって運命が左右される。
その定めは残酷なほど絶対的で、猫自身にはどうすることも出来ない。
救えるのは、我々ニンゲンだけなのだが‥‥。



この日は早く実家に帰らなければならなかったので、翌日改めて訪れることにした。
そして次の日、私は改めてこのエリアの劣悪な環境を目の当たりにする。



〈次回へつづく〉



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故郷の猫 その参『権利』

2013年01月27日 23:00

2013年1月某日、昼過ぎ。私は飽きもせず3日連続で山門前を訪れた。
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夜の様子は知らないが、この時刻、飲食店に挟まれた参道に人影は見えない。


私はしきたりに則って、参道の端をゆっくりとした足取りで歩いていった。
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そんな私を迎えてくれたのは2匹のサバトラだった。


こっちは一昨日、長毛のキジ白と仲の良さを見せつけていたサバトラだ。
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性別は不明だが、アメショーに似た毛並みと凛とした佇まいが相まって一種の気品すら感じる。


一方こっちは、昨日初見の、まだ若いサバトラだ。
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私を見つめる目付きは険しく、いつでも逃げ出せる態勢を取っている。


と、2匹だけかと思ったら、生垣の隙間から猫の顔が覗いていた。
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それは未だ幼さを顔に残したキジ白だった。
初見のニンゲンを凝視する眼に敵愾心は感じられないが、かといって近しさを表している風でもない。



これは、此処へ来る途中、ホームセンターで買い求めた猫用のスナックだ。
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野良との距離は5メートルほど。これ以上近づけないので、出来るだけ小さな動作でスナックを放った。


軽いスナックは、地面に落ちるときにほとんど音を立てなかった。聴力の鋭敏な猫でさえ聞き逃すほどに‥‥。
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犬よりは劣るが、ニンゲンより遥かに優れた嗅覚で匂いを察知したようで、サバトラが私を警戒しながらスナックに近づいていく。


どうやら、スナックを発見したようだ。
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毒見をするように、用心深くスナックを口に含むと‥‥、


次の瞬間、サバトラは素早く身を翻した。
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そして離れた場所まで逃げると、そこでスナックを食べはじめた。


味をしめたのか、2度目はサバトラの反応は速かった。
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それに、食べる場所も近くなっている。
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ふと後ろを振り返ると、私がこのエリアを知るきっかけになった茶シロが佇んでいた。
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私と年長サバトラのやり取り見ていた若いサバトラが、慎重な足取りで近づいてくる。


ところが、2匹ともスナックを完全に見失っている。
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若いサバトラが、鋭い視線を投げかけながら、私との距離を詰めてきた。


それでも、すぐ側にあるスナックの存在に気づかない。
動体視力や夜目に秀でた猫、だが基本的な視力はニンゲンより悪く、かなり近視気味だ。

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嗅覚を働かせて、ようやく在処が分かったようだ。


今度は猫用のジャーキーを放ってみた。まず反応したのは、年長のサバトラだった。
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地面に落ちている細長いジャーキーを器用に掬い上げると、そのまま一気に咀嚼していった。
この頃になると、私への警戒心もだいぶ薄らいでいた。



他に落ちていないか、懸命に地面を探るサバトラ。
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ところが、1本目のすぐ後に放ったジャーキーが足許にあるのに、サバトラは素通りしていく。


若いサバトラが、いち早くそれに気がついた。
年長のサバトラに悟られぬよう忍び足で近づいていく。

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年長のサバトラはまったく感知しない様子で、明後日の方向を向いている。
「今のうちだ、早く食べてしまえ」私は若いサバトラへ呟くように声をかけた。



が、ジャーキーを眼にしたのが初めてなのだろう、扱い方が分からないのか、匂いを嗅ぐばかりで、なかなか食べようとしない。
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やがて、ようやく端から食べることを思いついたようで、まさにジャーキーを咥えようとした、そのときだった‥‥。


いきなり年長のサバトラの前脚が一閃し、ジャーキーをしっかり押さえつけた。
若いサバトラは恐怖のために一瞬で竦み上がる。

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やがて年長のサバトラは、横取りした戦利品をゆっくりと食べはじめた。


このように強い者の横暴がまかり通る、野良の世界には熾烈な生存競争が厳存する。
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年長のサバトラがジャーキーに舌鼓を打つのを、ただじっと見つめる若いサバトラ。


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年長のサバトラが離れたので、若いサバトラの近くにそっとジャーキーを放ってみた。


だが、やはり食べ方が分からないのか、ずいぶんと手を焼いている。
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舌を使って、懸命にジャーキーを掬い上げようとしている。
「もう少しだ、頑張れ」私も日本人、やはりどうしても判官贔屓してしまう。



だが、さっさ述べたように野良の世界は厳しい。
野良歴の長い先輩猫が、そんな若いサバトラの隙を見逃すはずがなかった。
年長のサバトラは石段から身を躍らせた。

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その行動を察知した若いサバトラはすでに退散していた。年長のサバトラは悠然とジャーキーに歩み寄っていく。


野良の世界で物をいうのは、やはり“力”だ。
ニンゲン社会と同様、猫社会にも力によるヒエラルキーが形成されているのだろう。

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年長のサバトラだけを、一時的にでも追い払えるならそうしているが、この場合、警戒心の強い若いサバトラが真っ先に逃走するだろう。


と、私がそんな思案をしている間に、キジ白が生垣から出て、目の前に端座していた。
警戒心より仲間が食べているスナックへの興味のほうが勝ったと見える。

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代わって、生垣からは先ほどの茶シロがこちらの様子を窺っている。
この野良はかなりの慎重派で、石橋を叩いて渡るタイプだ。



このようにしばらく猫の行動を観察していると、個々の性格や相互の力関係が分かってくる。
ニンゲン社会のそれと違うのは、前述したように膂力という厳然たる裏付けがあることだ。

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名刺に刷られただけの地位や過去を証明するだけの学歴、親から受け継いだだけの財力などが幅を利かすニンゲン社会よりある意味潔く平等かもしれない。


おずおずとした足取りで、キジ白が私との距離を詰めてきた。
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そして、まだ若いと思われるキジ白は、毅然とした面持ちで私と向かい合った。


そのとき、長毛のキジ白が、山門の前をゆっくりと横切っていくのが目に入った。
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長い被毛に、いくつもの枯葉をぶら下げている。恐らく植込みの中で昼寝をしていたのだろう。


