故郷の猫 その参『権利』

2013年01月27日 23:00

2013年1月某日、昼過ぎ。私は飽きもせず3日連続で山門前を訪れた。
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夜の様子は知らないが、この時刻、飲食店に挟まれた参道に人影は見えない。


私はしきたりに則って、参道の端をゆっくりとした足取りで歩いていった。
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そんな私を迎えてくれたのは2匹のサバトラだった。


こっちは一昨日、長毛のキジ白と仲の良さを見せつけていたサバトラだ。
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性別は不明だが、アメショーに似た毛並みと凛とした佇まいが相まって一種の気品すら感じる。


一方こっちは、昨日初見の、まだ若いサバトラだ。
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私を見つめる目付きは険しく、いつでも逃げ出せる態勢を取っている。


と、2匹だけかと思ったら、生垣の隙間から猫の顔が覗いていた。
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それは未だ幼さを顔に残したキジ白だった。
初見のニンゲンを凝視する眼に敵愾心は感じられないが、かといって近しさを表している風でもない。



これは、此処へ来る途中、ホームセンターで買い求めた猫用のスナックだ。
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野良との距離は5メートルほど。これ以上近づけないので、出来るだけ小さな動作でスナックを放った。


軽いスナックは、地面に落ちるときにほとんど音を立てなかった。聴力の鋭敏な猫でさえ聞き逃すほどに‥‥。
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犬よりは劣るが、ニンゲンより遥かに優れた嗅覚で匂いを察知したようで、サバトラが私を警戒しながらスナックに近づいていく。


どうやら、スナックを発見したようだ。
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毒見をするように、用心深くスナックを口に含むと‥‥、


次の瞬間、サバトラは素早く身を翻した。
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そして離れた場所まで逃げると、そこでスナックを食べはじめた。


味をしめたのか、2度目はサバトラの反応は速かった。
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それに、食べる場所も近くなっている。
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ふと後ろを振り返ると、私がこのエリアを知るきっかけになった茶シロが佇んでいた。
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私と年長サバトラのやり取り見ていた若いサバトラが、慎重な足取りで近づいてくる。


ところが、2匹ともスナックを完全に見失っている。
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若いサバトラが、鋭い視線を投げかけながら、私との距離を詰めてきた。


それでも、すぐ側にあるスナックの存在に気づかない。
動体視力や夜目に秀でた猫、だが基本的な視力はニンゲンより悪く、かなり近視気味だ。

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嗅覚を働かせて、ようやく在処が分かったようだ。


今度は猫用のジャーキーを放ってみた。まず反応したのは、年長のサバトラだった。
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地面に落ちている細長いジャーキーを器用に掬い上げると、そのまま一気に咀嚼していった。
この頃になると、私への警戒心もだいぶ薄らいでいた。



他に落ちていないか、懸命に地面を探るサバトラ。
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ところが、1本目のすぐ後に放ったジャーキーが足許にあるのに、サバトラは素通りしていく。


若いサバトラが、いち早くそれに気がついた。
年長のサバトラに悟られぬよう忍び足で近づいていく。

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年長のサバトラはまったく感知しない様子で、明後日の方向を向いている。
「今のうちだ、早く食べてしまえ」私は若いサバトラへ呟くように声をかけた。



が、ジャーキーを眼にしたのが初めてなのだろう、扱い方が分からないのか、匂いを嗅ぐばかりで、なかなか食べようとしない。
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やがて、ようやく端から食べることを思いついたようで、まさにジャーキーを咥えようとした、そのときだった‥‥。


いきなり年長のサバトラの前脚が一閃し、ジャーキーをしっかり押さえつけた。
若いサバトラは恐怖のために一瞬で竦み上がる。

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やがて年長のサバトラは、横取りした戦利品をゆっくりと食べはじめた。


このように強い者の横暴がまかり通る、野良の世界には熾烈な生存競争が厳存する。
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年長のサバトラがジャーキーに舌鼓を打つのを、ただじっと見つめる若いサバトラ。


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年長のサバトラが離れたので、若いサバトラの近くにそっとジャーキーを放ってみた。


