別離

2012年10月25日 13:00

ランはどんな理由で、3匹の子供のうち2匹だけを連れてエリアを移ったのだろう?
あるいは、その仔猫はどんな理由で、元のエリアに残ることになったのだろう?

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さらに別離の決定はどちらが下したかという疑問もある。母であるランの意志なのか、それとも仔猫の意志で残ったのか‥‥?
私はその答を知りたくて、防砂林に住まう人の小屋を訪ねることにした。



その私を最初に迎えてくれたのはリンだった。
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最近のリンの表情は硬く、以前の人懐こさもすっかり影を潜めてしまった。


さらに時折見せる沈鬱な面持ちは、見る者を憂いに誘う。
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持っていた猫缶をここの住人の人に渡し、リンに与えてくれるようお願いした。
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すると、どこからか黒シロの仔猫が現れ、リンと一緒に猫缶を食べはじめた。


この子がランの3匹目の子供だ。
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ほかの2匹とは被毛の色を異にし、無言で父親が違うことを示している。


つまりこの子は、チャゲとアスカとは異父兄弟の間柄になる。そしてリンは伯母叔母)にあたる。
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そのことがこの子に何らかの影響をもたらしているのだろうか?そして今回の別離との関連性は‥‥。


リンはそれほど空腹ではないのか、猫缶を少し食べただけでその場を離れてしまった。
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ランの子は脇目もふらず猫缶を食べつづけている。


食べ盛りゆえなのか、それともリンより空腹だったのか?
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ここに住まう人に訊くと、食事のとき以外はあまり小屋に寄りつかないそうだ。日中は大抵独りで防砂林の中で過ごしているという。


リンはシートの陰に身を隠し、物思いに耽るように目を伏せている。
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やがてリンはついと顔を上げると、まるで任意の意志にスイッチが入ったように目を大きく見開いた


そしてその意志に導かれるまま、迷いのない足取りで歩きだした。
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そうしてある地点まで来ると、ごく自然に座りこんだ。その場所に特別な意味があるかのように。


ランの子も食事を終え、一息入れている。
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この子にも帰省する前に何度か会っているのだが、私の顔はすっかり忘れられてしまったようだ。


リンはその場から動かず、まわりの気配を丹念に窺っている。
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おそらく聴覚をフルに働かせて、聞き慣れた音を防砂林の中に探っているのだろう。


だがしかし、その音がリンの耳に届くことは永遠にない。おそらくは。
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リンはこの一連の行動を1日に何度繰り返しているのだろう?


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とぼとぼと小屋に戻るリンの足取りはいかにも重く、後ろ姿も消沈して見える。


まだ人馴れしていない仔猫は、見慣れぬ私がいるからか、低木の下に身を隠した。
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そして、胡乱な目で私を見つめ返してくる。


実は、ほかの2匹の兄弟とこの子の決定的な相違は、父親の違いだけではない。
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ランの子供の中で、この子が唯一のメスなのだ。


つまり、ランにとっては唯一の娘になる。
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母や兄弟たちと離別することになったのは被毛の違いだけでなく、このことも原因ひとつかもしれない。


また姉妹であるリンの存在が、ランの行動に深く影響していることも十分考えられる。
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リンとランはけっして仲の良い姉妹ではなかった。そしてその子供たちもまた、母に倣ってか、従兄弟として打ち解けているとはいえなかった。


ランの子が残った猫缶に鼻先を近づけてきた。もう腹が減ったのか‥‥?
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しかし口を付けることなくついと離れていった。


と、今度はリンがおもむろに猫缶の入った食器に近寄ってきた。
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そしていきなり猫缶に食らいついた。その様子を落ち着かない素振りで見つめるランの子。


さっきのように一緒に食べようと、近づくが‥‥、
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何故か怯えたように後ずさりして離れていく。


リンの身体からは、人には感じられない威圧感がオーラのように出ているようだ。
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結局、リンが残りの猫缶を食べているあいだ、ランの子はただそれを見ているだけだった。


