三度目の提言 (後編)

2014年10月24日 01:00

私は仔猫の許へ行くと思われるリンの後を追ってエリアを出た。

ところがそのとき、それまで姿を見せなかったタクローがいきなり登場。

するとリンはその場所に留まると、さらに我が子のことなど忘れたように小鳥との駆け引きに心を奪われてしまった。


リンは腹ばいになったきり1ミリも動いていない‥‥というより、動きたくても動けない、と表現したほうが正しい。
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我々に気付いているのか、小鳥はこちらに近づいてくる気配をまったく見せず、20メートルの距離を保ったままだ。


母の緊張した様子を無視するように、タクローが目の前を横切っていく。
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どうやらタクローも2羽の小鳥の存在に気がついたようだ。


しかしタクローは肉食獣の本能が希薄なのか、狩りに興趣を感じないようだ。
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再びリンの前を横切るタクロー。息子の無神経な行動に閉口したのか、リンはついと横を向いた。


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タクローはおもむろに地面に体を横たえる。徹頭徹尾、マイペースな猫である。


ニンゲンにもいるだろう、言うところの『 自己中 』とか『 空気が読めいない奴 』が。
タクローも、おそらくそうした類いの気質を持っていると思われる。

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だがその気質のお陰で、防砂林で育った兄弟のなかで唯ひとり生き残ったとも言える。


野良猫が生き長らえるのは並大抵のことではない。それを今のところ成し遂げているタクローの生き様を非難することはできない。
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無傷な右眼は、おそらく我々の想像を絶する悲惨な光景を見てきたのだろう。


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タクローがいきなり頭をもたげた。


「やはり小鳥が気になるのか?」
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2羽の小鳥は相変わらず獲物探しに余念がなく、我々を気にしていないようだ。


タクローは母に倣って小鳥がいる方向を見ているが、その態勢に緊迫感はまったくない。
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猫もニンゲンと同様に、右眼と左眼に写る像のズレで対象物までの距離を測る。


左眼が白濁しているタクローはその機能が上手く働いていない可能性が高い。
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そう考えると、タクローが小鳥に興味を示さないのも理解できる。


タクローは警戒しながら、私の脇を慎重な足どりで通り抜けていく。
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そしてコンクリの土台に跳び乗ると、頭を擦りつける。


改めてタクローの左眼を観察すると、瞳孔はほどんどを白濁した角膜で覆われているようだ。
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この状態だと瞳孔を狭めている昼間など、左眼はほとんど見えないだろう。


「遠近を識別できないから、怯懦で猜疑心の強い性格になったのか‥‥」
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ニンゲンを必要以上に警戒するのも、それがためかもしれない。


と、そのとき、前方から一人の男性が歩み寄ってきた。


それは先日エサ場で会ったデニムのエサ遣りさんだった。
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デニムの男性と私は互いに軽く会釈を交わした。


彼がカリカリをコンクリ台に置くと、リンとタクローは競うように食べはじめた。
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「リンはさっき食べたばかりなのに、足りなかったのか、それともこのカリカリが格別美味しいのか‥‥」


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この男性は、タクローが唯一馴れているニンゲンのはず。それなのに、ときおり腰をひいて怯えた表情を見せるタクロー。


私はこのデニムの男性にいくつか訊いてみたいことがある。
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まず、エサ場の食器が替わった理由を尋ねてみた。どう考えても以前の食器のほうが猫のエサ入れに適していたからだ。


すると、男性は「前の食器は無くなったんだ。ここ(防砂林)を管理している職員が片付けたんだろう」と言った。
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しかし私はそうは思えなかった。なんとなれば、この防砂林のなかには他に片付けなければならないモノが沢山あるからだ。


それなのに、誰が見ても野良猫のためと分かる食器を敢えて持ち去るとは考えられない。
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防砂林を管理する職員がそこまで薄情でないことは、海岸猫の墓を黙認していることからもうかがい知れる。


私は猫嫌いで陰険なニンゲンが食器を持ち去って遺棄したと推測している。
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それというのも、過去に同じようなエサ場荒らしが何度も起こっているのを知っているからだ。


