敵対する猫たち その参

2012年05月27日 12:00

このハチワレ、どうやら猫缶の匂いに誘われて姿を現したようだ。
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「待ってろ、お前の分もすぐに用意してやるからな」と私はハチワレに声をかけた。
食べ物が原因で、海岸猫同士が争うほど無益なものはないと、私は思っている。



ところがトレイを持って近づくと、ハチワレは慌ててコンテナの下に身を隠してしまった。
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人馴れしていないところを見ると、野良歴が長いのかもしれない。


しばらくすると、ハチワレは用心深く、コンテナの違う場所から這い出してきた。
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そして、私を含めた周りの海岸猫たちの動向を、悠然と窺いはじめた。
辺りを睥睨しているその態度からは、野良猫としての貫禄さえ感じられる。



私とこのハチワレ‥‥実は、この日が初対面ではない。
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この日から2日前、やはり曇天の夕刻のことだった‥‥。


エリアの外れで、盛んに鳴声をあげているハチワレに遇ったのは。
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ある程度の距離までは自ら近づいてきたのだが、こちらから歩み寄ると、ハチワレは慌てて物陰に隠れてしまった。


その時、私はハチワレがほかのエリアから流れてきた海岸猫かと思っていたが、後日そうではないことを知らされた。
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出自はどうあれ、お前はこのエリアに棲みつくつもりなのか、それとも束の間留まっているだけなのか‥‥?


これまでも、海岸で見知らぬ猫を目撃したことが何度かあった。そのまま棲みつく者もいれば、すぐに立ち去る者もいた。その分かれ目には、エリアの先住猫との相性が大きく影響していると思われる。
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その折、ハチワレに関心を寄せていたのは、“特攻隊長”のミイロだった。


私としては、その後の動向を見極めたかったのだが、空模様がそれを許してくれなかった。
予報よりも早く、ポツリポツリと雨だれが落ちてきたのだ。

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上空には見る間に黒い雲が広がり、しだいに雨足が強くなってきた。


ミイロも身体が濡れるのを嫌い、軒下に逃れた。
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傘を持たない私は、これ以上の撮影は無理だと判断し、帰途についた。


それから2日経っても、ここに留まっているのだから、おそらくハチワレ自身はこのエリアに棲みつく気なのだろう‥‥。
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好みを知るためもあって、試しにドライとウェット両方のエサを与えてみた。


するとハチワレは、僅かに迷ったあと、カリカリに口を付けた。
冒頭述べたように、私はハチワレが猫缶の匂いに釣られて、姿を現したと思ったのだが‥‥。

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物の好み、所謂“嗜好”というヤツは、人も含めて、やはりそんなに単純ではないということだ。
ならばと、ほかの海岸猫が残したカリカリもデリバリーしてやった。



ハチワレの食事は、あくまでも鷹揚で、飢えている様子は微塵も感じられない。
おそらく、このエリアの猫たちを世話するSさんや船長さんからエサを貰っているのだろう。

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そのハチワレの様子を、さっきからじっと見つめつづける海岸猫がいる。


それは、このエリアのボス的存在だと、自他共に認める巨漢猫のシシマルだ。
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だが、シシマルの表情からは、シロベエに向けるような敵意も警戒感も読み取ることが出来なかった。少なくとも私には‥‥。


私の直観が正しければ、このハチワレは、此処のエリアの猫たちに受け容れられていることになるのだが‥‥。
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シシマルの態度を見ていると、まだ完全に仲間として認められているとはいえないようだ。


それに、ハチワレの表情や挙動を注意深く観察すると、微かだが緊張の色が垣間見える。
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辺りを見回す視線にも、相手を威圧する光が宿っている。


やがて、満腹になったらしく、ハチワレがおもむろにトレイから離れていく。
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派手な鳴声をあげて登場したわりには、大して腹が減っていなかったようだ。
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結局、猫缶には一度も口を付けなかった。