さらに、山門とは反対側の表通りから3匹の白猫が近づいてくる。
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この成猫の白猫は、この時が初見だ。
2匹の仔猫を引き連れているところを見ると、仔猫たちの母猫の可能性が高い。



私が与えるスナックに釣られて、いつしか野良たちの数が増えていた。
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オッドアイの仔猫も混じっているが、積極的にスナックに駆け寄ろうとはしない。


周りのネコたちが右往左往しているのを、醒めた眼で、ただ見つめているだけだ。
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腹が満たされているのならいいのだが、仲間と競うことが嫌いな性格かもしれなし、“力関係”からすれば弱者である仔猫だから、スナックを獲得することを端から諦めているかもしれない。


そしてここに、仲間と群れることを厭う野良がいる。一昨日、最後に姿を現したハチワレである。
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得体のしれないニンゲンから食べ物を貰うことなど、彼の矜持が許さないのかもしれない。


改めて3匹の白猫を見ると、母猫とその子供だと思うのがやはり自然だ。
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母猫は明らかに猫風邪の症状を呈し、鼻孔は固まった鼻水で塞がり、結膜炎にも罹っているようで右目の周りが爛れている。


オッドアイの子の猫風邪は、キャリアの母猫から感染したのだろう。
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軽い猫風邪は自然に快復することもあるが、仔猫の場合は重症化し衰弱死へと繋がることも珍しくない。


眼ぢからの強い仔猫は右目の目ヤニが気になるが、まだ酷い猫風邪の症状は見られない。
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ひょっとしたら、母猫から受け継いだ抗体が辛うじて効いているのかもしれない。だが、このままの状況で抗体がなくなれば、早晩感染するだろう。
ワクチン接種で予防出来るのだが‥‥。



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母猫と眼ぢからの強い仔猫が、しもた屋風の家へ駆けていく。
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そこは前日、中華麺と食パンの入ったトレイが置かれていた家だ。
残飯と変わりないエサでも、きっと野良たちにとっては命を繋ぐ貴重な食料なのだ。



オッドアイの子は、思った通り腹が満たされているようで、参道の反対側にうずくまったままだ。
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しばらくすると、眼ぢからの強い仔猫が、消沈した足取りで戻ってきた。


そうして仲間の側へ座り込み、如何にもがっかりとした顔で肩を落とした。
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やがて顔を上げると、恨めしそうな面持ちで、しもた屋のドアを睨みつけた。


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若いサバトラが佇んでいるところ‥‥、実はここが水飲み場だ。
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縦樋から排水される雨水を容器に溜め置き、野良たちの飲水にしているのだ。
良いアイディアだとは思うが、衛生的とはいえない。



私は改めて、このエリアを仔細に検分してみた。
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まず目に留まったのは、石の上に置かれたカリカリだ。初めからこの量だったのか、野良たちが食べ残したものなのか‥‥。私が見た印象では、前者のようだ。


次に目に入ったのは、無造作に置かれた焼物の器だ。
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エサを入れる器なのか、水入れなのか、空の状態では判断が出来ない。


その手前に放置された空缶‥‥。
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専用のキャットフードも与えられていることを知り、少し安堵したが、どうして後片付けをしないのか。


さらに後片付けといえば、此処がこのエリア最大の懸念場所だろう。
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写真では分かり難いが、沢山の猫の糞が転がっているのだ。何日も放置されたままの状態で、辺りに悪臭を放っている。


門前の参道といえども、広義に解釈すれば境内と同義‥‥。
だから空缶や糞を打っちゃっておいてもいい、という理由は成り立たない。

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そもそも野良猫の世話とは、エサを与えるだけではない。遣りっ放しは、エサ遣りさんの自己満足だと非難されても仕方ないだろう。


善意の押し売りと寄付金集めに血道を上げる“似非動物愛護団体”もまた、然りだ。
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結果、他の住民と摩擦が生じた場合、矛先を向けられるのは弱者の猫だったりする。
だが、このような実情を抱えているの此処だけではなく、私の住んでいる湘南でも見られること。
恐らく全国のいたるところでも‥‥。



さすがに寺の境内には、放置された空缶も糞も見当たらない。ただ、元から無かったのか片付けられたのかは、分からない。
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先ずもって、何故か境内には猫の姿が1匹も見えないのだ。


山門の入り口にハチワレが佇んで、こちらをじっと見つめている。
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あたかも目の前に張られた結界が邪魔をして、入りたくても入れないかのようだ。


参道に戻ると、潮が引いた後のように、野良の数が減っていた。
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オッドアイの仔猫は独り石段の下にうずくまっている。


松の根元には、サバトラと長毛のキジ白が身を寄せ合っているのが見える。
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性別が分からないので、明言は出来ないが、もしかしたら夫婦かもしれない。


おっと、危うく見逃すところだったが、ここにも野良が潜んでいる。
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それは眼ぢからの強い仔猫だった。母猫はすでにねぐらへ帰ったのか、姿が見えない。


オッドアイの子が私の側に近づいてきたが、うずくまった場所は先に説明した“糞溜まり”。
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鼻が詰まって嗅覚が鈍っているのかもしれない。
「おい、そこは糞だらけだぞ」私はそう言いながら、人差し指をそっと突き出した。



そして、私の指が鼻先に触れた瞬間、オッドアイの子は慌てて体を反転させた。
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人懐こいこの子も、体に触られるのは慣れていないようだ。


とはいえ、この子なら里子に出しても、すぐに家猫としての順応性を見せるだろう。
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「お前の見上げる視線の先には、いったい何が見えるんだ?」


猫には時間の概念がないと言われているが、オッドアイの瞳を見ていると、そんなことはニンゲンの勝手な憶測ではないかと疑ってしまう。
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もしかしたら、自分の未来に想いを馳せているのではないだろうか‥‥。


劣悪な環境で生きているが、この子にだって幸せになる権利はあるはず。
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本来、その権利を奪うことは誰にも出来ないのだが‥‥。


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こういう場合の常として、私は言いようない哀しさと悔しさ、そして無力感に打ちのめされていた。


ここは表通りに近いスナック‥‥。その店先に、茶シロが独りぽつねんと端座している。
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この店も野良たちのために、エサを提供するのだろう。
どんなモノが与えられるのか興味があったが、帰路につく時間がやってきた。



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このエリアで確認した野良の数は、3日間で11匹にのぼる。
その結果を受けて、私は思った。「探せば、ほかの地区にも野良がいるはずだ」と。