だが、やはり食べ方が分からないのか、ずいぶんと手を焼いている。
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舌を使って、懸命にジャーキーを掬い上げようとしている。
「もう少しだ、頑張れ」私も日本人、やはりどうしても判官贔屓してしまう。



だが、さっさ述べたように野良の世界は厳しい。
野良歴の長い先輩猫が、そんな若いサバトラの隙を見逃すはずがなかった。
年長のサバトラは石段から身を躍らせた。

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その行動を察知した若いサバトラはすでに退散していた。年長のサバトラは悠然とジャーキーに歩み寄っていく。


野良の世界で物をいうのは、やはり“力”だ。
ニンゲン社会と同様、猫社会にも力によるヒエラルキーが形成されているのだろう。

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年長のサバトラだけを、一時的にでも追い払えるならそうしているが、この場合、警戒心の強い若いサバトラが真っ先に逃走するだろう。


と、私がそんな思案をしている間に、キジ白が生垣から出て、目の前に端座していた。
警戒心より仲間が食べているスナックへの興味のほうが勝ったと見える。

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代わって、生垣からは先ほどの茶シロがこちらの様子を窺っている。
この野良はかなりの慎重派で、石橋を叩いて渡るタイプだ。



このようにしばらく猫の行動を観察していると、個々の性格や相互の力関係が分かってくる。
ニンゲン社会のそれと違うのは、前述したように膂力という厳然たる裏付けがあることだ。

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名刺に刷られただけの地位や過去を証明するだけの学歴、親から受け継いだだけの財力などが幅を利かすニンゲン社会よりある意味潔く平等かもしれない。


おずおずとした足取りで、キジ白が私との距離を詰めてきた。
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そして、まだ若いと思われるキジ白は、毅然とした面持ちで私と向かい合った。


そのとき、長毛のキジ白が、山門の前をゆっくりと横切っていくのが目に入った。
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長い被毛に、いくつもの枯葉をぶら下げている。恐らく植込みの中で昼寝をしていたのだろう。


さらに、山門とは反対側の表通りから3匹の白猫が近づいてくる。
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この成猫の白猫は、この時が初見だ。
2匹の仔猫を引き連れているところを見ると、仔猫たちの母猫の可能性が高い。



私が与えるスナックに釣られて、いつしか野良たちの数が増えていた。
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オッドアイの仔猫も混じっているが、積極的にスナックに駆け寄ろうとはしない。


周りのネコたちが右往左往しているのを、醒めた眼で、ただ見つめているだけだ。
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腹が満たされているのならいいのだが、仲間と競うことが嫌いな性格かもしれなし、“力関係”からすれば弱者である仔猫だから、スナックを獲得することを端から諦めているかもしれない。


そしてここに、仲間と群れることを厭う野良がいる。一昨日、最後に姿を現したハチワレである。
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得体のしれないニンゲンから食べ物を貰うことなど、彼の矜持が許さないのかもしれない。


改めて3匹の白猫を見ると、母猫とその子供だと思うのがやはり自然だ。
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母猫は明らかに猫風邪の症状を呈し、鼻孔は固まった鼻水で塞がり、結膜炎にも罹っているようで右目の周りが爛れている。


オッドアイの子の猫風邪は、キャリアの母猫から感染したのだろう。
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軽い猫風邪は自然に快復することもあるが、仔猫の場合は重症化し衰弱死へと繋がることも珍しくない。


眼ぢからの強い仔猫は右目の目ヤニが気になるが、まだ酷い猫風邪の症状は見られない。
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ひょっとしたら、母猫から受け継いだ抗体が辛うじて効いているのかもしれない。だが、このままの状況で抗体がなくなれば、早晩感染するだろう。
ワクチン接種で予防出来るのだが‥‥。



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母猫と眼ぢからの強い仔猫が、しもた屋風の家へ駆けていく。
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そこは前日、中華麺と食パンの入ったトレイが置かれていた家だ。
残飯と変わりないエサでも、きっと野良たちにとっては命を繋ぐ貴重な食料なのだ。



オッドアイの子は、思った通り腹が満たされているようで、参道の反対側にうずくまったままだ。
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しばらくすると、眼ぢからの強い仔猫が、消沈した足取りで戻ってきた。