ここに住まう人に言わせると、リンはランの子を忌避し、食事も優先的に食べるのだそうだ。
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親兄弟とも別れ、伯母叔母にも疎外されるこの子に同情の念を禁じ得ない。


猫缶を食べ終わったリンが、先ほどと同様まっすぐ前を向いて歩いていく。
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そしてさっきより手前の地点に座ると、どんな物音も聞き逃さないとばかりに耳をすませている。
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リンが防砂林の中から聴きとろうとしているのは、今春産んだ4匹の子供たちの鳴き声だろうと思われる。


2012年6月17日、リンは4匹の子供たちを、私に初めて紹介してくれた。
そのうちの3匹はビール壜ケースのなかにひしめくように身を隠していた。

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初めて見る私の姿を、警戒と驚愕がないまぜになった目で見つめる。


この子は甘えん坊で、リンの姿をいつも求め後を追っていた。
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そして、人の存在に気づくと慌てて物陰に隠れてしまう。


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ところが、その仔猫たちは7月以降、つぎつぎと姿を見せなくなり、私が帰省する直前にはついに1匹となった。
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そしてこの甘えん坊の仔猫も私が実家に帰っているあいだに、やはり姿を消してしまった。


リンには子供たちが何故姿を消したのか、おそらく理解出来ていないのだろう。
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だからこうして、子供たちの声を防砂林の中から聴きのがすまいと同じ行動を繰り返しているのだ。


子供をなくした母猫と、母と別れた仔猫。お互いの喪失感を埋めるために仲良くすればいいと、つい思ってしまうのだが。
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しかしそんな考えはしょせん人の勝手な理想論であり、猫の社会ではまったく通用しないようだ。


ところでいつまでもこの子を“ランの子”と呼ぶのは都合が悪い。この子にも呼び名を付けてやらねば‥‥。
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いつまでも家族とつながっているよう願いをこめて、この子を“ユイ(結)”と呼ぶことにする。


ユイはふと思い出したように、残った猫缶を再び食べはじめた。
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それを戻ってきたリンが見つめる。


ただそうやって一瞥をくれるだけで、リンがユイに関心を示すことは、ついになかった。
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リンは大好きなNさんの座る椅子に身体を滑りこませた。


好きな人に寄り添っていても、リンの表情はやはり硬くこわばって見える。
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いなくなったリンの4匹の子供たち‥‥。ここに住まう人の話では、仔猫を可愛がっている人たちがいたので、その人たちに保護されたのでは、ということである。


楽観的に過ぎるかもしれないが、私もその推測に同意したい。
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ユイが羨ましそうにランを見上げている。ユイとしては嫌われていてもリンの側にいたいのだろうか?


「ユイ、お前は自ら望んでここに残ることにしたのか?それとも、母や兄弟たちに置き去りにされたのか‥‥?」
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この子をラン親子が移り住んだエリアへ連れていってみてはという考えが、私の頭をふと掠めた。


しかしもし、そこでも排斥されたら、この子は行き場をなくしてしまう。
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そしてそれは大きな傷としてユイの心に残り、この子をさらに苦しめるかもしれない。


さらに「野良の特権は、たとえそれが様々な危険を孕むにしても、“自由気まま”であるから、徒に人が介入することは避けるべきだ」そんな囁きがどこからか聞こえてきた。
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人間社会にも“親はなくとも子は育つ”という諺があるし、生きるという点では人より遥かにタフな猫なので、ユイがこのまま逞しく育ってくれることを祈るばかりだ。


もちろん、ベンチ猫のサブのように心優しい人に保護されれば、それに越したことはないが。
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ともあれ、家族と離別して暮らすようになったユイがこれからどうなっていくのか、私としては気になって仕方がない。


ここで暮らしていれば、少なくとも雨風はしのげるし、じきにやってくる寒さにも耐えられるだろう。
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しかし、それがリンやユイにとって幸せであるのかどうか‥‥、正直私には分からない。


