敵対する猫たち その弐

2012年05月20日 10:00

ミイロの関心は、もっぱら陸にあげられた廃船に向けられ、ほかの猫が自分を監視していることなど、まったく気づいていない様子だ。
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猫は好奇心がとても強い生き物だ。目新しいものがあると、探索しないと気がすまない。


イギリスに『好奇心は猫をも殺す』という諺がある。
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その意味は、9つの命がある猫でも死んでしまうくらいだから、興味本位であちこちに首を突っこむと、命がいくつあっても足りない、ということらしい。


諺の常套として、ほかの生き物に仮託し、間接的に人を戒めているのだが、この言葉は猫への箴言としても十分通用する。
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猫の不審死や事故死の中には、猫の好奇心が原因の事例が少なくないと、私は思っているからだ。


その点、このキジ白は自分のテリトリーからほとんど出ず、人に対する警戒心もしっかり持っているので、発病さえしなければ長生きするだろう。
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私が気がかりなのは、好奇心が旺盛で向こう見ずで妙に人懐こい猫だ。
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「ミイロ、お前はその中の筆頭なんだぞ」


私がそう思っているそばから、ミイロは薄暗い開口部へ入っていく。
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もちろん、私だって知っている‥‥。猫が狭い場所を好むことは。


それでも敢えて問いたい。「ミイロ、そこはどうしても探索しなければならない場所なのか?」と。
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去年の冬、カポネは前足を重油に突っこんで、まもなくエリアから姿を消した。
また最近では、大きな水桶の中で溺死した海岸猫の悲報も耳にした。
ちなみに、『吾輩は猫である』の主人公の猫も、最後は甕(かめ)の中で溺れ死んだ。



本当に‥‥災厄は、いつ何時やってくるか分からない。
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船内の探索が終わったのか、まもなくミイロが甲板に姿を現した。
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「ミイロ、何か面白いモノでも見つかったか?」


が、ミイロは私に一瞥もくれず、しなやかな足取りで船縁を歩きはじめた。
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その様子を険しい表情で見つめつづけるキジ白。
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このキジ白に、どんな呼び名を付けるか長らく悩み、特徴的な三白眼からの連想で“デューク”、あるいは“ゴルゴ”などの候補があったが、やはりメスには不適当なので、“三白”を訓読して“ミツシロ”と呼ぶことにした。ただ、登場回数は今後も少ないだろう。


よほどこの廃船が気になるらしく、ミイロは再び船内探索をはじめてしまった。
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その間に、私はコジローの姿を求めて、エリアの中をゆっくりと巡った。
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しかし、“浜の伊達男”を発見することは出来なかった。


私が道路に出てみると、ミイロが所在なく佇んでいた。どうやら、廃船の探索が完了したらしい。
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ミイロは私の姿を認めると、その場に腰をおろし、人待ち顔の表情を見せる。


「コジローはいなかったよ。ミイロ、一緒に戻ろう」
声をかけると、ミイロはすぐに呼応し、私の後に付いてきた。

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やがて私を追い越すと、ミイロは自分のエリアへの歩度を速めた。


ところがエリアへ入ったとたんに、その歩度が鈍った。
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そして店の前まで来ると、その場に留まり、耳をそばだてた。


自分のエリアに戻ってきてから、警戒心をあらわにするなんて、不自然なことだ。
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ミイロの視線を辿っても、エリア内は静まり返り、特段変わった様子は見られない。


それでもミイロは耳をそばだてて、周りに警戒のレーダーを張る。
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彼女が何に神経を尖らせているのか‥‥、私に心当たりがないでもなかった。


その時だった‥‥。何気に見遣った視界の中に、見知った猫の姿が入ってきたのは。
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「なんだ、お前こんなトコにいたのか」
それは、さっきのエリアで探し求めていた“浜の伊達男”こと、コジローだった。



どうやらコジローは、私が訪れた時、すでにコンテナの上で昼寝をしていたようだ。
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「ところで、この前から気になっていたんだけど‥‥、お前太っただろう」


外で暮らす野良猫は、自ら脂肪を蓄えて冬の寒さに備えると、以前仄聞したことがある。
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しかし、こと海岸猫に限ると、季節によって体重を増減させている実例を、私はほとんど見ていない。


そういう意味で、コジローは稀有な海岸猫だ。
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「でもなコジロー、暖かくなってきたんだから、そろそろダイエットしないと、“浜の伊達男”の異名を返上することになるぞ」


コジローが現われたところで、夕食タイムにした。
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このエリアの海岸猫たちの栄養状態は、おおむね良好だ。


この時刻、なぜか猫缶を食べないミイロには、今回も“猫用カニカマ”を与える。
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こういう時、近くに潜んでいれば決まって姿を見せるシロベエが、なぜかまだ現れない。
私はシロベエの姿を求めて辺りを見回った。

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シロベエは、同じエリアの海岸猫から厭われ、仲間外れにされている。たとえ、それが彼自身の行動が引き起こしたとはいえ、食事の時に姿を現さないのは、やはり不自然だ。


と、その時、派手な鳴声をあげながら1匹の猫が姿を現した。
シシマルがトレイから離れて、身構える。コジローとアイは、いち早く姿を消している。

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威嚇のつもりなのだろう、「ニャア、ニャア!」と間断なく声をあげながら、その猫は大股で近づいてくる。


このハチワレ、少なくとも5ヶ月前までは、ここの住人ではなかった。
迷い猫なのか、それとも流れ猫なのか、私には判断がつかない。

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ただ、その伝法な態度から、この猫の生き様を垣間見た気がした。


ハチワレの鋭い視線はミイロに注がれている。
そのミイロは、シシマルと共に逃げることなく、その場に留まり、身構えている。

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さすがは“特攻隊長”、尻尾を巻いて逃げ出したコジローなどより、よっぽど肝が据わっている。
ミイロの神経が過敏になっていたのは、このハチワレの気配を察知していたせいかもしれない。


〈次回へつづく〉



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