短い命

2011年03月07日 06:00

数ヶ月前から急に姿を見せなくなった野良がいる。私はその野良の安否を確かめるために東へ向かった。
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東のエサ場
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しばらくエサ場で待っていると、その野良はあっさりと姿を現した。
まるで私が来るのを待っていたかのように‥‥。

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この野良以前はこのエサ場を訪れると必ず姿を見せていたのだが、去年の11月を最後にぱったりと姿を現さなくなっていた。


コイツの名は『ビク』という。もちろんこの呼び名は私が勝手につけたものだ。
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臆病な野良でいつもビクビクしているから、そう名づけた。


臆病なくせに人懐こいという少々変わった野良だ。
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ただこの野良と心を通わせるにはそれなりの時間とそれなりの根気が必要だ。


そこへ長毛の黒猫が音もなく現れた。
このエサ場には長毛の黒猫がもう1匹いる。それも一卵性双生児と見紛うほどそっくりな黒猫だ。

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だが似ているのは外見だけで、性格はまったく違っている。
一方は人懐こく自ら近寄ってくるのだが、もう一方は警戒心が強く人が近づくと逃げてしまう。



姿を見せた2匹にカリカリを与えた。
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ビクはすぐに口をつけたのだが、黒猫はカリカリを目の前にして周りをしきりに警戒している。


このエサ場には10匹以上の野良が棲んでいるが、同時に顔を見られるのは多くて4、5匹だ。
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同じエサ場で暮らしているかといって、皆仲がいいとは限らないのだ。
此処の野良たちは何故かお互いを牽制し合い、一堂に会することはけっしてない。



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腹を減らしていないのか、黒猫はカリカリに見向きもしない。


水を飲みながらでも、私から眼を離さず警戒を緩めることがない。
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この黒猫、どうやら”人馴れしていない方の黒猫”のようだ。


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腹が満たされたのか、ビクが立ち去った。


すると黒猫がカリカリにおもむろに口をつけた。
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ビクを警戒して空腹を我慢していたというのか‥‥


「お前は臆病猫のビクを怖れているのか?」
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そのビクの眼の前に新たな野良が現れた。


そして2匹は警戒し合い、距離を置いてそのまま対峙する。
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「お前もビクを怖れて近づいてくることが出来ないのか?」


と、その時、気配を感じて振りかえった私に黒猫がいきなり体当たりをしてきた。
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そして、小さく啼きながら私の足元にうずくまった‥‥。
「なんだ、お前は懐こい方だったのか。ビクがいたから私に甘えることも遠慮していたわけか‥‥」
私がそっと体を撫でると、黒猫はまた小さな声で啼いた。



ビクとキジ白は場所を移しただけで、その距離を縮めてはいない。
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相容れない同士が同じテリトリーに棲まざるを得ない‥‥それは彼らの心理にどんな影を落としてるのだろう?


キジ白がカリカリの入った食器に近づいてきた。全神経でビクを警戒しながら。
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カリカリを食べるキジ白の様子をビクがそっと窺う。


「ビク、コイツも腹を減らしているようだ。ゆっくり食べさせてやりな」
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その時、私の背後を違う野良が悠然と横切っていった。
それは此処のボス、ハチワレだった。



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ハチワレの姿を認めたキジ白は慌ててその場から遁走した。


ハチワレはエサ場の状況を視察するように悠然と歩を運ぶ。
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ビクは物陰に身を隠しハチワレの視線から逃れている。


ハチワレが潅木の中に姿を消すと‥‥
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ビクがおどおどと姿を現した。


このように、ココの野良たちは心休まる暇がない。
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ハチワレが姿を消しても、ビクはなおも周りを警戒している。
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この臆病猫は今までにも何度か紹介しているが、まだ知らない読者のために簡単にその出自からお教えしよう。


ビクは野良の母猫がこの場所で産んだ生粋の野良だ。それが7年前のことだ。
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そして2歳のとき、ビクは危難に遭った。ボウガンの矢で頭を射貫かれたのだ。
ボランティアのKさんがいち早く病院へ運び、幸いビクは一命をとりとめた。



そんな目に遭ったら臆病になって当たり前だ‥‥ならない方がおかしい。
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限られた人とはいえ、それでもこの臆病猫は人の温もりを求めてやまない。


私の影の上で戯れるビクは、我々からすれば如何にもちっぽけな存在に見える。
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だが命ということでは我々の命と何ら変わりない。


小さいから、物言わぬから、といってその命まで粗末に扱っていい訳ではない。
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ボウガンの矢で徒にこの小さな命を奪う権利は誰も持っていない。


海岸猫の寿命は家猫に比べて短い。10年以上生きる海岸猫はごく少数だ。
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この半年あまりで10年以上生きた海岸猫が相次ぎ死んでいった。ミケの推定年齢は13~14歳。そしてミリオンが12歳だった。


今現在10歳以上の海岸猫は、私の知る限り1匹もいない。
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ビクも今年で7歳‥‥そろそろ海岸猫の平均寿命に近づこうとしている。