今まで、防砂林に住まう人たちへ批判の矛先が向くのを恐れて黙していたが、読者に誤解を与えないためにも、そして海岸猫のためにも実情を明かすことにした。
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理由は様々あると思うが、ここに住まう人たちは何の前触れもなく突然防砂林から去っていく。
だがペットを飼える環境を得るのは簡単ではなく、ほとんどの場合猫は防砂林に残される。



リンやランやその家族も、このエリアに移動してきたのではなく、実際は以前から防砂林に住まう人の小屋で一緒に暮らしていたのだ。
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ところがこの春、その人は防砂林から立ち去り、その際全ての猫を置き去りにした‥‥。


リンとユイを見守ってくれている人たちも、それぞれ状況は違えどいずれ防砂林から去っていく。
そのときに猫たちを連れて行くことは、おそらくないだろう。

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海岸へ出ると、私の気持ちを表すように、江ノ島が靄のむこうで模糊としていた。



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残された猫

2012年10月17日 09:00

私がいないあいだの湘南海岸に起こった変事は、海岸猫だけにとどまらなかった。
その情報をもたらしてくれたのは、久しぶりに会った猫おじさん猫おばさん夫妻だった。

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そのとき夫妻は、昨秋国道で交通事故死したボスの母親の世話を終え、同様に面倒を見ているほかの海岸猫のもとへ移動中だった。
ところが自転車で並走していた私を置き去りにして、ずいぶん手前の防砂林の脇道へと二人は入っていく。



私は慌てて二人のあとを追い「ここにも世話をする猫がいるんですか?」と問うたら、猫おばさんが「チビの世話を頼まれているの」と少し悲しそうに言った。
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「チビって、あのチビ太郎のこと?」と私が訊くと「そう、おじさんが病気になって小屋を出ていったから」と猫おばさんは答えた。
私はことの重大さに気づき、二人に同行して防砂林の中へ入っていった。



長靴おじさんの小屋を最後に訪れたのはミケが亡くなったときだから、もう2年以上の月日が経過していた。
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茶トラのチビ太郎‥‥、この海岸猫に会うのもその時以来になる。


元気にしていたことはグッドニュースだが、飼い主である長靴おじさんがいなくなったのは、この猫の行く末を思うとバッドニュースだ。
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そういえば、複数の人からチビ太郎らしき猫が数百メートル離れたほかのエサ場に出没していると仄聞していた。


おそらく空腹のせいで、食べ物を求めて遠くまで出ばっていたのだろう。
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ミケの存命中もよくエサ場へきて、サンマと何度も睨み合っていた。


真偽は定かでないが、飼い主の長靴おじさん曰く“茶トラのオスが一番喧嘩が強い”そうだ。
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でもこの海岸猫が、ほかの猫と取っ組み合いの喧嘩をしているところを目撃したことは一度もない。ひょっとしたら、チビ太郎の見た目の迫力に相手が怯んでいただけかもしれない。


不敵な笑いを浮かべているように見えるが、これがチビ太郎の常態である。
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当時、頻繁にミケとサンマのエサ場に来ては騒ぎを起こしていたので、少々手荒な方法で撃退したことがある。だからチビ太郎は、私にいい印象を持っていないはずだ。


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猫おじさんと猫おばさんは別の海岸猫に食事を与えるため、慌ただしく小屋をあとにした。


それにしても、いったいチビ太郎はいつから独りで暮らしているのだろう?
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また長靴おじさんはいつごろ快復する予定なのか、そしてここへ帰ってこられるのか‥‥、猫おじさんたちに肝心なことを訊けなかった。


「チビ太郎、久しぶりにだな。元気そうでなによりだ‥‥」
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チビ太郎は今年で7歳になる。
捨て猫だったチビ太郎は長靴おじさんに引き取られ、以来この小屋で一緒に暮らしている。



猫の平均寿命‥‥野良猫が4~6歳、家猫が10~16歳だとされているが、チビ太郎の場合、どちらの範疇に属するのか、はなはだ曖昧だ。
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ともあれ、これまでは家猫に近い境遇だったかもしれない、しかし今は違う。そして、これから先がどうなるかは、まったく分からない。