故郷の野良猫事情が分かった私は、翌日、“飲食店”、“駐車場”、“寺院”のキーワードを手掛かりに、改めて街を探索した。
すると、今まで遭遇しなかったのが不思議なほど多くの野良と出会うことが出来た。
が、やはりそこには悩ましい現実が存在した。



〈次回へつづく〉



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故郷の猫 その四『困惑』

2013年02月01日 00:00

この日、私はまずホームセンターに立ち寄り、キャットフードを買った。
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晴天つづきの前日までとは打って変わり、空は灰色の雲に覆われ、気温もぐっと下がっている。


休日の昼過ぎだというのに人影が殆どない閑散としたアーケード街を通り抜けていたときだった‥‥。目の前を1匹の猫が従容とした足取りで横切っていったのは。
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「おおっ」不意を衝かれた私は、思わず声をあげて足を止めた。
私の声が耳に届いたようで、ハチワレも立ち止まっておもむろに振り返った。



そのハチワレに曳航されるように狭い路地をくぐり抜けると、そこは露天駐車場だった。
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駐車場に小さな影が散在している。「猫だ‥‥、それも1匹や2匹じゃない」


私はこのとき、白うさぎを追ってワンダーランドへ迷いこんだ少女の気持ちが、少し分かった。
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しかしなぜか、案内役だったハチワレの姿はなく、そこにいたのは全てキジトラ柄の猫だった。
駐車場の奥には3匹の仔猫が所在無さそうに佇んでいる。



私は買ったばかりの猫用のおやつを取り出して、猫たちの側へ放った。
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ちなみに、煮干しのことを西日本では『いりこ』と呼ぶ。


猫たちとの距離は十分とっているが、それでも皆、初めて見る私への警戒心を露にしている。
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それでも、小さな煮干しを砂利の中から探り当てては、音を立てて噛みしだいていく。
仔猫も大人の猫に混じって、懸命に煮干しを探している。



そんな仲間の様子を見ていたのだろう、車の下から新たな仔猫が這い出してきた。
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そして私の挙動を確認しながら、仔猫はゆるりゆるり慎重に足を運ぶ。


僅かな色の違いはあるが同じキジトラ模様‥‥、親子でなくても同じ血を分けた眷族だと思われる。
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体の大きさからいって、仔猫たちは去年の秋口あたりに生まれたようだ。


私は煮干しを放る距離を徐々に短くしていった。
成猫はそれに合わせて近づいてくるが、仔猫は警戒心が強く、私のちょっとした動きで逃げてしまう。

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駐車中の車の下に新たなキジトラが現れ、こちらの様子をじっと窺っている。


仲間が目の前で煮干しを頬張るのを見ても、車の下から出てくる気配がない。
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こういう頑固なまでの慎重居士は何処にでもいる。かく言う私も、臆病で優柔不断な性格なので、やはり近しさを感じてしまう。


これで成猫4匹と仔猫3匹を確認したことになるが、今までの経験からいって、このエリアには、まだほかにも何匹か棲息している気がする。
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付かず離れずにいるこの2匹は、母子かもしれない。


地面に落ちている煮干しを夢中で食べている仔猫。その様子を見ていると心が痛む。
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出来るものなら手ずから煮干しを与えたいが、それが叶わないからだ。


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2匹のキジ白が何かの気配を感じ、同じ方を凝視しはじめた。


その視線の先には、煮干しに近づこうとしている新たな猫がいた。
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やはり、こういう抜け目がないヤツは、何処にでもいるものだ。


猫のおやつを買い増すため、再びホームセンターへ向かっていた私の耳に猫の鳴き声が飛び込んできた。
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そこは青い看板でお馴染のコンビニだった。
その脇で1匹の猫が、私の顔を見て盛んに鳴くので、残っていた煮干しを与えた。



このコンビニ猫、グレーの部分が被毛の色なのか汚れなのか判然としないが、取りあえず白猫と呼んでも差し支えないだろう。
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コンビニ猫は、煮干しをあっという間に食べ尽くした。


そして私の傍にやって来ると、親しげに躰を擦り寄せる。
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やたらと人懐こいが、このやさぐれたナリはどう贔屓目に見ても飼い猫には見えない。


人馴れしているのは、元々飼い猫だったためか、それとも野良として生きていくために身につけた世知なのか‥‥、私には知る由もないことだ。
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人が集まるコンビニに棲みつき、食べ物をねだって糊口を凌ぐ野良は珍しくない。


確かに、コンビニにもキャットフードは置いてある。
置いてあるが、わざわざそれを買って野良に与える奇特なニンゲンは稀だろう。

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多くは、自分のために買った食べ物の一部を分け与えるにとどまる。
そうやって得た、甘い菓子や辛いツマミを食べつづければ、いずれ臓腑を毀し寿命を縮めてしまう。



このコンビニ猫、見れば見るほど薄汚れた印象を受ける。
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けれど、とぼけた顔は何ともいえない興趣があり、何故か憎めない野良である。


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だがニンゲンに取り入るため、冴えない容姿を補おうと愛嬌を会得したとしたら、それはそれで切ないことだ。


さて此処は、この野良を最初に見かけた建物の脇だが‥‥、
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地面を仔細に見ると、食べ残しと思われるキャットフードが散らばっていた。


コンビニの店員が与えたのか、ほかのエサ遣りさんが与えたのか分からないが、この野良を心に留めていてくれる人へ、礼を言いたい気持ちになる。
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ところで、この野良に決まったエサ場やねぐらはあるのだろうか‥‥?


裏へ回り、通用口の辺りを調べたが、それらの在り処は見当たらなかった。
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側に透明のトレイが一つ転がっていた。しかし、これだけでは何とも判断のしようがない。


世慣れた野良だから、しばらくは此処で生きていけるだろう。
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が、そんな暮らしがいつまで保つのか、それは誰にも分からない‥‥。


ホームセンターへ戻った私は、同じ煮干しのおやつとカリカリを買い求めた。
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この一画はいわゆる飲み屋街‥‥。
昼間の飲み屋街に人気はなく、まるで打ち捨てられ無人となった街のようだ。

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スナックや居酒屋が軒を連ねるその通りを、私はゆっくりとした歩度で歩いていった。


するとまた、何処からか猫の鳴き声が聞こえてきた。
その声を頼りに声の主の姿を探すと、時間貸しの駐車場で白猫を発見した。

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私が舌を鳴らすと、白猫は、まるで年来の友人と会ったように、いそいそとした足取りで近づいてきた。


