待っている猫

2012年06月15日 06:00

娘の膝の上で寛いでいる猫‥‥、元海岸猫で名を風(ふう)という。我が家の愛猫だ。
ゴールデンウィークの初日4月28日に行方不明になり、そして10日目に入った5月7日夕刻に無事保護した。これは、その直後のスナップだ。

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失踪時より少し痩せていたが、健康状態は良好だ。
行方不明期間は9日と3時間、その間どこで何を食べていたのか‥‥今もなお謎のままだ。



さて、先述したとおり、この猫は“海岸猫”だった。
そして私とこの猫との出会いは、2008年の秋に遡る‥‥。



2008年11月3日、1匹の茶シロの海岸猫が姿を現すと、長い尻尾をくゆらせながら、ゆっくりと近づいてきた。
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その頃、私もこの海岸猫を2、3度目撃したことがあったが、いずれも何者かに追われて、防砂林の中を脱兎のごとく疾走しているのを垣間見ただけなので、まともに対面したのはこの時が初めてだった。


その後も1週間に1度くらいの頻度で顔を合わせるうちに、警戒心も解けたのか、茶シロは徐々に私との距離を縮めてきた。
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そのうちに、眼の前でこんな仕草を見せるようになった。
仄聞したところによると、この年に海岸へ姿を見せるようになった新参者だという。
つまり、この茶シロは人の手により遺棄された“捨て猫”だったのだ。



それなのに、人を慕うボディランゲ-ジで愛嬌を振りまく茶シロが、私は愛しく思えてきた。
当時この猫に魅了されていたのは私だけではなかった‥‥。あるブロガーが、每日のようにこの海岸猫の写真をブログに掲載していたのだ。

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そのブロガーの名はdodoさん
私がこのブログを始める際に範として倣った『SURF RESEARCH』の管理人だ。
その頃の茶シロの様子を紹介しているページはこちらこちら



私は、今でもはっきりと憶えている。
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2008年12月6日の夕刻の海岸は寒風が吹き荒ぶ、凍えるほどの寒さだったことを。


寒風に逆らって海岸沿いの道を西へ向かっていた私は、路傍の枯れ草の中で体を縮め、寒さに耐えている茶シロの姿を発見した。
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私は足早に歩み寄ると、躊躇うことなく茶シロを上着で包み込むように抱きしめた。しばらくそうしていたら、腕の中からゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえてきた。
その時、私の心は決まった。



私は、茶シロを上着の内側に抱いたまま、自宅に連れ帰った。
風の強い日に保護したので、“風(ふう)”と名付け、そして家族の一員にした。

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海岸に遺棄されるまでは飼猫だったと推察される風も、すんなり我が家に融けこんだ。
猫トイレや爪研ぎ器の使い方などを、完璧に体得していたので、受け入れる家族の心証も良かった。



しかし、何の前触れもなく風が姿を消したことで、dodoさんのように心を痛める人たちがいたことを、その時の私には知る由もなかった。
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海岸散策を夕刻から早朝に変更してdodoさんと知り合い、風のことを報せるまでには、その後1年近くを要した。
このように、ある人たちからすれば、海岸猫が理由もなく、突然姿を消したように見える。



船宿エリアに限っても、カポネ、クロベエ、シズク、マサムネ、コユキが行方知れずになっている。
かつては10匹以上の野良猫が暮らしていた“西のエサ場”などは、徐々にその数を減らし、ついには1匹を残すだけになった。

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最近このような出来事に関して、妙な噂が私の耳に入るようになった。
「悪意ある人の手により捕らえられた」とか「猫盗り業者が駆除した」とか「関西の業者が三味線用に捕獲した」等々‥‥。



が、よく訊いてみると、目撃情報を得たわけでもなく、ただ“可能性”をいっているだけに過ぎないようだ。
本人がどう思おうと勝手だが、根も葉もないことを吹聴するのは止めたほうがいい。
そんな裏付けもないことをいう度に、自身がいかに皮相的で短絡的な人間であると喧伝しているようなものだからだ。

