幻想家族

2012年11月14日 14:00

湘南海岸、早朝‥‥。
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まず最初にラン親子が棲むエリアへ赴いた。
ところが、私が自転車のスタンドを立てる音を聞きつけて姿を現すのが常なのに、今朝は3匹の気配は何処にもなく、防砂林の中に動くものはなかった。

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エサ場を覗いたが、朝食をした形跡はない。
こんなことは、あの親子がこのエリアへ移り住んでから初めてだ



しばらくエサ場近くに留まり、ラン親子が現れるのを待ったが、無駄だった。
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心の中で得体のしれないものがざわざわと蠢動し、私はにわかな焦燥感に襲われた‥‥。


今まで何度も経験しているが、海岸猫はある日忽然と姿を消してしまう。
そして大抵の場合、二度と海岸へ戻ってくることはない。

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私は胸騒ぎを抱えたまま、他のエリアへ向かった。


珍しくリンが防砂林から出てきて、私の脚にすり寄ってきた。
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この海岸猫が以前ように道路近くに姿を見せることは、殆どなくなった。


リンが食事をしていると、草むらの中からユイが姿を現した。
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リンに視線を注ぐユイの表情には緊張感がはっきりと見て取れる。


食事を中断したリンが見つめ返すと、ユイはつと視線を外した。
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前回防砂林に住まう人から聞いたように、やはりリンとユイの仲はうまくいってないようだ。


それでも猫缶の匂いが気になるのか、ユイは慎重な足取りでリンに近づいてきた。
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リンはそんなユイを無視するように、再び猫缶を食べはじめた。


食べ物のことでリンと姪であるユイが諍う光景は見たくない、と思った私は急いでユイにも猫缶を与えた。
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ところがユイは、味見をするごとく猫缶に数回口を付けただけだった。


どうやら、防砂林に住まう人からすでに朝食は貰ったようだ。では何を欲して鳴いているのか。
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リンは相変わらずユイには無関心で、猫缶を味わうように食べている。


と、今度は水を飲みだしたリンにユイが恐る恐る近づいていく。
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気をもんだが、心配した諍いは起こらなかった。リンが寛容になったからか‥‥?


水を飲み終えたリンは、そそくさと防砂林の奥へ消えていった。
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防砂林に住まう人の朝は存外早い。彼らは日の出とともに起きるのだ。だからリンとユイの朝食もいきなり早くなる。朝の6時に腹が満たされている海岸猫はあまりいない‥‥。


ユイもリンの後を追って、ねぐらであるテント小屋に戻るかと思ったが、やはり不仲なためか独り残った。
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ランの娘でありながら、何故か1匹だけ置き去りにされたユイ‥‥。そして、同じエリアに棲むリンには邪険な扱いを受けているという。


そんな境遇にいる幼い子にどう処すればいいのか‥‥。
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とりあえず、草を猫じゃらしにして遊ぶことにした。


本来ならチャゲやアスカとじゃれ合っているはずのユイ‥‥。
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なのにこんなありあわせの猫じゃらしに素直に反応する。その様子を見ているうちに、不意に胸が一杯になってきた。


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「ユイ、家族と一緒に暮らしたくないのか?」


家族”‥‥、日本では社会の最小単位とされ、傍目には堅固に繋がっているように見える。
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が、その繋がりは思いのほか脆く、顧みず安穏としていると忽ち崩壊してしまう。


そうはいっても、持たぬ者からすれば、“家族”は憧憬の対象でありつづける。
たとえそれが砂上の楼閣であったとしても‥‥。

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はたして、この子にとって家族とはどんな存在なのか‥‥。


「ユイ、今度ゆっくり話を聞かせてくれよ」
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「それからユイ、もし母や兄弟たちに会いたくなったら、ここをひたすら真っすぐ歩いて行きな」


ユイに別れを告げて、私は再びランエリアへ向かった。
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エサ場に着くと、すぐにランが姿を見せた。
「ラン、今まで何処へ行っていたんだ」私が声をかけたら、ランはゆっくりと近づいてきた。

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さらに仰向けになったまま、気持ちよさそうに身体をくねらせ始めた。
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この行動の意味するところは相手への敵意の無さ、つまり信頼を表し、同時に遊びに誘っているのである。
いつもなら野良猫にこんな態度をされると嬉しいのだが、今はそんな気分ではない。