勿論、単なる偶然だろうが、二度も続けて同じシチュエーションに出くわすと、この街の白猫は一様に人懐こいのでは、と思ってしまう。
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買ったばかりのカリカリを与えると、白猫は貪るように食べはじめた。


ところが、そこには初めから同じカリカリが無造作に置かれていたのだ。
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やがて、白猫は私が与えたカリカリを食べ終えると、速やかにそのカリカリに取り掛かった。


食器が置かれていないところを見ると、固定のエサ場ではないようだが、残飯ではなくちゃんとしたキャットフードを与えられている。
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改めて確認すると、そこはログハウス風に意匠された居酒屋の店先だった。


私は再び、駐車場のキジトラエリアを訪れた。
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キジトラとキジ白の2匹が胡乱な目付きをもって私を迎えてくれた。


だが、この猫たちが先程煮干しを食べていたのかどうか、にわかに判断出来ない。
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個体の識別には多少の自信があったが、さすがにこれだけ一度によく似た猫に遇うと手に余る。


つい見逃してしまうところだったが、こんなとこにもキジトラがいた。
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駐車されたばかりと思われる車のエンジンルームの余熱で、暖を取っているようだ。
よほど気持ちいいのか、私が近づいてもキジトラは身動ぎしない。



駐車場の隅には、先程の仔猫が身を寄せ合っていた。
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仔猫たちの個体識別は、はなから諦めている。


猫の数は減ったが、せっかく買ったので、捨てられていたトレイにカリカリを盛ってみた。
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離れて様子を見ていると、キジ白が慎重な足取りで近づいていく。


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このキジ白、よほど用心深い性格のようで、すぐには口を付けず盛んに匂いを嗅いでいる。


そのとき、駐車場に隣接した民家から、人の声と何かを打ち鳴らす音が聞こえてきた。
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予感がした私は、急いでその家の正面に回りこんだ。
すると、果たして玄関先に数匹のキジトラが集まっていた。さらによく見たら、エサらしきモノが入った塵取りが置いてある。



辺りに視線を巡らせると、隣の民家の軒下には初めて見る猫の姿もあった。
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玄関の扉が開き、80歳を超えていると思われる老婦人が現れて、言った。
「お向かいで飼ってる猫なんだけど、可哀想だからゴハンとパンを上げてるの」



老婦人が家の中に入っても、私はしばらく思案に沈んだままだった。
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私には、この状態が“飼っている”とは、とても思えない‥‥。
仔猫がいるからには、個体が増えることを承知で不妊手術を受けさせていないことになる。



同様に、飼っているなら、近隣の人から「可哀想」と同情されエサを貰うなど、普通は考えられない。
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それとも、“飼う”という意味の捉え方が、根本的に違っているのだろうか?
老婦人の言う飼うとは、あくまで“エサを与えているだけ”かもしれない。それも気の向いた時にだけ‥‥。



老婦人は、そんな猫たちの状況を見るに見かねて、善意から食べ物を与えている。
そんな人に向かって「猫にニンゲンの食べ物を与えないで」なんて、私には言えない。



複雑な思いのまま駐車場に戻ると、2匹の仔猫が、私の置いたカリカリを仲良く食べていた。
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やがて仔猫は食べるのを中断し、ついと視線を上げた。


仔猫に倣って空を仰ぎ見ると、灰色の空からチラチラチラチラと、白いものが舞い落ちてきた。
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そうして、私は寒々とした気持ちを抱いたまま家路についた。
冒頭に例えた少女のワンダーランドは夢と共に消えたが、私が出会った猫たちは、今も現実の中で懸命に生きている‥‥。



番外編である『故郷の猫シリーズ』、まだ続きます。


〈次回へつづく〉



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故郷の猫 その伍『心情』

2013年02月07日 08:00

全てを記事にするとあまりに長くなり、冗長だと非難される恐れがあったので、敢えて割愛したが‥‥、
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実は、前日コンビニ猫と別れて再度キジトラエリアへ赴く間に、オッドアイの仔猫が暮らす山門前エリアを訪れていた。


灰色の雲が低く垂れこめる空模様では、さすがに日向ぼっこする野良の姿はなかった。
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まず最初に姿を現したのは、オッドアイの仔猫だった。


そのオッドアイの子に、おやつを与えたのだが、サバトラに先んじられてしまった。
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だがこれ見よがしに目の前で煮干しを食べられても、オッドアイの子は悔しがる素振りも怒る表情も見せない。


それは年長のサバトラへの気兼ねかもしれない、と思い、改めて仔猫に煮干しを与えてみた。
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ところが匂いを嗅いだだけで、口を付けようともしない。


煮干しを目の前にしても、心ここに有らずといった風で、目を逸らしてしまうのだ。
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(煮干しを食べたことがないのか?)
何せ、此処の野良たちは、日頃中華麺やパンを食べているくらいだから‥‥。



そこで、新たに買い求めたカリカリを煮干しの横に置いてみた。すると、これにはすぐさま反応し、音を立てて食べ始めた。
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だがやはり、煮干しにはいっさい関心を示さない。


ある程度腹が満たされたオッドアイの仔猫は、溜めおいた雨水で喉をうるおす。
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仔猫が食べ残したキャットフードは、サバトラがすぐに引き継いだ。


食べ物の匂いを嗅ぎ取ったのか、それとも仲間の咀嚼する音を聞き取ったのか、気付かぬうちにハチワレがすぐ側まで忍び寄っていた。
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このハチワレ、食べ物に誘われたとはいえ、こうやって近づいて来るところを見ると、ニンゲンを無闇に忌避している訳ではないようだ。


試しに煮干しを差し出しても、少し身を引くだけで逃げることはない。
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そればかりか私が側にいるにも拘わらず、ハチワレは煮干しを一口一口味わうようにゆっくり食べる。


オッドアイの仔猫が食べているカリカリは、私がこのエリアを訪れた時、すでにこの場に置いてあったものだ。
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恐らく近所の住人が野良たちのために置いたのだろうが、此処に暮らす野良の数を考えれば、あまりに少な過ぎる量だ。


煮干しを食べ終わったハチワレは、サバトラの様子を頭上から窺っている。
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だが関心は寄せていても、ちょっかいを出すとか、横取りをするつもりはなさそうだ。


試しに、松の根元に置かれている用途不明の器に、カリカリを入れてみた。
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後ろを振り向くと、ハチワレの姿が消えていた。
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私は辺りを見回した。意外なことにハチワレは私のすぐ側にうずくまっていた。


