木陰の猫 その参『首輪の謎』

2011年10月26日 12:00

クロちゃんと別れた後、白いハンチングの女の子から教わった、首輪をしたシャム猫が出没するという空地を訪れてみた。
111008-57.jpg
しばらくその近辺を探してみたが、猫がいる気配はない。


空地には、打ち捨てられた自転車が無残な姿を晒しているばかりだ‥‥。
111008-58.jpg
間の悪いことに、辺りには草刈機の甲高い音が鳴り響いていて、これでは猫も現れないだろうと断念した。





数日後‥‥。
私は再びあの狭い道を通って、クロちゃんと出会った場所へ向かった。

111012-01.jpg
公園の手前の川に架かる、鉄の橋にさしかかったときだった。私の視界に一瞬猫の後姿が入ってきたのは‥‥。
私はとっさに、あれはクロちゃんだ、と思い、自転車を漕ぐ脚に力を入れた。



ところがその場に着いたとき、クロちゃんの姿は既になかった。私は完全にクロちゃんを見失ってしまった。
111012-02.jpg
前方の道路にも公園の中にも姿は見えず、身を隠したとすれば、この辺のはずなのだが‥‥。
私は見当をつけて、一軒の家に近づいていった。



私を迎えてくれたのは三頭の犬だった。
111012-03.jpg
この犬はたしか、先日クロちゃんと金網越しに対面した犬‥‥。双子のように似ているので、どちらかは分からないが。


と、そこへ1匹の茶トラが姿を現した。この茶トラと見間違えたのか‥‥?
いやしかし、さっきの後姿はこの茶トラとは違っていた。

111012-04.jpg
私がしばらくそこに佇んでると、先日犬の散歩をしていた中年の女性が現れたので、挨拶をすると「ああ、この間公園で写真を撮っていた方ね」と先方も私のことを覚えてくれていた。

そこで、キジトラのことを訊くと「あの子は野良猫で、毎日うちにエサを食べに来るの。さっきも来たけど、犬に驚いて何処かへ行ってしまったわ」と女性。
不思議に思った私は、先日会った自転車の少年が言ったことを伝えた。
すると女性は、訝しげな表情で「橋の向こうの家でも每日エサを貰っているし、あの首輪はうちの飼猫のお古なの。野良猫だとイタズラされるといけないから」と言った。



ちなみにこの茶トラは野良猫で、やはり每日ここでエサを貰っているという。
111012-05.jpg
この家の飼猫にイジメられるので、その飼猫の天敵であるこの白い犬の側にいつも避難しているそうだ。


茶トラはこの家を殆ど離れず、いつもこの安全な場所で寛いでいるという。
111012-06.jpg
だから行動範囲の広いクロちゃんと違って、この茶トラには首輪が必要ないのだろう。


この白い犬は猟犬で、猪狩りの際にハンターであるご主人に帯同するという。
111012-07.jpg
そんな逞しい犬をボディガードにするとは、この茶トラもなかなかしたたかだ。


つづけて女性は、こんな逸話を教えてくれた。
近所で飼っている鶏がネズミの被害に遭っていたのだが、クロちゃんと茶トラがそのネズミを退治してくれるので感謝されているという。

111012-08.jpg
この女性の話で分かったのは、クロちゃんは地域の人に愛されているということだ。
飼猫か野良猫かにかかわらず‥‥。



私はクロちゃんが現れるのを公園で待つことにした。
111012-08-9.jpg
この日も季節外れの残暑で、夏日を記録した。


そして‥‥、待つこと20分。公園に1匹の猫が姿を見せた。
111012-09.jpg
「クロちゃんだ!」
クロちゃんは脇目もふらず、真っすぐ公園を横切っていく。



「おーい、クロちゃん」
私はクロちゃんの後を追いながら声をかけた。

111012-10.jpg
クロちゃんは一瞬、警戒の表情を見せたが、すぐに私だと分かったようで、踵を返した。


そして、私の足許にうずくまると‥‥、
111012-10-11-01.jpg
「ニャア、ニャア」と甘えた声をあげた。


「さっき、お前のこと色々聞いたけど‥‥何が本当なのか教えてくれよ」
111012-10-11-02.jpg
日向は暑いので、クロちゃんを涼しい木陰に誘うことにした。


