ロンリネス (前編)

2014年12月29日 22:00

たいていの場合、私は1箇所のエリアで撮影を完結させる。

ただ目的の海岸猫に会えなかったり、撮影条件が悪いときなどは、現場で判断して2箇所以上のエリアに足を運ぶことがある。

だがこの日は、出かける前から2箇所のエリアを訪れると決めていた。

なんとなれば、私には何としても確認したいことがあったからだ。


湘南海岸、夕刻。
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砂浜に降りて海岸の風景を撮影しているとき、何気なく後ろを振り返ると、道路を渡ってこちらへ向かってくるリンの姿が目に入った。
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前回同様、まるで私が来るのを前もって知っていたかのようにリンは姿を現す。


姉妹のランは、自転車のスタンドを立てる音で識別していたが、リンは違う方法をとっていると思われる。
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というのも、私が自転車を止めてからのタイムラグがあり過ぎるからだ。


猫の視力はニンゲンの10分の1ほどで、10m以上の距離があるとニンゲンの顔の識別はできない、と言われている。
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ではどうやってリンは私が訪ねてきたことを知ったのか?
聴覚が優れた猫だから、やはり特定の “ ” を聞き分けたのだと推測される。



もしかしたらその音は “ シャッター音 ” かもしれない。カメラにはそれぞれ固有のシャッター音があり、カメラに通暁しているニンゲンでも判別できると思われるからだ。Larea14June21-008c.jpg

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それまで気持ち良さそうに砂浜に寝転がっていたリンがいきなり頭をもたげた。


リンは防砂林の方を見つめている。私には聞こえなかったが、仔猫の鳴き声を聞き取ったのかもしれない。
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ところがリンの視線を辿ってみると、そこには物陰からこちらの様子をうかがっているタクローの姿があった。


どうやら声の主はタクローだったようだ。タクローがどんなメッセージを発したのか分からないが、リンは慌てた様子で駆け寄っていく。
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身体の大きさはとうに母のリンを上回っているが、タクローはまだまだ半人前。リンとしてもそんなタクローが気掛かりなのだろう。


リンが側に来てもまだ不安げな表情のタクロー。リンの毅然とした居ずまいとは対照的だ。
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猫社会、なかんずく野良猫の社会で生きるには、図体の大きさより年長者の経験知の方が有用らしい。


タクローは経験の少なさを、具わっている本能で補っている。
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猫の場合、先天的な性格は父親から受け継がれ、『 豪胆 』と『 臆病 』に大別される。


これまでのタクローの行動を見ているかぎり、彼の性格は明らかに後者だ。
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害意のないニンゲンにも頑なに心を開かず、常に警戒心と猜疑心の鎧を身につけている。


ところが、たまにこういう甘えるような仕草を見せるから、こちらとしては戸惑ってしまうのだ。
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タクローの内面を私なりに分析すると、怯懦な性格とニンゲンに構ってほしいという欲求が相克している状態ではないかと思うのだが。


「でもなタクロー、野良猫は臆病でいいんだ。その方が結局長生きできるんだから」と私の偽らざる考えをタクローに伝えた。
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実際、保護する目的がないかぎり、私はこちらから近づいて海岸猫を手懐けないように心掛けている。なんとなれば、その行為がひいては彼らを危険な目に遭わせることになり得るからだ。


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ホームレスのテントで生まれ育ったリンは、持って生まれた性格もあるだろうが、初見のときから人馴れしていた。(詳細は【ニューエリアの猫】を参照)


リンとタクローに誘導されるように私はエサ場へ行ってみた。
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食器は散乱して、何故か先日あった大きな器がふたつ無くなっている。さらにリンの前には柄の入った新たな食器があった。


この数日間に、このエサ場でいったい何が起こったのだろう。Larea14June21-027c.jpg

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タクローは檻の中の虎よろしく、いっときもじっとせず行ったり来たりを繰り返している。


そしてリンは、食べ物をくれるなら早くしてと言わんばかりに大きなアクビをした。
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私は勿体ぶって給餌を留保しているわけではない。仔猫たちが姿を現さないかしばらく待とうと思ってのことだ。


踵を返したタクローはこちらに向かって真っすぐ歩いてくる。
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「ち、近い‥‥!」タクローは私の脚に触れる寸前まで近づいてきた。
レンズの最短撮影距離を超えたので、思わずのけぞってシャッターを押すほどだった。