仔猫で拾われたチビ太郎は、その時すでに眼を病んでいた。
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おじさんの看病で病の進行は止まったが、眼には一生消えない傷痕が残った。


強面に見えるのはそのためで、彼自身も本意ではないはずだ。
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小屋に戻ったチビ太郎は、いきなり大きな鳴き声をあげた。一回、二回、三回と‥‥。その声音は、突然いなくなった長靴おじさんを呼んでいるのか、やけに悲しげに響いた。
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だが、いくら呼んでもおじさんの返事はない‥‥。
するとチビ太郎は、私の目にも分かるほど悄然としてうなだれた。



私はそんなチビ太郎にゆっくりと近づいていった。
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そして抵抗されるのを覚悟の上で、後ろからそっと手を差し伸べ、そのままチビ太郎の身体に触れた。


すると案に相違して、チビ太郎自ら私の掌に頭をすり付けてきた。
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「チビ太郎、おじさんがいなくなって寂しいのか?」


人の優しさを求めていたのだろう‥‥、チビ太郎はますます力をこめて頭をすり付けてくる。
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そんなチビ太郎を見ているうちに、不覚にも涙が溢れてきた‥‥。
チビ太郎のおかれた苦境、そしてそのチビ太郎を独り残して小屋を離れざるを得なかった長靴おじさんの心情を思ってのことだ。



ふと足もとに視線を移すと、愛称の由来となった長靴が置いてあった。
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長靴おじさんがこの長靴を履いて、再び生業である石鯛釣りをすることはあるのだろうか?


猫おじさんと猫おばさんは朝しかこの小屋を訪れない。
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そこで、保存の効くカリカリを置いていくことにした。


「おいチビ太郎、お前はさっき猫缶を食べたばかりだろう」
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結局、チビ太郎はカリカリをほんの少し口にして、食べるのを止めてしまった。
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どうやら味見のために試食をしただけのようだ。


虚空を見つめるチビ太郎‥‥。
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彼の脳裏に去来するものは、いったい何なんだろう?


「チビ太郎、時々様子を見に来るから、寂しいだろうが、辛抱しろよ」
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「そしてこれからは、ほかのエサ場へ行って、トラブルを起こしてくれるなよ」


私が去るのを察したのか、チビ太郎は見送るように小屋の前に佇んだ。
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こうして猫に見送られるのを、私は苦手としている。


彼らの気持ちを思い切なくなり、自分の無力さに後ろめたさを感じるからだ。
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私はやり場のない情動をその場に打ち捨てるように、小屋をあとにした。


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海岸猫と関わっていると、嬉しく感じることなど稀で、大抵の場合は辛く切なくなる。



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新天地

2012年10月13日 20:00

私が湘南を不在にしていた一ヶ月半のあいだに、ベンチ猫以外にも様々な変動のあったことが徐々に分かってきた。
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帰宅した翌朝にリンとランのエリアを訪ねた私は、そこに住まう人から意外なことを聞かされた。
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このエリアからランが離れ、ほかのエリアで暮らしはじめたというのだ。


ここに残ったリンにも大きな出来事が起こっていたが、それはいずれ機会をみて記事にするつもりでいる。
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リンの身に起こったことは、私が帰省する直前まで危惧していたことなのだが‥‥。


幼い猫が何故こんな辛酸を嘗めなければいけないのか、それを思うと私の心は重く沈む。
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「リン、私がいないあいだに辛い目に遭ったようだな」
リンは私の言葉にも以前のような反応をしめさず、その眼には暗い影が宿っているようだった。



防砂林に住まう人からランの居場所を訊いた私は、そこへ向けて自転車を駆った。
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そのエリアに到着すると、すぐにランが仔猫ともども姿を現した。。
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今春ランは3匹の子供を産んだが、一緒に連れてきたのはそのうちの2匹だ。