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原則的に、私は実証される事柄だけを、記事にしているつもりだ。
ちなみに、私が風を保護したように、海岸猫の世話をしているボランティアの人たちが複数匹の海岸猫を引き取っているのは、事実だ。



さらに、私は会っていないが、実はタビにはソックスとタイツのほかにもう1匹娘がいる。
その海岸猫は、私も知るOさんという男性に保護され、その後、家の引っ越しに伴い、今は関西で暮らしているのも事実である。

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このエリアを担当するボランティアのA夫妻は、私が伝えるまで事の顛末をまったく知らなかった。
最近、防砂林に住まう人からも、キャリーバッグ持参で海岸猫を保護している場面の目撃談を聞いたばかりである。
‥‥思えば、ミケやサンマの場合も、実情を知らない人からすれば、いきなり行方不明になったと感じたことだろう。



かといって、消息不明の猫たちの多くが幸福になっていると思うほど、私は楽観論者ではない。
(自他共に認める、悲観論者だ)
要するに、海岸猫が行方不明になる理由は一様ではなく、最悪な結果ばかりを考えるのはあまりに狷介だと言いたいのだ。


“石橋を叩いて渡らない
これは、周りの人が私の性格を婉曲にいい表すときに使う言葉だ。むろん褒め言葉ではなく、多分に揶揄が含まれている。
直接的にいうと、物事に対して、弱腰とか煮えきらないとか、とにかく思いきりが悪いのだ。

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最大限良くいって、用心深く無理をしない“慎重派”、ということらしい。
そんな私が、ゴールデンウィークの初日に、愛猫を散歩させようと思い立ったのだ。



慎重派の私は、万が一にも逃げないよう、愛猫にリード付きのハーネス‥‥所謂ハーネスリードなる物を装着させ、コースも人通りの少ない住宅街を選んだ。
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元海岸猫の風が、ハーネスリードを付けるのは今回が3回目。
過去2回もそうだったが、今回もハーネスリードに慣れないのか、風はそわそわと落ち着かない。



前から杖をついた老女が近づいてきたので、私は歩みを止めると、リードをたぐり寄せて、風を足許に座らせた。その際、それまで手首に通していたリードの輪を、つい外してしまった。
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そして‥‥、老女が我々の眼の前を通り過ぎた瞬間だった。風が渾身の力を込めてダッシュしたのは。


リードは私の手から、いとも簡単にもぎ取られた。
私は心の中で舌打ちした。「猫の瞬発力の凄さは知っていたはずなのに‥‥!」

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風は闇雲に疾走した。私は急いで後を追ったが、時速70キロで走れる能力を持つ猫に追いつけるとは思っていなかった。


それでも私は、高をくくっていた。
リードをしたままだし、私と風との信頼関係に自信を持っていたからだ。

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風は民家の門扉の下から中に潜り込むと、建物の陰に隠れてしまった。
庭にいた住人に尋ねると、門と反対側のフェンスを越えて隣家へ行ったと言う。



私は踵を返すと、いったん表通りに出てから、その隣家へと急いだ。
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そして見当をつけた路地に入って、風が越えたというフェンスを目指した


私は、目当ての民家が近づくと、風がいつ現れても対応できるように歩度を緩めた。
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風が越えたのは、おそらくあのフェンスだ。


と、その時、駐車場の車の下にうずくまる茶シロの猫を発見した。
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私は、てっきりそれが風だと思い、車の下から出てくるように促した。ところが、やがて出てきたのは、同じ毛色の違う猫だった。


自分の勘違いで無駄な時間を費やしてしまい、私は大きく嘆息した。
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私は再び踵を返すと、表通りへと目を遣った。


時間的には、この道路を横断していても不思議ではない。
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しかし、比較的交通量の多いこの道路を、リードを引きずったまま渡るだろうか?
ましてこの地区は、風にとって土地勘がないところ‥‥。



