誰そ彼(たそかれ)

2012年12月17日 09:00

ミイロが不慮の横死を遂げてから3日後の湘南海岸、夕刻。
121206-01.jpg
この日の海と同じように、私の心は未だ波立っているが、いつまでも塞いでいるわけにはいかない。


長靴おじさんのテント小屋が撤去されたのを確認した私は、ここにいるはずのチビ太郎を捜しつづけた。
121206-04-05_20121214174221.jpg
私が訪れると、いつも自ら姿を現していたチビ太郎はしかし、この日に限っていつまで経っても姿を見せなかった。


防砂林を出て植込みを探っていると、見慣れぬ猫ハウスを発見した。
121206-05_20121214172902.jpg
私は淡い期待を抱きながらハウスに近づいたが、その中にもチビ太郎の姿はなかった。


真新しいこの猫ハウスは、おそらくWさんのがチビ太郎のために作った物だろう。
121206-06.jpg
奥に置かれたトレイにキャットフードが残っているが、チビ太郎が食べたかどうかの判断は出来なかった。


もしチビ太郎が残したのなら、食べ物を求めてほかのエサ場へ出張っているとは考え難いのだが。
121206-07.jpg
7年間長靴おじさんと暮らしたテント小屋が壊されるのを、チビ太郎は目の当たりにしたのだろうか?


もしそうなら、その撤去作業が、チビ太郎の眼には蛮行として映ったに相違ない。
121206-09.jpg
そしてそんな行為をしたニンゲンを恐れ、このエリアを離れた可能性もなくはない。


結局、長靴おじさんがこの道を通って、チビ太郎の待つテント小屋に戻ってくることは叶わなかった。
121206-10.jpg
しかし、ミイロにしろ、チビ太郎にしろ、どうしてこうもニンゲンの都合で苦しまなければならないのか‥‥、私は憤りをとおり越して、諦めの境地に陥っていた。


それから私は、海岸沿いの道路を東へ向かった。道すがらチビ太郎の姿を求めながら。
121206-11.jpg


ソックスエリア。
だが私を迎えたのは、ソックスではなく数ヶ月前からこのエリアに棲みついた隻眼のキジ白だった。

121206-12.jpg
この隻眼猫、ブログには初登場だが、最近ではソックスより出現率が高く、毎回のように姿を見かける。が、こうして向こうから近づいてくるのは初めてのことだ。


腹が減っているのだろう、そう思って、カリカリを与えてみたら、果たして貪るように食べはじめた。
121206-13.jpg
どういう経緯で、このキジ白が防砂林で暮らすようになったのか、まったく分からない。


捨て猫なのか、迷い猫なのか‥‥、さらに如何なる出自なのか、残念ながらそれらを暗示するものも見当たらない。
121206-14.jpg
そして、どのような事情で左目を失ったのか‥‥?不確かなことばかりだ。


第一、長い尻尾が邪魔をして、雌雄の判別すら未だ出来ていない。
121206-15.jpg
フードを残したところを見ると、酷く飢えていたわけではなかったようだ。


改めて観察すると、体は痩せていないし、栄養状態は良好みたいだ。
121206-16.jpg
この時は、たまたま食器に食べ物が無かったが、普段このエリアのエサ場には余るほどの食料が置かれている。


だから、ねぐらさえ確保できれば、何とかこのエリアで暮らしていけるだろう。
121206-17.jpg
この新参者のキジ白‥‥、あまり自信はないが、顔立ちと風情からメスのような気がするのだが‥‥。


とまれ、私の目的はキジ白はキジ白でも、此処で生まれ育ったソックスという海岸猫の安否を確かめることにある。
121206-18.jpg
前回久しぶりに会ったが、その後、何度エリアを訪れても、ソックスは一向に姿を現さない。


こんなことは今までなかったし、このエリアの不穏な情報を仄聞するにつけ、不安がいや増す。
121206-19.jpg
散在するエサやりの形跡からも、ソックスの消息を知ることは出来なかった。


今回も無駄足だったかと、諦めかけた、その時だった‥‥。
121206-20.jpg
ソックスがひょっこりと姿を現し、私の足許に駆け寄ってきたのは。


そのソックスは、以前会った時よりさらに太り、躰が一回り大きくなっていた。
121206-21.jpg
まあ、息災だったのは喜ばしいことだし、これからの季節、脂肪の鎧は彼女の強い味方になってくれるだろう。


それにしても、最近の出現率の低さは何を示唆しているのだろう。
121206-22.jpg
春から姿を見せなくなった母猫タビのことが原因なのか、それとも軋轢があったとはいえ、血を分けた姉妹タイツの急逝が影響しているのか‥‥?