器のカリカリを最初に嗅ぎ付けたのは、若いキジ白だった。そこへハチワレが近寄っていく。
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すると、キジ白は慌てて顔を上げ、体を強ばらせて身構えた。
キジ白とハチワレの間に不穏な空気が漂う。



キジ白が前脚を上げて、パンチを出すぞとばかり、ハチワレを牽制する。が、ハチワレは、全くといっていいほど動じない。
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ハチワレの泰然とした姿勢に気圧されたのか、キジ白はあっさりと体を翻した。


実際の争いになる直前、キジ白が潔く身を引いた格好だ。
このように、このエリアの猫たちは喧嘩や諍いを起こさず、力の弱い者が身を引く傾向がある。

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此処の野良社会には、ニンゲン社会で今や死語になった“長幼の序”が未だしっかりと受け継がれているようだ。


そのハチワレを凝視するオッドアイの子。まさか、カリカリを狙っているのでは‥‥。
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そんな私の懸念を無視して、オッドアイの子は軽やかに跳躍した。


だが、私の心配は杞憂だった。仔猫の目的は他にあったようだ。
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どうやら、小さな動くもの(虫など)を目掛けての奇襲攻撃だったようだ。


今日もまた、中華麺の入ったトレイが置かれている。ただ、猫たちの口には合わなかったようで、その多くが残されていた。
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さらに、その傍にはちぎったパンまで無造作に置いていある。


よく見ると、それは“アンパン”だった。
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これもまた、野良たちの好みではなかったのか、食べた形跡はなかった。


このまま放っておけば、いずれ生ゴミと化してしまう。
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局外者の私には出過ぎたマネだと思ったが、これはそのまま処分することにした。


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私が山門近くにいると、黒猫が姿を現した。この黒猫、今回が初見である。
「いったいこのエリアには何匹の野良がいるんだ?」

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カリカリを地面に置くと、おずおずと近づいてきた。そして、カリカリを勢いよく食べ始めた。


その黒猫の背後に、先程の若いキジ白が近づいてくる。
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黒猫は、キジ白の気配を感じたのか、前方を見据えたまま低い唸り声を発した。


その声を聞いたとたん、今回もキジ白はあっさりと踵を返した。
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と、民家の石段の上から、新たな黒猫がのっそりと姿を見せた。


また初見の猫の登場だ。
この黒猫で何匹目なのか‥‥、私は数えることをとっくに放棄している。

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今回の黒猫は、私が差し出すキャットフードには目もくれず、射るような視線を投げかけてくる。
その毅然とした佇まいからは、風格さえ感じる。



私は、試すようにカリカリを置く位置をさらに手前にした。若い黒猫は警戒心の鎧を再びまとって、しばらく私の様子を窺っていた。
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だが、食べ物の魅力には抗えなかったようだ。
このとき、私との距離は1メートルあまりしかなかった。



次に姿を現したのは茶シロだった。
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茶シロは、飽くまでも穏やかな表情で黒猫を見つめている。しかし、その瞳には羨望の色が感じられた。


「お前も食べるか?」そこで私はそう言って、茶シロのためにカリカリを地面に置いた。
すると茶シロは、慎重な足取りで近づくと遠慮がちにカリカリに口を付けた。

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カリカリを置く位置を、黒猫の場合と同様に短くしてみると、躊躇いなく近づいてきた。


ハチワレが背後に回って来たので、同じようにカリカリを与えた。
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ところがハチワレは、すんでのところで中断し、慌てて後じさりした。


そこに現れたのは、さっきまで前方にいた若い黒猫だった。
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こうやって、このエリアの猫たちの力関係がさらに明らかになっていく。


黒猫がいなくなり、やっとカリカリにありついたハチワレ。
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「自分が同じ目に遭って、あのキジ白の気持ちも分かっただろ」


鳴き声がしたので、つと視線を上げると、そこにも初見の猫がいた。それも面差しに幼さを残した、まだ若い白猫だ。
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2匹の仔猫と血縁関係でもあるのだろうか‥‥?どちらにしてもなかなかの美猫である。


よほど腹を空かせているのか、カリカリを地面に置くたびにこの黒猫がやって来る。
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狛犬の台座の陰から年長の黒猫が顔を覗かせている。が、若い野良のようにキャットフードに釣られて近づいて来ることはなかった。
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先程門扉の柱の上にいた若い白猫も参道に出てきた。でもやはり、初見のニンゲンに安易に近づく軽はずみな行動は慎んでいる。


腹を満たしたオッドアイの子は、藁が敷かれた松の根元に独りうずくまっていた
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氷点下に下がる夜中もここで寝るのだろうか、それともほかにねぐらがあるのだろうか‥‥。


さっきハチワレにエサを横取りされた若いキジ白が、物言いたげな面持ちで、私を見つめている。
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この子には後で、存分にカリカリを与えてやるつもりだ。


ふと視線を戻すと、幼い白猫が地面に置かれたカリカリを食べていた。
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しかし、初見のニンゲンに気を許したわけでは無さそうだ。私を見つめる眼を見ればそれがよく分かる。


此処の環境は一見すれば劣悪だが、野良たちの心は、比較的満たされているような気がする。
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それを裏付けるように、食べ物を間に挟んで対立しても、そのことが諍いに進展した場面を、私は一度も目撃していない。


田舎特有ののんびりとした気風が、猫たちにも浸透しているのかもしれない。
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此処の野良たちは同じ境遇の者同士、助け合って暮らしているように見える。
都会ではとんと聞かれなくなった“相身互い”の精神が、この街にはまだ辛うじて残っているからかもしれない。



翌日、エサを与えている近隣の住人と、偶然接触することが出来た。
そのときの様子は次回紹介します。



〈次回へつづく〉



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故郷の猫 その六『慈愛』

2013年02月12日 15:00

山門前エリア
前日一度も姿を見せなかった長毛のキジ白が、オッドアイの仔猫の側にうずくまっていた。あたかも子供を見守る親猫のごとく。

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先日一緒にいた母親らしき猫は、その後見かけない。猫風邪に罹ったあの白猫とは、てっきり親子関係だと思ったのだが‥‥。


2匹の側に、やはり前日姿を見せなかったサバトラが端然と佇んでいた。
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警戒心を含んだ面持ちで、胡乱な視線を私に投げかけてくる。


生垣にはオッドアイの子のきょうだいであろう、眼ぢからの強い仔猫が身を潜めていた。
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視線を戻すと、オッドアイの仔猫の側に黒猫がいた。
前日、私を警戒して最後まで近づいてこなかった、あの黒猫だ。

