シシマルの度量

2012年07月07日 23:00

早朝の湘南海岸‥‥。
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赤トラは海を背にして、いつもの場所に佇んでいた。
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信じていた飼い主に遺棄された傷心が癒えたのか、それともただ環境に順応しただけなのか、赤トラが甘えた鳴き声を上げることはなくなった。


どうやら、今朝はすでに食事を終えたようだ。
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早朝にもかかわらず、赤トラのために、こうして食べ物を持ってきてくれる人がいる。


赤トラは、何故か体が固まったように、さっきから殆ど動いていない。
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そんな赤トラの目の前に、“焼きカツオ”を置いてみた。


しかしそれでも、電池が切れた玩具のように、ぴくりとも動かない。
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しばらく離れて様子を窺ったが、赤トラがカツオに反応を見せることはなかった。


後でなら食べるだろうと思い、カツオを食器の中に入れておくことにした。
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ところが、私が目を離した隙に、カツオはカラスに掻っさらわれてしまった。


飢えていないなら、それに越したことはない。多くの人に可愛がって貰っている証左だから‥‥。
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この猫は人懐こいが、けっして後追いをしない。
やはり、今もまだ待っているのだ。飼い主が戻ってくるのを‥‥。



赤トラに別れを告げた私は、別のエリアへ向かうことにした。
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エリアの外れの道端で、拾い食いをしている猫がいた。
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「ミイロ、こんなトコで朝食か」
話しかけても、ミイロは食べるのに夢中で、振り返りもしない。



カリカリを残らず平らげたミイロは、バツが悪そうに私から顔を背けたままエリアへ戻ってきた。
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そして、看板娘の務めに戻った。これが、ミイロの本来あるべき姿なのだ。


しかしミイロの目付きは威圧的で、とうてい客を迎える面持ちではない。120528-11.jpg
以前にも述べたが、これでは看板娘というより、用心棒のなりである。


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もしかしたら、本人はハナから自分の任を用心棒と心得ているのかもしれない‥‥。


ミイロが店番をする釣宿を後にした私は、エリアの中心へ足を踏み入れ、海岸猫の姿を求めて、辺りを丹念に見渡した。
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まず最初に遭遇したのは、人目を避けて物陰に潜んでいる茶トラだった。この野良は警戒心が強く、これ以上近づけない。


さらに捜すと、その巨体を窮屈そうに丸めて、車の下に身を隠しているシシマルを発見した。
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さっきの茶トラほどではないが、この海岸猫もなかなか警戒心が強い。


おもむろに車の下から這い出てくると、シシマルは大きく伸びをした。
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このような場合、彼のほうから近づいてくることはない。


私はシシマルと正対しないように場所を移動した。
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シシマルは四つ辻の真ん中で、周囲にゆっくりと視線を巡らせる。


エリアに変わったことがないか、仔細に確かめているようだ。
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シシマルの泰然とした振る舞いを見ていると、このエリアを統べる頭領として、ますます貫禄がついてきたと感じさせられる。


ふと顔を上げると、アイがゆっくりと近づいてくるのが見えた。
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そして、いつものように体をすり寄せて、歓待の意思表示。


シシマルにも同じように、体を寄せて朝の挨拶をする。
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その様子をそっと窺っている猫がいる。‥‥釣宿の用心棒、ミイロだ。
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ミイロは、何故かエサ場に寄り付こうとしない。


世話をするボランティアのSさんがエサ遣りに来ても、姿を見せないらしい。
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もしかしたら、ミイロは可愛がってくれる船長さんがいる釣宿を、自分の家”と決めたのかもしれない。


だから、よその家であるエサ場を敬遠しているのではないだろうか。
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それとも、自分が遺棄された場所だから、忌避しているのか‥‥?


やがてミイロは、おもむろに腰を上げると、エサ場へ歩を進めはじめた。
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ところが、3メートルほど進んだところで、また座りこんでしまった。


ミイロの逡巡には、やはり何かしらの事情があるようだ。
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しばらくすると、ミイロは覚悟を決めたように、再びエサ場へ向かって歩きはじめた。


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ミイロは脇目もふらず、慎重な足取りで水場へ近づいていく。


そのミイロの姿を認めたシシマルが、これまたゆっくりと水場へ向かう。
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シシマルは水場の手前で立ち止まったが、視線をミイロに注いだままだ。


バケツに入った水を飲むミイロ。
自分の家である釣宿には、飲み水が用意されていないのか?

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水を飲むミイロを、シシマルはただ静かに見つめている。


そのシシマルが、つと視線を移した。
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その視線を辿っていくと、車の下からこちらの様子を窺っている茶トラの姿があった。


細い目を、さらに糸のように細めて、近づいていった私を睨みつける。
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その茶トラが、いきなり私から視線を外すと、目を瞠った。


視線の先にいたのは、水を飲み終えたミイロだった。
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さぞや険しいだろうと思ったミイロの表情が、意外に柔和なので私は驚いた。


優しささえ感じさせる、ミイロの面持ちは何を物語っているのだろう?
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そして、ミイロの視線を茶トラはどう受け止めているのだろう?