最近ある人が私にこう言った。海岸猫は年中潮風にあたっているから体が塩分を含む。それを毛繕いで舐める海岸猫は腎臓を悪くし早死にする、と。
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その話を聞いた私は目から鱗が落ちると同時に納得した。基本キャットフードしか与えられていなかったミケやサンマが何故慢性腎不全になったのかを。


どの道、海岸猫は長生きが出来ないのだ。ならそっとしておいて欲しい。
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そして出来れば、彼らの短い生涯を温かい目で見守って欲しい。


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さっきっからビクが見つめ続けているのは一羽のスズメだ。


キャットフードが落ちている野良のエサ場は、スズメにとっても貴重なエサ場なのだ。
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猫は小鳥を獲物にする。
私が東京にいた頃飼っていた茶トラはネズミも捕まえたが、一度私の目の前でスズメを見事に捕まえた。



しかしそれにはスズメに気づかれぬ細心の気配りと俊敏な動きが要求される。
このメタボチックな野良に、それらの条件が備わっているとはとても思えない。

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やはり私の思ったとおり、ビクにスズメを捕らえる才はなかった。
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ビクがいきなり振りかえった。


そこには黒猫がいた。
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この黒猫がさっきと同じ黒猫なのかどうか‥‥それさえ私には判らない。


この黒猫が人懐こいさっきの黒猫と仮定して、以前から考えていた呼び名があるので発表しよう。
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その名は『エドガー』。そしてそっくりなもう1匹の黒猫には『アラン』という名を用意している。
『黒猫』ということから短絡的にある天才作家の名が浮かんでしまったのだ。
3匹目がいたら、とうぜん『ポオ』という名がつく。



黒猫はしばらくビクと向かい合っていたが、哀愁を背中に漂わせてゆっくりと去っていった。
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黒猫と入れ違うように、”さっきのキジ白”が再び姿を現した。
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実はこのキジ白にもそっくりな兄弟がいるのだが、話がややこしくなるので”さっきのキジ白”とする。


キジ白はこちらには来ず、エサ場を横切ってゆく。
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そのキジ白が防風ネットの穴から防砂林に入ったとたん防御の体勢をとった。
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ネットでよく見えないが、何モノかと対峙しているようだ。


キジ白はゆっくりと後ずさっている。
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防風ネットから這い出てきたキジ白は思わず一息つく。


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そして慎重な歩調でその場から離れていった。


キジ白を防砂林から追い出したのは、どうやらここに棲む長毛の三毛のようだ。
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ネット越しでもその鮮やかな毛色が垣間見える。


臆病猫も2匹の諍う声を聞き、とっくに物陰に隠れている。
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「ビクよ、いつもそんなに怯えていたらストレスも溜まるだろう」


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短命なら短命なりに穏やかに暮らしてもらいたいのだが、ココではそれを望めそうもない。


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たっぷりと水を飲むビクにミケの最期の姿が重なる。


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この直後、ビクは日頃見せない大胆な行動にでる。


サイクリングロードを渡り、浜辺へ向かって行ったのだ。
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ビクが砂浜に降りるのを、私は初めて見た。


ビクのあとを追って、私も砂浜に降りた。
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だが辺りを見回しても、ビクの姿は何処にも見えない。まるで天に昇ったように忽然と姿を消してしまったのだ。


その時私は奇妙な想いに囚われた。
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またしばらくビクに逢えないのではと‥‥。


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コメント

  1. mimi | URL | tHX44QXM

    wabiさん

    おはようございます。

    今日は朝から冷たい雪振りですね。
    ご自愛くださいませ。

    ビクちゃんいたんですね! 良かったです。
    ここのエリアは、猫ちゃん同士あまり仲良く無いようですね、、
    みんな神経疲れちゃいますね、、人間のように。。

    ビクちゃんにまたきっと会えますよ!
    私も次回遊びに行った時は会いたいですわ。

    早く暖かくなりますように。。

  2. 匿名係=ihibou | URL | ZQHR2uUw

    カポネもそうでしたが、ビクもまた愛らしい猫さんで、wabiさんはいちいちの別れをつらく思われているだろう、と思っています。
    ふと気が付いたのですが、猫で「どうしようもない嫌なヤツ」という猫はいないのですね。昔は、その辺で威張っているノラや、怖い顔のノラを見ると嫌なヤツと思っていましたが、みんなよい猫。遅ればせながらこのことに気付けてよかった、と思います。

  3. izumin | URL | -

    ミケ

    ミケの存在は大きかった。

    ミケに出会えたことはすごいことだった。

    歴史は繰り返されますね。。。

  4. pigumii | URL | -

    wabiさん、こんばんは。
    ここにコメントをさせて頂くのは初めてなので、はじめましてですね。
    と言っても、もうずっと前からここに遊びに来させて頂いて
    海岸猫たちの、のんびりとした姿を拝見しながら
    wabiさんの、猫たちを見守る優しい気持ちを感じさせて頂いておりましたので
    なんだかはじめましてって感じはしませんが・・。

