姉妹猫

2012年08月23日 09:00

ある早朝の湘南海岸‥‥。
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私がエリアに到着するやいなや、リンが出迎えてくれた。ランにはそこまで私を歓待する気はないようだ。
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今朝は、途中で出会った猫好きおじさんと一緒にエリアを訪問した。
さっそく愛想をふりまくリン。



今はこうして人馴れしているが、ここに現れた当初は警戒心が強くて、手懐けるのに苦労したと、防砂林に住まう人が話してくれた。
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トレイにカリカリを盛ると、ランもいそいそと駆けつけてきた。現金なやつだ。
この2匹、朝食はすでに小屋で貰っているはずだ。



リンは4匹の仔猫の母である。
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子供らに乳を与えるためには、まず自分自身が栄養を摂る必要があり、だからいくら食べても腹が減るのだろう。


ランも、リンのすぐ後に仔猫を産んだと聞いている。
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ただ、生まれた仔猫が複数匹というだけで、正確な数はまだ判明していない。


猫好きおじさんが見守るなか、脇目もふらず黙々と食べ続ける姉妹猫。
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思えば、この母猫たちもまだまだ食べ盛りの幼い猫なのだ。


「たくさん食べて大きくなれ。そして、海岸の過酷な暮らしにも屈しない体力を付けるんだ」
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シメは、姉妹猫の好物である“焼かつお”だ。
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ランがすぐさま、かつおに食らい付く。


私が2つ目の封を開けるのに手間取っている間に、匂いを嗅ぎつけたリンがランのかつおを奪おうとしている。
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姉妹に諍いが起こらぬよう、リンにも急いでかつおを与えた。


焼かつおをあっという間に平らげたリンを、猫好きおじさんが優しく撫でる。
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私の脚に、ランが甘えた声をあげてすり寄ってきた。もっとかつおをちょうだい、と訴えているのだろう。


猫好きおじさんは、本来こんなところで油を売っている暇はない。
生業である空き缶集めのため、これから自転車で海岸を一日かけて回るのだ。

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そのおじさんを、リンとランが視線だけで見送る。


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やがてランが、やおら防砂林の中から出てきた。
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そして、草むらに鼻先を突っ込み、何かを探しはじめた。そこは、さっきリンが焼かつおを食べていた場所だ。


そのランの様子を、リンがじっと見つめている。
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おそらくリンも、ランの行動の目的が分かっているのだろうが、その表情からは何を思っているのか読み取れない。


ランはやっと、目的のモノを見つけたようだ。
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おそらく、それはリンが食べ残した焼かつおの欠片だろう。リンは焼かつおがよほどお気に入りのようだ。


ランが食べるのを中断し、ついと顔をあげた。
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その面持ちはいつになく真剣で、耳をそばだて防砂林の中を凝視している。
何かに意識を集中している様子だ。



すると、ランは体を起こして、急ぎ足で防砂林の中へ入っていった。
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怪訝に思った私が後を追うと、ランは立ち止まった。


そして、その場に留まったまま、私を顧みた。
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意味ありげなランの行動に誘われて、私はランの側に歩み寄った。


ところがランはそわそわと落ち着かず、明らかに行動をためらっている様子だ。
「私に遠慮することはない。お前には行くべきところがあるんだろ」ランの気持ちを察して、私はそう言った。

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私の言葉を理解したのか、やがてランは防砂林の奥へ向かって歩を進めはじめた。


途中で私のほうを振り返り、ランは「ニャアーッ」と一声鳴いた。別れの挨拶か、それともこれ以上追ってくるなと警告しているのか‥‥?
私の感得したところ、この鳴き声には後者の意味が含まれているようだ。

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それを裏付けるように、私が留まっていると、ランはその後二度と振り返ることなく、足早に私から離れていった。
猫の聴力は、人は勿論のこと犬よりも優れていて、音の発生場所の特定や識別の能力は極めて高い。
ランはさっき、子供たちが自分を呼ぶ声を聞いたのだ。



一方リンは、というと、私の傍らで所在無げに佇んでいる。
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そして、いきなり大きなアクビをした。


「リン、お前にも腹を空かした子供たちが待っているんだろ‥‥。早く行ってやったらどうだ」
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だがリンは、私の忠告など意に介さず、草むらに体を横たえて寛ぎはじめた。
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振り返ると、ランの姿はどこにもなかった。
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ランは、この防砂林の人目に付かない安全な場所に、子供たちを巧妙に隠している。


リンはその後も、私にまとわり付き、側から離れようとしない。
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こういう態度をとられると、私の心はつい揺れ動いてしまう‥‥。


