母娘猫

2012年07月16日 06:30

夕刻の湘南海岸‥‥。
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私が呼びかけても、耳をこちらに向けるだけで、にべ無い態度を取りつづける海岸猫。
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私がいい加減焦れた頃だった、その海岸猫が振り向きざまいきなり地面に横たわったのは。


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そして、そのまま地面の上をごろごろと転がりはじめた。


体をすり寄せてくる歓迎は何度も受けたが、こんな迎え方は初めてかもしれない。
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何とも愛らしいこの雌のキジ白を、靴下を履いたように足先が白いので、私は“ソックス”と呼んでいる。


おもむろに道路へ出てきたソックスは、ここでもいきなり地面に体を横たえた。
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が、さすがに浜とは違って、無防備に転がりつづける訳にはいかない。


「ソックス、道路で寝転がるのは危ないから止めときな」
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ソックスが動きを止めた。といっても、私の忠告に従ったわけではない。
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散歩中の犬と目が合ったからだ。


やっと自分の無防備ぶりに気がついたのか、ソックスは素早く身を起こした。
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そして注意深く視線を左に送りながら、耳は右を向けるという警戒モードにスイッチを入れた。


と、また散歩中の犬と目が合った。白い犬もソックスの存在が気なるのか、立ち止まって見つめている。
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特徴的などんぐり眼をさらに見開き、犬の一挙一動を真剣な面持ちで観察するソックス。


ほかの海岸猫に比べても、犬を忌避する態度は際立っている。
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おそらくこの海岸猫は過去において、犬に係る何らかのトラブルを経験し、それがトラウマとして、今も心に深く刻まれているのだろう。


そんなソックスを、私は砂浜へ誘うことにした。
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「ソックス、浜へ降りておいで」私は手招きしながら、声をかけた。


この海岸猫は、身振りを加えることで簡単な言葉ならちゃんと理解してくれる。
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ソックスは耳をそばだて、先ほどから何かを気にしている様子だ。
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その視線は、さっきまでいた道路へと向けられている。


体育の授業なのか、男子生徒たちが海岸沿いの道路を掛け声を発しながら走り抜けていく。
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決められたコースを往復しているのだろう‥‥、東を目指す生徒と西を目指す生徒が何度もすれ違う。


ソックスは、生徒たちが発する野太い声と途切れることのない足音が、神経に障るようだ。
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我々ニンゲンより聴力が優れた猫には、これらの音から不安感と嫌悪感を覚えるのだろう。


ソックスはやおら腰を上げると、慎重に歩を運びはじめた。
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そして、道路の様子を窺った後‥‥、


忽然と姿を消してしまった。
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物陰に身を潜めたのか、それとも防砂林に避難したのか‥‥、私が名を呼んでもソックスが姿を見せることはなかった。


これまでの経験で、しばらく姿を現さないと思った私は、他のエサ場を覗いてみることにした。
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東のエサ場”に着くと、臆病猫のビクが植込みのなかから這い出てきた。


「ビク、相変わらず元気そうで、なりよりだ」
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顔馴染みの海岸猫の変わらぬ姿を見る度に、私はホッと胸をなでおろす。最近は特に。
彼らが明日も無事でいることは本人も分からないし、誰も保障してくれない。



エサ場にいくと、キジ白も姿を現した。
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この雌のキジ白、私の姿を認めると近づいてくるのだが、体を寄せてくることはない。


キジ白の目的は、飽くまでも私が持っている食べ物だ。
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申し訳程度に口を付けただけで、ソックスはトレイから離れていく。


腹は満たされているようだ。まあ、飢えてないならそれで良し。
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すでに夕刻の食事を終えているようで、キジ白も一粒一粒味わうような食し方だ。


やがて、キジ白もカリカリを食べ残して、立ち去っていった。
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食糧事情だけに限れば、海岸猫はまだ、恵まれている。


だからといって、安易に海岸へ猫を遺棄するのは愚かで無知なニンゲンのすることだ。
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この海岸猫は6年前、2歳のときに、頭をボウガンの矢で射抜かれた。
ボランティアのKさんが発見し、矢が刺さったまま病院へ連れていき、何とか一命を取り留めた。



周りに人家がなく、夜は闇に包まれる海岸では、街中より残忍非道な虐待が行われる。
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このブログを始めるきっかけを与えてくれたミケも、その頃同様にボウガンで首を射抜かれたのを、篤志家数人に保護され3ヶ月入院したと聞かされている。


以前も述べたが、海岸は野良猫にとって、けっして楽園でもユートピアでもないのだ。
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野で暮らす以上、海岸猫に安息の日が訪れることは、永遠にない。
これはあまねく野良猫にもいえることだ。



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ソックスが姿を消して1時間ほどが経ったので、再びソックスエリアを訪れることにした。


私が名を呼ぶと、ソックスは何処からともなく姿を現した。
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道路に出る前に、しばし逡巡するソックス。


夕刻の海岸沿いの道路は、人通りも減っていつもの静けさを取り戻していた。
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ソックスも辺りを見回し、自分の脅威となる者がいないか、確認している


