2年半振りの再会 (前編)

2015年01月21日 16:00

私はその海岸猫と2年半近く会っていない。

そのあいだに母が他界し実家に長期滞在を強いられたが、神奈川にいる時には幾度かエリアに足を運んでいる。

しかしその海岸猫は一度も私に姿を見せてくれなかった。
出現率の高い猫にもかかわらず、だ。


そしてこの日も無駄足になることを覚悟して、私はその海岸猫の住むエリアに赴いた。


湘南海岸、夕刻。
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この日は海岸に向かって強い海風が吹きつけていた。しかし私にとっては追い風となって、いつもより自転車のペダルが軽い。


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強い風が吹くとサーファーの姿はほとんどなく、海上はウィンドサーファーたちの独壇場と化する。


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彼らはセイルで海風を巧みに捉えて、海面を滑走していく。そのスピードは50km/h以上にもなる。
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目的の海岸猫が住んでいると思われる防砂林の中へ、私は足を踏み入れた。
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そして四囲に視線を巡らせながら、ゆっくりと防砂林の奥へ進んでいった。


エリアの中ほどで私はその海岸猫の名を小さな声で呼んでみた。《 聴覚の優れた猫なら聞き取れるはずだ 》
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ややあって、か細い猫の鳴き声が聞こえた。さらに名を呼ぶと再び小さな声で応えてきた。
私は声がした方向に見当をつけて、さらに防砂林の奥へ歩を進めていく。










すると、樹木を背にしてぽつねんと佇んでいる海岸猫の姿が目に入った。
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“ ビク ” は以前と変わらないころころした体型で私を迎えてくれた。


「ビク、元気だったか‥‥」
この海岸猫が達者でいることは仄聞していたが、やはり自分の目で見ると深い感慨を覚える。

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ビクは元々『 東のエサ場 』の住人だった。ところがチビ太郎の出現で、ほかの海岸猫ともども生まれ育ったエリアを離れ去ったのだ。


いつ頃ここに移り住んだのか私は知らないが、今はたった独りでこのエリアで暮らしている。
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私のことを憶えていたのか、ビクはこちらに歩み寄ってくる。


ところが途中で歩みを止めると‥‥。
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進路を右にとって私から遠ざかっていった。



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以前のビクは私の姿を認めるとすぐに足許に近づいて来ていた。2年半という空白期間が彼女の頭から私のデータを消去させてしまったのだろうか。


しかしそれなら私から離れていくことはあっても、近づいて来ないはずだ。
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なんとなれば、この海岸猫は警戒心が強い怯懦な性格を持っているからだ。
その性格ゆえ私は彼女のことを密かに “ 臆病猫のビク ” と呼んでいる。



ビクという名も、いつも何かに怯えたようにびくびくしているから私が付けたものだ。
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だから私のことをすっかり忘れた訳ではなく、少なくともビクの頭には私が害意のないニンゲンだというデータだけは残っているようだ。


「そういえば‥‥」私は以前にもビクが同じような態度をとったことを思い出した。
それは父の他界でやはり実家に長期滞在した私が久し振りに東のエサ場を訪ねた時だった。

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その際のビクも長く顔を見せなかった私に抗議するようにつれない態度で接してきた。
(その時の様子は【5ヶ月ぶりの訪問 その弐】を参照)



こういう場合、私は自分から行動を起こさないと心に決めている。
具体的にはその猫のパーソナルスペースを侵さない十分な距離をとって、けっしてこちらから近づかないようにする。

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そして目を合わさず、こちらもあらぬ方向に視線をやり、素っ気ない態度に徹するのだ。


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これが犬の場合だと対応が全く違ってくる。私は犬も猫同様大好きで、大人しい犬と出会うとつい近づいて頭を撫でてしまう。


世間には “ 犬派 ”“ 猫派 ” という人達がいて、論戦を繰り広げていると聞いているが、私にすれば『 目くそ鼻くそを笑う 』とおっつかっつの内容空疎な争いに思える。
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犬には犬の、猫には猫の良いところがあり、どちらかを選ぶことなど私にはできない。
飽くまでも偏向した私見だが「自分は○○派だから△△は嫌い」と公言する自称動物好きは似非だと思っている。



「ん?」
ビクの顔にズームで寄った時だった。ビクの目の異常に気付いたのは。

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眼球の下半分が充血し、大量の目ヤニが目頭に溜まっている。右目ほど酷くはないが、左目にも充血が見られる。