タクローは頭を下げたまま、さらに私に近づいてきた。
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「この姿勢は、ひょっとしたら‥‥」


私は恐るおそるタクローの背中に手を伸ばした‥‥。そしてタクローの体に掌が触れた。
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私がタクローを初めて触った瞬間だ。
このときも自覚していたが、改めて写真を見ると自分の手がこわばっているのが分かる。



猫が気まぐれな生き物なのを知っている私は慎重を期して、腰の辺りをしばらく撫でていた。
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この位置ならとっさに爪や牙で攻撃されても、避ける余裕があるからだ。
小動物だと思って、猫の攻撃力を侮ってはいけない。



また猫の爪や口腔内には様々な細菌が繁殖しているので、もしも爪で引っ掻かれたり牙で噛まれたら、速やかに流水などで傷口を洗浄することだ。

咬傷や掻傷がごく浅ければ洗浄と消毒で済むことがあるが、『 破傷風 』や『 パスツレラ症 』や『 猫ひっかき病 』などに感染する可能性もあるので病院へ行くことを勧める。


閑話休題。


私はタクローの背中を優しく撫でながら、しかし彼の挙動に細心の注意を払いゆっくりと掌を頭の方へ移動させていった。
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そして掌が首に到達した瞬間だった。


タクローはいきなり体をひるがして私の掌を振り払った。どうやら頭を撫でることは受け容れられないようだ。
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何はともあれ、タクローに触れたことは一歩前進だが、これ以上私から近づくつもりはない。


私の目的は海岸猫のありのままの姿を記録し発信することであって、彼らと懇意になることではないからだ。
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タクローのニンゲンとの距離の取り方は今のままでいいと思っている。


この町にも善人面で本性を糊塗した酷薄なニンゲンが存在しているのだから。
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「しつこいようだが、野良猫は小心者のビビリでいいんだ。安易にニンゲンを信用していたら命がいくつあっても足りないぞ」


リンはこの防砂林で4年生き抜いている。それは取りも直さず危険を察知し回避する能力が優れている証左だ。
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「なあリン、ニンゲンの本性を見抜くコツがあるなら、それをタクローに教えてやってくれよ」


期待しているふたりをいつまでも待たせるわけにはいかないので、食事を与えることにした。
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それに仔猫たちが猫缶の匂いを嗅ぎつけて姿を現すかもしれない、という期待もあった。


リンがいきなり頭をもたげて、耳をそばだてる。仔猫の声が聴こえたのだろうか。
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が、空耳だったのかそれとも食欲が勝ったのか、リンはすぐに残りの猫缶を食べはじめた。


タクローの神経は味覚に集中しているようで、顔を上げもしないで食べることに専念している。
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子育て中のリンの食欲も相変わらず旺盛である。


しかしリンは、無防備な食事中であるからこそ一層感覚を鋭敏に働かせているようで、時折鋭い視線をまわりに向ける。
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リンがタクローのようにただ食べることだけに神経を集中していないのは、その顔つきで分かる。


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私がエサ場を離れ、先日仔猫がいた植込みを覗きに行っていた僅かな間に、リンは姿を消していた。


途中ですれ違わなかったところをみると、仔猫のねぐらを違う場所へ替えたようだ。
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ねぐらの移動、これも外敵から仔猫を護る母猫の防御本能である。


独り残って黙々と猫缶を食べるタクロー。母が居なくなったことに気付いているのだろうか。
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猫缶を食べ終えたタクローは、リンが向かったと思われる場所とは逆方向へ去っていく。
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とぼとぼと歩くその後ろ姿に、そこはかとない寂寥感を覚えるのは私の気のせいだろうか。


今回は仔猫たちに会うのを諦め、私は別のエリアを目指して自転車のペダルを漕いだ。
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『 シシマルエリア 』に到着したら、私の目にいきなりコジローの姿が飛び込んできた。
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いつものコジローなら私の来訪を知ると、多少素っ気ない態度ながらも近寄ってくるのだが、何故かこちらを見ようともしない。


それならば自分からコジローの視界に入ってやろうと思い、私はコジローの正面に回りこんだ。
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しかしそこまでしても、“ 浜の伊達男 ” は私を無視したまま身じろぎしない。


〈次回へつづく〉



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神出鬼没 (後編)