仔猫たちは母の遺伝子を素直に受けつぎ、同じキジ白で見分けがつかないほど似ている。
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帰省前に何度かこの子たちと会ったことがあるが、一ヶ月半のうちに大きく成長していた。


あと一月もすれば、体の大きさも母のランとおっつかっつになるだろう。
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何故ランは仔猫を連れて元のエリアを離れたのか、そして何故1匹だけ残してきたのか、その理由を何とかしてランから聞きだしたいと私は思った。


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オスの仔猫2匹の食欲は旺盛で、母猫の猫缶を遠慮せず横取りする。


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やがて慌ただしい食事が終わり、仔猫たちも落ち着きを取りもどした。
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この子は警戒心が強く、彼が定めたパーソナルスペースを僅かでも犯すと一散に逃げてしまう。


久しぶりに会ったランは、母としての自覚をしっかり持ったようで、面持ちにもそれが表れていた。
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だがこの母猫自身まだ幼く、仄聞したところによると今年2月に防砂林の中で生まれたという。


それからしばらくして、リンとランの母猫はほかの家族とともに、子供を出産した直後の2匹を残して何処へともなく姿を消した。
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そして今度はランが生まれ育ったエリアに自ら別れを告げたのだ。
私はつくづく思った。猫というのは自立心が強い生き物なんだなぁ、と。



ランは地面に端座すると、道路を行き交う人の観察をはじめた。
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厳密にいうと違うのだが、私はこの行為を“猫のマンウォッチング”と呼んでいる。ミケも柵の上からよく道行く人を観ていた。


それにしても、いったい猫は人を観察して何を得ようとしているのだろう?
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この場合は、宿敵である犬への警戒心だが‥‥。


と、そこへ一羽のカラスがゆっくりと近づいてきた。
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理由は知らないが、カメラを向けられると、大抵のカラスは慌てて逃げ去ってしまう。しかしこのカラスは、私が構えるカメラの存在など歯牙にもかけていない。


もし猫缶のおこぼれに与ろうと思ってのことなら、残念だがとっくにトレイごと片付けてある。
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ランがカラスの接近に気づき目を瞠った。


この海岸猫は向こう意気が強く、敵わぬ相手でも向かってゆく。その傾向は子供を持つ身になってからいや増すばかりだ。
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ランは自分の体を出来るだけ大きく見せるために四肢を伸ばし背を丸めて威嚇のポーズをとる。


さかしらなカラスのことだ、自分の旗色が悪いのを察したのか、それとも食べ物がないのを知ったからか、おもむろに踵を返した。
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仔猫も母にならって警戒の姿勢でカラスを見つめる。


しかしこのカラスも肝が据わったヤツで、去るときも悠々と歩いていった。
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カラスを見送るランは一気に緊張がとけた様子だ。
気丈なランだが、本心はカラスと無益な争いなどしたくないはず‥‥。

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2匹の仔猫も、そろって安堵した横顔を見せている。


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この子らを、いつまでも“仔猫”と呼んでいては、色々と不都合が生じると思われるので、早々に名前を付けることにした。


向かって左の子の名を“チャゲ”‥‥。
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そして右の子の名を“アスカ”とする。
ちなみに、先ほど警戒心が強いと紹介したのはこのアスカのほうである。



そのチャゲとアスカがいきなり組み合った。
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ところがすぐに両者はいったん離れた。呼吸が合わずに仕切り直しか?