海岸で暮らす猫たちはニンゲンに迷惑をかけていない。それなのに猫を蛇蝎のごとく嫌う輩が、八つ当たり的に海岸猫たちを虐待するのだ。
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こういうゲス野郎は通常、残忍な素顔を善人面で糊塗して海岸を闊歩している。
私はだから、いつかそいつの化けの皮を剥がしてやろう、と密かに機会をうかがっているところだ。



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なぜかデニムの男性を警戒していたタクローだったが、やっとその警戒心を解いたようだ。


ところが‥‥。
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何が気に障ったのか、タクローは男性の手にいきなり猫パンチを放った。
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しかし本気のパンチではない。
男性が痛がる様子を見せないくらいの、手加減を加えたパンチだ。



研ぎ澄まされた猫の爪は、鋭利な凶器となる。
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怒りや恐れが込められた力の限りのパンチならニンゲンはまず避けられないし、出血もまぬがれない。


力の入っていない猫パンチも、とどのつまりは男性への甘えの所作だったのだろう。
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今更だが、猫とはこのようにニンゲンの予測不能な行動をとる不思議な生き物なのだ。


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飼っている動物が自分の言うことをきかないと我慢できない傲慢なニンゲンには、猫の魅力は分からないだろう。永遠に‥‥。
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私は先日リンの子供を目撃した経緯を、デニムの男性に報告した。
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果たして男性は「母猫が子供産んだことは知っているけど、まだ子供とは会っていない」と言った。


私はそこで、意を決して口を開いた。
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「この母猫はすでに4回も出産しているから、もう不妊手術を受けさせたほうがいいと思うんだけど」と努めて軽い口調で言ってみた。


すると男性は薄く笑いながら「前にも同じことを言ってきましたね」と、意外な話を語りはじめた。
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私が訝っていると、「ほら、火事で焼けたテントにあなたよく来てたでしょ。あそこで何度か顔を合わせてますよ。だから以前にも母猫に手術を受けさせたい、と言ってきたことを知っている」と男性は言った。


そう言われても、私はこのデニムの男性のことをまったく憶えていない。
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なんとなれば、あのテント小屋は当時ホームレスと元ホームレスの人たちにとっての社交場で、不特定多数のニンゲンが出入りしていたから、それらすべての顔を憶えるのは無理な話だ。

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男性は話をつづけた‥‥。2012年の秋に、リンが育児放棄したキジトラとキジ白の仔猫を、私の仲介で里子に出したことも知っている、と言う。


「ああ、そうだったんだ‥‥」私は気のない返事をして、肝心の答を待った。
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やがて男性は私に背を向けたまま口を開いた。そして、「手術はしなくていいですよ」と呟くように言った。


私は感情がすぐ顔に出るタチだ。なので、男性が正面を向いていたら、私の顔色が変わったのに気がついたはずだ。
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私の心の中には、戸惑いと憤りがふつふつと沸き立っていた。


喉元まで出かかった言葉を、私はぐっと呑みこんだ。
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私が異議を唱え不妊手術の必要性を説いても、デニムの男性と不毛な議論がはじまるのは分かっていた。


デニムの男性は去っていった。
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男性の正体について、私はさっぱり見当がつかない。
最近では一目でそれと分かるホームレスは少なく、皆一様にこざっぱりした格好をしている。



だから彼もホームレスの可能性はある。しかし、ニューバランスのスニーカーを履いたホームレスなど、少なくとも私は見たことがない。
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分かっているのは、リンとランが生まれ育ったテント小屋に出入りしていたと言っていたから、そこに住んでいたホームレスと何らかの関係があることくらいだ。


こうして、私の “ 三度目の提言 ” も拒否されてしまった。
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「だがなリン、私はこれで諦めたわけじゃないぞ。機会を見ていつかお前に不妊手術を受けさせてやるからな。そうすればお前も長生きできる」