何気に巡らせた私の視線が、1匹の海岸猫の姿をとらえた。
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それは“浜の伊達男”の異名を持つコジローだった。
「コジロー、そんなトコに隠れていたのか」



コジローは車の下から、ずっと見ていたのだ。ハチワレの一挙手一投足を。
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コジローのことだから、てっきりエリアの外へ逃げたか、容易に発見されない場所に隠れていると思っていたから、意外だった。


そろそろエリアから離れようと、舗装道路へ向かおうとした私は、思わず足を止めた。
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2メートルと離れていない草むらに、さっきのハチワレがうずくまっていたからだ。
それにしても、微動だにしないとは‥‥?



そっと迂回してみて、初めてその訳が分かった。
ハチワレは、シシマルと道路を挟んで対峙していたのだ。

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と、そこへ両者の視線を遮るように、ミイロが割って入ってきた。
気丈夫な彼女らしい大胆な行動だが、いったい何をしようというのか?



ミイロは足を止めると、ハチワレと目を合わせた。
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続いて、視線を交えたまま、ミイロがゆっくりと姿勢を低くしようとした、その瞬間‥‥、


ハチワレはいきなり身を翻して、その場から離れた。
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そんなハチワレを、ミイロは物寂しげに、ただ見つめている。
先日の行動といい、ミイロはハチワレに特別な感情を持っているのかもしれない。



さらにもう1匹、物陰からハチワレの様子を窺っているヤツがいた。
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またしても、コジローだ。こいつも、ハチワレに対して特別な思いを抱いているのか?


コジローとハチワレ‥‥。私が関知していないだけで、すでに2匹の間には、軋轢を生じさせる“何か”が起こったのかもしれない。
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当のハチワレは、2匹の視線を感じているのか、いないのか、悠然とした足取りで去っていく。


ミイロはコジローの側へ来ると、そっとうずくまった。
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そこへ、今まで何処に隠れていたのか、アイが姿を見せた。


そしてシシマルは、というと‥‥、
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皆が残した猫缶に舌鼓を打っていた。さすがはエリアのボス、体もでかいが器もでかい。


今後、新顔のハチワレは、このエリアでどんな役割を担っていくのだろう‥‥?
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何にせよ、私の願いはただひとつ。
たとえハチワレがエリアの海岸猫たちと敵対しようとも、事故などの禍難に遭うことなく、神から賜った天命を全うしてほしい。
ただ、それだけだ‥‥。




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敵対する猫たち その弐

2012年05月20日 10:00

ミイロの関心は、もっぱら陸にあげられた廃船に向けられ、ほかの猫が自分を監視していることなど、まったく気づいていない様子だ。
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猫は好奇心がとても強い生き物だ。目新しいものがあると、探索しないと気がすまない。


イギリスに『好奇心は猫をも殺す』という諺がある。
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その意味は、9つの命がある猫でも死んでしまうくらいだから、興味本位であちこちに首を突っこむと、命がいくつあっても足りない、ということらしい。


諺の常套として、ほかの生き物に仮託し、間接的に人を戒めているのだが、この言葉は猫への箴言としても十分通用する。
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猫の不審死や事故死の中には、猫の好奇心が原因の事例が少なくないと、私は思っているからだ。


その点、このキジ白は自分のテリトリーからほとんど出ず、人に対する警戒心もしっかり持っているので、発病さえしなければ長生きするだろう。
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私が気がかりなのは、好奇心が旺盛で向こう見ずで妙に人懐こい猫だ。
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「ミイロ、お前はその中の筆頭なんだぞ」


私がそう思っているそばから、ミイロは薄暗い開口部へ入っていく。
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もちろん、私だって知っている‥‥。猫が狭い場所を好むことは。


それでも敢えて問いたい。「ミイロ、そこはどうしても探索しなければならない場所なのか?」と。
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去年の冬、カポネは前足を重油に突っこんで、まもなくエリアから姿を消した。
また最近では、大きな水桶の中で溺死した海岸猫の悲報も耳にした。
ちなみに、『吾輩は猫である』の主人公の猫も、最後は甕(かめ)の中で溺れ死んだ。