眼病には外傷や異物などが原因の外因性と細菌やウイルスなどが原因の内因性に大別されるという。
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そして内因性なら、感染して両目が冒されるとも聞いている。私に病名が分かるはずもないが、ビクの場合は内因性の眼病の可能性が高い、と思われた。


ただ病状の悪化が進んでいないのか、それとも治癒に向かっているのか、目を気にしている様子は見られない。
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痒みや痛みがあれば足で引っ掻いたり、目を何かにこすり付けたりするはずだ。


その後もビクはかたくなに私を無視し、目を合わせようともしない。
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爪研ぎをしている時に目線を貰おうと思って名を呼んでみたが、私に一瞥もくれないのだ。
「こりゃ相当へそを曲げてるな‥‥」私は2年半におよぶ空白の重さを改めて思い知った。



ビクとしては「今頃、何しに来たのよ。目付きの悪い茶トラがエサ場を荒している時に助けに来てくれなかったくせに」とでも言いたいのだろう。
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そう言われたら私に返す言葉はない。なんとなれば、私は海岸猫たちを実際的に救う力を殆ど持ち合わせていないからだ。


猫は何者にも媚びへつらわない気高い生き物である。とすれば、これ以上ここに留まっていてもビクは私を以前のように受け容れてくれないだろう。
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《 野良猫がニンゲンに懐かないのは悪いことではない。今回はこのままエリアを離れよう 》
私がそう思った直後だった‥‥。

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ビクが真っ直ぐ私のほうへ近づいてきたのは。


そして私の足許まで来ると、ぴたりと歩みを止めた。
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この体勢が意味するのは「しばらくじっとしてあげるから、背中を優しく撫でなさい」という彼女の下知である。


久し振りにビクの身体を触ったが、野良猫とは思えない艶やかな毛並みは以前と変わらない。
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私はビクを撫でながら《 空白の2年半のあいだに、ビクは私などが想像できない艱難辛苦を経験したんだろうな 》と思った。



〈次回へつづく〉



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ロンリネス (後編)

2015年01月10日 21:00

2015年初めての更新です。

本年もよろしくお願いいたします。

更新が不定期な当ブログを訪問していただき心から感謝しています。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


シシマルエリア、夕刻。

コジローは鋭い視線を私の後方へ向けられたまま微動だにしない。

尋常ではないコジローの様子を訝った。と同時に、私の脳裏にある予感がよぎる。
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そこで私はおもむろに後ろを振り向いた。


すると草むらからユキムラが現れて、ステンレス製のテーブルに跳び移ってきた。
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そして私を視線で牽制しながら天板の上に悠然と体を横たえる。


それから私の顔を睨みながら「やあおっさん、このあいだは妙なところで会ったなぁ」と言っている様に低い声を発した。
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今度は視線をコジローに移すと威圧する目でねめつける。


するとコジローはいくぶん目を伏せ、視線を逸らした。猫が視線を合わせる行為は敵意を表し、喧嘩のきっかけになることもしばしばだ。
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そしてニンゲンの場合と同じように、先に目を逸らした方が劣位者となる。


自分の優位を確認して満足したのか、ユキムラは四肢を伸ばしてアクビをした。
「がははっ、これは重畳」とでも言っている風に。

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この海岸猫の出自については一切が不明である。どういう経緯で海岸にたどり着いたのか、知る者はいない。


いずれにしろ、ほかの場所で生まれた生粋の野良猫か心無いニンゲンに遺棄された捨て猫なのだろうが、先日は無かった鼻梁の向こう傷がこの猫の歩んできた経歴を物語っている気がした。
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恐らくここに住みつくまでにも、己ひとりの力だけで幾多の修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。


猫は群れを嫌い、何者にも諾(うべな)わない独立自恃の生き方を好む。
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そういう意味では「独りぼっちは寂しい」などという台詞を臆面もなく口にできるニンゲンより強靭な精神をしている、と自分を省みてそう感じる。


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ただし、それがために同じエリアに住む猫であっても、こうやってお互い一歩も譲らない睨み合いが起こったりするのだ。


そんな緊迫した状況に水を差すように、カラスが盛んに鳴き声をあげる。
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数羽のカラスが寄り集まりかまびすしく鳴くのを目にすると、私はいつも不吉な思いにとらわれてしまう。


