木陰の猫 その弐『別れ』

2011年10月19日 08:00

季節外れの暑さを記録した10月のある日、私は実家近くの公園で1匹のキジトラと遭遇した。
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時刻は午後1時過ぎ‥‥。この日は休日なのだが、公園に人影は見えない。


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当のキジトラは私の存在など忘れたように、さっきから涼しい木陰で毛繕いに余念がない。


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ところが、私と目が合うと‥‥、


とたんに毛繕いをやめ、おもむろに近づいてくる。
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そしてキジトラは、私の脚に体をすり付けてきた。


さらに、私の足許にうずくまると、「ニャア、ニャア」と何かを訴えるように鳴く。
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そんなキジトラに対して、今の私にしてあげられるのは、こうやって体を触れることだけだ。


このキジトラはいつもこうやって、誰彼の区別なしに纏いついているのだろうか?
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私がしばらく頭を撫でると、キジトラは気持良さそうに眼を細めた。


「なあ、お前はいつもこうして独りでいるのか。一緒に遊ぶ友達はいないのか?」
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しかしキジトラは眼を細めたまま、何も応えない。どうやら、私が覚えた湘南訛りの猫語はここでは通じないようだ。


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ともあれ、飼猫なら帰る家もあるだろうし、温かく迎えてくれる飼い主もいるのだから、束の間の滞在者である私には、あれこれ詮索する資格などないのだ。


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その後も、キジトラは私の側から離れようとしない。


私はあらぬ方向を眺めはじめたキジトラの隙を窺い、そっと離れた。
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「おっと、気づかれた」


それにしても、キジトラのこの異常ともいえる人懐こさは、いったい何に起因するのか‥‥。
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ボロボロの首輪をしたキジトラ‥‥。彼がいったいどんな事情を抱えているのか、私の興味は尽きない。


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私がその場を離れたにもかかわらず、キジトラに動く気配はなく、緊張の面持ちで何かを見つめている。


キジトラの視線を追って振り返ると、散歩中の犬が近づいて来ていた。
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キジトラはその犬から、一瞬足りとも眼を放さない。


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キジトラは尚も犬の後姿を凝視しつづける。人懐こいこのキジトラも、さすがに犬は警戒すべき対象のようだ。


犬の姿が完全に見えなくなると、キジトラはホッとした表情で振り返った。
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と、思ったのも束の間‥‥、


キジトラがまた、緊張の眼差しで体を強張らせた。
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小型犬なのだろう、フェンスが邪魔をしてよく見えないが、また散歩中の犬やって来たようだ。
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体の大きさが自分とおっつかっつの小型犬だからか、キジトラの態度にはさっきより余裕が見える。猫もちゃんと相手を見て反応しているのだ。


犬もそんなキジトラを気にとめることなく、飼い主を急き立てるように公園を横切っていく。
111008-38.jpgにもかかわらず、キジトラは犬から決して視線を外さない。


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そうしてまた‥‥、


公園にはキジトラと私だけが残された。
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何事もなかったように、毛繕いを再開するキジトラ。


それでも時折、胡乱な眼つきで辺りを見回す。
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その眼つきは、私と接している時には決して見せない険しいものだ。


それからしばらくの間、10月の爽やかな風が通る木陰で、キジトラは毛繕いをつづけ‥‥、
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私はそんなキジトラを、ただ見ていた。


と、その時、私は背後に人の気配を感じ、振り返った。
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自転車に乗った少年が、我々のすぐ側まで来ていた。
「クロちゃん、ここで何してるんだ?」少年は親しげにキジトラに話しかけた。
「この猫のこと知ってるの?家は近くにあるの?」
私は急いでいる風の少年を慌てて引き止めて、質問を浴びせた。



「ぼくの近所の家で飼っている猫で、“クロちゃん”っていうんです」
家の方角を訊くと、少年は後ろを振り返り指をさして教えてくれた。
「それにしても、この猫すごく人懐こいねぇ」
「クロちゃんは人に甘えるから‥‥」少年はキジトラを見つめながら笑った。

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「クロちゃん、バイバイ」公園を出ると、少年はキジトラに声をかけた。
するとキジトラは、フェンスまで歩み寄って少年を見送った。



「そうか‥‥、お前の名前は“クロ”というのか‥‥」
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このキジトラに帰る家があることを知り、私の胸の中にあった疑念は解消された。


そこへさっきの犬が戻ってきた。クロちゃんがそれを察知し、身を低くし構える。
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金網越しに犬と対峙したクロちゃんは「ニャ~ゴ」と威嚇の声をあげた。だが犬はそんなクロちゃんを、ただ穏やかな眼で見つめるだけだ。


クロちゃんは私の脚に体を押し付けながら、犬の動向を見つめつづけた。
「お前、よほど犬が嫌いみたいだなぁ‥‥」

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犬が立ち去ると、クロちゃんはついと私から離れフェンスの下から頭を突き出し、辺りの様子を窺いはじめた。


そして誰もいないのを確認すると、フェンスをすり抜けて道路に出た。
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道端に腰を下ろしたクロちゃんは、そこでも周りの様子を見回すと‥‥、


身をひるがえし用水路に跳び降りた。
「!!」
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用水路の水は、山からの水と湧き水とが混ざり合い、清らかに透き通っている。