本当に‥‥災厄は、いつ何時やってくるか分からない。
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船内の探索が終わったのか、まもなくミイロが甲板に姿を現した。
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「ミイロ、何か面白いモノでも見つかったか?」


が、ミイロは私に一瞥もくれず、しなやかな足取りで船縁を歩きはじめた。
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その様子を険しい表情で見つめつづけるキジ白。
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このキジ白に、どんな呼び名を付けるか長らく悩み、特徴的な三白眼からの連想で“デューク”、あるいは“ゴルゴ”などの候補があったが、やはりメスには不適当なので、“三白”を訓読して“ミツシロ”と呼ぶことにした。ただ、登場回数は今後も少ないだろう。


よほどこの廃船が気になるらしく、ミイロは再び船内探索をはじめてしまった。
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その間に、私はコジローの姿を求めて、エリアの中をゆっくりと巡った。
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しかし、“浜の伊達男”を発見することは出来なかった。


私が道路に出てみると、ミイロが所在なく佇んでいた。どうやら、廃船の探索が完了したらしい。
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ミイロは私の姿を認めると、その場に腰をおろし、人待ち顔の表情を見せる。


「コジローはいなかったよ。ミイロ、一緒に戻ろう」
声をかけると、ミイロはすぐに呼応し、私の後に付いてきた。

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やがて私を追い越すと、ミイロは自分のエリアへの歩度を速めた。


ところがエリアへ入ったとたんに、その歩度が鈍った。
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そして店の前まで来ると、その場に留まり、耳をそばだてた。


自分のエリアに戻ってきてから、警戒心をあらわにするなんて、不自然なことだ。
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ミイロの視線を辿っても、エリア内は静まり返り、特段変わった様子は見られない。


それでもミイロは耳をそばだてて、周りに警戒のレーダーを張る。
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彼女が何に神経を尖らせているのか‥‥、私に心当たりがないでもなかった。


その時だった‥‥。何気に見遣った視界の中に、見知った猫の姿が入ってきたのは。
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「なんだ、お前こんなトコにいたのか」
それは、さっきのエリアで探し求めていた“浜の伊達男”こと、コジローだった。



どうやらコジローは、私が訪れた時、すでにコンテナの上で昼寝をしていたようだ。
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「ところで、この前から気になっていたんだけど‥‥、お前太っただろう」


外で暮らす野良猫は、自ら脂肪を蓄えて冬の寒さに備えると、以前仄聞したことがある。
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しかし、こと海岸猫に限ると、季節によって体重を増減させている実例を、私はほとんど見ていない。


そういう意味で、コジローは稀有な海岸猫だ。
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「でもなコジロー、暖かくなってきたんだから、そろそろダイエットしないと、“浜の伊達男”の異名を返上することになるぞ」


コジローが現われたところで、夕食タイムにした。
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このエリアの海岸猫たちの栄養状態は、おおむね良好だ。


この時刻、なぜか猫缶を食べないミイロには、今回も“猫用カニカマ”を与える。
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こういう時、近くに潜んでいれば決まって姿を見せるシロベエが、なぜかまだ現れない。
私はシロベエの姿を求めて辺りを見回った。

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シロベエは、同じエリアの海岸猫から厭われ、仲間外れにされている。たとえ、それが彼自身の行動が引き起こしたとはいえ、食事の時に姿を現さないのは、やはり不自然だ。


と、その時、派手な鳴声をあげながら1匹の猫が姿を現した。
シシマルがトレイから離れて、身構える。コジローとアイは、いち早く姿を消している。

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威嚇のつもりなのだろう、「ニャア、ニャア!」と間断なく声をあげながら、その猫は大股で近づいてくる。


