5ヶ月ぶりの訪問

2012年04月22日 20:12

「海岸猫に会いに行こう‥‥」
私がようやく腹を決めて海岸へ赴いたのは、郷里から戻って半月以上が経った頃だった。

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その日の海岸は、あいにくと上空を灰色の雲に覆われ、吹きつける海風がこの時期にしては冷たい。


父の他界で帰郷する直前まで臥していた私にとって、海岸猫との対面は実に久しぶりのことだ。過去の写真データで確認したら、その期間は5ヶ月近くに及んでいた‥‥。


船宿エリアを訪れた私を最初に出迎えてくれたのは、今回も“釣宿の看板娘ミイロ”だった。
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私の姿を認めたミイロは、親しげな鳴声をあげながら近づいてくると、私の足許にうずくまった。


久しぶりに見るミイロに変わった様子はない。どうやら5ヶ月間息災に過ごしていたようだ。
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彼女の気性がそのまま表出した顔貌は、今やある種の風格さえ感じさせる。


何気に目を巡らせると、ぽつねんとうずくまっている海岸猫を発見した。
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“浜の伊達男”“船宿のクールガイ”などの異名を持つコジローだ。


久しぶりに会った私のことなど眼中にないとばかりに、コジローは大きなアクビで応えた。
「まあ、5ヶ月も無沙汰したのだから当然だが‥‥」

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そのコジローの視線を辿ると‥‥。


そこにはアイとシシマルの姿があった。どうやら2匹も私の姿を認めたようだ。
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「アイちゃん」
私が名を呼ぶと、アイはおもむろに近づいてきた。



そして私の脚に体をすり付けはじめた。この行為は彼女のいつもの歓待方法だが‥‥。
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この時、私の目頭はにわかに熱くなり、危うく落涙するところだった。
そりゃ感激するだろう‥‥野良猫からこんな歓迎を受けたら。
そして私は改めて思い知った。
“やっぱり、自分は猫によって生かされているんだなぁ”と。



さて一方シシマルは、というと‥‥。
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私が側に近づいても泰然として、微動だにしない。さらに私に対して、刺すような視線を送ってくる。逞しい体躯とあいまって、エリアのボスの貫禄十分だ。
固まった頬の毛が気になったが、怪我ではなく、ただの汚れだとわかり一安心した。



やがてシシマルはその巨体をゆっくり起こすと、大きな伸びをした。
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そして再びどっかと腰を下ろした。ひょっとしたら、これが彼なりの私への挨拶かもしれない。


後ろをふりむくと、ミイロがひっそりと佇んでいた。
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その面差しは、さっきの厳しさが霧散し、なぜか憂いを含んでいる。


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周囲を見回したが、他の海岸猫の姿は見当たらない。


エサの匂いに誘われて現れることもよくあるので、取り敢えず食事タイムにした。
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ミイロはトレイに一瞥をくれただけで、シカトを決め込んでいる。口に合わないのか、満腹なのか‥‥、この態度も以前と同じだ。


しばらくするとシロベエが姿を現した。おそらく物陰からこちらの様子を窺っていたのだろう。
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シシマルたちがいるからか、警戒して近づいてこないので、トレイを眼の前へ持っていってやった。


するとシロベエは、まるで毒見をするように慎重に口を付けた。
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ミイロには改めてカニカマを与えた。カニカマは彼女の好物である。


行儀よく食事する海岸猫たち‥‥。
ただこの日は、訪れた時間が早かったせいか、皆あまり腹は減っていない様子だ。

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ふり返ると、シロベエの姿がなかった。


トレイの中には猫缶がほとんど残っている。常にがっついていたシロベエには珍しいことだ。
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コジローとアイも猫缶を残して姿を消してしまった。


どうやら2匹はシロベエを嫌って退散したようだ。
それでも執拗にコジローの後を追うシロベエ。

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が、シロベエはコジローを見失ったようだ。


「オイオイ、そんな狭いトコは入れないだろう」と思わずつっこんでしまった。
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ミイロはそんな騒ぎなど自分には無関係だとばかり、冷静な表情で傍観者に徹している。


シシマルは、というと‥‥。
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やはり自分には関係ないとばかりに、平然と食後の毛繕いをはじめた。


しばらくすると、物陰からアイがひょっこり姿を現した。
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諍いの側杖を食わないように避難していたようだ。


その場に残ったシシマルとミイロが、目顔で何かを語るように見つめ合う。
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と、次の瞬間、何かを感じたのか2匹同時に同じ方向へふり返った。


そこにいたのは‥‥、植込みの中から周りの様子を窺っているシロベエだった。
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シロベエは不自由な後ろ脚を引きずりながらエサ場へ近づいていく。


シシマルがそのシロベエの行動を注視している。
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シロベエがシシマルの存在に気づき、小さな声を発した。


その声に呼応するように、シシマルがゆっくりと道路に進み出る。
そうして2匹の海岸猫は対峙した。

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束の間そうしていたが、シロベエに敵意がないのを察知したらしく、シシマルはいきなり踵を返した。


その巨体を誇示するように、シシマルが私の眼の前を悠然と横切っていく。
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続いて、アイがやや足早に後を追う。


そしてシシマルに体を寄せて甘える仕草を見せる。
その時だった‥‥!

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何を思ったのか、その2匹の側にシロベエがやってきたのは。
「いったい、何を‥‥?」



と、シロベエはその場にいきなり体を横たえた。
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猫がこうやって腹を見せるのは相手を信頼している証である。なぜなら無防備な腹を晒す行為は、その相手が攻撃してこないと確信してこそ出来ることだからだ。


そしてまた、「だから、遊んでよ~」という意味も含まれている。つまりシロベエはシシマルたちと仲良くしたいのだ。
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しかしシシマルとアイはシロベエを見向きもせず、わざとらしく毛繕いをはじめた。どうやらシロベエの想いは、この2匹に毛ほども通じていないようだ。


肩を落とし去っていくシロベエの後ろ姿は、いかにも寂しげだ‥‥。
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今や“トラブルメーカー”だの“空気の読めないヤツ”だのと呼ばれ、他の海岸猫たちから厭われているシロベエだが、このエサ場に現われた当初は幼い仲間に慕われ、よく遊び相手になっていたものだ。そんなシロベエが他の海岸猫と頻繁に悶着を起こすようになったのは、脚に障害を負ってからだ。


シロベエは2年前に、この場所へ遺棄された所謂“捨て猫”である。それゆえ、この白猫の生い立ちを知る者はいない。
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ミイロはシロベエと目が合うと、ついと顔を背けた。さすがの“特攻隊長”もこの空気の読めない白猫は苦手なようだ。


釣客が戻り、釣宿の店先がにわかに賑わってきた。私はそれを機に、エサ場から立ち去ることにした。
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その気配を察したのか、アイが再びすり寄ってきた。
「アイちゃん、また来るからね」
私は別れを惜しむように、アイの背をしばらく撫でていた。



そのまま帰路に就くつもりだったが、予定を変更することにした。
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ようやく海岸へ来られたのだから、他の海岸猫にも会いたいと思ったのだ。



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