私はその道路を渡らず、最後の目撃地点を中心にして、猫が隠れそうな場所を捜すことにした。
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だが、目にするのは違う猫ばかりで、肝心の風の姿を見つけることが出来ない。
この時点で、私は完全に風を見失ってしまった。そして、すぐに捕獲できるだろうと高をくくっていた自信はすでに雲散していた。



次に、パニックに陥った猫が安心して身を潜めるようなところ‥‥つまり、人があまりいない場所を、範囲を広げて入念に見て回った。
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そして、住人らしい人を見かけると、「黄色いリードを付けた猫を見ませんでしたか?」と訊いてみたが、目撃情報を得ることは出来なかった。


物陰に隠れていたとしても、長さ1メートルほどのリードなら目立つはずだが‥‥。
風は、最初に侵入した家の住人に目撃されてから、まるで蒸発したように姿を消してしまった。

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結局、この日は捕獲するどころか、姿を見ることも出来ず、また有力な目撃情報も一切得られなかった。


次の日からは早朝から深夜まで数回、捜索範囲を広げて風を捜しつづけた。
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ところが3日経っても、目撃情報すら得られず、やむなく市役所、警察署、保健所、保護センターと、考えられる全ての機関に猫失踪の届け出をした。
黄色いリードを付けたままなので、すでに保護されているのでは、と期待したが、どこからもそのような情報は寄せられていなかった。



家族も時間が空いた時に捜索に加わってくれたが、やはり数人での捜索には限界がある。そこでチラシを作ってポスティングすることにした。
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次の日から、捜索と並行して迷い猫捜索のチラシをポスティングしていった。
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私としては、藁にも縋る気持ちで、一軒一軒ポスティングをつづけた。


失踪現場近くの『下山動物病院』、『そば処久月』、『サークルK』は人目につく場所へチラシを掲示してくれた。
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この3枚の貼紙に、どれほどの効果があるのか、その時は分からなかったが、悲観に傾きかけた私の心を立ち直らせる効果は大いにあった。


さらに失踪現場を中心にして、目立つ場所へ数枚のチラシを自ら貼り付けた。
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逃走のキッカケを作った当人として、風と再会するためなら、出来ることは何でもやろう、という気持ちだった。


すると3、4日経った頃、ポスティングされたチラシを見たSさんという男性から、風らしき猫を近隣の駐車場で目撃したという電話をもらった。
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時間帯を変えて、何度かその目撃場所付近を捜索したが、発見には至らなかった。


その電話を最後に、風の目撃情報が入らない日がつづいた。
もしかしたら、私が考えているより遠くへ行ってしまったのかもしれない‥‥。

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これは、ポスティング済みの家を印した地図。
ともあれ、私はこの地図を真っ赤に塗り潰すまでは捜索をつづけるつもりでいた。



にしても、いったい何枚のチラシを印刷したのだろう‥‥?
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具体的な枚数を調べる気などないが、カラーインク3個とブラックインク1個のカートリッジを使い切ったことは分かっている。この直後に、ブラックインクを交換)
ランニングコストが安い古いプリンターで助かったが、そうでなければインク代で破産するところだ。


それからも、範囲を少しずつ広げながら、連日捜索をつづけた。
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捜索途中で住人とおぼしき人を見ると、チラシを手渡しながら、風のことを尋ねた。


だが、リードを付けた茶シロの猫を見たという人と遭遇することはなかった。
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そうして、あと1時間で失踪から10日目に突入しようとした時だった‥‥1本の電話がかかってきたのは。


それは、私がポスティングしたチラシを見た女性からの電話だった。
「たった今、この猫ちゃんが近所の空家の庭にいるのを見ました。チラシを持っていって確認しましたから、間違いないと思います」

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私は電話を切ると、現場へ急行した。
すると、雑草が繁茂した庭に、見覚えのある縞模様の尻尾が揺れているのが見えた。
その瞬間、風に間違いないと、私は確信した。



ところが、近づこうとすると、風は身を翻して空家の床下へ潜り込んでしまった。
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エサを置いて離れると、床下から出てきてそれを口にするのだが、距離を縮めようとすると、すぐに身を隠す。
そこで、風の気持ちを落ち着かせるために、しばらく離れたところから様子を見ることにした。