2014年12月21日 19:00

私はエリアを移動したリン一家の様子を見るために、曇天の海岸を訪れた。

ところが、そこへ思いがけない海岸猫が闖入してきた。


湘南海岸、夕刻。
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サバ白が私を見つめる面持ちには、警戒心と好奇心が交じり合っているようだ。
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そこへ黒猫が慎重な足取りで近づいてきた。


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黒猫はサバ白に比べて警戒心が強い性格のようで、私を凝視したまま慎重に歩を進めてくる。


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好奇心が勝ったのか、サバ白は数歩進み出てきた。


黒猫もカメラを構えるニンゲンに興味津々といった風で、私をじっと見つめている。
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とそのとき、サバトラの授乳を終えたリンが、私のすぐ脇を通り過ぎていった。


そしてそのまま、ふたりの子供がいるエサ場へ歩を進めていく。
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母親が現れたことで仔猫たちは警戒心を緩めたのか、にわかに行動が活発になった。


リンは喉の乾きを癒やしにエサ場に戻ってきたのだ。
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母親の姿を植込みの中から発見したのだろう、黒シロ仔猫も姿を現した。これで仔猫全員の姿を確認できたわけだ。
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こうして自分自身の目で仔猫たちの元気な姿を見て、やっと安堵の胸をなでおろした。


野良猫、それも仔猫が無事に育つ確率は低く、成猫になれるのはせいぜい1匹で、2匹以上は稀だと一般的には言われている。
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リンは前回までの出産で12匹の子供をもうけたが、里子として海岸から救われた4匹以外でいま現在生存が確認できるのはタクローひとりだけだ。


ただ心配していたリンの育児放棄は、今のところその兆しを見せていない。
リンは2012年の秋に産んだ4匹の子供のうち、2匹の育児を放擲した前歴を持っている。

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幸い、当ブログを見た県内の女性の斡旋で2匹揃って同じ里親さんに引き取られた。
(詳細は【幻想家族】【警戒する猫】を参照)


ちなみにここは、以前の防砂林の深奥部のような人目につかない場所ではない。
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がために、リンは感覚をフル稼働させて、周囲に警戒のセンサーを張りめぐらせている。


それはリンの険しい表情からも知れるが、耳の向きを変えて四囲の音を聞き漏らさないようにしていることで明白に実証している。
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子供をグルーミングしている最中も、リンの両の耳は周りの物音を感知しようと向きを変えつづける。


こんな見通しの利く場所で授乳するのは、彼女が信頼している私というニンゲンが側にいるからかもしれない。
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それでも警戒を完全に解けないのは野良猫の悲しい習性だ。


ここが防砂林ではなく家の中だったら、この情景は見る者にまったく違った印象を与えるだろう、と私はつい夢想してしまう。
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こういう感慨を覚えると、たいてい私の心中には自責の念が頭をもたげてくる。


私に興味があるのか、それともカメラに心惹かれるのか、黒仔猫がすぐ側までやってきた。
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が、私が半歩前進したら、黒仔猫は慌ててリンの許へ戻っていった。


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こういう光景を見ると、私としては4匹の仔猫全員がこれからも健康に育ってほしいと願うばかりだ。というか、私にはそれくらいしかできることがない。


授乳を終えたリンは子供たちから離れて独りぽつねんと佇んでいる。
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だがリンは表情を引き締めたままで、警戒心を緩めていないようだ。


リンの視線の先にいるだろう仔猫の様子を見ようと、私が目を離した一瞬の間隙にリンはいきなり駆けだした。


私は慌ててリンの後を追った。「リンどうした、またサバトラがお前を呼んでいるのか?」
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だがリンは “ 母の声 ” を発しないで、慎重な足取りで植込みへ向かっていく。


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そしてそのまま薄暗い植込みの中へ入っていった。


1分ほど経つと、リンは困惑した様子で戻ってきた。
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サバトラを捜しに行ったのに見つからなかったのだろうか。


また何か聴覚を刺激する物音がしたようで、リンはいきなり道路に駆け降りてきた。
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リンは途中で歩度を緩めると、今度は注意深い足取りで道路を横断していく。


そして道路を挟んだ隣の植込みに鼻先を突っ込み、中の様子をうかがいはじめた。
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しかし植込みには入らず、リンはおもむろに踵を返した。
「いったい、何があったんだリン?」リンの挙動は私の目から見ても明らかに変だった。



やがてサバ白が草むらから顔を出して、常ならね母を見つめる。
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が、リンはサバ白を一顧だにせず、おもむろに体を翻した。