このハチワレ、少なくとも5ヶ月前までは、ここの住人ではなかった。
迷い猫なのか、それとも流れ猫なのか、私には判断がつかない。

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ただ、その伝法な態度から、この猫の生き様を垣間見た気がした。


ハチワレの鋭い視線はミイロに注がれている。
そのミイロは、シシマルと共に逃げることなく、その場に留まり、身構えている。

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さすがは“特攻隊長”、尻尾を巻いて逃げ出したコジローなどより、よっぽど肝が据わっている。
ミイロの神経が過敏になっていたのは、このハチワレの気配を察知していたせいかもしれない。


〈次回へつづく〉



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敵対する猫たち

2012年05月12日 12:00

この日の湘南海岸の空は、鈍色の厚い雲に覆われていた。今回もまた、青い空にお目もじすることは叶わなかった。
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たまたまこういう巡り合わせなのか、それとも日頃の私の不行状のせいなのか?
私自身は後者のような気がしてならない‥‥。



たとえ閉店していても“看板娘”の務めをする、勤勉なミイロ。
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でもミイロの威圧感あるたたずまいは、看板娘というより用心棒のそれのように感じるのは私だけだろうか‥‥?


そんな彼女も時折、このような物寂しい表情を見せる。
いつもは気丈夫なミイロの、こんな様子を目の当たりにすると、私はつい彼女の過去の奇禍を思い出してしまう‥‥。

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ミイロは元々飼猫だった。ところが一昨年の秋、此処へ遺棄されたのだ。
信頼しきっていたニンゲンの酷い裏切りに遭ったミイロの心に、刻まれた傷の深さを、測り知ることなど、私には出来ない。



ただし、これだけは断言出来る!
「ミイロ、命をゴミのごとく捨てる冷血なニンゲンなど早く忘れてしまえ。そんなヤツは、いつか必ず報いを受ける。たとえ現世を無難にやり過ごしたとしても、来世では生まれてきたことを後悔するような宿業に苦しむはずだ」と。



それに、そんな飼い主と暮らすより、船長さんをはじめとするお前を愛してくれる人が多くいる此処にいるほうが幸せだ‥‥まだ
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そこへアイがゆっくりと近づいてきた。


ミイロが何か気になるものを発見したようだ。アイも思わず駆けよる。
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近づいてみると‥‥その場には相応しくない妙なモノが置いてある。


それは“おにぎり”だ。包装をしていないモノまである。
いったい誰が何のために、こんな所に置いたのだろう‥‥?

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ともあれ、それらのおにぎりが、海岸猫の歓心を買うことはなかった。


アイが、いつものように体をすり寄せてきた。
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シャムの血を継ぐ、この愛らしい猫が生粋の野良猫だなんて、私は未だに納得が出来ずにいる。


次に出会った海岸猫は、巨漢のシシマルだ。
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私の接近に気付いているのに、悠然と毛繕いするところなんて、さすがはエリアのボスである。


でもこの偉丈夫な猫の性格は、見かけによらず温和で優しい。
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そのシシマルの優しさを一番知っているのは、アイだ。


アイがシシマルにぴったりと体を寄せて、甘えはじめる。
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するとシシマルは、アイを慈しむようにグルーミングをはじめた。


シシマルに身を任せ、うっとりと眼を閉じるアイ。
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念のためにいっておくが、この2匹の海岸猫は血縁ではない。


シシマルとアイは以前から仲は良かったが、ここまでの親密性を見せるようになったのは、去年あたりからのような気がする。特にアイのシシマルへの思慕の念が強くなったような‥‥。
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ところで、“血は水よりも濃し”というが、猫社会はいざ知らず、人間社会に限れば、私は素直にこの諺に賛同出来ない。


見よ、このアイの至福の表情を。
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陶然としたアイの仕草からは、艶めかしささえ感じるほどだ。


その時、何かの気配を感じたのか、シシマルがついと顔をあげた。
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シシマルの視線を辿ったら、独りぽつねんとうずくまったミイロがいた。
仲睦まじいシシマルとアイを見つめる元飼猫‥‥、その面持ちには、何か物思いにふけるような寂しさがある。