そこへ、電話をくれた女性、Iさんが様子を見に来てくれた。
話を訊くと、チラシを見る数日前に、やはりこの空家の庭で目撃したときの風は、途方に暮れた様子で、「私は、これからどうすればいいのかしら、という感じでしたよ」とIさんは言った。

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Iさんは、風を目撃した後、わざわざ貼紙のあるサークルKを訪れ、風が保護されたかどうかを確認してから、私に電話をしてくれたのだ。


この空家‥‥、猫が身を隠すには絶好の場所だと思ったので、当初は何度か覗いていたが、三毛の野良猫を一度見ただけだったので、やがて捜索対象から外していた。
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風は床下から時々顔を覗かせるものの、私が名を呼んでも外へ出てこようとしない。
3年半で培った、風との信頼関係は、私の一方的な思い込みだったのか‥‥。



「そんなはずは、ない!」
私は疑心を振り払うように、床下の通気口へ足早に近づいていった。

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そして今度は、エサで誘う姑息なことはせず、床下にいる風に声をかけた。
「風、ゴメンな‥‥、辛い思いをさせて」私はとにかく、風に謝りたかった。



慣れないハーネスリードを装着させたこと、土地勘のない場所に連れ出したこと、さらに風の考えを察することが出来なかったことを。
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しばらくすると、風は床下から出てきて、私から5メートルほど離れた場所に端座した。
それからも、私はただひたすら風に謝りつづけた。



すると、今度は風が、まるで喋るように鳴きはじめた。
9日間自分がどんなに寂しく辛かったか、そしてどうして、もっと早くココへ来てくれなかったのかと、私を諌めるような抑えた口調で、風は話しつづけた

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風の言うことは、もっともだと、私も自責の念を覚えていた。


一般論として‥‥、
山で遭難したら、闇雲に動くことは愚挙である。徒に体力を消耗し、滑落などの危難に遭う可能性も高くなるからだ。助かりたければ、一所にじっとしていることだ。
そして、救助隊が来るのを信じて待つのが最良の選択である。



風は動物の勘で、その最良の行動をとっていたのだ。
何故かって‥‥、
空家の前、ここが私がリードを離してしまった、正にその現場だからだ。

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風は待っていたのだ。私が現場に戻ってくることを信じて‥‥9日間ずっと独りで。
土地勘のない風にとって、それが最良で唯一の方策なのに、私はそれを察してやることが出来なかった。



いったい、風と向い合ってどれくらいの時間が経ったのか‥‥?
やがて、風のほうから徐々に近づいて来ると‥‥、ついには私の脚に体をすり寄せてきた。

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私は、その体を両の手でしっかり抱きながら言った。「風、おかえり」と。


結局、発見から保護まで4時間を費やしたが、私は充足感と虚脱感がない交ぜになった妙な気分だった。冷めた興奮状態といえば分かってもらえるだろうか。
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それにしても、簡単に外れる首輪はまだしも、ハーネスリードも無くしているとは‥‥。
これでまた、謎が一つ増えてしまった。



私が海岸で保護するまでの環境がそうさせるのか、元海岸猫の風は猫缶などのウェットフードを口にしない。
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カリカリ以外の好物は、かつぶしとシラスである。
日頃は身体のことを考えて、少し与えるだけだが、今日は特別、いつもより多めに奢ってやった。



私を振り切って失踪してから9日と3時間、風はやっと安息の場所に戻ってきた。
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どんな柔らかなクッションやどんな厚い絨毯より、猫が一番心安らぐ場所は愛する人の膝の上である。


帰宅してから数日後‥‥。
失踪事件などなかったように、風は以前と同じ風情で窓の外を眺めている。

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その面持ちは穏やかで、空家の庭で見せた切迫した相貌とは明らかに違っていた。