そのときだった。
私の背後から、猫の甲高く大きな鳴き声が断続的に聞こえてきたのは。


私は急いで振り向くと、声を頼りに防砂ネットの中に猫の姿を探した。


すると、ネットの下の隙間からハチワレ猫がにゅっと顔を出した。
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「だ、誰だ‥‥お前?」
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私はそのハチワレの顔に憶えがあるはずなのに、何故かどこのエリアの海岸猫なのか思い出せなかった。


むこうも私を見知っているようで、やおら振り向くと思わせぶりな視線を投げかけてくる。
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そして私がすぐ近くにいるにもかかわらず、落ち着きはらった態度で地面に体を横たえた。


そのふてぶてしいと言ってもいい立ち振る舞いを見て、私の脳裏にある海岸猫のイメージが浮かんだ。
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「お前‥‥ユキムラだな」
私はようやく記憶の引き出しから、この海岸猫に関するピースを見つけることができた。

(ユキムラと最後に会ったときの様子は【新参者】を参照)


ニンゲンの脳は‥‥、少なくとも私の脳に限れば、物事を単独で憶えるのが不得手だ。
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通常はほかの事柄と関連付けられたあと、記憶の断片となって脳内の引き出しに収まる。たいていの場合、それは場所であったり時節であったり状況だったりするのだが。


私の卑近な例をあげると、診察の際にいつも顔を合わせている看護師と商店街ですれ違ったが、その人の正体を思い出したのは帰宅したあとだった経験がある。
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その体験と同様に、見知った海岸猫であっても違う場所で遭遇したせいで、にわかに思い出せなかったのだ。


オスの行動範囲はメスのそれより広いが、ここはユキムラが暮らすシシマルエリアから結構な距離がある。
「お前はどうしてこんな所まで出張ってきたんだ?」

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ユキムラはしかし、私の問いかけには答えず、「ニンゲンはどうして、いつもくだらない紋切り型の質問をしてくるんだ」と言わんばかりに大きなアクビをした。


それをきっかけに、ユキムラは思いを定めたように起きあがった。
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そして私に背を向けて、悠然とした足取りで防砂林の奥へ進みはじめた。私はその場に留まりユキムラを見送ることにした。


ところがユキムラは途中で進路を右に変えた。
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ユキムラが舵を切った方向にはリンの子供たちがいる。仔猫に対してユキムラがどんな態度にでるか予測できないので、私は慌ててあとを追った。


ユキムラは地面に転がっている朽木で爪研ぎをしていた。
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「ユキムラ、お前がどんな理由でここへ来たのか知らないけど、仔猫にはちょっかい出すなよ」
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するとユキムラは「何だよ、しつこいおっさんだなぁ。オレのやることにいちゃもんをつけるな」と如何にも不愉快そうな声をあげた。


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ユキムラは元の通路に戻ると、そのまま軽快な足付きで歩いていく。


私があとを付けていないか確認するためだろう、ユキムラは立ち止まり私を顧みた。
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再び歩きはじめたユキムラは、やがて防砂林の奥へ姿を消してしまった。


確かめる術はないが、リンの聴覚が感知したのはユキムラの鳴き声だったのかもしれない。
だからサバトラのことが心配になり、あんなに右往左往していたのではないだろうか。


ユキムラが登場してからリンたちはそれぞれの隠れ場所へ戻り、姿を見せなくなった。

私はそれを契機にエリアを離れ、帰路につくことにした。


そういえば以前、ランとアスカが起居していたエリアにもユキムラはいきなり闖入してきた。

その際も発情してメスを求めている訳ではなかった。

ユキムラの出自は明らかでないが、こんなに行動範囲の広い野良猫も珍しい。
まさに神出鬼没な猫である。



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私が砂浜に降りると、にわかに西の空が明るくなり青空も顔をのぞかせてきた。

