別離

2012年10月25日 13:00

ランはどんな理由で、3匹の子供のうち2匹だけを連れてエリアを移ったのだろう?
あるいは、その仔猫はどんな理由で、元のエリアに残ることになったのだろう?

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さらに別離の決定はどちらが下したかという疑問もある。母であるランの意志なのか、それとも仔猫の意志で残ったのか‥‥?
私はその答を知りたくて、防砂林に住まう人の小屋を訪ねることにした。



その私を最初に迎えてくれたのはリンだった。
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最近のリンの表情は硬く、以前の人懐こさもすっかり影を潜めてしまった。


さらに時折見せる沈鬱な面持ちは、見る者を憂いに誘う。
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持っていた猫缶をここの住人の人に渡し、リンに与えてくれるようお願いした。
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すると、どこからか黒シロの仔猫が現れ、リンと一緒に猫缶を食べはじめた。


この子がランの3匹目の子供だ。
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ほかの2匹とは被毛の色を異にし、無言で父親が違うことを示している。


つまりこの子は、チャゲとアスカとは異父兄弟の間柄になる。そしてリンは伯母叔母)にあたる。
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そのことがこの子に何らかの影響をもたらしているのだろうか?そして今回の別離との関連性は‥‥。


リンはそれほど空腹ではないのか、猫缶を少し食べただけでその場を離れてしまった。
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ランの子は脇目もふらず猫缶を食べつづけている。


食べ盛りゆえなのか、それともリンより空腹だったのか?
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ここに住まう人に訊くと、食事のとき以外はあまり小屋に寄りつかないそうだ。日中は大抵独りで防砂林の中で過ごしているという。


リンはシートの陰に身を隠し、物思いに耽るように目を伏せている。
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やがてリンはついと顔を上げると、まるで任意の意志にスイッチが入ったように目を大きく見開いた


そしてその意志に導かれるまま、迷いのない足取りで歩きだした。
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そうしてある地点まで来ると、ごく自然に座りこんだ。その場所に特別な意味があるかのように。


ランの子も食事を終え、一息入れている。
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この子にも帰省する前に何度か会っているのだが、私の顔はすっかり忘れられてしまったようだ。


リンはその場から動かず、まわりの気配を丹念に窺っている。
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おそらく聴覚をフルに働かせて、聞き慣れた音を防砂林の中に探っているのだろう。


だがしかし、その音がリンの耳に届くことは永遠にない。おそらくは。
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リンはこの一連の行動を1日に何度繰り返しているのだろう?


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とぼとぼと小屋に戻るリンの足取りはいかにも重く、後ろ姿も消沈して見える。


まだ人馴れしていない仔猫は、見慣れぬ私がいるからか、低木の下に身を隠した。
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そして、胡乱な目で私を見つめ返してくる。


実は、ほかの2匹の兄弟とこの子の決定的な相違は、父親の違いだけではない。
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ランの子供の中で、この子が唯一のメスなのだ。


つまり、ランにとっては唯一の娘になる。
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母や兄弟たちと離別することになったのは被毛の違いだけでなく、このことも原因ひとつかもしれない。


また姉妹であるリンの存在が、ランの行動に深く影響していることも十分考えられる。
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リンとランはけっして仲の良い姉妹ではなかった。そしてその子供たちもまた、母に倣ってか、従兄弟として打ち解けているとはいえなかった。


ランの子が残った猫缶に鼻先を近づけてきた。もう腹が減ったのか‥‥?
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しかし口を付けることなくついと離れていった。


と、今度はリンがおもむろに猫缶の入った食器に近寄ってきた。
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そしていきなり猫缶に食らいついた。その様子を落ち着かない素振りで見つめるランの子。


さっきのように一緒に食べようと、近づくが‥‥、
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何故か怯えたように後ずさりして離れていく。


リンの身体からは、人には感じられない威圧感がオーラのように出ているようだ。
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結局、リンが残りの猫缶を食べているあいだ、ランの子はただそれを見ているだけだった。


ここに住まう人に言わせると、リンはランの子を忌避し、食事も優先的に食べるのだそうだ。
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親兄弟とも別れ、伯母叔母にも疎外されるこの子に同情の念を禁じ得ない。