私はそんな元海岸猫を見て、改めて思い知らされた。
猫はやはり、信頼し合っている人の側で暮らすのが一番幸せなんだ、と。

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今回の出来事を経験して、私はまた、猫に学ばせてもらった。
気ままですげなく見える猫は、犬に比べて飼い主への情愛が薄いと考えるのは誤っている。



表現が違うだけで、猫だって、飼い主への思いは強いのだ。
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ここにも、飼い主が迎えに来てくれるのを辛抱強く待っている猫がいる。


この赤トラは、おそらくこの場所で飼い主と別れたのだろう。
でないと、人目につくこんなところに身を晒している理由は、ほかに考えられない。

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私は前回口ごもったことを、はっきりと言い切った。
「赤トラよ、お前の願いは叶わないぞ。お前は、信じていたニンゲンに、ゴミのように捨てられたんだ」



「そんな血も涙もない極悪非道なヤツをいつまで待っているつもりなんだ?いい加減に諦めて、安全な防砂林の中で暮らしたほうがいいぞ」
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私は、この猫に会うたびにやるせない気持ちになる。そして、心の中で涙を流し、同じニンゲンとして謝りつづけている。


波音を子守唄にして眠っている赤トラは、どんな夢を見ているのだろう?
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願わくば、夢の中では愛する人の側で安らかにしている赤トラであってほしい‥‥。


付記
保護当日以外の写真は、記事制作のために、後日撮影しました。
(黒枠の写真を除く)



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コメント

  1. きょう | URL | -

    こんにちは

    泣けました。
    裏切られてもなお人間を信頼する猫たち。
    我が家の猫も元野良です。
    今年10歳になった男の子は生まれてすぐ段ボール猫になり、
    お腹に子供を宿した状態で保護した子、
    その産まれた子。
    3にゃんいます。
    今ではお互いかけがえのない存在です。
    猫のいない生活なんて考えられません。

    風ちゃんのあどけない表情はとても愛らしいですね。
    できれば全ての海岸猫に、信頼できる人間と出会えますように。

  2. ゆうたん@ | URL | 4CvheNDY

    こんにちは!コメントご無沙汰しております。

    風ちゃん、戻ってこれてよかったです。
    ひとことこれだけだとなんですが、この記事でいろんなことを考えさせられました。
    猫の気持ち、信頼する心、待つ心、そして姿を消した猫たち。

    ワタシにも姿を消してしまい、心を痛めている親子の外猫がいます。
    楽観的に考えることはありませんが、それでも無事を願う気持ちは
    ずっと持ち続けています。

    うまくまとまらなくてごめんなさい。

  3. ミュウ | URL | -

    暫く忍者画面になって来ることができなかったんですが、今日は来ることができました。
    なんだったんでしょう?

    風ちゃん無事戻ってこれて良かったですね。
    読んでて泣いてしまいました。
    うちの子達も3にゃんとも捨て猫でした。

    本当に捨てた人たちには憤りを感じます。
    一度人間に飼われたことのある子が外で暮らしていくのは並大抵のことではありません。
    可哀想と思うのは赤トラちゃんに失礼なのかもしれないけど、捨てた人間を待ち続ける赤トラちゃんが切なくて、悔しくてしかたありません。

    誰か新しい家族が赤トラちゃんを迎えてくれたら…。

    そして、すべての外猫ちゃんが幸せになってくれたらと思わずにはいられません。

  4. ニャン丸 | URL | lhgDXi1Y

    私見たかも?家の庭でキャットフード食べてのを?
    家の庭に食べに来る子4.5匹居るんです
    知らない子が食べに来てるなと思ってたんです
    家のポストには、チラシ入ってませんでした

    見つかって良かったですね

  5. するる | URL | gmuBEe9w

    wawbiさん

    風ちゃん保護できて本当によかったです。
    改めてそう思います。
    9日間短いようですが、こうやってみると
    その大変さがよく分かります。
    でも、保護できた時は、そんな大変さなんて
    どこかに飛んでしまったんでしょうね。