不幸な子を増やさないためにも、また母猫の子宮の病気や乳癌の予防のためにも、独りで生きる野良猫にとって、不妊手術は必要不可欠だ。
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しかし動物愛護を唱える人たちの中には、未だに犬猫の不妊手術が一種の虐待行為だと公言する人が少なからずいる。


「その人たちは知っているのだろうか?」

望まれずに生まれてきた子を含めた数多くの犬猫が、保健所や愛護センターにおいて、どんな方法で殺されているのかを。


参考のため、記事の後にその様子を記録した動画を転載した。

もしその動画を観てもまだ、野良猫への不妊手術が虐待だと思う人がいたら、それは生命に対する観点が私と違っているからで、永久に相容れることはない。



いつの間にかタクローは防砂林の奥へ姿を消してしまった。
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リンはなぜか仔猫が待つねぐらへ行く目的を忘れたように、草むらの中で動く気配を見せない。
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人が疎らになった海岸には、さらに大きくなった波音が鳴り響いている。


リンに別れを告げてエリアを離れた私は、しばし荒れた海を眺めることにした。
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白波を立てている海と同じように、私の心も少々荒れている。


デニムの男性との遣り取りを思い返し、そしてリンの現状に考えが及ぶと、私の気分はひとりでにうねってくるのだ。
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「‥‥リン!」
しかし、私の声は砂浜で砕ける波の音にかき消されてしまった。



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【殺処分の現実】

この現実から目をそらして動物愛護を語るニンゲンなんて所詮は似非だ!

『 犬編 』



『 猫編 』





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三度目の提言 (前編)

2014年10月15日 16:00

ここ2、3年で海岸猫の数は激減した。

がために機能しなくなったエサ場もあるが、それでも海岸にはいくつかのエサ場が現存している。

私はそれらのエリアも訪れて海岸猫を撮影しているのだが、記事にしていない写真のデータが溜まる一方だ。

なんとなれば、病のせいかそれとも薬の副作用のせいか、集中力が持続せず、その結果更新が大幅に遅延しているからである。

それに加えて、いきおいもっとも気掛かりな海岸猫の記事を優先してしまうからだ。

と、いうことで今回もリンの物語を綴ることにする。



湘南海岸、夕刻。
この日の海は白波を立てて、大きな波音を響かせている。

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エリアに到着すると、すぐにリンが姿を現して私を迎えてくれた。
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リンは鳴き声ひとつ上げずに、ゆっくりと近づいていくる。


そして、私の脚に身体を擦りつけて歓待の意思をあらわす。
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こういう落ち着いた態度のときは、穏やかな日々を過ごしていた証左だ。


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好奇心といくぶん警戒心のこもった面持ちでリンは海側を見つめている。


リンの視線の先には、バーベキューに興じる若者の集団がいた。
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波音と競いあうように、大きな笑い声と喚声をあげる若者たち。


かまびすしい声を発するニンゲンは、猫にとって忌避すべき存在なのだろう。
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リンは後ろを一度も振りかえらずに、出てきたときと同じようにゆっくりとした足取りで防砂林の中へ戻っていった。


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そうして、緘黙したままエサ場の食器の脇に端座した。


散乱した食器はカラスの仕業だと推測される。
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海岸では水を替えても海風の運ぶ砂が入りこみ、すぐに濁ってしまう。


育児中のリンはより栄養を摂らねばならず、食事量が通常の2~3倍に増える。
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が、リンはよほどの空腹でもないかぎり鳴き声をあげて訴えることはない。野良とは思えないつつしみ深さだ。


飲料水用のPP製の容器を洗い、新鮮な水に替える。だが数時間もすれば、海風が元の濁り水に戻してしまうだろう。
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主食用の食器も水道の水で洗った。


その食器に持参した猫缶を盛ると、リンはおもむろに食べはじめる。
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飢えている様子を微塵も感じさせない食べ方だ。おそらく午前中に『 父親 』から十分な食事を与えられたのだろう。


「ところでリン、タクローはどうしたんだ。いつもなら猫缶の匂いを嗅ぎつけて姿を見せるはずなのに‥‥」
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しかし食事中ということもあり、リンは何も答えてくれない。


食事を終えたリンは、そそくさとエサ場を離れて歩きはじめた。
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「リンは4匹の子供が待つあの場所へ行くつもりだ」私はそう直感した。


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腹を空かせた子供たちのために急いでいるのだろう、リンは最短距離を選んで歩を進めている。


ところが私の脇を通り過ぎたときだった。
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リンはいきなり立ちどまると、防砂林の奥を凝視しはじめた。なにかの気配を感じ取ったのか?