中断した毛繕いを続けてくれといわんばかりに、アイが嬌態を見せる。
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と、またシシマルがカブリを振って、表情を硬くした。今度はアイも、同じ方向を見遣った。


シシマルの横顔からは緊張感が伝わってくる。
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2匹の視線の先にいたのは、トラブルメーカーのシロベエ‥‥。


すると、シシマルはおもむろに体を起こして、シロベエに向かってゆっくりと歩きはじめた。
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ところが、シシマルが道路に出てみると、シロベエの姿が消えていた。


シシマルの出現に怖気づいたのか、シロベエは物陰に身を隠している。その目には怯えと、ほんの少しの敵意が含まれているように感じた。
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そこへミイロまでやってきて、シシマルと共にシロベエに警戒の目を向ける。
やはり、エリアの用心棒を自任しているのか‥‥?



ややあって、シロベエは物陰から出てきた。
そのまま2匹の前を通り過ぎようとしていたシロベエが、ふいに立ち止まった。

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私には、シロベエがそのまま立ち去るかどうか、逡巡しているように見える。


やがてシロベエは、シシマルとミイロに向き合うようにうずくまった。
先日推察したように、シロベエは仲間に入りたいのだ。構ってほしいのだ。

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が、シシマルとミイロのすげない態度を見て、シロベエは諦めたようだ。


思いを断ち切るように立ち上がると、静かに歩を進めはじめた。
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前回もそうだったが、尻尾を垂らしたシロベエの後ろ姿には悲哀が漂っている。


そのシロベエを見つめるシシマルの表情は、あくまでも険しく、警戒心が緩むことはない。
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不自由な後ろ脚を引きずりながら、とぼとぼと去っていくシロベエ。


去年シシマルは、右頬に顔の形が変わるほどの酷い傷を負った。加害者はおそらくシロベエ‥‥。
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以来、シシマルはシロベエに対して、公然と敵愾心をあらわにするようになった。


誤解のないようにいっておくが、エリアの海岸猫たちはシロベエの脚が不自由だから嫌っているわけではない。私が見るところ、原因はあくまでもシロベエの側にあるようだ。
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猫は遊びの一環として“じゃれ合い”をするが、シロベエの場合、途中で本気(マジ)になってしまうのだ。ニンゲンにもいるだろう‥‥、プロレスごっこをしている途中で、いきなりムキになってしまう無粋なヤツが。
ただし、シロベエが粗暴になったのは、不自由になった後ろ脚が少なからず影響を与えていると思われる。



未だ姿を見せない海岸猫を捜すため、私はエサ場を離れた。
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途中、珍しい海岸猫と目が合った。人には決して心を許さない猫、茶トラだ
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以前同様、茶トラは胡乱な表情で私を睨む。目付きが更にきつくなったような気がする。
「お前の呼び名はとっくに決めているんだけど、発表する機会がなくて残念だよ」



私は敢えて見て見ぬふりをしていたが、エサ場からずっと尾行するヤツがいる。
‥‥ミイロだ。

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用心棒の職務で、私を護衛しているのかもしれない。


私は違うエリアまで足を伸ばそうとしている。
だから、このままミイロを引き連れていって、よけいなトラブルなど起こしたくはない。
「ミイロ、付いてくるんじゃない。お前は自分の縄張りに戻るんだ」

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しかしミイロは私の諫言を、あっさり無視した。そして今度は、水先案内人よろしく、私の前を歩きはじめた。


やがてミイロは立ち止まり、険しい表情を作った。
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更に身をかがめて、警戒の姿勢をとるミイロ。


ミイロの視線が捉えていたのは、散歩中の犬だ。
でもむこうは、ミイロの存在など歯牙にもかけない様子で、黙々と歩いている。

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ミイロは犬が通り過ぎても、固まったように姿勢を変えない。