    私も風ちゃんのように1日も早くしらすを
    お膝に乗せてあげたいです。

    茶トラの子も幸せになってほしいです。

  6. ぐーやま | URL | -

    無事におうちに戻れて本当によかったです
    風ちゃん、安心したとってもいいお顔をしています
    ポスティングやポスターが一番有効なのだと改めて思いました
    猫はふらっとどこかへ行ってしまうものだと、そのうち帰ってくると、そうやって探してもらえない子もたくさんいます
    そんな子たちの末路を思うと胸が苦しくなりますが、
    wabiさんのこのブログがランキングの上位に入ることを、ささやかな希望のように感じます

    5年前に去勢した子で、ここ半年ほどプッツリと姿を見せなくなった子に、先日再会しました
    目も汚れておらず、痩せてもおらず、相変わらず餌を置けとシャーシャー言っていました
    どこでどうしていたのか、聞く術はありませんが、なかなか楽観的に過ごすのは難しいです
    でもきっと、猫は我々の思いよりも遥かに賢い生き物なのでしょうね
    だけど、バカでもいいから、猫は愛される家族の一員として生きてほしいです

  7. ねこやしき | URL | ezOaKyPo

    wabiさんの気持ち、同じ経験をしたことのある私には手に取るようにわかります。
    私の場合は3か月を要しました。
    捕獲できた時は、ガクガク震えてしまいました。
    30年間で常に50匹近い猫たち(捨て猫出身)と家の中で暮らしてきました。
    (総数350匹を優に超えてます)
    その間、3匹の猫がアクシデントで我が家を後にしました。
    そのうちの1匹は、上記の猫ですが、あとの2匹は戻りませんでした。
    もう何年も前の出来事ですが、決して決して忘れられません。
    今でもなみだが出ます。
    どの子もみんな幸せに暮らしてほしい、心からの願いです。
    wabiさん、風ちゃんのこと本当に本当に良かったです。

  8. えいさん | URL | -

    風ちゃんおかえりなさい

    私も実家で猫を飼っていました。
    3匹のうち2匹が家から脱走し、どれだけ探しても見あたりませんでした。
    結局発見できず、悲しい思いをしたことがあります。

    再会できて本当に良かったですね。
    家族の愛が伝わってきました。

  9. 未来ママ | URL | ZBGCfeOs

    こんにちは。
    本日、最後までゆっくり拝読させていただきました。
    風ちゃんがにじりよって来たときにはうれし涙がでました。
    灯台もと暗しだったんですね。
    先日、我が家のぽんこが網戸張替え中に外に出た捜索3時間を思い出しました。
    やっぱり灯台もと暗しで、暗闇の中お隣の狭い隙間にうずくまってるのを発見しました。
    怖くて動けなかったんですね!3時間でも心臓パクパクでしたよ。
    10日間、ひたすら待ってた風ちゃん本当に本当によかったね。
    心温まるお話ありがとうございました。

  10. 気まぐれpapa | URL | r0n3ENrY

    良かったですね♪

    今晩は。
    無事帰ってきてホットひと息ついているのは風ちゃんかwabiさんか?
    我が家も散歩させていますが、基本的には人が少ない夜です。
    我が家の住人以外はパニックになるので、夜の方が安全ですよ。
    そして、首輪は付けない
    どうして? もし迷子になってしまうといろんな所に行くと、首輪が
    木々に引っかかって抜けなくなるからです。
    猫の習性を知っていると、イザといった時に生き延びるためにも首輪は
    なるべくしないほうがベストです。
    動物と付き合う、家族の一員として生活するにもその特性に十分と配慮
    することが大切ですね。
    個々の習性を把握できるとその習性に沿って寄り添う事が大切だといつも
    思って一緒に生活をしています。
    優しさだけでは動物をパートナーとして寄り添うことはできません。
    可愛いからこそイザといった時の事をいつも思いながら我が家も9年迎え
    ました。
    何事も起きないことを祈りながらこれからも対等に尊重しながら生活を
    してくださいね。
    海岸猫たちも時々見に行っています。
    wabiさんと会える時間帯でないのが残念ですが。
    先ずは良かったです♪