しばらくすると、リンは再びためらいのない足取りで歩みはじめた。
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再び歩みを止めたリンは鉄骨の陰に身を隠して、今自分が歩いてきた方向を険しい目付きで見つめる。
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仔猫の居場所を知らせたくないリンは、私以外の追跡者がいないか確認しているのだろう。


「そうだ、用心するに如くはない。ここ(防砂林)には様々な外敵が潜んでいるんだから」
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リンはみたび立ち止まると、コンクリの土台に乗り、少しでも高いところから防砂林の様子を見ようとしている。
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と、いっても猫の視力は存外悪くて、かなりの近視である。その代わりに聴力が優れているから気になる物音を聴きとったのかもしれない。


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やがてリンはエリアから出て、防砂林を仕切るように設けられた道路を横切っていく。
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リンは、以前の経路を正確にトレースしている。我が子が待つ、灌木の中のねぐらへ向かっているのは、もはや疑いようがない。


と、そのときだった。
甲高い猫の鳴き声が聞こえてきたのは。



私は急いで周囲に視線を巡らせる。


やがて防砂林の中から一匹の海岸猫が姿を現した。


声の主はタクローだった。
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「今までどこに潜んでいたんだ?」
さっきリンが盛んに防砂林の奥を気にしていたのは、タクローの存在にあったのかもしれない。



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私にガンを飛ばしながら、タクローはなおも声を上げつづける。


突然歩度を速めて私を迂回していくタクロー。どこまでも用心深いヤツだ。
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そしてタクローは母であるリンに近づくと、鼻先を突きだした。
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猫がお互いの鼻と鼻を近づけて匂いを嗅ぎあうのは、ニンゲンでいうところの挨拶にあたり、「こんにちは」とか「元気だった」などの意味合いがある。


また、互いに敵意を持っていないという友好の意思表示でもあるのだ。
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ちなみに、ニンゲンが指先を近づけると鼻を近づけてくるのは、この習性がためである。


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タクローはあらぬ方向を見つめてひときわ大きな声を発した。
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さらにその場で円を描くように回りはじめる。この行為がいったい何を意味しているか、長年猫と付き合っている私にも理解できない。


そこで「なあ、お前の息子は何を訴えているんだ?」とリンに訊いてみた。
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しかし、リンは「子供のことなら親が何でも知っていると思ったら大間違いよ」と言っているように私をねめつけるだけだ。自らの人生を顧みて、私は納得した。


タクローはひとときもじっとしていない。
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鳴き声は発しなくなったが、せわしげに動きまわる。


空腹なときはいつもエサ場付近で待機しているタクロー。しかし、私が猫缶を開けても姿を見せなかった。
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それにさっきからの行動を見ているかぎり、私に対して何かを欲求している風でもない。


リンの行動も不可解だ。腹を空かせた子供の許へ行かないで、なぜか留まっている。
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たとえ息子であっても、幼い我が子にオス猫を近づけたくないと考えているのだろうか。母親とはそこまで徹底する生き物なのか‥‥。


動きまわるのもさすがに飽いたのだろう、タクローは灌木の陰に身をおいて私をのぞき見る。
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灌木の隙間からニンゲンの行動を観察する、私自身がこれまで何度も目撃し、ブログでも紹介してきたお馴染みの絵づらだ。


と、そのとき、巡らせた私の視界に、緊迫した様相のリンの姿が入ってきた。
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腹ばいになったリンの姿勢、これは待ち伏せ型の肉食獣である猫が獲物を狙うときにみせる。


リンの視線の先にいるのは2羽の小鳥だ。
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小鳥は雑草の中に潜んでいる虫を啄んでいるのだろう。リンと小鳥の距離はおよそ20メートルほどだ。