が、能面のように表情を変えない茶トラからは、何も読み取れない。
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ミイロと茶トラは、こうして対峙したまま動かなくなった。


先に動いたのは、茶トラのほうだった。
気配を感じ取ったのか、驚いたように振り返った。

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そこにいたのは、新参者のハチワレだ。


ハチワレは、まずミイロを見据えて‥‥、
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次に、私へと視線を移した。


と、次の瞬間、ハチワレは大きく目を剥いた。
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釣られて振り返ると、いつの間に来たのか、茶トラがいた場所にシシマルがうずくまっていた。


ハチワレの目付きが、一段と険しくなる。
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ところが、シシマルはハチワレと視線を合わせることなく、そっと目を伏せた。


するとハチワレが、のそのそと車の下から這い出てきた。
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そして、シシマルに背を向けたまま地面にうずくまる。
あまりにも無防備なハチワレの行動に、今度は私が目を瞠るハメになった。


この新参者の猫は、いったい何を考えているんだ‥‥?
そんな思いに囚われた私の目の前で、ハチワレがいきなり仰向けに寝転がった!

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転がりながらも、ハチワレはシシマルから視線を外さない。
そして私の視線もまた、ハチワレとシシマルに釘付けとなった。



猫が相手の前で腹を見せて寝転がるのは、「あなたを信頼しています」という意思表示だ。
また、犬の場合もそうだが、「まいりました、もう降参です」と服従を表す行為でもある。

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しかしハチワレの懸命な訴えも、シシマルにはまったく通じていないようだ。


シシマルは表情ひとつ変えず、超然としている。
まるで目の前のハチワレなど眼中にないとばかりに‥‥。

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シシマルの反応の無さを見て虚しくなったのか、ハチワレは動きを止めた。


やがてハチワレは何事もなかったように、ついと起き上がると‥‥、
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すごすごとシシマルの前から退散した。


そのハチワレを、冷めた目で見送るシシマル。
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私は目撃したことを、にわかに信じられなかった。


ボランティアのSさんからは、ハチワレは喧嘩が強くて、ほかの猫が怖がっている、と聞いている。
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外見で猫の年齢を測るのは困難だが、おそらくこの猫はまだ若く、青年期ではと思われる。


そんなやんちゃ盛りのハチワレを、睨めつけるだけで服従させたシシマル。
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巨体ゆえ膂力の強さは想像できたが、オーラのような威圧感もまた、強大だと認めざるを得ない。


それにも増して舌を巻いたのは、ハチワレのしたたかさだ。
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さっきの行動は、エリアの頭領であるシシマルには恭順の態度を示し、あえて自分はNo.2の地位に甘んじる、という企図からだろう。


そしてシシマル以外の猫たちは、力でもって意のままにしようと目論んでいるのか?
もしそうなら、このハチワレ、なかなかどうして大した策士だ。

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策士、戦略家といわれて、浅学な私の頭に浮かぶのは、“黒田官兵衛”と“真田幸村”の名前くらいだ。
ただ、“
何々兵衛”は、ほかの猫とカブるので、このハチワレの呼び名を“幸村(ユキムラ)”に決めた。


シシマルに寄り添うアイ。まるで、仲睦まじい親子か夫婦のようだ。
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シシマルは、膂力、胆力ともに、このエリアで随一だが、仲間を気遣う優しさも際立っている。


さっきから、シシマルはアイの体を丁寧にグルーミングしている。
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アイの表情は見えないが、おそらく恍惚としているはずだ。


昔の日本男児は、桃太郎のイメージといわれている“気は優しくて力持ち”を理想像としていた。私はその理想像を、野良猫のシシマルに見た気がする。
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シシマルの度量と優しさに敬意を表す意味で、その名を冠し、今後このエリアを“シシマルエリア”と呼ぶことにした。


エリアを離れようとした私の視野に、1匹の猫の姿が入ってきた。
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それは、釣宿横に置かれたコンテナの上で寛ぐミイロだった。
「ミイロ、ココがお前の新しい家なのか‥‥?」



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遺棄されて1年半あまり‥‥。ミイロは、本当に安息の場所を得たのだろうか‥‥?


帰路の途中、再び赤トラを訪ねた。
実は、このベンチに住まう海岸猫の呼び名を、私はとっくに決めている。

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“サブ”という名だ。
ベンチにいると、サブメンバーと呼ばれることが由来である。



サブメンバーはベンチウォーマーなどと揶揄されることもあるが、中にはレギュラーより力を持った“スーパーサブ”もいるので、必ずしも蔑称ではない。
私としては、この猫が元の飼い猫というレギュラーに、いつか戻ってほしいと願っている‥‥。

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コメント

  1. まゆみ | URL | d/CpiV46

    ブログでURLを載せさせて頂きました。

    迷い猫のりつこちゃんの飼い主様さとこさんが今週末の捜索のため、車を出せる方、捜索にご協力のお願いがブログのコメント欄であったため、私自身のブログで呼びかけています。
    その際に、先週末の捜索状況を多くの方に知ってもらいたく、wabiさんのブログも紹介させて頂きました。
    事後報告になってしまい、申し訳ありません・・・。
    宜しくお願い致します。

  2. wabi | URL | -

    まゆみさんへ

    まゆみさんのブログへ直接ご返事いたします。


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