猫缶を食べ終わったリンが、先ほどと同様まっすぐ前を向いて歩いていく。
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そしてさっきより手前の地点に座ると、どんな物音も聞き逃さないとばかりに耳をすませている。
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リンが防砂林の中から聴きとろうとしているのは、今春産んだ4匹の子供たちの鳴き声だろうと思われる。


2012年6月17日、リンは4匹の子供たちを、私に初めて紹介してくれた。
そのうちの3匹はビール壜ケースのなかにひしめくように身を隠していた。

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初めて見る私の姿を、警戒と驚愕がないまぜになった目で見つめる。


この子は甘えん坊で、リンの姿をいつも求め後を追っていた。
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そして、人の存在に気づくと慌てて物陰に隠れてしまう。


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ところが、その仔猫たちは7月以降、つぎつぎと姿を見せなくなり、私が帰省する直前にはついに1匹となった。
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そしてこの甘えん坊の仔猫も私が実家に帰っているあいだに、やはり姿を消してしまった。


リンには子供たちが何故姿を消したのか、おそらく理解出来ていないのだろう。
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だからこうして、子供たちの声を防砂林の中から聴きのがすまいと同じ行動を繰り返しているのだ。


子供をなくした母猫と、母と別れた仔猫。お互いの喪失感を埋めるために仲良くすればいいと、つい思ってしまうのだが。
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しかしそんな考えはしょせん人の勝手な理想論であり、猫の社会ではまったく通用しないようだ。


ところでいつまでもこの子を“ランの子”と呼ぶのは都合が悪い。この子にも呼び名を付けてやらねば‥‥。
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いつまでも家族とつながっているよう願いをこめて、この子を“ユイ(結)”と呼ぶことにする。


ユイはふと思い出したように、残った猫缶を再び食べはじめた。
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それを戻ってきたリンが見つめる。


ただそうやって一瞥をくれるだけで、リンがユイに関心を示すことは、ついになかった。
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リンは大好きなNさんの座る椅子に身体を滑りこませた。


好きな人に寄り添っていても、リンの表情はやはり硬くこわばって見える。
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いなくなったリンの4匹の子供たち‥‥。ここに住まう人の話では、仔猫を可愛がっている人たちがいたので、その人たちに保護されたのでは、ということである。


楽観的に過ぎるかもしれないが、私もその推測に同意したい。
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ユイが羨ましそうにランを見上げている。ユイとしては嫌われていてもリンの側にいたいのだろうか?


「ユイ、お前は自ら望んでここに残ることにしたのか?それとも、母や兄弟たちに置き去りにされたのか‥‥?」
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この子をラン親子が移り住んだエリアへ連れていってみてはという考えが、私の頭をふと掠めた。


しかしもし、そこでも排斥されたら、この子は行き場をなくしてしまう。
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そしてそれは大きな傷としてユイの心に残り、この子をさらに苦しめるかもしれない。


さらに「野良の特権は、たとえそれが様々な危険を孕むにしても、“自由気まま”であるから、徒に人が介入することは避けるべきだ」そんな囁きがどこからか聞こえてきた。
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人間社会にも“親はなくとも子は育つ”という諺があるし、生きるという点では人より遥かにタフな猫なので、ユイがこのまま逞しく育ってくれることを祈るばかりだ。


もちろん、ベンチ猫のサブのように心優しい人に保護されれば、それに越したことはないが。
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ともあれ、家族と離別して暮らすようになったユイがこれからどうなっていくのか、私としては気になって仕方がない。


ここで暮らしていれば、少なくとも雨風はしのげるし、じきにやってくる寒さにも耐えられるだろう。
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しかし、それがリンやユイにとって幸せであるのかどうか‥‥、正直私には分からない。


今まで、防砂林に住まう人たちへ批判の矛先が向くのを恐れて黙していたが、読者に誤解を与えないためにも、そして海岸猫のためにも実情を明かすことにした。
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理由は様々あると思うが、ここに住まう人たちは何の前触れもなく突然防砂林から去っていく。
だがペットを飼える環境を得るのは簡単ではなく、ほとんどの場合猫は防砂林に残される。