犬が遠ざかったのを見届けると、ミイロは警戒心を解かないまま慎重に体を起こした。
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以前、このエリアには、よくコジローが出張ってきていたのだが‥‥。
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このエリアにただ1匹残ったキジ白は、すでに闖入者の存在に気付いていた。


私も闖入者であるが、彼女が警戒しているのは、同じ海岸猫のミイロだけのようだ。
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ところがミイロのほうは、キジ白の存在にまったく気付いていない。


キジ白は上体をかがめ、ミイロの一挙一動を鋭い三白眼で凝視しはじめた。
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まるでスナイパーのような目付きに、“デューク”と名付けたいのだが、メスには相応しくないので、迷っている。


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ほかのエリアに来て、逆に警戒心が鈍麻したのか、ミイロは物見遊山でもしているように、のんびりと辺りを見回している。

〈次回へつづく〉


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5ヶ月ぶりの訪問 その弐

2012年05月01日 00:00

船宿エリアを後にした私は、他のエサ場を目指して海沿いの道を東へ向かった。
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私の心中には海岸猫と会える期待が膨らんでいたが、また同時に懸念もあった。
「みんな以前と変わらず、元気にしているのだろうか‥‥」



そんな心情をおもんぱかったように、私がエサ場へ足を踏み入れた途端、すぐさま1匹の海岸猫が姿を現した。
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そして私の眼の前で、地面にごろりと転がった。


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こ、このボディランゲ-ジは‥‥、シロベエと同じではないか。


と、いうことは5ヵ月ぶりに訪れた私を、ちゃんと憶えていてくれたんだ。なおかつ「あなたを信頼していますよ」とまで言ってくれているのか‥‥。
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ところが、その海岸猫はすっくと立ちあがると、私に背を向けて足早に離れていく。


「今のは、ひょっとしてフェイク‥‥?」
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この海岸猫の名は“ ビク ”。いつも何かに怯えてビクビクしているから、私が勝手に付けた。ちなみに、このエリアを担当しているボランティアさんやほかのブロガーさんは違う呼び名を使っている。


「ビク、久しぶりだな‥‥。元気でいたか?」
私は出来るだけ優しく語りかけた。

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しかしビクは、私を一顧だにしないで眼の前を素通りしていく。


それから、再び地面に体を横たえた。
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今度はすぐに体を起こした。それでも私をほうをチラリとも見ない。その余りににべ無いビクの態度に少々焦ってきた‥‥


と、次の瞬間、ビクはクルリと体の向きを変えると‥‥、
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早足でこちらへ歩いてきた。カメラのピントが追えない速さで。


そして、「ミャーミャー」と鳴きながら私の脚に体をすり寄せた。
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「こいつ、勿体ぶりやがって。素直に寄ってくればいいのに」そう言いながらも、私は思った。

先ほどの一連の行動は、長い間顔を見せなかった私への抗議かもしれない、と。
もしそうなら‥‥、何てささやかで、いじらしい抗いであることか‥‥。



エサ場に行くとほかの海岸猫も姿を現した。
海岸猫は押しなべて寡黙だが、この茶トラはよく喋る。この時も、間断なく「ニャア、ニャア」と何かを訴えつづけていた。

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もう1匹のメスのキジブチは尻尾を立てて側まで来たが、この行動だけでは彼女の真情をうかがい知ることは出来ない。


後ろをふり向くと、ビクがエサ場を前にして座り込んでいる。
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臆病猫のビクは、同じエリアの猫にさえ警戒心を容易に解かない。


こういう場合も耳をそばだて、周囲に目を光らせる。
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そして微かな物音や気配にも過敏に反応し、緊張した面持ちを見せるのだ。


そのビクが正面を見据えたまま固まった。
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先ほどの茶トラが、ビクに向かって近づいてきたのだ。


茶トラが歩みを停め、二匹は対峙した。
私の記憶では、このエリアでの居住期間はビクのほうが長いはず‥‥。
つまり茶トラの先輩にあたる。

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「さあ、どうするビク?」
お前は先輩としての威厳を保てるのか‥‥。



「あら‥‥」
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ビクはゆっくりとその場を離れていく。慌てた様子を見せないのは、先輩としての矜持のなせる業か‥‥?