  11. Sabimama | URL | cbwYL0zY

    ネコは前の環境を探す様です。ウチも遠くの里親が迷子にした時に探しに行きましたが。発見保護は元いた地域に似た住宅街でした。きっと自分でウチを探したんだ・・・と、思いました。猫なりに考えて帰宅するよう行動するのかな?と、思いましたね。
    あと、消える猫ですが「白茶を保護しました」とか、紙に書いて置くことがボラさん同志に必要です。そうしたりします(ウチの地域は)、あ~保護されたな、とわかりますし、安心をお知らせします。そうしないと、消えたな・・・と心配させてホントは保護してたり・・・わからない不安をお知らせにより、告知します。コレは必要と思います。
    (今病院です、来週リリースします。黒ネコ)とか、書いて貼っておきます。

  12. wabi | URL | -

    きょうさんへ

    記事にもあるように、最初はすぐに保護できるだろうと安易に考えていました。
    ところが、3日経ち、5日が経っても目撃情報すら入らない状況に、徐々に焦燥感が募り、自分を責めるようになったのです。
    そして風の存在が、自分にとって如何に大きかったかを痛感しました。

    私も猫がいない生活は考えられません。
    海岸猫も含め、猫たちには癒され、学ばされてばかりです。

  13. wabi | URL | -

    ゆうたん@さんへ

    今回も猫の逞しさに感心させられました。
    捜している私のほうが、途中で諦めかけましたから‥‥。

    野良猫の生活は場所が違っても、厳しさだけは同じですね。
    彼らの周りには、様々な危難が待ち受けています。
    顔見知りの海岸猫が姿を消す度に、私の心には深い傷が残ります。
    そして、こんなに苦しいなら、海岸猫と深く関わるのをやめようと思うこともしばしばです。

    私も楽観的に考えることには抵抗がありますが、彼らの逞しさに期待しているのも事実です。
    そして、どこかで達者でいることを、祈るばかりです。

  14. wabi | URL | -

    ミュウさんへ

    ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。
    忍者ツールの設定は以前のままなので、私にも原因が分かりません。
    しばらく、このツールを外しておきます。

    さて、風の失踪事件では、様々なことを学びました。
    その中でも一番痛感したのは、風の存在の大きさでした。
    側にいるのが当たり前で、日頃はそんなに意識しませんから‥‥。

    猫を保護する人がいるから、遺棄する人がいるのか?
    それとも、遺棄する人がいるから、保護する人がいるのか?
    どんな因果関係があろうと、犠牲になるのは常に“猫”です。
    家族の一員である愛猫を遺棄する人の気持が、どうしても私には理解できません。

    ベンチに住まう赤トラは、多くの人に愛されていますが、やはり外での暮らしは辛いはず。
    見守ることしか出来ない自分を、歯がゆく情けなく思っています。

  15. wabi | URL | -

    ニャン丸さんへ

    今回の元海岸猫捜索にはいくつかの謎が残っているのですが、ニャン丸さんが目撃したのが風なら、どこで食べ物を貰っていたのかという謎が解けます。
    風がお世話になり、ありがとうございました。

    チラシの件ですが、ニャン丸さん宅には敢えて投函しませんでした。
    ニャン丸さんとは直接お会いしていませんが、知り合いという感覚があり、チラシを投函するのに抵抗があったからです。
    という訳ですから、どうかお気を悪くしないでください。

  16. wabi | URL | -

    するるさんへ

    その節は記事を転載していただき、ありがとうございました。
    お陰様で、風は無事戻って来ました。

    今回の失踪事件で、自分にとって風がどれほど大切な存在か、改めて思い知らされました。
    この9日間は、自分の失態を責め、風の無事を祈る毎日で、苦しいものでした。
    ですから、しらすちゃんを捜し続けるするるさんの意志の強さに、頭が下がる思いです。