そうして仲間の側へ座り込み、如何にもがっかりとした顔で肩を落とした。
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やがて顔を上げると、恨めしそうな面持ちで、しもた屋のドアを睨みつけた。


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若いサバトラが佇んでいるところ‥‥、実はここが水飲み場だ。
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縦樋から排水される雨水を容器に溜め置き、野良たちの飲水にしているのだ。
良いアイディアだとは思うが、衛生的とはいえない。



私は改めて、このエリアを仔細に検分してみた。
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まず目に留まったのは、石の上に置かれたカリカリだ。初めからこの量だったのか、野良たちが食べ残したものなのか‥‥。私が見た印象では、前者のようだ。


次に目に入ったのは、無造作に置かれた焼物の器だ。
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エサを入れる器なのか、水入れなのか、空の状態では判断が出来ない。


その手前に放置された空缶‥‥。
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専用のキャットフードも与えられていることを知り、少し安堵したが、どうして後片付けをしないのか。


さらに後片付けといえば、此処がこのエリア最大の懸念場所だろう。
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写真では分かり難いが、沢山の猫の糞が転がっているのだ。何日も放置されたままの状態で、辺りに悪臭を放っている。


門前の参道といえども、広義に解釈すれば境内と同義‥‥。
だから空缶や糞を打っちゃっておいてもいい、という理由は成り立たない。

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そもそも野良猫の世話とは、エサを与えるだけではない。遣りっ放しは、エサ遣りさんの自己満足だと非難されても仕方ないだろう。


善意の押し売りと寄付金集めに血道を上げる“似非動物愛護団体”もまた、然りだ。
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結果、他の住民と摩擦が生じた場合、矛先を向けられるのは弱者の猫だったりする。
だが、このような実情を抱えているの此処だけではなく、私の住んでいる湘南でも見られること。
恐らく全国のいたるところでも‥‥。



さすがに寺の境内には、放置された空缶も糞も見当たらない。ただ、元から無かったのか片付けられたのかは、分からない。
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先ずもって、何故か境内には猫の姿が1匹も見えないのだ。


山門の入り口にハチワレが佇んで、こちらをじっと見つめている。
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あたかも目の前に張られた結界が邪魔をして、入りたくても入れないかのようだ。


参道に戻ると、潮が引いた後のように、野良の数が減っていた。
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オッドアイの仔猫は独り石段の下にうずくまっている。


松の根元には、サバトラと長毛のキジ白が身を寄せ合っているのが見える。
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性別が分からないので、明言は出来ないが、もしかしたら夫婦かもしれない。


おっと、危うく見逃すところだったが、ここにも野良が潜んでいる。
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それは眼ぢからの強い仔猫だった。母猫はすでにねぐらへ帰ったのか、姿が見えない。


オッドアイの子が私の側に近づいてきたが、うずくまった場所は先に説明した“糞溜まり”。
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鼻が詰まって嗅覚が鈍っているのかもしれない。
「おい、そこは糞だらけだぞ」私はそう言いながら、人差し指をそっと突き出した。



そして、私の指が鼻先に触れた瞬間、オッドアイの子は慌てて体を反転させた。
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人懐こいこの子も、体に触られるのは慣れていないようだ。


とはいえ、この子なら里子に出しても、すぐに家猫としての順応性を見せるだろう。
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「お前の見上げる視線の先には、いったい何が見えるんだ?」


猫には時間の概念がないと言われているが、オッドアイの瞳を見ていると、そんなことはニンゲンの勝手な憶測ではないかと疑ってしまう。
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もしかしたら、自分の未来に想いを馳せているのではないだろうか‥‥。


劣悪な環境で生きているが、この子にだって幸せになる権利はあるはず。
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本来、その権利を奪うことは誰にも出来ないのだが‥‥。


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こういう場合の常として、私は言いようない哀しさと悔しさ、そして無力感に打ちのめされていた。


ここは表通りに近いスナック‥‥。その店先に、茶シロが独りぽつねんと端座している。
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この店も野良たちのために、エサを提供するのだろう。
どんなモノが与えられるのか興味があったが、帰路につく時間がやってきた。



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このエリアで確認した野良の数は、3日間で11匹にのぼる。
その結果を受けて、私は思った。「探せば、ほかの地区にも野良がいるはずだ」と。