リンやランやその家族も、このエリアに移動してきたのではなく、実際は以前から防砂林に住まう人の小屋で一緒に暮らしていたのだ。
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ところがこの春、その人は防砂林から立ち去り、その際全ての猫を置き去りにした‥‥。


リンとユイを見守ってくれている人たちも、それぞれ状況は違えどいずれ防砂林から去っていく。
そのときに猫たちを連れて行くことは、おそらくないだろう。

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海岸へ出ると、私の気持ちを表すように、江ノ島が靄のむこうで模糊としていた。



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コメント

  1. ぐーやま | URL | -

    wabiさん、こんばんは、

    幸せなのか?と人が猫に問うのは、やはりなんだか傲慢な気がしてしまいます。
    ただ、残された子は明日を憂いながら暮らしているわけではなく、
    雨風をしのげ、優しい目で見つめてくれる人のそばにいることはその子の幸運ですね。

    でも、幼い猫から生まれた幼い子が、またその幼いからだで仔を産むのは、とてもやるせないです。

  2. wabi | URL | -

    ぐーやまさんへ

    おっしゃるように相手が人であれ動物であれ、自分の物差しで幸せの度合いを測るのは
    不遜で傲慢なことです。

    ただリンとユイの場合、今の環境がいつまでつづくのか甚だ心許ないのです。
    実は今回のぐーやまさんのコメントを拝見し、説明不足の部分を急遽書き加えました。
    それはリンやランの出自に関することで、私は当初から知っていましたが、
    記事にもあるように面識もないホームレスの方に気を遣い、それを伏せていました。
    でもぐーやまさんのコメントに触れ、猫の気持ちを最優先するべきだと気づかされたのです。
    ホームレスの方の話を聞いても、飼っているという自覚はあまりなく、やはり見守っている
    という表現が正しいようです。(自分が生きていくのに手一杯で余裕はありませんから)

    私は記事に嘘は書きませんが、あえて書かずにいることは沢山あります。
    これからは読者の方に誤解を与えないよう、情報の取捨選択にも気を遣わなくてはと反省しています。

  3. ぐーやま | URL | -

    wabiさん、こんばんは

    追記読ませていただきました
    この子たちにはそんな過去があったんですね
    wabiさん、辛い気持ちを重ねて記事にさせてしまってすみません

    私のとても尊敬している方が世話をしている河川敷でも同じようなことが度々起こります
    前述のチビ太郎くんのおじさんのように体を壊してその場を去る人、
    ある日突然の事故で帰らぬ人になった人、
    そしてその場から脱出できるチャンスを得た人
    家のない人が家を持つようになるのはとても大変なことだと思います
    その時に猫を置き去りにすることを、腹立たしく、悲しいと思いつつも強く責められない部分もあり・・・
    チビ太郎くんのおじさんのように、誰かに託すのも簡単なことではありませんね
    自分が託す、託される立場になったらどうであろうかと思います

    いろいろと気を遣わせてしまって本当にすみません
    敢えて書かずに、というのは正しいことです
    これからもwabiさんの心に従って書かれた記事を拝見させていただきたいと思っています

  4. wabi | URL | -

    ぐーやまさんへ

    ご丁寧にコメント返しへのコメント、ありがとうございます。

    ぐーやまさんが私に謝る必要は全然ありません。
    全ては私の説明不足が原因ですから、責められるべきは私のほうです。
    これを機に海岸猫の立場を最優先に考えて記事を書いていくことにしました。
    弱者である野良猫のためのブログであることを忘れることなく、今抱えている案件、
    これから起こるであろう案件に対処していく所存です。
    こうして当ブログの基本理念(大袈裟ですが)を再確認することが出来ましたのも
    ぐーやまさんのお陰と感謝しているくらいです。

    また私の記事に説明不足や不適切な箇所がありましたら遠慮なくご指摘ください。
    でないと、本当に傲慢で独りよがりなブログになる危険性がありますから。
    どうかこれからもよろしくお願いいたします。

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