が、勝負はあっさりとついてしまった。アスカが自ら倒れこんでしまったからだ。
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この場合決まり手が何になるのか私は知らないが、チャゲの勝ちは揺るがない。


しかし、2匹とも戦いをやめようとしない。相撲だと思ったのは私の勘違いで、柔道での勝負のようだ。
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柔道のルールに疎い私には、チャゲとアスカのどちらが優勢なのか判断できない。


なんと、ここでチャゲの左フックがアスカの顔面にヒット。
どうやら柔道だと思ったのも私の早とちりで、総合格闘技のようだ。

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チャゲの猫パンチが存外効いたのか、アスカが自ら戦いの場から離れていく。


ヤル気満々のチャゲは、そのアスカを誘うように前脚をのばすが‥‥、
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アスカは戦意喪失した様子でチャゲに背を向けた。よくやく勝敗が決したようだ。


と、次の瞬間、アスカが牙をむいてチャゲに襲いかかった。
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不意をつかれたチャゲは防戦一方である。観戦している私も騙された、アスカの見事なフェイク戦法だ。


ところがまた、自分の優位を放棄するようにアスカがチャゲから離れていく。
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アスカは完全に格闘ごっこに飽きて、興味の対象をほかに向けている様子だ。


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独り残されたチャゲは、しばらくアスカの後ろ姿を恨めしそうに見つめていた。


そのころ母親のランは‥‥、
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物陰でのんびりと寛いでいた。


新天地でこれからラン親子にどんな運命が待ち受けているのか、私にもまったく予見できない。
ただ叶うものなら、親子3匹いつまでもつつがなく暮らしてほしい‥‥。

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私もランたちのために、出来るだけのことをしようと思っている。
そこで同じ轍を踏まないために、私はある決意をした‥‥。




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サブとの再会

2012年10月03日 15:00

ゆきママさんから一通のメールが届いたのは、私が故郷から戻って数日経った深夜だった。
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件名“ベンチ猫情報”というそのメール本文には、ゆきママさんの友人が保護されたサブを目撃したと記されていた。


メールを読み終えた私は、思わず心のなかで快哉を叫んだ。
ただ、ゆきママさん自身はまだ未確認で、その情報も南口の◯◯屋さんにいるという曖昧なものだった。
そこでゆきママさんにその店の具体的な場所を教えてくれるよう、返信メールを送ることにした。

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ゆきママさんのメールの内容だけで、サブの物語をハッピーエンドで終わらすわけにはいかない。
サブの姿を自分の目で見て、保護したという人物が真にサブのことを考えて保護したのか確認しなくてはならないと思った。それはサブのことを紹介してきたブロガーとしての責任感と矜持によるものだ。



翌日、ゆきママさんからの返事を待ったが、午後になってもメールは届かず、居ても立ってもいられなくなった私は、自転車を駆って駅前へ向かった。
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だがその店は、今までの私には縁がなく、いったい何軒の店舗がこの街にあるのか見当もつかなかったし、場所にいたってはまったく不案内だった。


事前にネットで店舗の場所を検索するという手段も当然考えられたが、私は敢えてそれをせず、無作為で恣意的な行動に頼ることにした。
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それでも私には、サブに会えるという確信があった。
何故そんなに楽観視出来るのか説明は困難だが、“自分の勘”と“猫の導き”を信じれば、きっとサブに会える
という根拠はないが確固たる自恃のようなものを私は持っていたのだ。


まず駅を中心として東へ行くか、西へ行くかの選択を迫られたが、私は迷うことなく西を選んだ。
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私は駅前の商店街を、ゆっっくりと自転車のペダルを漕いでいった。


そして交差点が現れるたびに、それらしき看板がないか通りに目を凝らした。
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やがて、駅の近くに一軒目の◯◯屋を発見した。
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しかし私の抱いているイメージとは、かなりかけ離れた店構えと雰囲気だったので、ここはすぐに除外する。


そして自分の勘を頼りに、さらに商店街を西へと進んでいった。
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その商店街が終わったところで左折し、海岸へ向かう道をしばらく辿ったが、ほどなくこの道ではないと感じた。


そこで駅近くまで引き返し、横道に入っていった。
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すると、じきに新たな商店街に行きあたる。


その商店街をしばらく進むと、右側に工事中の建物があり、数台のトラックが道路の半分を占拠していた。
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私がガードマンの指示に従い道路の左に寄ったときだった。前方に二軒目の◯◯屋の看板が見えたのは。