カラスは雑食性で小動物やその腐肉をも食べる。当然のことながら、抵抗力のない仔猫や弱った成猫も餌食にする。
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頭上のカラスの声を聞きながら、その周辺を仔細に調べていると、ひとりの海岸猫と目が合った。それはシロベエだった。


シロベエの様子が気になったので、異常がないか確かめるために正面へ回りこんだ。
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「シロベエ、元気にしているようで安心したよ」
久し振りに会ったシロベエは体型も以前のままで、健康面の懸念はなさそうだった。



そのとき気配を感じて視線を移すと、物陰からこっそりこちらの様子を窺っているギンジがいた。
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「お前も元気でなりよりだ」私が声をかけるとギンジは慌てて逃げていった。


駐車場から道路に出ると、民家の塀の側で佇んでいる猫の姿が見えた。
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「コジローじゃないか‥‥」どうやら、コジローはユキムラの眼前を通りたくないから民家の裏を回って私の後を追ってきたようだ。


海岸猫たちを和ませるために、取り敢えず猫缶を与えることにした。
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ユキムラはすぐ近くで私の行動を見つめている。


そのユキムラから離れた場所へトレイを置くと、コジローはすぐに猫缶を食べはじめた。
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ユキムラも私が「ここに置くから食べな」とトレイを見せながら言うと、すぐさまテーブルの下へ降りてきた。
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残ったトレイはシロベエの為に用意した物だ。
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猫缶の匂いに誘われるように、シロベエがゆっくりとした足取りで近づいてくる。


そのままこちらへ来ると思われたのだが‥‥。
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シロベエはいきなり「にゃーおっ」と鳴き声をあげた。


そして何故か歩みを止めると、その場に座りこんでしまった。
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呆然とした面持ちをして何かを見つめるシロベエ。「いったい何があったんだ?」


こういう場合、私はいつも相手の視線を辿ることにしている。
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シロベエの視線の先にいたのは、猫缶を食べ終えて舌なめずりしているコジローだった。


コジローは体をひるがえすと、シロベエの視線から逃れるように足早にその場を離れていく。
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未だにコジローはシロベエを避けているようだ。そのコジローの尻尾を膨らまさせている感情は怯えなのか怒りなのか、私には分からない。


コジローに嫌われていることを理解したのだろう、シロベエは水上バイクのシートの上で傍目(はため)にも分かるほど消沈している。
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ユキムラのように独りでいるのが平気な猫もいれば、シロベエのように仲間と近しくなりたいと願う猫もいる。


私にはシロベエの気持ちが痛いほど分かる。なんとなれば、私も自分の想いが相手へ届かない孤独感を経験しているからだ。
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ニンゲンだって心が通じ合う相手がいないと生きる喜びを感じられないのだ。


融通無碍が信条の猫にしても、ニンゲンに護ってもらわないと生きていけない。
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そして心が通い合うニンゲンと一緒に暮らさない限り幸せにはなれないだろう。


ユキムラもこのエリアに現れた当初は、甘えた声をあげて誰彼の区別なく擦り寄ってきていた。
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それが顔見知りのニンゲンまで忌避するようになったのは何故なのか、それなりの理由があるはずだ。


そのユキムラをじっと見つめるギンジ。
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この海岸猫との付き合いは4年程になるが、警戒心がやたらと強く、ニンゲンであれ他の猫であれ3メートル以内に近づけない。


ふと目を上げると、そのギンジの様子を窺っているシロベエがいた。
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私がこのエリアに通い始めた頃は、ギンジを除き海岸猫同士が友好的だった。
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ところがリーダー格のシシマルが他界してからというもの、互いが牽制し合い、以前のように寄り集まることもなくなった。


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食事を終えたユキムラは、私の背後を通り抜けて雑草が繁茂する空き地の奥へ向かっていく。


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私を顧みたギンジの目が何を訴えているのか、語らずとも理解できた。


手付かずのまま残っていたシロベエの猫缶を、ギンジに与えることにした。
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海岸へ出てみると、コジローがぽつねんとして海を眺めていた。
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ここまで近づけば、私の姿がコジローの視界に入っているはずだが、コジローは私を一顧だにせず海を眺め続けている。


その様子は何かの案件について熟考しているようにも、水平線の向こうからやってくる何かを待っているようにも見えた。
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コジローの思索の邪魔をしないよう、私はそっとその場を離れることにした。