そんな波立つ自分の心を誤魔化すため、再びリンに焼かつおを与えた。
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無心にかつおを頬張るリン。


その姿を見ていると、この子もまだまだ幼い猫なのだ、と改めて思い知る。
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「でも、今のお前には母親という大切な務めがあるもんな‥‥」


やがて、私が海岸を離れる時間が迫ってきた。
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「リン、また来るからな‥‥」リンの体を撫でながら、私は別れの挨拶を告げた。


リンも自分の立場をよく心得ていて、エリアから出てまで追ってくることはない。
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そんな諦観した態度を見せられると、こちらが切なくなってしまう。


と、その時、リンの表情が一変した。
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にわかに厳しい目付きになり、それまでの幼い顔貌が消え失せた。


そして踵を返して、防砂林の中へ戻って行く‥‥。リンもまた、子供たちの声を聞いたのだろう。
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ところが、リンは途中で立ち止まると‥‥、


帰り支度をしている私に再び近づいてきた。
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そしてリンは、私の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
こんな風に見送られると、私の心の揺れは益々大きくなってしまう‥‥。



私は後ろ髪を引かれる思いで、エリアを後にし帰途に就いた。

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途中、ベンチ猫のサブのところへ立ち寄ってみた。
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サブは警戒心ゼロで爆睡していた。


野良猫がこんな場所で、こんな格好で寝ることは普通あり得ないのだが‥‥。
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どうやら、食事を終え、満腹になったので睡魔に誘われるまま眠ってしまったようだ。


私が近づいても、サブに目を覚ます気配は微塵も感じられない。
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猫も人と同じように夢を見るし、寝言も言う。


サブは今、どんな夢を見ているのだろう‥‥?
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捨て猫のサブが楽しい夢を見ていることを願いつつ、私は静かにその場から離れた。


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付記
今回の記事は、帰省前に途中まで編集してあったものを故郷のネットカフェで仕上げました。



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コメント

  1. みんこ | URL | -

    その後おかあさま、いかがでしょうか。

    気にかかっていた記事を出してくださって
    ありがとうございます。

    きょうも、ちょっと泣きました・・・。

  2. ぐーやま | URL | -

    おつかれさまです
    お忙しい中、更新してくださってありがとうございます

    自分も甘えたい盛りの、幼い猫が子を育てているのは
    本当に胸が締め付けられる思いです
    外の子育てはどれだけ気を張ることか
    でも、そこに住むおじさんやwabiさんと過ごす時間は彼女たちにとって
    大きな癒しではないでしょうか
    来年は自分のことだけを考えて生きていられるといいのですが・・

    ベンチのサブくん、なんとも可愛い寝顔ですが、やはりせつないです
    大好きな人のもとで、すやすや眠れる日が来ることを祈らずにはいられません

    wabiさんもどうぞお体にお気をつけてくださいね

  3. wabi | URL | -

    みんこさんへ

    お気遣い、ありがとうございます。

    母は予断を許さない状態が続いています。
    いつ急変するか分からないので、目が離せません。
    ただ、未だ食欲があるのは救いですが‥‥。

    ところで、みんこさんが気掛かりだったのはリンとランですか、それともサブですか?

  4. wabi | URL | -

    ぐーやまさんへ

    母の看護は体力より神経を使います。
    先日、母が二日分の薬を一度の服用してしまい、大いに慌てました。
    薬局と病院に問い合わせると、一日おいて服用を続ければ大丈夫だと言われ大事に至りませんでしたが‥‥。

    幼い母猫たちを見ていると、やはり気掛かりです。。
    子育てをちゃんとしているのか、仔猫たちは元気に育っているのか、防砂林に棲む狸やハクビシンなどに危害を加えられていないか‥‥等々、心配の種は尽きません。

    ベンチのサブも、あまりにも無防備すぎて懸念しています。
    多くの人に愛されているようですが、猫嫌いの人にベンチ下の食器を何度か捨てられたと仄聞しました。
    そういう輩がサブへ直接危害を加えないことを祈るばかりです。

  5. みんこ | URL | -

    どちらもです。

    リンちゃんランちゃん
    まだ幼く見えるのに
    お子ちゃまの声が聞こえるのですね。

  6. wabi | URL | -

    みんこさんへ

    私も調べて知ったのですが、猫の聴力は五感のなかで最も優れているそうです。
    それに母親故に自分の子供の声がより聴こえる、ということもあるかもしれません。

    ともあれ、リンとランは幼いながらもしっかり子育てをしているようです。
    見習わなければいけないニンゲンが最近多いですね。

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