すると湘南海岸の光景もグレーのとばりをめくるように、色彩を見る見るうちに取り戻していく。

その天候ライブショーを眺める私の胸の中では、様々な思いが駆けめぐっていた。



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『ご報告とお詫び』


先月の記事の末尾に『問わず語り』というタイトルで自分の体調不良について述べました。

じつはその後も体調は右肩下がりで海岸へ行く回数も徐々に減っていき、そして11月に入ってからは、ついに海岸へ足を運べなくなったのです。

申し出のあったリンの子供を捕獲しなければと気が急くのに、如何せん体が重くて外出も儘ならない状況がつづいています。

そこで12月の初旬に医師に症状を伝え、『 SSRI 』の量を倍に増やしてもらいました。

しかしこの薬は遅効性で、すぐに効き目は出ず体調が快復に向かうには、いましばらくの期間を要するでしょう。

病のせいとはいえ、仔猫の保護に着手できない現状を自分自身忸怩たる思いでいます。

仔猫引き取りの申し出を寄せていただいた方、そして募集記事を拡散していただいた各ブロガーさん方にご報告かたがたお詫びいたします。




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神出鬼没 (前編)

2014年12月13日 21:00

リンは生まれ育ったエリアを離れ、子供たちを引き連れて新たなエリアに移動した。

何故そうする必要があるのか私には窺い知れないけど、リンにはなんらかの心算があるのだろう。


湘南海岸、夕刻。
前日の夕方から降りはじめた雨は明け方には止んだが、午後になっても低い雲が居座り、湘南の海を暗く沈んだ色に染めている。
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私がエリアに到着するやいなや、リンとタクローが姿を現した。
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リンはためらいのない足取りで道路を横断して、私の方へ真っすぐ歩み寄ってくる。


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そして私の脚に体をべったりとすり付け歓待の意を表してくれた。


タクローは未だに私を警戒していて、母のように近づいてくることはない。
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それでも道路の中央まで進み出ると、誰に向かっているのか不明だが、「ニャーッ」と鳴き声を上げた。


大きななりをしていても、タクローはニンゲンでいえば成人前のまだまだ遊び盛りの年頃だ。
母親のリンが近づくと腹を見せて、「ボクに構ってよーっ」と甘えた仕草を見せる。

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しかしランは、そんなタクローに一瞥もくれず通りすぎてしまった。


するとタクローは母のにべもない態度に意表を突かれたのか、がばりと上体を起こした。
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そして、「え、ええっ!何で、どして?」と呆気にとられた様子で周りを見まわす。


照れ隠しなのか、それとも憤りなのか、タクローは耳を倒し目を三角にして「ニャーゴ」と吠えた。
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さらに般若の如き形相で「グルグル」と唸っている。


しばらくそうしていたタクローだったが、そこは気散じな猫のこと、起き上がれば普段の愛嬌ある表情に戻っていた。
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曇天の海岸は閑散としていて、道路を往来する人も殆どいない。
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天気が良く人通りが多い日なら、海岸猫は道路でこんな風にのんびりとしていられない。


行き交うニンゲンがいなくても、幼いタクローはやはり心が落ち着かないのか、独り防砂林へ向かって歩きだした。
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と、その途中でおもむろに振り返ると、物言いたげな眼差しを私に向けてくる。


さらに立ち止まって、再び意味ありげな視線を投げかけてきた。
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植込みの中に何かの気配を感じたのか、タクローは慌てて後ろを振りむいた。


そこから顔を出したのは、今年生まれたリンの子供だった。
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姿を現したのはサバトラだけで、ほかの子の姿は見えない。薄暗い植込みの奥に隠れているのかもしれない。


サバトラはただ一点を凝視している。
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その視線が注がれているのは私の足許だ。


実はさっきから母親のリンが私の足許にうずくまっている。
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私としては母親が気を許しているニンゲンだから、仔猫も警戒を緩めてくれないかと期待しているのだが‥‥。


同様に、その期待はタクローに対しても抱いている。
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ややあって、タクローが植込みから出、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。
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それにしても、何という格好はなんだ。
腰を折り、シッポを垂らし、おどおどした如何にも卑屈なタクローを見て私は呆れてしまった。

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「タクロー、お前はいつからそんな情けないオトコになったんだ」
しかし‥‥。

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さっきのやり取りの様に、リンが今年生まれた子供に掛かりっきりで、あまり構って貰えないのが原因ならいささか不憫である。


私がエサ場に行くと、現金なもので、タクローはさっきまでのしおらしい態度を急変させ、ニャゴニャゴとかまびすしく鳴きはじめた。
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そこへいくとリンはさすがに大人で、穏やかにただじっと佇んでいるだけだ。
しかし、実際にこちらの心へプレッシャーがかかるのは、こういう無言の訴えである。