ほかの海岸猫がいないかエリア内を探索していたら、倉庫様の建物の裏で寛いでいるユキムラに会った。
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私が近づいても顔を向けずに横目で私の挙動を窺っている。じつに肝が据わった奴だ、と私は改めて感じた。


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よく見ると、鼻梁の他に左目の上にも傷を負っているようだ。何処の誰と喧嘩をしたのか知る由もないが、私は相手の海岸猫のことが心配になってきた。


この日私がこのエリアを訪ねたのは、この海岸猫が戻っているかを確かめるためだ。
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このエリアから、先日遭遇したリンエリアまでは距離があり、雄猫のテリトリーを遥かに超えていたから、そのまま流浪したのかと思ったからである。


それに伝法なユキムラのこと、チビ太郎のように他のエサ場を荒らしはしないか、という懸念もあった。(チビ太郎の所業は【東方の異変 (前編】を参照)
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「なあユキムラ、ここにいれば食いっぱぐれる心配はないんだから、他のエリアへ出張るなよ」
しかしユキムラは私の助言など聞く耳を持たないとばかりに、険しい目で睨み続けるだけだ。



ほかの海岸猫を捜すのを諦め、私は再び海岸に降りた。コジローは同じ場所で同じ姿勢で、まだ海を眺めていた。
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私がさっきこの場を離れてから20分ほど経っている。シロベエを避けて姿を消してからすぐにここへ来たとすると40分もの間海を眺めていたことになる。


この日は海岸猫の安否を確かめるために2箇所のエリアを訪ねた。リンの子供たちには会えなかったが、当初の目的であるユキムラの帰還は確認できた。


そろそろ海岸を去ろうと思った私は、コジローにカメラを向けながら後ずさった。
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「コジロー、また来るから元気にしてろよ」私はコジローに別れを告げて踵を返した。


ところがコジローは私がエリアを去るのを察したのか、あとを追ってきた。
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私がエリアを離れる際に、コジローは別れを惜しむように見送ってくれることがある。


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コジローはかつて家族と一緒にこのエリアで暮らしていた。ところが‥‥。


2011年に母親のシズク、兄のマサムネ、そして同じ日に生まれたクロベエが相次いで行方知れずになった。
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さらに兄のように慕っていたシシマルが車に轢かれてこの世を去ってしまう。
(詳細は【速報 シシマル哀惜】【シシマル哀惜 その弐】を参照)


そして最後の家族であるシャムミックスのアイも消息を絶ったと仄聞している。
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結局コジローは眷族のすべてを失い、たった独りになったのだ。


猫が強い精神を持っているとしても、言うところの喪失感や孤独感を心の深い領域にひっそりと抱えているのではないだろうか。
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たとえそこまでではなくてもある日突然家族がいなくなれば、不可解な思いは感じているはずだ。


しばらく私の側で佇んでいたコジローだったが、再び海岸へ向かって歩きはじめた。
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徐々に小さくなるコジローの後ろ姿を見送るうちに、杞憂だと分かっていてもコジローがこのまま何処かへ行ってしまわないか不安になる。


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コジローと同じように、私も家族をすべて喪ってしまった。
(詳細は【父の気遣い】【カテゴリ 生きること・死ぬこと】を参照)


上京を機に父母兄弟と遠く離れて暮らすようになった私にとって、家族はその距離に見合った遠い存在になった。
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しかし、帰省するといるのが当たり前だった家族がいなくなるというのは、想像以上の喪失感を私にもたらした。


その情動に私は大いに周章し、そして家族の存在が自分にとって如何に重要か、遅まきながら悟ったのだ。
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それを機に孤独に苛まれるようになったが、いつまでも拘泥していては一歩も前へ進めない。


そして私が最終的に辿りついた結論は、『 明日自分がどうなるかなんて誰にも分からない。だから今日1日を、今この一瞬を大切にし、ただ生きることに専念する 』というものだった。
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そのことを教えてくれたのは、偉人の箴言でもましてや医師の忠告でもなく、野良猫たちの生き様だった。


明日をも知れぬ身でありながら、日々を懸命に生きている彼らを見ていたら我知らずそう思えるようになったのだ。
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とはいっても私は未だに孤独に苦しみ、「独りぼっちは寂しい」などとつい呟いてしまう軟弱なニンゲンだ。


だけどいつの日か野良猫たちに恥じることのない、タフで柔軟な心を持ちたいと願っている。
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やがてコジローは砂山越えると、どこへともなく去っていった。


そうして、私は独りその場に残された‥‥。


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