あるいは先程のキジ白から、何かしらのプレッシャーを受けてのことだろうか。
121206-23.jpg
だがソックスは何も語らず、初冬の夕日に体を染めながら、砂浜を彷徨うように歩きはじめた。



追い付いた私を、改めて熱烈に歓待してくれるソックス。


「ソックスありがとう‥‥。私もお前に会えて嬉しいよ」
121206-24.jpg
もしも、この海岸猫の身にも凶事が起こっていたら、私は失意の淵に沈み二度と浮かび上がって来れなかったかもしれない。


121206-29.jpg


海岸猫と夕景は、悲しいくらいよく似合っている‥‥。
121206-25.jpg
ミイロの件があって以来、こうして海岸猫と共有する一瞬一瞬は、今の私にとって何ものにも代え難い、より貴重な時間となった。


121206-26_20121216203949.jpg
伊豆半島に沈む夕日を、ソックスと一緒に観られる時が再び来ると、誰かが請け合ってくれない限りは。


夕日を眺めるのに飽きたのか、ソックスが足早に漁師小屋の方へ歩いていく。
121206-30.jpg


そして、小屋の屋根を見上げて身を強ばらせた。
121206-31.jpg
ただならぬソックスの様子に、釣られて上に移した私の視界を、白っぽい影がよぎった。
慌ててカメラを向けたが、その白い影を捉えることは出来なかった。



私が目撃した白い影は、さっきのキジ白なのか‥‥?
それを確認しようにも屋根裏はすでに薄暗く、私の眼では何も見えない。

121206-32.jpg
が、嗅覚、聴覚に長じた猫は、はっきりとその気配を感じたのだろう、ソックスは迷わず屋根裏目がけて跳び上がった。


そして、ソックスはそのまま屋根に上がると、慎重な歩度で足を運びはじめた。
121206-33.jpg
私もソックスの歩くペースに合わせて、ゆっくりと後を追った。


漁師小屋の屋根を縦断したソックスは、反対側から屋根裏を覗いている。
121206-34.jpg
果たしてソックスは、そこにキジ白の姿を見ているのだろうか?


121206-35.jpg
ところが、その後のソックスの挙動から、彼女もまた、キジ白の動きをしっかり掴んでいないことが窺えた。


121206-36.jpg
結局ソックスも、キジ白を完全に見失ったようだ。


それにしても、キジ白は何処へ姿を隠したのだろう。それともあれは私の見誤りだったのか?
121206-37.jpg
では、ソックスの追っていたのは何だったんだ?


道路を渡るソックスの表情も、何がなし釈然としていない‥‥。
121206-38.jpg
防砂林の入り口にさしかかると、ソックスの表情がにわかに険しくなった。


ソックスから死角になっている植込みの奥にいたのは、さっき漁師小屋で目撃したはずのキジ白だった。
121206-39.jpg
あれが私の見誤りで無かったなら、キジ白はソックスと私の目を掠めて植込みに逃げ帰ったことになる‥‥。まるで忍者のようなヤツだ。


キジ白を遣り過ごし、防砂林に戻ったソックスにも、キャットフードを与えた。
121206-40.jpg
同じエリアに棲んでいるにも拘わらず、ソックスの食べ方はキジ白と違って、あくまでも鷹揚としたものだった。


ソックスがトレイから顔を上げ、そのどんぐり眼を大きく見開いた。
121206-41.jpg


ソックスはさらに眼を瞠る。
121206-42.jpg


やがてトレイから離れると、ソックスは射るような視線を私の背後に投げかける。
121206-43.jpg


私は一度も後ろを振り返っていないが、動物の勘が鈍麻したニンゲンにもひしひしと気配が伝わってくる。
121206-44.jpg
ゆっくりと振り向くと、果たして防砂林の薄明かりの中にキジ白の体が浮かび上がった。


キジ白はゆっくりと近づいてくると、側にあった松の木に躰を擦りつけはじめた。
121206-45.jpg
本来この行為はマーキングの一種で、自分の匂いを付けてテリトリーを顕示するためのものだが、これを仲間や人に対して行うと、親愛の情を示していることになる。


この場合は前者なのか後者なのか、尻尾の上げ方も如何にも微妙で、断言できないが、私の受けた感じでは「わたし(ぼく)も、仲間に入れて」と訴えているようだった。
121206-46.jpg
この海岸猫がここへ辿り着いた経緯はどうであれ、やはり独りでは寂しく、仲間が欲しいのだろう、と思われる。


が、先住猫のソックスは、そんなキジ白の気持ちを忖度することなく、小さな威嚇の声を発しつづけている。
121206-47.jpg
今までは家族と一緒に暮らしていたソックスにとって、それ以外の猫は受け容れられないのかもしれない。