求められるままに私は食器を洗い、持参してきた猫缶とカリカリをふたりに饗した。
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午後はまだ食事を与えられてない様で、親子揃って食欲は旺盛だ。


小柄なリンだが、今は子育て中、食べる量は通常の2~3倍に増えている。
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未だ成長中で食べ盛りのタクローは、やはりそれなりの量が必要だ。
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さしもの多弁なタクローも、食事中は一言も喋らず黙々と食べている。


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自分の分を平らげたリンは、事もあろうに息子の食べ物に手をだした。といっても、以前にもあったことで驚くにはあたらない。


それだけ育児中の母猫は栄養が必要であるという証なのだ。
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自分の食べ物を、母親とはいえ他の者に横取りされて何故タクローは怒らないのか?


猫社会にヒエラルキーは存在しないが、こと食べ物に関しては『 長幼の序 』とでもいうべき序列があり、親にかぎらず先輩猫が優先権を有しているからだ。
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タクローの器の中を覗くと、猫缶は殆んど残っていない。ふたりして器にへばり付いた欠片を舐め取っているのだ。


こんな光景を目の当たりにしては、猫缶を追加せざるを得ない。
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あとから他の海岸猫が現れたりする不測の事態に備えて、いつも猫缶を少し残しておくのだが、今回はそれらすべてを器に盛った。


ところが、リンは突然食べるのを止めると、険しい顔で前方を凝視しはじめた。
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何かを見ているというより、耳を澄ませているといった風だ。五感の中でもとりわけ聴覚が優れた猫のこと、ニンゲンには聴こえない “ 音 ” を感じ取ったのだろう。


リンは猫缶をうっちゃって足早に元いた場所へ向かっていく。
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常ならぬリンの様子に私は少々驚き、すぐに後を追った。


リンは歩みを止めると、辺りの様子を入念に窺いはじめた。
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そして独特の鳴き声を発した。低く断続的な鳴き方は私にとって聞き覚えのあるものだった。


優しさと憂いを含んだ特徴的な鳴き声、それは自分の子供を呼ぶ “ 母の声 ” だ。


すると‥‥。
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その母の声を耳にしたサバトラがまろび出るような勢いで、植込みの中から走り寄ってきた。


親は子を案じ、子は親を慕う、このお互いの情愛の在り方は猫もニンゲンも基本的に変わらない。
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ただ、どの生き物の中にも親子の情愛を持てない者がいる。区別するなら、その性情の有無で決めるべきで、別の生き物と比べても意味はない。


そこへ食事を終えたタクローも加わった。親子で寄り集まって何をしようというのか。
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先を行くリンが後ろを顧みて、歳の違うふたりの子供に目顔で促している。


そして皆、防砂ネットの隙間から防砂林の中へ入っていった。
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防砂ネットの内側が安全だと、リンはちゃんと心得ているのだ。


猫缶はほぼ完食されていた。リンの食べ残しはタクローが片付けたようだ。
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私は食器を洗い、持参したペットボトルから新鮮な水を水入れに満たした。


リンはネットの向こうでサバトラに授乳している。
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母子の大切な時間に水をささないよう、私はひとまずエリアを離れることにした。


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しばらくしてエリアに戻ると、リンの子供のサバ白がエサ場にいた。今まで何処かに身を隠していたのだろう。
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この子は兄弟の中で一番好奇心が強く、積極的な性格を持っている。


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視界の隅に動くものが入り込んだので、レンズを向けると草むらの中に黒い影があった。


私はこのあと、意外な海岸猫と出会うことになる。

その海岸猫は本来このエリアにいるべきではないのだが‥‥。


〈次回へつづく〉



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早朝の情景 (後編)

2014年12月05日 16:00

久しぶりに早朝の海岸を訪れた翌朝も、私の頭は目覚めから冴え渡っていた。

そこで私は朝食もそこそこにカメラを持って家を出、海岸へと自転車を駆った。

どうして急いだかというと、この稀有な状態は長続きしないし、その後に『 プチタイムトラベル 』を経験するのが分かっていたからだ。
 
前書きが長くなるので『 プチタイムトラベル 』の詳細な説明は後述することにして、さっそく本編に入る。


湘南海岸、早朝。
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私が海岸に着いたとき、ランはすでに防砂林から出て砂浜に降りる階段にいた。
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じつはこの直前に昨日会ったボランティアの女性とエサ場で遭遇し、ランは食事を終えて海岸へ行ったと教えてもらったのだ。