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そこへ、サバトラが尻尾を立てて擦り寄ってきた。
このサバトラ、妙な猫だ。こうやって友好的な仕草を見せるかと思えば、先日のように若い猫から食べ物を平然と横取りする傲岸さを見せる。



今回私が用意したのは、またたびが入ったスナックだ。
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野良たちは匂いを頼りに、小さなスナックを探している。用心深い黒猫も、またたびの引力には逆らえなかったようだ。


何処かに潜んで今までの様子を窺っていたのだろう、若いキジ白が尻尾を立てて足早にやってきた。
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ところが、私が次々と放るスナックを求めて右往左往する仲間を、キジ白はただ眺めるだけだ。


オッドアイの仔猫は最初こそ転がるスナックに興味を示したが、その後はただじっとしている。
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そしてカメラを構えている私に、不思議なものでも見るような虚ろな目をむける。
瞬膜に覆われ、まともに開かない左目が痛々しい。



いつの間にかハチワレも姿を見せ、小さなスナックを懸命に探している。
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スナックを与え始めて5分と経っていないのに、野良が次々に集まってくる。


サバトラと長毛キジ白が仲睦まじくスナックを探している。
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世知に長けたサバトラだから、あわよくば長毛キジ白が見つけたスナックを横取りしようと企んでいるのかもしれない。


オッドアイの仔猫は、目の前にスナックがあるのに、全く関心を示さない。
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猫風邪のせいで、嗅覚が鈍麻しているのだろう。


またまた、新たな野良が現れた。
前日、オッドアイの仔猫を抱き、寒さから護っていた茶シロだ。

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さっそくまたたび入りのスナックを見つけたようだ。


茶シロは、金縛りに遭ったように動きを止めた。
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と、次の瞬間、茶シロはいきなり地面に身体を擦りつけた。
猫によってまたたびへの反応は様々だが、この野良はかなり敏感なようだ。



このエリアの存在を知るきっかけを私に与えてくれた茶シロが、慎重な足取りでやってきた。
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そして長毛キジ白の傍らへしずしずと近づくと、何やら目顔で話しかけるような素振りを見せる。まるで上司に遅刻した言い訳をしてる平社員のように。


カリカリを与え始めると、野良たちがこぞって参道に出てきた。
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猫がこれだけ一堂に揃うと、なかなか壮観だ。


前日初見の若い白猫までもが、匂いに誘われて姿を現した。
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いつもは他の野良にエサを譲ってばかりいた若いキジ白も、今回はエサにありついたようだ。
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そのキジ白の前を、先程の若い白猫が地面の匂いを嗅ぎながら横切っていいく。
目の前にカリカリがあるのに、近眼の猫には認識出来ないようだ。



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オッドアイの仔猫は、相変わらず身動ぎせずにうずくまっている。


食事の中身はともかく、このエリアの野良の食料事情は悪くなさそうだ。
少なくとも量的には‥‥。

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飢えている様子は全く感じられないし、食べ物のせいで諍いを起こすこともない。


若い白猫が突然地面に身体を横たえた。どうやら、またたび入りのスナックに酔ったようだ。
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地面に置かれたカリカリも粗方食べ尽くされ、所在無げにしている野良の姿が目立ってきた。
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若いキジ白の様子を見ていたが、けっきょく群れの隅で遠慮がちにウロウロしていただけだった。


そしてオッドアイの仔猫は、ついに私が与えたキャットフードを食べることはなかった。
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今も目の前にまたたび入りのスナックがあるのに、目もくれず無視している。


そのとき、背後で扉の開く音がした。私は慌てて振り向いた。
すると、しもた屋風の建物から老婦人が現れ、中華麺の入ったトレイとカリカリを無造作に置いた。

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「こんにちは。此処にはずいぶん多くの猫がいますね。何匹くらいいるんですか?」
私は笑顔を作り、老婦人に当たり障りのないことを訊いた。



「エサを食べに通りを渡って来る子もいるから、20匹ほどになるねぇ」と老婦人。
この日までに、私自身は14匹確認していたから、未だ姿を見せない野良がいることになる。

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20匹となると大所帯だ。そのことを老婦人に言うと「近所の人みんなで大事にしているから」そう言い残して老婦人は建物の中へ姿を消した。


“みんなで大事にしている”。
その言葉を聞いたとき、一瞬違和感を覚えたが、それは私の予期していた答でもあった。

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此処の支援者たちが行なっている野良猫救済の方法は、明らかに間違っている。


間違っているが、それは正しい遣り方を知らないだけで、野良たちへの慈愛自体は、いわゆる“地域猫”として護られている野良たちに向けられているそれと、大きな差異はないと思う。
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それから、猫嫌いのニンゲンの酷薄な虐待が横行する地域に比べてどちらが平穏なのか‥‥、野良たちに訊くまでもない。


〈次回へつづく〉



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故郷の猫 その七『行動』

2013年02月19日 11:00

母は、良い意味で医師の診立てに背き、周りも驚く生命力で小康状態を維持している。
以前は毎週だった通院治療が3週間ごとになり、私は時間を持て余す日が多くなった。

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そこで、無聊を慰める目的もあって、私は時間があると山門前エリアへ通った。


ここは表通りの近くにあるスナック。その店先に黒猫を発見。
私が確認した黒猫はこのエリアに2匹いるが、後ろ姿だけではどちらの黒猫か識別出来ない。

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よく見ると、黒猫のいる店先に白いトレイが置かれている。


近づいて中を覗くと、カリカリが入っていた。
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黒猫はこのカリカリを食べていたようだ。


ドアの側に置かれたトレイにも、同じカリカリが入っている。
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ところが、違うトレイには残り物か賄いらしきものが入っていた。
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味見をする訳にもいかないので断言出来ないが、手間を考えると、わざわざ猫用に味付けされているとは考えにくい。


物陰にいたので最初は気付かなかったが、顔見知りになった茶シロが、すぐ側でカリカリを食べていた。
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ここにも正体の分からない食べ物が発泡トレイに残っている。そして明らかに何者かが口を付けた痕跡があった。


このエリアの野良たちにとって、私は通りすがりの部外者に過ぎない。だから今までは、敢えて主食となるエサを避け、主にスナック類を与えていた。
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でも此処の食料事情を知るにつれて、一度はちゃんとした食事を与えたくなった。


ただ、今後過度な期待感を抱かせないように、試食程度の量に抑えた。
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気配を感知したのか、徐々に野良たちが集まってきた。