    この度は、あいちゃんの事を心配してくれて、ありがとうございました。
    wabiさんや皆様の、祈る気持ちがあいちゃんに届いて
    お家に帰る事が出来たのだと、感謝しております。
    本当にありがとうございました。

    時々、サンマちゃんの様子も教えてくださいね。
    そして、いつかきっとミケちゃんに会いに行きたいと思っていますので
    その時は、ミケちゃんの眠る場所を教えてくださいね。

  5. ダージリン | URL | -

    wabiさんが準備なさった曲を聴きながら読ませていただきました。
    wabiさんの世界は、深くて大きな愛でいっぱいですね。
    日常の慌ただしい気持ちの時でも、ここにおじゃますると不思議と穏やかになれます。

    ビクは野良とは思えないくらいに奇麗で驚きます(メタボなのもいい感じです^^)
    wabiさんをはじめボランティアの方々のお力かと思います。
    猫ちゃん達が穏やかに少しでも長く生きてくれることを願ってやみません。

    砂の上で戯れるビクはwabiさんに甘えているのでしょう。
    ビクにとって幸せな時間が少しでも多く訪れるといいですね。

  6. wabi | URL | -

    コメントありがとうございます

    mimiさんへ

    午後には止んだので船宿へ行きました。
    主要なメンバーは顔を見せてくれました。

    ビクとやっと逢えました。
    mimiさんとこのエサ場を訪れたときも姿を見せませんでしたね。
    この日は比較的早く姿を現しました。
    どうやらねぐらが替わったようで、逆の方向から出てきました。
    相変わらず周りを警戒しビクついていましたが、それが彼女の特性ですから仕方ないですね。

    今度mimiさんが訪れたときにも現れて欲しいものです。



    匿名係=ihibouさんへ

    野良はいついなくなるか分からないので、別れるときは〝また元気な顔を見せてくれよ〟と思いますね。
    ここ数年のうちでも、姿を消してそのまま行方知れずになった海岸猫は何匹もいますから。

    警戒心が強く、人馴れしない野良は確かにいます。
    でも彼らがそうなったのにはそれなりの理由があるはずです。
    カポネも当初は強面振りを発揮し、所謂嫌なヤツでしたが、触れ合ううちに心を開いてきました。
    きっと多くの野良も人の温もりを知らないだけで、ホントは良いヤツになる資質を持っているのだと思います。



    izuminさんへ

    私もミケには多くのことを教えられました。

    ミケはおおらかで、たいていの人を受け入れました。
    初めて接する人でも、ちゃんと礼節を守ればミケは身を委ねたものです。
    虐待に遭った野良とは思えないほど穏やかで、優しい野良でした。



    pigumiiさんへ

    ご丁寧なコメントありがとうございます。

    家族同然の愛猫が行方不明になるということは人生において大事件です。
    それも自らの過失が原因なら後悔してもしきれず、罪悪感に苦しむもの。
    ですから今回のことでpigumiiさんはさぞ自分を責めたのではと心中察するに余り有る思いでした。
    ですから、あいちゃんが無事我が腕の中に戻ってきたときは、pigumiiさんがどんなに嬉しかったのか‥‥これまたお気持ち察するに余りある思いで拍手コメントいたしました。とにもかくにも、怪我もせず元気な姿で戻ってきて良かったです。

    サンマを保護したあらしさんからは最近連絡がありませんが、便りのないのは元気な証と思っています。
    私もサンマのことは忘れられず、事あるごとに思い出します。
    機会を見てサンマの近況を尋ねてみます。
    ミケのところへはご連絡を頂ければご案内いたします。



    ダージリンさんへ

    どうも‥‥ヒネリのない選曲で申し訳ないです。
    でも茅ヶ崎といえば、やはりサザンがまず頭に浮かびます。

    ビクは今のところ健康で毛並みもきれいです。
    おっしゃるようにメタボな体型も彼女の可愛さの一助になっています。
    ビクは臆病だけど親しい人には大変懐こいという珍しい野良です。
    だからよけいにいじらしく感じるのでしょう。

    これからも海岸猫の紹介を通してぬくもりをお届けできたらと思っています。

  7. | URL | -

    coast man

    最近、いつも、庭にいた(5年以上)黒い猫ちゃんが”突然”いなくなりました。小さい時から、えさは挙げていたのですが、事情があり買うことは出来ませんでした。どこかで、幸せに暮らしているといいのですが。。。

  8. wabi | URL | -

    coast manさんへ

    はじめまして。

    家猫、外猫に関係なく、猫はある日突然いなくなります。
    特に去勢していないオスはメスを求めて遠征しますから、捜すのが困難になります。
    これは海岸猫の話ですが、行方不明になって数ヶ月後に姿を現した例もありますから、諦めるのは早いです。
    無事見つかることをお祈りしています。

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