さらにボランティアの女性Sodaさん(仮名)は言った。「猫ハウスを作った男の方もランちゃんと一緒にいるわよ」と。
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ランに意味ありげな視線を送っているウインドブレーカーの初老の男性がその人だ。


「あんな立派な猫ハウスは初めて見ましたよ」と話しかけると「ああ、いやあ‥‥」と照れたように応えた。
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「離れたところにあるもう一つの猫ハウスはアスカのためですか?」と尋ねたら、「あれはセカンドハウスです」と言った。
ということは、アスカが居なくなってからあの猫ハウスは設置された訳だ。



顔見知りの男性にランはなぜか近づこうとせず、あらぬ方向を向いている。
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が、ランの真剣な表情を見て私は意表を突かれた。
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彼女はただ漫然と視線を送っていたのではなかった。


ランの視線をたどって振り向くと、波打ち際にリードを離された1頭の犬がいた。
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この町には浜辺をドッグランと勘違いしているニンゲンが少なからずいる。


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犬がいては、それもリードをしていないのであれば、昨日のようにランは浜に降りられない。


ランはそれならやむを得ない、といった風にその場に寝転がった。
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だがやはり犬が気になって今ひとつ興に乗りきれないようで、すぐにやめてしまった。


猫ハウス製作者の男性は、と見回すと‥‥、
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通りかかった知り合いの女性と立ち話のまっ最中だ。ボランティア仲間かも知れないが、話に割って入るほど私の心臓は強靭ではない。


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ランは依然として波打ち際で遊ぶ犬に警戒のこもった視線を送りつづけている。
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リードをしていない犬がいかに剣呑か、ランは理解しているのだろう。


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結局、ランは砂浜に降りることを諦めて、波消しブロックへ移動した。
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そして日課である毛繕いをはじめた。


「ラン、お前は利口な子だな」
以前にも述べたが、私は “ アニマルコミュニケーション ” の能力を持っていない。

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だが、そんな凡夫である私にも、ランが波消しブロックへ移動した意図は分かっている。
“ 逃走経路の確保 ” が目的だ。



積み上げられた波消しブロックには、モグラ叩きゲームの比ではない無数の穴が開いている。
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そしてブロックと地面との間には僅かな隙間がある。


小柄な猫が動きまわるには何の支障もないが、中型以上の犬が入りこめばまず身動きがとれない。
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ランは本能的にそのことを知っているのだ。


だからリードをしていない犬が近くにいても、こんなにのんびりと寛いでいられる。
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自己防衛が基本の野良猫が生き延びるためには、自分の持てる能力をフル活動させなければならない。


野良猫が生き長らえるには “ 運 ” も不可欠だが、防御本能の優劣が明暗を分ける。
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野良猫とはかくも過酷な世界で生きているのだ。寿命が短くなるのも当然である。


さっきの犬はリードをされて散歩を再開し、波打ち際を飼い主と一緒に遠ざかっていった。
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それでもなお、ランは体を起こして浜辺を見つめている。
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振りかえると、浜辺にリードを外されたダックスフンドが佇んでいた。
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こちらに歩を進めている手前の男性が飼い主のようだ。


体は小さいがダックスフンドは元々好奇心が旺盛でハンティングを好む猟犬である。
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それも狩りの際に地中の巣穴の中へ潜り込めるように胴長短足に改良された犬種だ。


そういう意味では、野良猫にとっては大型犬より危険な存在になり得る。
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ランが逃走経路と考えている波消しブロックの穴も、ダックスフンドが相手だと通用しないかもしれない。


そのことを知ってか知らでか、ランは警戒を緩めた姿勢でダックスフンドを見つめている。
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しかし野良猫の本能が危険信号を発したのか、ランは階段から離れて波消しブロックの上を歩きはじめた。
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リードをしていない犬が二度も現れては警戒心も強くなってあたりまえだ。


自分にとってどこが安全か、ランはその場所を探しているのだろう。
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しばらくすると、ランは歩みを止めた。どうやらここが安全だと判断したようだ。


と思ったのも束の間、ランは波消しブロックから砂浜に降りてきた。
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そして、私の足許にごろりと体を横たえた。


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「やっぱりお前は利口な子だ」
ランは海岸で一番安全な場所を選んだわけだ。



周りに人はいない。撮影中にランと遊べる貴重なひとときだ。
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私は太陽が当たる場所で、海岸猫と触れ合えることの嬉しさを感じている。