その店の佇まいは、私が持つイメージに近いものだったので、拍動が一気にたかまった。
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店に近づいてみると、ショーウィンドーに何枚もの写真が展示されていた。
それも犬猫の写真ばかりだ。

そして‥‥、その中の1枚に私の目は釘付けになった。


その写真に写っているのは、紛れもなく、ここ数日私が捜し求めていたベンチ猫のサブだったからだ。
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私は2軒目にして、サブの保護先に行き着いたのだ。
これは偶然ではなく、やはり何かの“力”が導いてくれたのだと、私は思わずにはいられなかった。



興奮を抑えきれないまま、私は慌てて自転車から降りると、躊躇うことなく店内に入っていった。
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店内にいた女性に対して挨拶もそこそこに、私はショーウィンドーの写真のサブのことを尋ねた。


すると女性は笑顔を見せて「奥の部屋にいるから、ちょっと待ってね」と言い、一度奥へ引っ込み、しばらくするとサブを抱っこして戻ってきた。
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ほぼ2ヶ月振りに再会したサブは、おそらく昼寝の途中で無理やり起こされたのだろう、不機嫌で虚ろな表情をしている。


私がブログでサブのことを紹介していたこと、そして急に姿を消したので心配していたことを話すと、「わたしも保護したことを貼紙か何かで報せたほうが良いとは思っていたの」と女性は申し訳なさそうに応えた。
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女性の話によると、7月頃より海岸を散歩するようになり、その際サブのことを知って、左目と鼻の疾患が気になっていたという。


そこで8月1日に保護するつもりでキャリーバッグを持って行ったら、サブはすんなりとその中へ入ったそうだ。
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それから動物病院に通院し、目と鼻はだいぶ治ってきたらしい。


元飼い猫で春先に海岸へ捨てられたらしいと伝えると、「去勢手術をしてあったから、そうだと思った」と女性。
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この家に来てからも、サブは前脚を頭上に上げる独特のポーズで寝ているという。


茶トラだから“チャトラン”という新たな名前をもらい、オスなのに敢えて選んだという赤い首輪もなかなか似合っていた。
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気のせいかもしれないが、海岸で暮らしていたときよりサブの表情が穏やかに見える。


店主であるこの女性も猫好きで、これまで数匹の猫を飼い、そして最期まで看取っている。
今も数年前に引き取った野良歴13年の先住猫がいるという。

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「サブ、本当に良かったな、善い人に保護してもらって。そのうち先住猫と2匹、看板猫としてお客さんをたくさん招いて、恩を返すんだぞ」


店を辞去してから、私はもう一度ショーウィンドーの写真を見た。
そうしていると、サブが海岸にいた現実感が徐々に薄れて、サブと関わった日々も夢のなかの出来事にように思えて仕方がなかった。

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「サブ‥‥、いや、チャトラン、海岸で苦労した分を穴埋めするほど幸せになれよ!」




‥‥湘南海岸には、弧形のベンチが置かれたテラスがある。


そしてここには、かつてベンチ猫と呼ばれた人懐こい海岸猫が暮らしていた。
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だが8月以降‥‥、多くの人に愛されたその猫の姿を見た者は、一人もいない‥‥。


〈付記〉
今回海岸猫を保護していただいた方にはブログ掲載の許可を得ています。


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お詫び

最新記事にあるとおり、私はベンチ猫のサブと再会することが出来ました。
しかしこれは最近のことではなく、先月11日の出来事なのです。

実は、実家から戻った翌日からほぼ毎日早朝の海岸へ赴き、海岸猫と会っていますが、
日中は睡眠障害が原因の睡魔と薬の副作用からくる倦怠感のせいで、
ブログの更新もままならない状態が続いています。
そのためサブ保護のご報告が遅れ、皆様に余計なご心配をおかけする結果になったことを
深くお詫びいたします。

サブの記事に対して多くの方からコメントやメールを頂いて、私自身大いに驚き、
彼が如何に皆様から愛されていたかを思い知った次第です。

サブ改めチャトランへの温かいお言葉、本当にありがとうございます。




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