茶トラはビクを横目に、平然として歩を進めはじめた。
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ビクは、と見ると、廃材の上に退避している。


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ビクの視線の先には、茶トラの後ろ姿があった。


茶トラが植込みの中に姿を消すまで、寸秒も眼を離さない。
こういう所為が“臆病猫”と呼ばれる所以である。

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この海岸猫は今年で8歳になるはずだ。
野良猫の寿命は一般的に飼猫より短いといわれている。
なので、これからも臆病なままでいい。無用な諍いで怪我をしてもすぐには対応出来ないのだから。



私はビクに別れを告げて、更にほかのエサ場を目指した。
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エリアに入った私の目に、いきなり海岸猫の姿が映った。
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それはソックスだった。


ソックスは防砂林の奥に気になる何かがあるらしく、私の来訪に気づいてないかのようだ。
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いったいソックスは何に意識を向けているのだろう?
私は姿勢を低くし、ソックスの視線の先を探ってみたが、それらしい対象物を見つけることは出来なかった。



やがて、体を反転させたソックスだが‥‥、
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特徴的なそのどんぐり眼には、まだ警戒の色が残っていた。


しばらくして、落ち着きを取り戻したのか、ソックスは初めて私へ顔を向けた。
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そして、小さな鳴声をあげながら、私の脚に体をすり寄せてきた。
「ソックス‥‥、お前に会えて嬉しいよ」
私は心の安らぎを覚え、温かい気持ちになった。



ふと目を上げると、いつの間に現われたのか、ソックスと同じキジ白がいた。
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母猫のタビだ。実に久しぶりに見る母娘のツーショットである。
親子海岸猫を何組か知っているが、これほど仲睦まじい親子を、私はまだ見ていない。



防砂林を出ようとする私の後をソックスが追ってくる。
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ソックスが鳥居の下で待っていると‥‥、


母のタビもじきにやって来て、2匹は身を寄せ合った。
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このエリアを受け持つA夫妻の愛護を受けて、母娘の栄養状態は良好だ。


去年の春に、元のエサ場があった公園で公共工事がはじまって以来、母娘は防砂林へ追い遣られてしまった。
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その工事は今も進行中で、この時も時折重機が立てる大きな音に、母娘は反応を見せる。


2匹の見つめる先は、その工事現場だ。
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竣工すれば公園が復旧されるというが、それはまだまだ先のこと。それにそんなことは海岸猫が知る由もないし。


だから自分たちの境遇を激変させた“工事”を見る時、いかにも忌々しげに顔をしかめるのだろう。
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何かを思い立ったように近づいて来たソックスは、私の脚に軽く体をすり寄せた。
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そして、しばし防砂林の奥の様子を窺っていたが‥‥、


そのまま防砂林の中へ入っていった。
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ねぐらへ戻る時間が迫ってきたのかもしれない。


こうして、私の5ヶ月ぶりのエサ場巡りは終わった。
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顔馴染みの海岸猫の元気な様子を確認できたのだから、意義ある巡回だったのだろう‥‥。



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ご報告

故郷から帰宅し、初めてのエサ場訪問を無難に終えることが出来て、正直安堵しました。
最近の体調は比較的安定していますが、未だ睡眠障害に改善が見られず、日中は睡魔との戦いが続いています。
そのせいもあって、物事に対しての集中力が低下し、以前から比べるとブログの編集に何倍もの時間を費やすようになりました。
なので、しばらくは間を置いた更新になりますが、どうか寛容な心でお付き合いください。
更に誤字脱字、変換ミスなど多々あると思いますが、事情お察しのうえご容赦のほどを‥‥。




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