    しらすちゃんが一日も早く、するるさんの膝の上に帰ってくることを祈っています。

  17. wabi | URL | -

    ぐーやまさんへ

    本格的な猫捜索は、今回が初めて。
    なので、最初はどんな方法がいいのか分かりませんでしたが、とにかく可能なことは全てやろうと決心しました。
    リードを付けたままなので、聞き込みでの目撃情報に期待しましたが、無駄でした。
    2件の情報は、私がポスティングしたチラシを見た人からでした。
    このことから、私もポスティングが有効な手段だと知りました。

    私も猫の行動を読むことは出来ません。(笑)
    海岸猫が何処から来て、何処へ行くのか‥‥?
    可能なら、GPSシステムで彼らの行動を追ってみたいものです。

    外猫の暮らしには、様々な危難が待ち受けています。
    それらを克服したモノだけが、今も生きているのでしょう。
    彼らの逞しさや叡智には、感心するばかりです。

  18. wabi | URL | -

    ねこやしきさんへ

    私も、空家の庭で風を抱き上げたときは、興奮状態でした。
    嬉しいのと、また逃げはしないかとの思いで、心拍数が一気に上がりました。
    家に連れ帰っても昂りは続きましたが、同時に脱力感にも襲われ、妙な心境でした。

    風は一度海岸へ遺棄された捨て猫でした。
    今回の失踪事件も、元はといえば私の不注意が原因。
    風にすれば、再び捨てられたと感じたはず‥‥。
    ですから、何としてでも保護しなければと、必死でした。

    ペットといえど、掛け替えのない家族の一員、戻らない子のことを忘れられないお気持ち、よく分かります。
    私にも、保護した仔猫との辛い別れがあり、今でも思い出すと必ず落涙します。

  19. wabi | URL | -

    えいさんさんへ

    行方不明になった猫を捜すのは、本当に大変です。
    猫は隠れるのが得意ですから、発見するのは偶然に頼るしかありません。
    目撃情報を報せてくれる人がいなければ、風も保護出来なかった可能性が高いです。
    幸運だったと思っています。

    猫との辛い別れは私も経験していますから、えいさんさんのお気持ちお察しします。
    いつまで経っても、忘れられないですね‥‥。

  20. wabi | URL | -

    未来ママさんへ

    風を保護したときに、私は刑事ドラマでよく耳にする『現場百遍』という言葉を思い出しました。
    捜査に行き詰まったら現場に戻れ、という捜査の基本を説いた言葉です。
    猫である風が、自ら現場に戻っていたのに、それに気づかないなんて、なんて鈍感なんでしょう、私は。
    今までも猫には教えてもらってばかりです。

    ぽんこちゃんも遠くへ行かないで、発見してくれるのをじっと待っていたんですね。
    たとえ3時間でも、ぽんこちゃんにとっては長かったのだと思います。
    無事保護できて、良かったですね。

  21. wabi | URL | -

    気まぐれpapaさんへ

    ご無沙汰しています。

    再会できて安堵したのは、おそらく私のほうだと思います。

    色々なご忠告、ありがとうございます。
    私も万が一のことを考えて、少しの力で外れる首輪をさせていました。
    案の定、発見時には首輪をしていませんでした。
    ただ、首と胴に装着したバーネスが原因で身動きできなくなっているのではと、心配していたのです。
    ところが、発見時には、そのハーネスも外していました。
    自らが、噛み切ったとしか思えません。

    私が海岸へ行くのは早朝か夕刻ですが、体調によって時間帯が幾分前後します。
    また、体調が良い時は、数日続けて行きますが、逆に悪いと、しばらく遠ざかります。
    そのうち、“猫の縁”で会える日が来るでしょう。

  22. wabi | URL | -

    Sabimamaさんへ

    私も同じことを考えて、自宅近くや保護した海岸へ何度か搜索に行きました。
    でも、結構距離があるし、道順を知らないので、風は現場に戻るのが最善だと判断したようです。
    そのことにもっと早く気づくべきだったと、今は反省しています。
    とにかく、猫には教えられることが多いです。

    ご忠告、ありがとうございます。
    私も、自分が風を保護したときのことを顧みて、告知するべきだと思っています。
    特に世話をしているボランティアさんへの報告は、必要ですね。

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