と、ランは私の指を前足でつかむと、いきなり噛みついた。
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無論、本気ではなく甘噛みである。指をつかんでいる前足からは爪も出していない。


「私の手をオモチャにして、じゃれたいなら好きなだけ遊ぶといい」私は自分の手をランに委ねた。
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ランはさらに、後ろ足も私の手に引っ掛けてきた。
これは仔猫同士がじゃれあうときによく見せる『 ベリーアップ 』の体勢だ。



馴れた猫でもつい興奮して爪を立てたり、この体勢から後ろ足で “ 猫キック ” を出してくるときがたまにある。
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けれどランはいくらじゃれついても、けっして手加減を忘れない。


私の手で遊ぶのに飽きると、ランは砂浜に再び寝転がった。
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しかし周りへの警戒は解いていない。自分に危害を加える存在が近くにいないかの確認は常に怠らない。
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「ラン安心しな、私が側にいる間は誰も近づけないから」


私の思いが通じたのか、ランは再び砂に体を擦り付けはじめた。
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「お前は砂の上でごろごろするのが好きなんだな。安心していつでもこうできる日が来るといいんだが」


ランは暖かい朝陽を浴びて心地良くなったのか、まぶたが重そうだ。
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ランは柔らかなクッションやふかふかのベッドを持っていない。防砂林の病葉もそれなりに寝心地がいいだろうが、陽射しで温められた砂浜に勝るとは思えない。


「私はもう少し海岸にいるから、安心して眠りな」
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ランはやがて目を閉じると、四肢を伸ばしたままいっときの眠りについた。
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私はランの眠りの邪魔をしないよう、少し離れたところから見守ることにした。


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10分ほどそうしていただろうか、ランはやおら起き上がると波消しブロックの上にちょこんと座った。
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朝陽を受け毛先を金色に染めたランの表情は、この日の天気のように爽やかに見える。
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外敵が多い野良猫の平均睡眠時間は8時間と、飼い猫の14時間と比べて4割ほど少ない。


束の間だったが、暖かい陽射しのもとで警戒を解いて眠ったことが心を和ませたのだろう。
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こんなに穏やかで屈託のないランの顔を見るのは久方ぶりだ。


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私は海岸を去るにあたり、ランを安全な防砂林に戻すべく、波消しブロックの最上段までランを誘導した。
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私の意図を理解しているのか、ランは素直に後を付いてくる。


だが薄暗い防砂林へはまだ帰りたくないようで、ランは歩みを止めると、その場に横になった。
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ランの気持ちもよく分かる。太陽が昇るにつれ気温も上がり、日向ぼっこにはおあつらえ向きなのだから。


ランは前日と同じように、陽当りのいい波消しブロックの上に体を横たえた。
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そしてそのまま再び浅い眠りについた。


犬や猫も夢を見るし、寝言だって言う。「ランはいったいどんな夢を見るのだろう?」
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もしかしたら夢の中で、生き別れになった子供のチャゲやアスカやユイに会っているのかもしれないなと、ランの寝顔を見ながら私はふと思った。


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さて、冒頭に述べた『 プチタイムトラベル 』だが、早期覚醒型の睡眠障害をかかえている人なら経験があると思う。(ちなみにこの名称は私が適当に付けた)

簡単にいうと『 プチタイムトラベル 』とは、一瞬間に未来へ行ってしまうことだ。

ただ未来といっても名称が表しているようにごく短い時間で、私の場合長くても1時間を超えることは滅多にない。


この事象を起こすのは、何の前触れもなくいきなり襲ってくる激烈な睡魔である。

普通の居眠りとの違いは、強い睡魔に瞬間的に見舞われるため眠った自覚が毛ほどもないことだ。

そして『 プチタイムトラベル 』は時と場所を選ばず突然に、また何度もやってくる。
(幸い、体を動かしている状況では起こっていない)


私の場合、マウスを片手にパソコン画面を見ているときに陥ることが多く、目覚めるまでその姿勢を保ったままなので、初めて経験したときは時計が狂ったと思ったほどだ。

私の拙い説明では、この感覚を理解できない人も多いだろう。

もしかしたら、こう言い換えたほうが分かり易いかもしれない。
『 プチタイムトラベル 』とは、数十分もの長い時間をかけて行う “ まばたき ” だ、と。




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