注意深く辺りを見回すと、生垣の隙間から様子をうかがっている野良の姿も確認出来る。
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何匹集まるか分からないので、取り敢えず猫缶の半分を開け、用意した紙皿に盛った。
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野良たちは争うことなく、行儀よく猫缶を食べ始めた。


オッドアイの仔猫もやってきたので、同じように猫缶を与えた。
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仔猫はゆっくりと、しかし脇目も振らず一心不乱に猫缶を食べる。


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それまで様子見に徹していた野良も寄ってきて、山門前はにわかに賑わってきた。


野良たちがどんな行動をするのか知りたくて、私は敢えて器を増やさなかった。
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すると、若いキジ白と長毛キジ白がそっと紙皿から離れた。


これまでも年長の先輩猫に譲ってばかりいた若いキジ白の行動はわかるが、厳めしい風貌の長毛キジ白が身を引いたのは予想外だった。
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とどのつまり、猫もまた、見かけでは判断出来ないということだ。


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ハチワレが、生垣からでてやっと姿を見せた。ずいぶん勿体ぶった登場である。


オッドアイの仔猫が参道を横切って、こちら側にやってきた。
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仔猫が使った紙皿を回収しに行くと‥‥、
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猫缶をほぼ完食していた。


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満足そうに毛繕いしている仔猫を見ていると、こっちまで安らぎを覚える。もちろん、一方的な想いであることは承知している。


これ以上野良の数が増えそうにないと判断し、残りの猫缶も開けた。
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と、そこへ若いサバトラが悠然とした足取りでやってきた。


あの程度の量で腹が満たされたのか、大半の野良が紙皿から離れ周辺でたむろし始めた。
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残っているのは、育ち盛りの幼い野良たちだ。
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あとからやってきたサバトラは、その遅れを取り戻そうと懸命だ。


育ち盛りは食べ盛りでもある。
すでに一皿平らげているオッドアイの仔猫も、健啖ぶりを見せる。

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きょうだいである眼ぢからの強い仔猫も、食欲は旺盛だ。


いつもは先輩猫に怯え、遠慮ばかりしていた若いキジ白だが、今日は存分に食べたと見えて、満足気に毛繕いをしている。
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ところが、ここにまだ、執拗に猫缶を漁る野良がいた。
先日仲間からおやつを横取りしたサバトラだ。今日もその横暴ぶりは健在だった。

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まず、近くにいた眼ぢからの強い仔猫の猫缶を、強引に奪いとる。仔猫は為す術もなく、紙皿から後ずさった。


さらに、オッドアイの仔猫の紙皿にも触手を伸ばす。
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サバトラの横紙破りな行為に眉をひそめる人がいるかもしれない。だが、野良社会にも遵守するべき独自のオキテがあるはず。


だから、たとえ専横な振る舞いに見えても、そのオキテに反していなければ、我々がとやかく言う筋合のものではない。
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横暴なこのサバトラだって、いつかは手酷いしっぺ返しに遭わないとも限らない。


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何しろ野良社会は“力”がモノを言う、単純明快なヒエラルキーで成っているのだから。


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ちなみにこのサバトラ、容姿や艶っぽい仕草などからメスだと思っていたのだが、オスであることが判明した。


やはり、まだ物足りないのだろう、若いサバトラが執拗に猫缶のかけらを物色している。
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でもこの日用意したキャットフードは猫缶だけ。そしてその猫缶も、もう残っていない。


松の根元で寛ぐ4匹の野良。藁の敷きつめられたこの場所がお気に入りなのだろう。
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改めて周囲を見渡すと、ほかの野良たちはいつの間にか姿を消していた。


そして、参道には缶と紙皿が残された。
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中を確かめると、底に僅かなかけらがへばり付いているだけだ。気持ちいいほど綺麗に平らげている。


眼ぢからの強い仔猫が参道脇を流れる水路をじっと覗きこんでいる。
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身を乗りだしてまで、いったい何をしようとしているんだ。


「獲物でも発見したのか‥‥?」
真剣な眼差しを水面に向ける仔猫のただならぬ様子に、私は目が離せなくなった。

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この街の水路を流れる水は清く澄んでいて、冬場は数を減らすが、淡水魚をはじめとする水棲生物がいる。


とはいうものの、水を嫌う猫がそれらを獲物として狙うとは考え難いのだが‥‥。
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このあと、私は仔猫の意外な目的を知ることになる。


〈次回へつづく〉



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

『血まみれの毛皮』


日本では今、ファー(毛皮)が流行している、という。

ファーは上着のフードや襟や袖口、そして手袋、帽子、ブーツ、バッグ、アクセサリー、ケータイストラップと、実に様々なものに使われる。
そして、デパート、スーパー、専門店はもちろんのこと、今や100円ショップでも売られている。


ところで、これらの製品を作るために、多くの動物が生きたまま皮を剥がされている事実を、あなたは知っていますか?


「ここに、その事実を伝える映像がある」
ただし、かなりショッキングな映像なので、相応の覚悟をして観るように。
ちなみに私は、この映像を観たとき、あまりの衝撃に嗚咽と吐き気がしばらくとまらなかった。
そして‥‥、自分がニンゲンであることを心底嫌悪した。



最近では、フェイクファー(人工毛皮)より安価というだけでリアルファーが作られるそうだ。
それがため、アジアでは犬猫だけでも毎年200万匹が殺されている。
しかも、その毛皮のほとんどが日本へ輸出されるという。

あなたはこの事実を知っても、まだファー(毛皮)を身に付けますか?


詳しい実情を知りたい方は下記のサイトへ。
あなたに出来ることもきっとあるはず。

地球生物会議ALIVE
JAVA
ヘルプアニマルズ
アニマルライツセンター



『血まみれの毛皮Part2』



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故郷の猫 その八『惜別』

2013年03月02日 06:00

眼ぢからの強い仔猫は、また体を乗りだした。今にも水路へ飛び込まんとしている。
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そこでやっと私の存在に気づき、何やらバツが悪そうな面持ちで見返した。
「いったい、お前は何をしようとしているんだ?」



猫は感情豊かな動物だ。だから当然、見栄や羞恥心もある。
そのときの仔猫が、無様なところをニンゲンに目撃され、当惑しているように私には見えた。

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仔猫はやおら立ち上がると、体を翻しその場から足早に離れていった。


そして、明確な目的があるかのように、仔猫はしっかりとした足取りで歩いていく。
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やがて、ワイヤーが張られた参道のほぼ真ん中で立ち止まると、口を地面に近づけた。