故郷の野良猫事情が分かった私は、翌日、“飲食店”、“駐車場”、“寺院”のキーワードを手掛かりに、改めて街を探索した。
すると、今まで遭遇しなかったのが不思議なほど多くの野良と出会うことが出来た。
が、やはりそこには悩ましい現実が存在した。



〈次回へつづく〉



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故郷の猫 その弐『運命』

2013年01月23日 16:00

寺の参道で数匹の野良と遭遇した翌日‥‥。
この日も前日に引き続いて、銀行に用事があり、私は外出した。そしてその帰途、寺の門前に立ち寄った。



すると、昨日は姿を見せなかった茶シロが松の根元にうずくまっていた。
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私がカメラを向けると、茶シロは物憂げに振り返った。


が、私の存在など歯牙にもかけない様子で、すぐに視線を戻した。
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何気なく、茶シロの視線を辿ると‥‥、そこにも猫がいた。それも初見の猫である。


よく見ると、まだ成長し切っていない幼い猫だ。
縞模様がはっきりしていないが、広義にはサバトラの範疇に入るのだろう。

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見知らぬニンゲンに興味津々ながら、警戒心がそれを抑えている、という面持ちだ。


さらに辺りを見回すと、植込みの中に、昨日ゴミ袋の脇にいた仔猫を発見。
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近くに比較する白い物がないからか、それとも懸命に毛繕いしたのか、昨日より体が綺麗に見える。


私との距離は2メートルあまり。
それでも警戒心のかけらも見せず、飽くまでも鷹揚な態度である。
(‥‥やはりこの仔猫はそうとう人馴れしている)

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実際は陽射しに目を細めているのだろうが、その穏やかな物腰のせいで、私には微笑んでいるように見える。


白い仔猫とは違って、このサバトラは私が少しでもパーソナルスペースを侵すと、一目散に逃げてしまう。
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私には、この子の出自を知る由もないが、生粋の野良のような印象を受ける。


ここで野良である母猫から生まれたのか、仔猫のときに遺棄されたのか‥‥、どちらにしても、無責任なニンゲンの犠牲者であることに違いはない。
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それでも完全に逃げ失せることなく、ある程度の距離を置くと、そこに留まる。


このとき、私とサバトラとの隔たりは5メートルほど。恐らくこの距離が、彼のパーソナルスペースの最高限度なのだろう。
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たいていの猫は、人への信頼度によって、顔つきまで変わってしまう。勿論、彼らのせいではない。そうしてしまったのは、我々ニンゲンだ。


そのとき、参道の方から唐突に人の声がした。
すると仔猫が、それに呼応するように声がした方へ駆けていく。
私も仔猫の後を追って、参道へ向かった。



どうやら、さっきの声は、この家の住人が猫たちに食事の時間を報せる合図だったようだ。
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私はトレイの中を見て、愕然とし、そして暗澹たる気分になった‥‥。


トレイに入っていたのは、中華麺と食パンだ
仔猫は、それらをごく当たり前のように食べていて、常食であることを窺わせる。

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ニンゲンのために作られた麺やパンには、猫にとって過剰な糖分や塩分が含まれていて、食べつづけると肥満を招いたり心臓や腎臓に大きな負担をかける。


猫に与えてはいけないモノは多岐にわたっているし、その危険度も様々だ。雑誌、書籍などの印刷物やネットで調べれば容易に情報を得られるが、それら全てを憶えるのは大変なこと。


だが、私に言わせれば、そんなしち面倒なことをする必要は、ない。
憶えるのは、たったこれだけだ。

“専用に作られたキャットフード以外は、猫に与えない”
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なので、同じペットフードだからといって、ドッグフードを猫に与えてはいけない。そして同じ理由で、その逆も厳禁だ。


顔を上げた仔猫を見て、私は驚いた。
「オッドアイだ!」実際にオッドアイの猫を見たのは、初めてだった。

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けれど、青い瞳は一部が瞬膜に覆われ、瞼の開きも右に比べて狭い。
この場合、眼球自体の損傷が一番疑われる‥‥。



しかし、ここの環境だと動物病院で治療を受けている可能性は低そうだ。
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今のままの状況では、この仔猫が家猫のように長く生きることはないだろう。
が、それもこの子の運命だ。