先ほど猫は視力が悪くかなりの近視だと述べたが、動くものを認識する能力は長けている。
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これは眼球を素早く動かす “ サッケード ” という機能が発達した猫ゆえの為せるわざだ。


だが、猫が獲物を確実にとらえられるのは1メートル以内、この見通しのいい場所でリンが小鳥に気づかれずに近づくのは不可能だし、小鳥自身がその距離まで寄ってくることもないだろう。
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それでも肉食獣の本能がそうさせるのか、リンは身じろぎしないで小鳥の動きに神経を集中している。


このあと、私は先日会った『 父親 』のひとりと再会を果たすことになる。
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『 父親 』と会う機会を待ち望んでいた私は、リンのことで相談を持ちかけた。

この話し合いで、私は意外な事実を知らされる‥‥。


〈次回へつづく〉



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【報告】


『あの子は今‥‥』


さて、幾人かの読者の方から、その後の様子が知りたいと要望があった『 実家に現れたキジトラ 』の近況を報告しよう。

気紛れな猫だからか、叔母の話だと、ときには1週間も姿を見せないことがあるという。

が、キジトラは定期的に実家にやって来ては食事をし、私が用意したねぐらで寝ていると報告を受けている。

ただ実家に住む叔母は携帯メールの送り方が分からないので、いつも電話でキジトラの様子を訊くばかりだった。

そうしたところ前回の更新のあと、従弟から「お久しぶりです」という書き出しの写メールが届いた。

そこには実家の玄関でくつろぐキジトラの姿があった。


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(10月5日撮影)


私にしても言葉で「元気にしている」と聞くより、こうして写真で確認できれば実感が湧いて、安心できる。

「また会える日を楽しみにしてるよーッ」



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小さな世界 (後編)

2014年10月05日 09:30

ここは防砂林の最奥部、リンの子供たちの棲家だ。

リンは我が子に授乳する為、頻繁にここへ通っている。


最後まで灌木のなかに隠れていたキジトラが、ようやく姿を現した。
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そうして、すぐさま母親の乳首に吸いついた。


これで全員がそろった。
4匹も子供がいるのに乳首の奪い合いが起きないのは何故なのか。

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それは猫の乳房の数が通常6~12個のあいだで、平均8個もあるからだ。


一度の出産で複数の子供を産む犬や猫などの、いわゆる『 多胎動物 』は授乳時にあぶれる子がないように、おおむね乳房の数が多い。

ちなみに、猫は普通一度に3~5匹の子供を産む。(世界記録は19匹)


4度の出産を経験したリンの場合は、決まったように4匹ずつ産んでいる
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もしかしたら、防砂林で暮らす野良猫のリンが育てられる子供は4匹が定限なのかもしれない。


先に母乳を飲みはじめたので満腹になったのか、サバ白の子と黒い子がじゃれ合いをはじめた。
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仕掛けたのは、もっとも行動が大胆なサバ白だ。この子は、何事も率先するリーダー格になる資質を持っているようだ。


この時期(生後6週~2ヵ月齢)の仔猫は『 社会的 』な遊びをとおして様々なことを習得していく。
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兄弟がいる場合、まず兄弟の行動を観察して模倣するという学習方法をとる。


また兄弟とのじゃれ合いのなかで、どの位の力で噛んだり叩いたら相手が痛がるか、という『 攻撃抑制 』を学ぶのもこの時期である。
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その為には実際に自分自身が相手から噛まれたり叩かれて、その痛さを経験しないと、『 攻撃抑制 』が習得できずに、結果として手加減を憶えられない。


だから手加減を知らずに育ったひとりっ子や兄弟との遊びが少なかった仔猫は、将来において本気で噛みついたり、爪を出したまま猫パンチをするなどして、相手に大怪我を負わせる危険性がある。
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この『 攻撃抑制 』は猫にかぎらず、ニンゲンにも当てはまる。確信犯を除いて、傷害致死を犯した多くの被疑者が「これくらいで人が死ぬとは思わなかった」と供述する報道をよく耳にするからだ。