クロちゃんはその水を味わうように、ゆっくりと時間をかけて飲んでいる。
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おそらく、ここはクロちゃんお気に入りの水飲み場なのだろう。


水を飲み終えたクロちゃんは、足早に公園の中へ入っていった。
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現われた時と同様、しっかりとした足取りだ。


そして、そのまま公園を芝の上を、躊躇うことなく進んでゆく。こちらを一度も振り返ることなく‥‥。
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そんなクロちゃんを、私はその場に佇みながら静かに見送った。


私には分かった‥‥。クロちゃんは家へ帰るつもりなんだ、と。
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クロちゃんが向かう先は、果たして自転車の少年が指さして教えてくれた、クロちゃんの家の方角だったからだ。


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クロちゃんの姿が見えなくなった後、初対面の私と1時間あまりも付き合ってくれたことに感謝したい気持ちが膨らんできた。
「クロちゃん、ありがとう。縁があったらまた会おうな」
私は別れを惜しみながら、心のなかで呟いた。



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‥‥縁があったらしく、数日後、私はクロちゃんとの再会を果すことが出来た。

ところがその時、思いがけないことからクロちゃんの奇妙な実情を知ることになった。
さらに、飼猫には似つかわしくない首輪をしている理由もまた、知ることになる‥‥。


<つづく>



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コメント

  1. いちこ | URL | -

    wabiさん、お元気ですか?
    ご無沙汰しております。
    時々更新していらっしゃるのを見て、よかった~と思っていました。
    wabiさんとクロちゃんとの触れ合いには、心が和みます。
    用水路に飛び込んだ場面には驚かされましたが・・・(笑)
    水飲み場だったんですね。
    クロちゃんには何か事情があるようですが、次回を楽しみにしていますね。
    でも、無理はされないでくださいね。

    朝晩は寒い日もありますが、お風邪などひかれませんようご自愛くださいませ。

  2. プレマツ | URL | -

    続きが気になります。

    ミケ と検索をかけたら 上位にヒットして見つけました。

    非常に写真撮りがうまく、コメント力も秀逸で、なぜかほっと安らぐブログですね。

    私もノラ猫が好きで ノラ猫がいると 立ち止まって かまっています。

    今回のブログの内容も非常に面白く、興味を引き立てられます。

    続きが非常に気になります。

  3. にゃにゃにょ | URL | RCXKb8Z6

    お久しぶりです、そしてお元気そうで何よりです(^_^)。
    良い出逢いとお時間を過ごされましたね。
    クロちゃんの猫としての良さがとても良く出ていて、
    wabiさんのお気持ちもとても伝わってきます。
    まるで、すぐ隣で共にこの場に居させて頂いている様でした。

    ・・う~ん・・それにしても続きが気になる(>_<)。
    ・・勝手ながらリンクさせて頂きました(^_^)。

  4. | URL | iuHA0TdM

    本当に人懐こい猫ですねぇ

    近所の子供たちはクロの好きな公園を知ってて会いに来たのかな?

    キジトラだけどクロ! う~ん いいですね

    歩いていく後姿も雰囲気があって凛としたものを感じます

    哀愁と強さ 人懐こさと孤独感

    クロの奇妙な事情ってなんだろう??

  5. wabi | URL | -

    いちこさんへ

    こちらこそご無沙汰しています。

    私の心を癒してくれたクロちゃんが、飼猫なのか野良なのか分かりませんでしたが、
    周りの人に愛されていることを知り、嬉しくなりました。
    地域猫のように大事にされているようです。

    更新はこれからも体調を考え、無理せずマイペースで行なっていくつもりです。
    これからも宜しくお願いいたします。

  6. wabi | URL | -

    プレマツさんへ

    わざわざ検索をしてまでのご訪問、ありがとうございます。

    拙い写真とキャプションをお褒め頂いて汗顔の至りです。
    私は一枚の写真にはこだわらず、ピンぼけだろうがホワイトバランスが狂っていようが意に介していません。
    ただ猫との交流を楽しみながら、シャッターを押しているだけです。
    写真は事実を写していますが、キャプションは私の勝手な解釈によるものです。
    猫たちが知ったら、「勝手なこと書くな」と叱られること必至です。(笑)

    体調のこともあり、頻繁に更新は出来ませんが、これからも宜しくお願い致します。

  7. wabi | URL | -

    にゃにゃにょさんへ

    こちらこそ、ご無沙汰しています。

    体調は芳しくないのですが、クロちゃんとの出会いで心が癒されました。
    ホントに人懐こい猫で、なかなか離れがたく、結局クロちゃんが去るまで付き合ってしまいました。
    猫と接することが出来ない生活は、私にとって無味乾燥なモノでした。
    ですからクロちゃんとの交流は、私にとって正に“一服の清涼剤”的な心和む一時でした。

    リンクの件、ありがとうございました。
    こちらからもリンクさせて頂きます。

  8. wabi | URL | -

    名無しさんへ

    コメント、ありがとうございます。

    このキジトラはこの近隣にいくつかエサの貰える別宅を持っているようで、
    その中間点にあるこの公園も彼のお気に入りの場所なのでしょうね。

    甘えるときは執拗にすり寄ってくるのですが、去り際は実にあっさりとして潔さを感じます。
    この明快な態度も彼の魅力の一つです。

    クロの事情は今回の記事にある通りです。

    次回はハンドルネームを記してくださいね。

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