先住猫

2012年11月23日 13:00

早朝の湘南海岸‥‥。
何はさておき、昨日
チャゲとアスカが姿を見せなかったランエリアへと私は向かった。
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「い、いた!」
防砂柵の中にアスカがいた‥‥。

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眠ってはいないようだが、さりとて覚醒もしていない何とも中途半端な表情をしている。


母猫のランは、私の訪問を知ってすでにエサ場から出てきている。
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やがてアスカも、おぼつかない足取りでエサ場から出てきた。


「アスカ、昨日は何処へ行ってたんだ?あんまり心配させるなよ」。
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アスカはこうして確認できたが、チャゲがまだ姿を現していない。


「アスカ、チャゲは一緒じゃないのか?」
そう私が尋ねても、やはりまだ完全に目覚めていないようで、如何にも瞼が重そうだ。

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ところが、一瞬のうちにアスカは目を見開き、緊張の表情に一変した。


頭を下げ、警戒心と敵愾心がないまぜになった険しい目付きで身構えている。
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アスカの視線が向けられていたのは、縫いぐるみかと見紛う可愛いトイプードルだった。
この子の名は“ミミちゃん”。私の顔馴染みのワンコで、何故か猫に興味津々なのだ。



何のことはない、猫缶を開けたら、その匂いを嗅ぎつけてチャゲが防砂林の中から小走りで出てきた。
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猫缶をしゃぶりつくように食べている2匹を見て、私は胸を撫で下ろした。


やはり食事のときは家族が揃っているべきだ。猫も、人も‥‥。
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昨朝もランは知っていたのだ。2匹の子供が無事なことを。少なくとも私はそう思いたい‥‥。


おそらく昨日は、兄弟揃って防砂林の中で遊びに夢中になっていたのだろう。
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仲の良い兄弟を見ていると、たとえそれが猫であっても、私はいつも羨ましく思う。
私にも2つ違いの弟がいた。でも私にとって唯一無二のその弟は、順番をたがえて14年前に先に逝ってしまった。



チャゲにとってのアスカ、アスカにとってのチャゲも無二の存在に変わりはない。
だからいつまでも仲良くしてほしい。さらに、ここへユイが加わってくれれば申し分ないのだが。

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あまり腹は減っていないのか、チャゲは猫缶を残した。


水を飲む母の姿を見下ろしているチャゲ。どうやら喉が渇いているようだ。
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そしてチャゲは、ランを押しのけるようにトレイの水を飲みはじめた。


そんなわがままなチャゲの態度にも、ランは嫌な顔ひとつしないで、一緒に水を飲みつづける。
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幼くてもやはり母は母である。母性本能から生じる情愛がランを母親たらしめるのだろう。


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慌ただしかった食事もそろそろ終わりそうだ。


満腹になったチャゲは、防砂ネットの側で悠然と毛繕いをはじめた。
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一方用心深いアスカはネットの下をくぐり、防砂林の中へ身を隠してしまった。
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エリアには食後のまったりとした時間が流れている。


外で暮らす猫にとって、こういうひとときは貴重であるはずだ。
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チャゲとアスカの保護者であるランも、ほっと気を抜ける時間なのだろう。


そんな母を横目にチャゲは、防砂林から戻ったアスカを相手にプロレスごっこをはじめた。
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これもまた、今が平穏だから出来ることである。


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2匹のじゃれ合う光景を見ていると、子供の頃に弟と遊んだ遠い記憶が蘇ってくる。


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世の中の自然にしろ、事物にしろ、その存在が己にとって如何に大切だったかを知るのは、皮肉にもそれを失ってからだ。


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幼いチャゲとアスカにそんなことを説いても、今はまだ理解出来ないだろう。この私がそうであったように‥‥。


それからしばらくの間、ラン親子は全員揃って姿を見せてくれた。
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ところが、それから数日後‥‥。
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エリアを訪れた私に真っ先に駆け寄ってきたくれたのはチャゲだった。
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そして私の足許に身体を横たえ、盛んに遊びに誘ってくる。


しかし、今朝はアスカの姿が見えない。
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人懐こいチャゲと違って、アスカは警戒心が強く、見知らぬ人にはけっして近づかない。だから、何者かに保護されたとは考えにくいのだが‥‥。