私が話しかけようとすると、ランは慌てて身体を起こし鋭い眼差しを道路の方へ向けた。
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見開いたランの眼には、明らかな警戒感がこもっていた。


さらに視線を据えたまま、ゆっくりと歩を進めはじめた。
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コンクリの上に腰を下ろしたランは、頭を少し低くし警戒モードのレベルを1段階アップした。


ランの視線を辿ってふり返ると、そこには一人の釣人がいた。その釣人は胡乱な目付きのランを見て、少々戸惑っている。
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そして、誰に向けられたか判然としない苦笑いを浮かべながら去っていった。


すぐにでもこの場にいないチャゲとアスカのことをランに問い質したかったが、あまりことを急いても良い結果は得られない。
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そこで、よくドラマの刑事が被疑者に対して食べ物で懐柔するシーンを思い出し、それに倣って食事を与えることにした。


何にしても、行動範囲の狭いと思われる仔猫が、未だに揃って姿を現さないというのは、どう考えても普通ではない。
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のんびりと食事をしているところを見ると、ランは息子たちの居場所を知っているのだろうか?


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食事を終えたランは盛んに周りを気にしている。


この行動と2匹の仔猫がいないこととは何か関連性があるのか?
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ランの表情が防砂林の中を見据えたまま、険しさを増した。
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やがて、ランはゆっくりとした歩度で防砂林へ向かって歩きはじめた。あたかも目的があるように。


とにかく私はランの後を追うことにした。
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ランはしばらく防砂林の中を歩き回った。


そのままチャゲとアスカのいる場所へ案内してくれると思ったのだが、案に相違してランは木の根元に寝転がってしまった。
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「おいラン、のんびりと寛いでいる場合じゃないだろ。チャゲとアスカは何処へ行ったんだ?」


ランの顔からはさっきまであった緊張感が跡形もなく消えていた。
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「ラン、お前はチャゲとアスカの居所を知っているから、そんなにのんびりとしていられるのか?」


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何を勘違いしたのか、ランはいきなり私の手にじゃれついてきた。


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ただこういう場合の手加減をランはちゃんと心得ていて、爪は立てないし、あくまでも甘噛みである。


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ランは、子供の居場所を知っているから落ち着いていられるのか、それとも子供が何処へ行こうが関心がないのか‥‥、私は判断に苦慮した。


だがこれ以上ランを問い詰めても、何も語ってくれそうにない。
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またあまり執拗に質すことによって、頑なになられては元も子もないし‥‥。


それに私的なことを、他人から不躾に詮索される不快さは私も何度か経験している。
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本意ではないが、今はそっとしておくしかない。


そうして私は、心配の種を心に抱いたまま帰途についた。
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ご報告

この子たちの里親さんが決まりました。
それも、ブログを見たその方からの申し入れでは、
兄弟一緒に引き取ってくれるというのです。
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「良かったな、いっぱいいっぱい愛してもらって、幸せになるんだよ!」

里親さんには近日譲渡することになっています。
その模様は後日、ブログで紹介する予定です。

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コメント

  1. ミュウ | URL | -

    湘南猫ちゃんたちの記事を読むといつも切ない気持ちになります。
    この子たちも、最後の仔猫ちゃんたちもみんな幸せになってほしいです。
    どうか優しい家族に巡り会えますように…。

  2. dodo | URL | gRaZrKeE

    里親が見つかってよかった。
    幸せになりなよ〜v-238

  3. wabi | URL | -

    ミュウさんへ

    前回の記事に書きましたが、仔猫の里親さんが決まりました。
    それも兄弟揃ってです。
    こんな好条件は滅多にありません。
    海岸猫と関わっていると、切ないことばかりなので
    喜びもひとしおです。

  4. wabi | URL | -

    dodoさんへ

    ありがとうございます。

    私もこんなに早く里親さんが決まるとは思っていませんでした。
    それも兄弟揃って引き取ってくれるとのこと。
    こんなこともあるんだな、と喜んでいます。

  5. imagica | URL | -

    こんばんは

    里親さんが見つかって良かったです。チャゲがこの先いなくなって、ランとあすかの親子のこの先を私は、知らないので、落ち着いて少しずつ読み進めます。ユイはどうなるのだろう・・?。

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