私がゆっくりと、その場を離れると‥‥、
111012-11.jpg
クロちゃんも、ゆっくりとした歩調で後を追ってきた。


111012-12.jpg
そしてそのまま、私が待つ木陰へやって来た。


私は女性の話を聞いて、クロちゃんが飼猫なのか野良猫なのか分からなくなっていた。
111012-13.jpg
飼猫でも所謂“別宅”をいくつか持っていて、そこでエサを貰うことはよくあることだ。


でも‥‥、自転車の少年の近所で本当に飼われているなら、誰が付けたか分からないこんなボロボロの首輪をそのままにしておくだろうか?
111012-14.jpg
普通、飼い主の自覚があるならこの首輪を外すか、新しいモノに替えるのではないだろうか。ちなみに、私ならそうする。


「クロちゃん‥‥、お前は飼猫か野良猫か、どっちなんだ?」
111012-15.jpg
おそらくクロ自身は、そんなこと意に介していないに違いない。


周りの人たちに愛され、食べ物をくれる家をいくつも持っていれば生きていけるからだ。
111012-16.jpg
でも寒さを凌ぐねぐらは必要だろう。それに病気になったときは誰が世話をしてくれるのだろう‥‥?


首輪についての疑念がどうしても頭から離れないが、このことだけでクロちゃんを野良だと断定することが早計なのは、私にも分かっている。
111012-17.jpg
そしてまた、何もしてあげられない今の私にそんな心配をする資格がないことも分かっている。


今はただ、この人懐こいキジトラが幸せに暮らしていることを願うばかりだ。
111012-18.jpg


涼しい木陰に腰を落ち着けたクロちゃんは、今日も毛繕いに余念がない。
111012-19.jpg


毛繕いを終えたクロちゃんは、周りを見回しはじめた。天敵である犬の接近を警戒しているのだろうか‥‥。
111012-20.jpg
私がそんなクロちゃんの写真を撮るために距離をとると‥‥、


クロちゃんはすぐに後を追ってくる。
111012-21.jpg
本当に、このキジトラは甘ったれだ。


この気質は生まれつきなのか、それとも生きるために身につけた処世術なのか分からないが‥‥。
111012-22.jpg
この人懐こさがあるから、この猫は多くの人に愛されているのだろう。


通りすがりの言わば余所者の私も、クロちゃんの魅力に惹かれるくらいだから‥‥。
111012-23.jpg
でもそんな私には、僅かの間一緒に過ごすことしか出来ない。


私自身はクロちゃんと接していると、心が癒されるのだが‥‥、
111012-24.jpg
クロちゃん的にはどうなのだろう?


111012-25.jpg


クロちゃんは木陰ですっかり寛いでいるが、私が呼び止める前は何か目的がある様子だったはず。
111012-26.jpg
ひょっとしたら、私に気を使って敢えて道草を食っているのかもしれない。


「クロちゃん、お前何か用事があって急いでいたんじゃないのか?」
111012-27.jpg
しかし、私の問いかけにクロちゃんは馬耳東風で、毛繕いをつづける。


そんなクロちゃんがいきなり動いた。
111012-28.jpg
公園を出て用水路へ向かっていく。


そして、先日と同じように用水路へ降りていった。
111012-29.jpg
やはりここは、クロちゃんお気に入りの水飲み場だったのだ。


山からの水と途中に幾つかある湧き水が混ざり合った用水路の水は、澄み切っている。
111012-30.jpg
このときも、クロちゃんは味を楽しむように時間をかけてゆっくりと水を飲みつづけた。


喉の渇きを癒したクロちゃんが公園に戻ってきた。
111012-31.jpg


木陰に座ったクロちゃんは、何やら考えごとでもするように眼を据えた。
111012-32.jpg
そしてついには眼を閉じ、瞑想しはじめた。


しばらくそうしていたが、何かを思い立ったように、クロちゃんはおもむろに立ちあがると歩を進めはじめた。
111012-33.jpg
どうやら私が声をかける前に目指していた目的地を思い出したようだ。


クロちゃんが向かったのは、先日と同様、自転車の少年が言ったクロちゃんの家がある方角だ。
111012-34.jpg
果たしてクロちゃんには、寝床が用意された家があるのだろうか‥‥?