それを見ていた私は、やっと合点した。
130115-38-39.jpg水路で見せた仔猫の不可解な行動の意味がやっと理解出来たのだ。


仔猫が口を近づけていたところ、それは、ポールを立てるためのアスファルトに掘られた穴だった。
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仔猫は、その穴に溜まった雨水を飲んでいたのだ。
たしかに、数日前に雨が降った。けれど、水はけの悪い穴の水が飲料水に適しているとは、とても思えない。



眼ぢからの強い仔猫は喉の渇きから、危険を顧みず水路の水を飲もうとしたのだ。
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すぐ側に清流があっても、飲めなければ、野良たちにとっては無用の長物だ。
私は飲み水を用意してこなかったことを後悔した。



先ほどから、若いキジ白が地面に鼻を擦りつけ、懸命に匂いを嗅いでいる。
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恐らく、トレイからこぼれた猫缶の欠片を漁っているのだろう。


と、そこへサバトラが近づいてきた。世知に長けた猫だから、隙あらばキジ白が見つけた食べ物を横取りしようと企んでいるのかもしれない。
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そんなサバトラの魂胆を察したのか、キジ白がやにわにパンチを繰りだした。不意を衝かれたサバトラは、顔を歪めて大きくのけぞる。


思いがけない攻撃に遭ったサバトラは、いきなり地面に横たわった。
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私の眼には、このサバトラの行動もまた、照れ隠しの表れに映る。


白猫きょうだいは、そのサバトラを物珍しそうに見つめている。
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この白猫きょうだい、毛色からして父猫も同じだと思われる。
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こういう諺がある‥‥“兄弟は他人の始まり”
ニンゲンは結婚などで各々が家庭を持つと、徐々に疎遠になり、ついには他人同様になる、という意味だ。



唯一の兄弟である弟を15年前に喪った私には実感がない。が、周りを見ていると、この諺が正鵠を射ているケースが多々あることに気づく。
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猫の場合は、自分の意志とは関係なく肉親と離別する場合も少なくない。
だから‥‥。



家を持たぬ苦境のきょうだいには、野良でいるあいだだけでも仲良く暮らしてもらいたい。
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“寝子”が語源と言われるほど、猫は実によく眠る。平均睡眠時間は14時間以上と、1日の半分以上を寝てすごす。


仔猫の睡眠時間はさらに長く、平均20時間にもなる。この数字は、よく眠る動物として知られるナマケモノやコアラとおっつかっつである。
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ただ、常に外敵を警戒している野良猫の睡眠時間は短く、平均8時間ほどだといわれている。


生き物にとって睡眠はひじょうに大切だ。
ちなみに、ニンゲンの理想的な睡眠時間は7時間で、それより短くても長くても病気などによる死亡率が高くなる、というデータがある。

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だから、飼猫と比べて野良の寿命が著しく短いのは睡眠時間のせい、という説には頷ける


「ん、じゃあ睡眠障害を患い夜の睡眠時間が2、3時間ほどで、昼間細切れに数回眠ってしまう私の場合はどうなるのだろう‥‥?」
深く追求するとよけいに眠れなくなり、負のスパイラルに陥るので考えるのをやめた。



サバトラがしずしずと松の根元にやってきた。
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まず長毛キジ白の機嫌をうかがうように挨拶する。


長毛キジ白は不承不承といった感じで応対した。存外つれない態度である。
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気のせいかサバトラの表情が冴えない。若いキジ白に味わわされた屈辱が、未だ尾を引いているのだろうか。


遠慮がちにきょうだいの前を横切るサバトラ。
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横柄だったサバトラにしては、ずいぶん神妙な態度である。


そしてサバトラは、藁の上に体を横たえると、そっと仔猫に寄り添った。
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はて、このサバトラの態度の変化は、仲間に対する今までの専横な振るまいを反省してのことだろうか?


ネコ科の動物は総じて自立心が強く単独行動を好む。だから、ライオンを除いて、イヌ科の動物のように仲間と群れることはない。
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だけど野良猫の場合は、こうやって同じエサ場を持つ者どうしが群れつどう例がままある。


寄る辺ない暮らしをしているうちに、自然と仲間意識がめばえるのかもしれない。
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参道に面した民家のひさしの上に、白と茶の模様が見える。
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よく見ると、2匹の茶シロが日向ぼっこをしていた。


いつからそうしていたのか、山門の脇に白猫が独り佇んでいる。
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先日2匹の仔猫を引き連れていた、母猫と思われる白猫だ。


私の動きに注意をはらいながら、白猫は慎重な足取りで近づいてきた。
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常連のエサ遣りさんが給餌してくれる時刻が近づいたのかもしれない。


「もう少し早くやって来れば、猫缶が食べられたのにな‥‥」
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私がそう語りかけても、白猫は虚ろな面持ちで辺りを見回すだけだった。


野良たちが揃って昼寝を始めたので、私は境内をしばらく散策した。
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山門前に戻ってみると、さっきの白猫の姿はなく、その代わりに若いキジ白が加わっていた。
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白猫きょうだいは体を絡み合わせて眠りつづけていた。


カメラを構える私を、若いキジ白が見つめ返してくる。
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でも最初会ったときに濃かった警戒色が、少しではあるがその瞳から薄まっているように感じる。


このとき、野良たちと私との距離は5メートルほど。
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以前なら、逃げるまではいかなくても、眠るなど考えられなかった距離である。


少なくともここにいる野良たちは、私が敵意を持っていないことを分かってくれたようだ。
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白猫きょうだいに至っては、警戒心など微塵もない様子で爆睡している。


ふと視線をあげると、民家の屋根に移動した茶シロがのんびりと毛繕いをしていた。
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街中には猛禽類などの外敵もいないから、思えば一番安全な場所だ。


さて、出会えばいずれ別れがやってくるのは必定‥‥。
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こうして、このエリアの野良たちと少しだけ近しくなったが、私が故郷を離れる日が迫っていた。


私自身の診察日が近づいてきたのだ。
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だから母が小康状態を保っているうちに帰宅することにした。


しかし、今は落ち着いているとはいえ、母が予断を許さない状態なのは変わりなく、近いうちにふたたび実家へ戻ることになるだろう。
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私は野良たちの眠りの邪魔をしないよう、静かに山門から離れていった。
また会えることを祈りながら‥‥。



午前中にケアマネジャーさんと主任ヘルバーさんと、入念な打ち合わせを行った。
そして午後、私は故郷をあとにした。




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