オッドアイの白猫のことを神奈川に住む知人にメールで知らせたら、「オッドアイの子は珍しいから、こっちならすぐに里親さんが見つかるのに」と返信があった。
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猫の場合、人よりもさらに、生まれた環境によって運命が左右される。
その定めは残酷なほど絶対的で、猫自身にはどうすることも出来ない。
救えるのは、我々ニンゲンだけなのだが‥‥。



この日は早く実家に帰らなければならなかったので、翌日改めて訪れることにした。
そして次の日、私は改めてこのエリアの劣悪な環境を目の当たりにする。



〈次回へつづく〉



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故郷の猫 『邂逅』

2013年01月20日 15:00

この日、母に診療を受けさせるため、私は付き添って病院へ行った。
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今回の治療は、点滴を含み2時間半から3時間を要する。
私はその時間を利用して、母に代わって役所と銀行の用件を済ませることにした。



そして用事を終わられた私は、病院へ戻るために、街の中心部を通り抜けようとした。
そのときだった‥‥。



私の視界の隅を1匹の猫が掠めたのは。
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ここは飲食店に隣接する駐車場。


私はその茶シロの猫とある程度の距離を保ちながら、ゆっくりと駐車場へ入っていった。
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茶シロは、突然現れた闖入者の私を、胡乱な眼でじっと見つめる。


どうやら、茶シロのパーソナルスペースは私のそれより狭かったようだ。そして知らぬうちに、そのスペースを私が侵したらしく、茶シロは駐車場の奥へ逃げていった。
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と、そこには、冬の陽射しを全身に浴びて昼寝をしているキジ白がいた。


さっきの茶シロの性別は定かではないが、この不敵な面魂は間違いなくオスだ。
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(あ、起きた‥‥)
私の気配を感じたらしく、キジ白がうっすらと眼を開けた。



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「気持よく眠っていたのに、どうしてオレの昼寝の邪魔をした‥‥」
そんな台詞が聞こえてきそうな面持ちだ。



やがてキジ白は、おもむろに起き上がると、私から離れていった。
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そこで私は、キジ白と一定の距離を保って、そっと接近した。


キジ白は、しばらく私を観察していたが、やにわに体を翻すと、路地の奥へ悠然と歩いていった。
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私が表通りへ戻って、建物の反対側に回り込むと、キジ白は逃げないで、まだそこにいた。


キジ白と私のちょうど真ん中あたりに、透明のトレイが転がっている。
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そして、そのトレイからこぼれたと思われるカリカリが道路に散らばっていた。どうやらここには、猫に給餌する人がいるようだ。


となると、キジ白も茶シロも野良である可能性が高い。
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私が育ったこの街では、野良猫をほどんど見かけない。一昨年の夏、漁港へ何度も足を運んだが、ついに1匹の野良も発見出来ずに終わった。


だから、野良が2匹揃っているところを見られるなど、想像もしていなかった。
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もしかしたら、私は探す場所を間違えていたのかもしれない。
‥‥根本的に。



海岸へ行けば、いつでも猫に会えるという状況に慣れてしまっていた私は、言わば猫を探すアンテナを鈍麻させていたのだ。
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先にも述べたが、ここは“飲食街”。寄る辺ない野良が食べ物を得るには絶好の場所である。
そして、身を隠すのに適し、時には暖を取ることも出来る“駐車場”もまた、猫が好む場所だ。



このキジ白も恐らく、己が生きていくため、“ここ”に棲みついたのだろう。
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穏やかな表情をした、この茶シロも‥‥。


私は猫から視線を外し、改めて辺りを見回してみた。
目の前に山門が見える。飲食店が並ぶその通りは、寺の参道でもあった。

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巡らした私の視野の端に、白いものが入り込んできた。


私は、思わず目を大きく見開いた。
(白猫だ。それも生まれて4、5ヶ月の仔猫だ!)