安全を確認して大胆になったのか、ソックスは再び道路上に体を横たえた。
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「ソックス、何も敢えてここで、ごろごろ転がることはないだろう」


日頃出来ないことを、私という保護者が側にいるからこそ敢行したのかもしれない。
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かといって、生粋の野良であるソックスが見境なく警戒を緩めることはない。
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悲しい性といえるが、それだからこそ野良として生き長らえてこられたのだ


夕暮れが近くなったので、今度は安全な防砂林へソックスを誘うことにした。
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ソックスは、その私の意思をちゃんと理解し、素直に後に付いてくる。


防砂林の中に足を踏み入れると、母猫のタビが待ち構えていたように姿を現した。
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実情を知らない人は、この母娘の関係を体の大きさで判断し、ソックスを母猫、タビを娘と勘違いする。そういうとき、私はさもありなんと苦笑する。


ソックスが食事を中断し、ついと体を起こした。
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そして、おもむろに防砂林の奥へと歩きはじめた。


まるで何か目的があるかのように‥‥。
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視線を戻すと、母猫のタビもいなくなっていた。


タビも防砂林の奥へ引っ込み、独り佇んでいる。
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腹が満たされたので、ねぐらへ戻るつもりか‥‥。


ソックスは低木の間を捜し物でもしているように、うろうろと歩き回っている。
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「いったい、何を捜しているんだ?」


やがてソックスは細く尖った草を食べはじめた。
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猫は元来肉食だが、こうして草も食べる。その理由は諸説あるが、一般的に毛繕いで腹に溜まった毛玉を吐くためだといわれている。


振り向くと、再びトレイのカリカリを食べているタビの姿があった。
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どちらのトレイにも同じモノが入っているのに、タビは交互に食べる。
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“隣の芝生は青い”と同じ理由で、一方のトレイの中身を美味しく感じるのだろうか。


一方ソックスは脇目も振らず、草を食べることに専念している。
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さっきから見ていると、随分な量を食べている。野菜嫌いな私など見習うべきだ。


そのソックスが、ふいにかしらを振って視線を移した。
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だが、そこに母猫の姿はなかった。


タビは近くある赤い柱の傍らに移動し、ぽつねんとしている。
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娘のソックスの推定年齢が5歳‥‥。この母猫もそれより1、2歳上だと思われる。
一般的な猫としてはまだ若いが、海岸猫としては平均寿命に達している。



野良猫の平均寿命は3~4年といわれている。この統計には乳児期に死亡する仔猫の数は含まれていない。
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世話をするボランティアさんがいて、残飯などを漁る機会のない海岸猫は一般的な野良猫より若干寿命が長いと思われる。


が、それでも10歳を迎えることの出来る海岸猫は稀である。
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死因としては、塩分の多いニンゲンの食べ物を食べての腎臓病、そして猫エイズ、白血病などの感染症、さらに事故による怪我が大半を占めているが、ストレスも少なからず影響しているのではと、私などは思ってしまう。


この母娘のエサ場は一昨年の秋、執拗なエサ場荒らしに何度も遭っている。
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目撃情報などから、スティックを持った60代の男を犯人とほぼ断定したのだが、そのときは現場を押さえることが出来なかった。


防砂林の中で誰にも迷惑をかけずひっそりと暮らしている猫を、わざわざ現場まで赴き虐待する行為を、私は到底理解できない。
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もし今度私が、その現場を目撃したら、自分の情動を抑える自信はない。おそらく激高のあまり犯人を怒鳴りつけて掴み掛かるだろう。


今までにも海岸猫に飼い犬をけしかけるヤツや、仔猫が居る側で犬のリードを外したヤツを怒鳴りつけた経験を何度か持つ私としては、やりかねないと思っている。
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それでなくても、長生きできない海岸猫だ‥‥。自分がいくら猫嫌いだろうが、迷惑を被らないなら、近づかないで放っておいてほしい。


海岸一仲睦まじい母娘猫だとて、いつまでこうして一緒にいられるか、誰にも分からない。
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実際この日を最後に、タビはぷっつりと姿を見せなくなった。


海岸の猫仲間に訊くと、やはり同時期から母猫の姿を見ていないという。そのせいか娘のソックスが寂しそうだとも聞いた。
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オシッコをしようとしてもなかなか出なかったタビは、以前から腎臓病を疑われていた。


その後もタビの安否を確かめに、以前より頻繁にエリアを覗くようになったが、未だに母猫の姿を目撃していない。
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海岸猫と係わっていると、心配事の種が尽きることはない‥‥。



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コメント

  1. ゆうたん@ | URL | 4CvheNDY

    こんにちは。
    タビ、姿を見せないのですか?記事を読んでいてびっくりしました。
    穏やかに過ごしている親子に何があったのか、気がかりです。

    >>海岸猫と係わっていると、心配事の種が尽きることはない‥‥。

    本当にそうですね。
    ワタシもこちらの市内を歩いていて、今年の4月から立て続けに
    人間の経済活動のせいで3箇所の外猫さんの行方が分からず、心を痛めています。
    ある日突然、猫の安息の場が無くなってしまうのです。
    猫たちの安否を求めて歩いていますが情報がありません。