にしてもサバ白は、兄弟のなかでも飛び抜けてアグレッシブな性格であることがよく分かる。
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黒い子の反撃に遭って怯んだ、と思ったら、次にキジトラを相手に選んでじゃれ合いをはじめる。


知ってか知らでか、こうやって仔猫たちは日々、習得的行動にいそしんでいるのだ。
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サバ白の体勢には『 ベリーアップ 』という名が付いている。仰向けになり、前脚は引っかき攻撃をし、後ろ脚はキック攻撃をするという、成猫になっても見られる行動である。


サバ白が左前肢を大きく振りあげた。
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そしてそのままキジトラの額に打ちおろした。爪が出ていれば強烈な一撃になるパンチだ。


が、キジトラはダメージを受けた様子を見せず、すぐに上体を起こした。
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と、今度はキジトラの喉くびに噛みつくサバ白。


キジトラも一方的にやられっぱなしではなく、サバ白にのしかかるように反撃してきた。
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すると、サバ白は体を捻って投げで切り返す。キジトラの上体がのけぞる。


が、キジトラは体勢を立て直すと同時に、一瞬の隙を突いてサバ白の首に噛みついた。
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さらに両手(もろて)で以ってサバ白の背中に爪を立てた。形勢が逆転した瞬間だ。


するとサバ白は、遊び相手を母に求めて、リンの脇腹に噛みついた。
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リンがゆっくりと頭をもたげてサバ白を見つめる。


そしてサバ白の子をたしなめるように、リンが顔を近づけた瞬間だった。
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サバ白のキックがリンの顎に炸裂したのは。思わずのけぞるリン。


それでもリンは怒る気配も見せず、サバ白をグルーミングしようとする。
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この時期の仔猫の性格形成には、母親との関係も大きな影響を及ぼす、と言われている。つまり母親との親密度が高ければ高いほど、仔猫の社会的学習が促されるらしい。


その一例が、母親が側にいると、未知のニンゲンや動物が近づいてきても脅威を感じない、というものだ。
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二度目の対面とはいえ、彼らにとって未知のニンゲンである私が近くにいても、こうして遊びに興じていられるのも、リンが寄り添っているからだろう。


しばらくすると、サバ白と黒シロの子は灌木の中へ入っていった。おそらく眠くなったのでねぐらへ戻ったのだろう。
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その後は、残ったふたりの仔猫とリンの穏やかな時間がすぎていく。リンも目を閉じて身じろぎしなくなった。
これ以上母子の大切な触れ合いを妨げないよう、私はその場からそっと離れた。



しばらく待っていると、授乳を終えたリンが近づいてきた。
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私が労いをこめて撫でると、リンはさっきまでの母の顔を脱ぎ去り、気持ち良さそうに目を細める。


リンを撫でているうちに、私の心の底で、ある決意が固まりかけていた。
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「リン、もう一度頼んでみるよ。今度は別のニンゲンだから許してくれるかもしれない」


去り際に振りかえると、リンは陽だまりに体を横たえていた。
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しかし、目はしっかり見開いている。


ニンゲンが滅多に足を踏み入れない防砂林の奥にも外敵はいる。ここにはカラスやトンビの他にも、小動物を捕食するアライグマやタヌキが生息しているのだ。
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さらにオス猫ですら警戒を要する敵となる。なんとなれば、オス猫はしばしば仔猫を殺してしまうからだ。


やはり疲れていたらしく、リンはやがてためらいがちに目を閉じた。
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リンの束の間の眠りを邪魔しないよう、私は出来るだけ音を立てずにあとずさった。


下草のなかで眠るリンのキジトラ柄は、保護色となって周りに溶けこんでいる。
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その様子は、あたかも水底で息を殺して沈潜している水棲生物を思わせた。


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朝はやはり体の調子が良くない。

通常、海岸に来ると2時間程度はとどまっているのだが、この日は1時間あまりで引き上げることにした。

それでなくても重く感じる身体に、新たな決意を抱えて、私は帰路についた。



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