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体の一部がグレーなのは、元来の被毛の色なのか、それとも汚れなのか‥‥、確かめたくても、敵意さえ含んだその険しい目付きは、これ以上の接近を許してくれそうにない。


私はさらに目を瞠った。奥にもう1匹猫の姿を認めたからだ。
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(長毛のキジ白‥‥)
私は長毛のキジ白を見るのは、この時が初めてだった。



背後で音がしたので振り返ると、店先に別の仔猫がうずくまっていた。
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この子などは体全体がグレーに見えるが、本来は白猫だと思われる。


再び山門の方へ振り向くと、眼ぢからの強い子は物陰に身を潜めていた。
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そこへ店先にいた子が近づく。体の大きさから見ても、この2匹はキョウダイだろう。


今度は先ほどのキジ白が、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。
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私の目の前を通り過ぎるときも歩度を変えず、飽くまでも泰然とした態度のままだ。


そして私に一瞥もせず、長毛のキジ白へ向かっていく。
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2匹のキジ白は、挨拶もしない代わりに牽制もせず、すんなりと擦れ違った。


短毛のキジ白が去るのと相前後して新たな猫が現れた。
毛色は“シルバータビー”。直訳すると、“銀縞”?

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純血種なのか雑種なのか、残念ながら私には判断できない。


さらに性別が定かではないので、この愛情表現が如何なるものなのか‥‥、それもまた、分からない。
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とまれ、この2匹が仲睦まじいことだけは確かである。


この寺の存在は憶えていたが、周りの様子がすっかり変わってしまっていて、にわかに思い出せなかった。
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当時、この山門の前は何度か通ったことがあるが、境内に入った記憶はない。


せっかくなので、参拝がてら中を見学することにした。
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本堂の側には樹齢が高そうな樹木が聳えている。
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私がこの街で暮らしていたときも、この銀杏の木は、すでにこうして立っていたのだろう。


山門を潜って参道に戻ると、さっきの薄汚れた仔猫が日向ぼっこをしていた。
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この子は、パーソナルスペースが狭いからか人馴れしているからか、私が近づいても逃げる素振りを見せない。


いったい、この仔猫の出自は如何なるものなのか‥‥。
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遺棄されたのか、それともここで生まれ育ったのか分からないが、すっかり野良としての暮らしに染まっている。


重症ではないが、猫風邪を患っているようで、時折小さなくしゃみをする。
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さらによく観察すると、猫風邪のせいか左目を眇めている。こういう子を見ると、胸が痛む。


気配を感じて視線を巡らせると、植込の中に新たな猫を発見した。
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まだ若そうなそのハチワレは、初めて見る私に興味があるようで、目を逸らせようとしない。


今回確認出来た猫は、これで7匹目。このエリアには、いったい何匹の野良がいるのだろう。
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本心はもう少し、この辺りを探索したかったのだが、母を病院へ迎えに行く時間が迫っていた。私は後ろ髪を引かれる思いで、寺を後にした。


翌日、再びこのエリアを訪れた私は、野良たちの過酷な実情を知ることになる。


〈次回へつづく〉



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家族

2013年01月07日 13:30

チャゲがいなくなった湘南海岸‥‥。早朝。
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まず最初に姿を現したのは、母猫のランだった。
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ランは朝日を浴びながら穏やかな面持ちで私を迎えてくれた。


息子チャゲとの別れを、ランはどう思っているのだろう?
そして‥‥。

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いつも一緒いて、仲良く遊んでいたアスカは、兄弟の不在を受け容れたのだろうか?


物陰から所在無げに、そっと母を見遣るアスカ。
母に遊んでもらおうとでも思っているのか、アスカはそうやってしばらくランの様子を窺っていた。

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しかし、母にその意思が無いのを察したようで、アスカは寂しげにランに背を向けた。


するとアスカは、地面に落ちていた雑草を相手に独りで遊びに興じはじめた。
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誤解を与えないためにいっておくが、草の反対側を私が持っているわけではない。
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アスカは、地面に捨ておかれた草に自らじゃれついているのだ。


その雑草を、いったい何に見立てているのだろう‥‥?
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まるでアスカが、独りの寂しさを紛らすために、動かぬ草と無理から戯れているように、私には見えた。
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事情を知らなければ、無邪気に遊ぶ仔猫の姿に目を細めるところだが‥‥。


独り遊ぶアスカの胸中を忖度するうちに、私は徐々に遣る瀬無くなってくる。
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アスカ自身もさすがに虚しくなってきたのだろう。