    せめて、タビが無事で早く出てきてくれるよう祈らせて下さい。

  2. Kiryu | URL | T2RJUesU

    こんばんは。
    ご無沙汰しています。

    そうですか、タビの姿が見えなくなっているんですか。
    今度、そちらに行くことがあったら仲のいい母娘猫にはぜひ会いたいと思っているのに。
    また元気な姿を見せてくれることを願っています。

  3. wabi | URL | -

    ゆうたん@さんへ

    実はこの話は、タビが姿を見せたらお蔵にするつもりでした。
    ところが1ヶ月経っても、2ヶ月経っても一向に姿を現さないので今回記事にしました。
    周りの人に訊いても、誰も姿を見ていないのです。

    去年もタビが国道で事故に遭ったという風聞を耳にしましたが、これはガセでした。
    しかし、今回は腎臓病説が有力なようで、皆心配しています。
    ボランティアさんとの連絡方法を持たず、直接会うしかないのですが、時間帯を変更したようで、それも叶っていません。
    ですから治療を受けているのかさえ分からない状態です。

    今はだた、元気な姿で戻ってくるのを祈るばかりです。

  4. wabi | URL | -

    Kiryuさんへ

    蒸し暑い日が続いていますが、お元気ですか。

    海岸一仲睦まじい母娘は、見ているだけでも微笑ましく、癒される存在でした。
    外見も酷似していて、別々に会うとにわかに区別がつかないほどです。
    体を寄せ合い仲良く暮らしていた母娘ですから、残されたソックスの寂しさもひとしおだと思います。
    でも、これが海岸猫、野良猫の運命なんです。
    そう常日頃肝に銘じているつもりなのですが、いざとなると辛さばかりが募ります。

    でもまだ諦めたわけではありません。
    タビが元気な姿で戻ってきてくれるのを祈っています。

  5. chappe3 | URL | ncVW9ZjY

    さくらのことでは温かいコメントをありがとうございました。

    ひっそりと暮らしている猫たちを虐待したり、
    餌場を荒らす人がいると知り、すごく憤りを感じました。
    同じ人間として恥ずかしいし、悲しいです。
    うまく共存できる日が一日も早く来ることを祈っています。

    タビちゃん親子はとってもきれいな猫ですね。
    姿を見せなくなってから2ヶ月…心配ですね。
    無事に元気な姿を見せてくれることを祈っています。

  6. wabi | URL | -

    chappe3さんへ

    悲しみが癒えないのにコメントまでいただき恐縮しています。

    世の中には、自分とは価値観の違う対極にいる人たちがいます。
    猫好きな人も多いですが、それと同じくらい猫嫌いな人がいるのです。
    ただ猫が嫌いで避けているならいいのですが、罪もない猫を傷つけてウサを晴らす行為だけは許せません。

    私が海岸猫と触れ合えるのは、1日のうち、たっった1、2時間です。
    その僅かな時間だけでも、彼らに一時の安息を与えたいと思っています。
    しかし大抵の場合、心を癒されるのは私のほうです。

  7. ミュウ | URL | -

    タビお母さんが行方不明だなんて心配ですね。
    元気でいてくれるといいのですが…。

    残されたソックスちゃんが切ないです。
    どうかタビお母さんが無事で戻ってきますように。


    猫が嫌いな人間がいるのは仕方ないとは思いますが、だからといって虐待していいはずがありません。
    この子達が一体何をしたというのか、ただ必死に生きてるだけなのに…。

    悔しくて悔しくて泣けてしまいました。

  8. wabi | URL | -

    ミュウさんへ

    タビとソックスは、海岸一仲の良い親子猫です。
    その仲睦まじい姿は、見る者の心を癒してくれます。
    そして、親子とは家族とはどうあるべきなのかと、ふと考えさせられるのです。

    親と子の別れはいつかやってきますが、この母娘には出来るだけ長く一緒に暮らしてもらいたいと
    願っていました。
    ですから、私もタビが無事な姿で帰ってくることを祈っています。

  9. Sabimama | URL | cbwYL0zY

    草を食べたいのは、どこか病んでいるのを(草)で、消化したい気持ちが働いている気がします。
    一度、少々高いですが、療養食か、抗生剤をエサに入れて与えてみては如何でしょうか?
    普段は治療に縁が無いノラちゃんは「薬や療養食」が効きやすい気がします。
    少しでも体に良い影響があればイイな・・・と思います。
    不穏な海岸です。夜は危険だと思います。
    危険な環境を見守りしてくださる行為に感謝致します。

  10. wabi | URL | -

    Sabimamaさんへ

    アドバイス、ありがとうございます。

    以前、病に侵されたミリオンという海岸猫に与えていた抗生剤が残っていると思います。
    ただ私は、母の看護でいつ自宅に戻れるか目処が立っていません。
    海岸猫たちも気掛かりなのですが、今は母のことが第一優先と考えています。
    帰宅したら、姿を見せなくなった母猫のタビのことも心配なので、まずソックスエリアへ赴くつもりです。

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