クロちゃんは途中で歩みを停めると‥‥、
111012-35.jpg
私の方を振り返り「ニャアーッ」と一際大きな鳴声をあげた。


クロちゃんにすれば別れの言葉だったのだろうが、私には『あんたもクヨクヨしないで、しっかりしなよ』と言われたように感じた。
111012-36.jpg
「ありがとう、クロちゃん。私もお前を見習って周りから愛されるような人になれるよう努力してみるよ」


111012-37.jpg
飼猫だろうが、野良猫だろうが、クロちゃんはこれからも皆に愛されて暮らしていくだろう。私はそんなクロちゃんが少し羨ましかった。


111012-38.jpg
退院の目処が立たない父、そしていくつもの持病を持ち常に体調不良を訴える独居の母を目の当たりにして、私の心は勢い塞ぎがちになる。
そんな私の心を束の間和ませてくれたクロちゃんには大いに感謝している。
そして多少大袈裟だが、今回のクロちゃんとの交流を経て、私は思った‥‥。
“ああ‥‥、自分は猫によって生かされているんだなぁ”と。




ブログランキングに参加中
気に入って頂けたら下のバナーをクリックしてください
にほんブログ村 猫ブログ 野良猫へ
いつも応援ありがとうございます

関連記事
スポンサーサイト


コメント

  1. かつお大臣 | URL | MNxmyMgU

    最後の言葉…猫によって生かされてる…
    私もそのまんまです。
    遠くから見て癒され、触って癒され、匂い嗅いで癒され、
    ざらざらのベロで癒され、頭突かれて癒され、
    猫様様です。

  2. Kiryu | URL | T2RJUesU

     wabiさん、こんにちは。

     僕も猫によって生かされている人間です。
     今年の夏・・・この話はまたお会いしたときに話します。

  3. ねこやしき | URL | g3yiOdD2

    wabiさん こんにちは

    wabiさんのブログが拝見できてうれしいです。
    猫の姿を外で見かけるとつい、飼い猫なのか、ノラならごはんはもらえているのか、などなど色々考えてしまいます。
    野良猫が住むにはきびしい環境に思えましたが、どこにも優しい人はいるものですね。
    wabiさん、寒くなりますので、お体大切になさってください。

  4. プレマツ | URL | -

    いい話ですね。

    続きが気になっていていましたが、

    今回はいい話でしたね。

    しかしクロちゃん かわいいですね。

  5. wabi | URL | -

    かつお大臣さんへ

    猫は本当に不思議な生き物ですね。
    その存在で癒されるのは勿論ですが、彼らの生き方に憧れのようなモノを感じます。
    また、野良猫の暮らしは過酷なのに、逞しく生きている様を見ていると元気を貰えますし。
    ホント、猫様様ですね。

  6. wabi | URL | -

    Kiryuさんへ

    ご無沙汰しています。

    猫は本当に魅力的ですね‥‥、飼猫であっても野良猫であっても。
    だから、私たちはブログを通して、少しでもその魅力を読者の方に伝えようとしているわけですが‥‥。

    この夏に起こったKiryuさんと猫との関わり‥‥、お話を聞けるのを楽しみにしています。

  7. wabi | URL | -

    ねこやしきさんへ

    ご無沙汰しています。

    今回知り合ったクロちゃんが、飼猫なのか野良猫なのか、結局分かりませんでした。
    でも何軒かの家で世話になっていることを知り、少し安心しました。
    人懐こい子ですから、これからも愛され続けるでしょう。
    私自身はクロちゃんから元気を分けてもらいました。

  8. wabi | URL | -

    プレマツさんへ

    私のとってもクロちゃんの首輪の経緯は意外でした。
    でもクロちゃんを気遣っている人が複数いることを知り、温かい気持ちになりました。
    そして、余所者の私にも親しく接してくれたクロちゃんに感謝しています。
    クロちゃん‥‥、本当に可愛かったですよ。

  9. ゆうたん@ | URL | 4CvheNDY

    猫に生かされている・・・大げさでも何でもないです^^
    ワタシも猫に生かされていると思っています。

    クロちゃん・・・いいコですね。
    いろんな意味で今日、この記事でココロが癒されました。
    wabiさん、ありがとうございます。

  10. wabi | URL | -

    ゆうたん@さんへ

    ゆうたん@さん、ご無沙汰しています。

    猫は私たちが情愛を持って接すると、それにちゃんと応えてくれます。
    ニンゲンの反応には嘘や偽りを含む場合がありますが、猫たちにはそれがありません。
    そんな彼らを見ていると、いつも心が癒されます。
    そして同時に、猫たちによって“生かされている”と感じるのです。

    クロちゃん、人懐こくて可愛いかったです。
    そして、その逞しい生き方も心に残りました。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)