近くにいれば、猫缶の匂いに誘われて姿を見せるはずである。
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食事に専念していたランとチャゲが同じ方向を向いて、にわかに警戒心をあらわにした。


2匹の視線を辿ると、そこには見慣れぬキジ斑(ぶち)の猫がいた。
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骨太な立派な体躯からオスだと推察できる。
キジ斑はカメラを構える私を認めても、顔色一つ変えずに泰然としている。



ランとチャゲは食事をするのも忘れて、いきなり現れたキジ斑から視線を外さない。
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やがてキジ斑は踵を返すと、ゆっくりとした足取りで防砂ネットの内側へと姿を消した。


キジ斑が防砂林の中へ入ったのを確認したランは食事を再開した。
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が、さっきまで側にいたはずのチャゲの姿がない。


ランが食事を中断して振り返る。
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その視線の先にチャゲがいた。キジ斑の出現に驚いて防砂柵の中へ逃げ込んでいたのだ。


不安のこもった面持ちで母を見つめるチャゲ。
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そこで新たなエサをトレイに盛って側まで持っていった。


それでもチャゲは、先程の怯えが残っているのか、キジ斑の消えた辺りをさかんに気にしている。
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食事を終えたチャゲは一気に緊張が解けたのか、ぐったりと身体を横たえた。
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外で暮らす幼い猫にとっては、本来仲間である猫も脅威の対象なのだ。


と、ランが全身に警戒心をまとい、慎重な歩みで防砂ネットへ近づいていく。
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「い、いた、あのキジ斑だ!」キジ斑は立ち去ったと見せかけて、防砂林を通ってエサ場近くまで来ていたのだ。


防砂ネットの裂け目からこちらの様子を窺っている。
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側に私がいるからか、それとも初めから持久戦が望みなのか、キジ斑は地面に静かにうずくまった。


それからもキジ斑はその場に留まったまま、身じろぎしない。
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ランも警戒を解かずに、顔はこちらを向けても、耳だけは防砂林の物音に集中している。


チャゲは不安げな面持ちでランに寄り添っている。
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その様子をネット越しにじっと窺っているキジ斑。動きがないだけに一層不気味だ。


チャゲはそんな緊迫感に耐えられなかったようで、ランの側からそっと離れた。
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緊張から解き放たれて、今度は脱力感に襲われたようだ。
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だが、やはり母と離れるいることに不安を感じたのか、また元の場所へ戻っていく。


そしてチャゲはランにキスをした。
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ところが、次の瞬間ランとチャゲは気配を感じ同時に防砂林の方へ向き直った。


見ると、キジ斑が防砂ネットに開いた穴からこちらへ侵入してきていた。
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その眼光は鋭く、2匹を威圧するようゆっくりと歩を進めてくる。


怯えたランとチャゲは、慌てて一散に逃げた。するとキジ斑は堂々と姿を晒し、身体を低くし攻撃態勢をとった。
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そして、睥睨するように辺りをゆっくりと見回した。


私には、この険相な海岸猫から敵愾心しか感じられない。120920-18.jpg
少なくともランたちに対して、友好的な交誼を結ぼうとしていないことだけは確かだ。


キジ斑は示威行動を中断し、コンクリの匂いを嗅ぎはじめた。
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そこはかつて何度かランたちへ食事を与えた場所である。おそらくそのときの匂いが残っているのだろう。


このとき、私の記憶の断片がいきなり形を整えて、浮上してきた。
「この猫とは初見ではない。以前、それも数年前に何度か会っている」

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会った場所はやはりここ。そしてその時分この海岸猫は、サンマを始めとする多くの仲間たちといっしょだった。


それは今から4年前の2008年秋‥‥。
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医者に勧められて海岸を散歩するようになって、すぐのことだ。
ちなみに、野良猫ブログを始めることなど、この頃の私の頭には微塵もなかった。
ミケと出会うまでは‥‥。



ランは目を閉じ香箱座りでキジ斑と相対している。これは争いを避けるためにあえてとっている姿勢だと思われる。
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猫の場合、相手の眼を見つめるということは、敵意があることを意味する。人に対しても例外ではなく、だから初見の猫に近づくときには、けっして視線を合わさず、場合によっては眼を瞑ったままのほうがいい。