遊ぶのを唐突に止めると‥‥、
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植込みの中へとぼとぼと歩き去っていった。


「アスカ‥‥、兄弟をなくしたお前の気持ち、私にも少し分かるよ」
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この世でたった一人の弟を亡くしている私には、アスカの寂しさが想像出来た。でも私の場合は、幼い時分に2歳違いの弟とよく遊んだので、アスカよりはまだ良いほうだ。


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私の姿を認めた一羽のカラスが、あわよくばおこぼれにあずかろうと、さっきから防砂ネット上でそわそわしている。


そのカラスに促されるように、私はランとアスカのために猫缶を開けた。
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母と息子の2匹だけの食事風景。


その食事風景に僅かな寂寥感を感じるのは、私の思いすごしなのか。
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ただ、アスカの食べ方がいつもより長閑やかに感じた‥‥。


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ランはあっさりとトレイから離れた。アスカもそれまで、母のトレイに横槍を入れることなく、おとなしく猫缶を食べていた。
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今朝は鳴りを潜めていたが、アスカの食欲もじきに元へ戻るだろう。


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ちなみに、弟が急逝した直後の私は、五感のすべてが鈍麻になってしまった。なかんずく、味覚は完全に麻痺し、何を食べても味を感じることがなかった。


チャゲの場合は死んだわけではないが、アスカにとっての喪失感はそれとおっつかっつだと思われる。
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そしてその喪失感は、同じ家族の情でしか埋めることが出来ないだろう‥‥。


一般的に猫は情が薄いなどと言われているが、それは大きな誤解である。
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ニンゲンに対する愛情の深いことは、ベンチ猫のサブや首輪をしたまま遺棄されたミイロを見ていてよく分かった。


一緒に暮らしている元海岸猫などは、私が落ち込んでいると、そっと近づいてきて、手や腕を優しくグルーミングしてくれる。だから私は、この子がいないと生きていけない、とまで思ってしまう。
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だから、親子や兄弟同士の情愛も、猫とニンゲンはほぼ比肩していると、私は勝手に決めつけている。


ランやアスカが、海岸を去ったチャゲにどんな感慨を抱いているのか‥‥?
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ニンゲンと同等の感情を持っている猫相手でも、そこまでの機微を読むことは私には出来なかった。


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ランとアスカに別れを告げた私は、ランのもう一匹の子供であるユイが棲むエリアへ足を運んだ。
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ユイは人馴れしていないので、名を呼んでも素直に姿を見せることはない。


しばらく待っていると、下草の中からユイが姿を現した。
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ユイは慎重にゆっくりと、そして用心深く朝日に身を晒していく。


私はそんな警戒心の強いユイを誘いだすために、猫缶を入れたトレイを見やすい場所に置いている。
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食べ物の存在を確認してもなお、ユイは安易に近づこうとしない。


周囲に私しかいないのを視認したユイが、やおら行動を開始した。
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それでも決して急がず、緩やかな足取りで、トレイに近づいていくユイ。


なおもユイは警戒を解かず、いつでも遁走出来る態勢で猫缶に口を付けた。
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ユイはリンと共に防砂林に住まう人と暮らしている。なので、その人たちと一緒にいるときは、これほど警戒はしない。


おそらく、護ってくれる人が側にいることと、自分のテリトリーであることが安心を生むのだろう。
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ユイにとっては、その人たちが主であり、家族なのだから‥‥。


私の背後で何かの気配がしたのだろう、ユイは食事を中断してその方向へ振り返った。
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周りに脅威を感じなくなったのか、ユイはようやくトレイが置かれている鉄骨の台座によじ登った。


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そうして、残りの猫缶を一心に食べはじめた‥‥。


猫缶を食べ終わったユイは、しばらくその場に佇んでいた。
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ややあって、姿を現した同じ下草の中へと、ユイは入っていく。


この草むらの奥は人目に付かず、安息を得ることが出来るのだろう。
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トレイの隅に残された猫缶に、ユイの性格を垣間見たような気がした。


離散してしまったラン親子が今後どうなっていくのか、私は感興を持って見守っていきたい。
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何といっても、今の私の最大の関心事が“家族”であるから‥‥。



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