キジ斑の気持ちを落ち着かせるため、持っていた“またたび”の粉末を目の前に置いてみた。
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猫によってはあまり反応しなかったり、逆に怒りを表す場合もあるなど個体差がはっきりしているのだが‥‥。


キジ斑はまたたびに忽ち反応し、盛んに頬をコンクリに擦りつけはじめた。
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この所作は、またたびに酔ってきた証だ。


キジ斑はさらに体全体を横たえ、如何にも気持ちのよさそうな表情をつくった。
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その様子を見ていたチャゲも、キジ斑の急変に戸惑い気味だ。


ランが足音を忍ばせてキジ斑へ向かっていく。
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そしてキジ斑の死角から近づき、そっとおしりの匂いを嗅いだ。


が、ランにそんなことをされても、キジ斑は振り返ることもしない。ランもどう対応していいのか当惑顔だ。
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最初に見せた威圧感をかなぐり捨てたキジ斑は、またたびの酔いに身を任せて動かなくなった。


さすがに気が抜けたのか、ランはそんなキジ斑を少し離れたところから、ただ眺めている。
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幼いチャゲの顔には未だに緊張感が残っているが、母に倣ってキジ斑を見つめている。


またたびの酔いが覚めてきた頃合いを見計らって、こんどは猫じゃらしで遊びに誘った。
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これでキジ斑の心もいくぶん和んだはずだ。


そこで今度は、猫缶での懐柔作戦に切り替えた。
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ところが猫缶の匂いに誘われて、チャゲが近づいてきた。それを知ったキジ斑は威嚇の唸り声を上げる。
「チャゲ、お前は引っ込んでいろ!」私は慌てて声をかけた。



幼いが故の行動なのだろうが、チャゲの大胆さには驚かされた。
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腹が減っていたと見えて、キジ斑は猫缶を完食した。


しかしこの海岸猫の数年ぶりの出現は、私にとってやはり唐突の感は否めない。
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いったい今まで何処にいたのか?そして、このタイミングで姿を現したのは何故なのか?
‥‥疑問だらけだ。



まだ腹が満たされていないのか、キジ斑はエサ場へ近づいていく。
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いや、狙いはエサではなくランのようだ。ランは怯えた面持ちで身構えた。


そして新旧2匹の海岸猫は、看板を挟んでしばし睨み合った。
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おそらく争いになったら、幼いランに勝ち目はないだろう。私は間に割って入る時機を見計らっていた。


ところが意外にも、矛を収めたのはキジ斑だった。
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『機を見るに敏』これは兵法にも通じる戦いの定石である。
ランはキジ斑が後退したのを見て、攻勢に転じた。



が、やはりまともにやりあっては勝機がないと感じたのだろう、ランはあっさり退却した。
賢明な判断だと思う。これもまた、『機を見るに敏』である。

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「う~ん、この海岸猫は去勢手術を受けてなかったのか‥‥」
ならば、コトを急がなくてはならない。私はこのとき強くそう思った。



ランの好戦的な態度に多少の脅威を感じたのか、キジ斑は踵を返した。
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だが、簡単にここを離れる気はなさそうだ。こうなるとエサを与えたことが却って仇となったかもしれない。私は自分の軽率な行動を後悔しはじめていた。


かといって、このキジ斑にも海岸で生きてゆく権利があるからには、ランたちを護るためとはいえ無下に排除するわけにもいかない。
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それでも、私はこの幼い母と仔猫を何としても擁護してやりたかった。


と、そのとき、いきなり背後から大きな声を浴びせられた。
「リュウ、リュウじゃないか!」
振り返ると、一人の男性が自転車のハンドルに手をかけてキジ斑を見つめていた。

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男性に訊くと、このキジ斑は自分の飼い猫だという。そして、離れたところにいた女性に「おーい、リュウがいたよ!」と声をかけた。
この男性とは初対面だが、女性とは過去に何度か会っている。
やがて二人は、ネットを潜って防砂林の中へ入っていった。



男性の話しぶりから、あのキジ斑は一時的に小屋から逃げ出してきたと思われる。
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しかし、二度と逃げ出さないという保証など何処にもない。


それにしても、去勢していないオス猫が近くにいるというのはやはり剣呑である。
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コメント

  1. imagica | URL | -

    こんばんは

    リュウクン、眼やにもないし毛並みも綺麗でした。飼い猫さんだったのですね・・。続きを読みます。(^◇^)

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