試しに、キジ白に少量のキャットフードを与えてみたが‥‥、
121206-48_20121217064059.jpg


申し訳程度に口を付けただけで、トレイから離れてしまった。
121206-48-49.jpg
少なくとも、腹が減ったから私に近づいてきたのではないことが、これで判明した。


同じエリアで暮らすことになったソックスとキジ白、今後この2匹の関係がどう推移していくか、大変興味深い。
121206-49.jpg
願わくば、互いの喪失感を埋めるためにも仲良くして欲しいのだが‥‥、こればかりはニンゲンが介入して解決出来ることではない。




ソックスエリアを後にした私は、家路を辿るため薄暮の海岸を西へ向かった。
その頃には陽はすっかり落ち、時折すれ違う人の顔も判別できないほどの、いわゆる“誰そ彼(たそかれ)”時になっていた。
その私を呼び止めるように、薄暗い防砂林の中から猫の鳴き声が聞こえてきた。
「誰だ、そこで鳴いているのは?」





私は慌てて立ち止まり、声のする方へ近づき目を凝らした。と、そこへ現れたのは、先刻から捜していたチビ太郎だった。
121206-50.jpg
それにしてもこの薄暗がりのなか、どうやって私だと分かったのだろう?
猫は夜目が効くから視力で判断したのか、それとも犬よりもさらに鋭敏な聴力で判断したのか‥‥?



どちらにしても猫の感覚の鋭さには、いつもながら驚かされる。
121206-51.jpg
此処はテント小屋があった場所から、少なくとも東へ500メートルは離れている。


腹を減らして、彷徨っていたのだろうか‥‥?何にせよ、無事でよかった。
121206-52.jpg
猫缶を与えてみると、チビ太郎は憑かれたようにガツガツ食べはじめた。


一缶目をあっという間に平らげると、二缶目もその勢いのまま食べつづけるチビ太郎。
121206-53.jpg
「チビ太郎、お前はカリカリだけでは不足で、それでこんなところまで出張ってきたのか?」


121206-54.jpg
そんな私の問いかけに、耳を貸すのも煩わしいとばかり、チビ太郎はただひたすら猫缶を食べつづけた。


このように海岸猫を取り巻く環境や状況は変化しつづける。そんな彼らから距離をおいて、ただ写真を撮るだけに留めるなど、やはり私には出来そうもない。
121206-55.jpg
「ミイロ、お前も空の上からかつての同胞(はらから)たちを見守ってくれないか‥‥」



〔フラッシュ撮影について〕
ソックスとキジ白の撮影時はまだ明るい状態でしたが、それでも使用しているカメラではブレてしまうので、フラッシュを使用しました。
チビ太郎撮影時も薄明かりでしたが、同じ理由でフラッシュを使用。
ただチビ太郎の場合は安全を期して、眼に直接フラッシュ光が入らぬよう撮影しました。
またどちらの場合も、光量の少ないソフトフラッシュを使用しています。
暗闇で猫に向けていきなりフラッシュを焚くと、最悪の場合失明することもありますから注意が必要です。



ブログランキングに参加中
気に入って頂けたら下のバナーをクリックしてください
にほんブログ村 猫ブログ 野良猫へ
いつも応援ありがとうございます

関連記事
スポンサーサイト


コメント

  1. ゆうたん@ | URL | 4CvheNDY

    こんにちは。ソックスとチビ太郎の無事を知ることができて
    ワタシもほっとしました。
    ミイロちゃんの急逝はいまだに受け入れがたく、どうしても読み返すことができません。
    しかしwabiさんはこうして海岸猫たちとまっすぐに向き合って下さる。
    写真を撮るにとどめることができないという気持ちは、本当そうなのだろうと思います。
    いつもいつもこのように見守って下さる方がいるというのに甘えているようで心苦しいです。
    それでも、せめてここでワタシも海岸猫たちを一緒に見続けたいと思います。

  2. きょう | URL | -

    こんにちは

    私もソックスとチビ太郎の無事が確認できてほっとしています。
    そして上の方と同じく、ミイロの急逝を受け入れないままでいます。
    読み返すことも信じる事もできず、いつもでも心の中のもやもやが消えません。
    wabiさんはどんな事があっても、目の前の現実を受け入れていて心の強さを感じます。
    いつも猫たちの近況を知らせてくださってありがとうございます。
    いつでも、海岸猫の平穏な生活を祈っています。

  3. wabi | URL | -

    ゆうたん@さんへ

    私もなかなか姿を見せないソックスとねぐらであるテント小屋を失ったチビ太郎が心配でした。
    でもこの日、同時に姿を現してくれ、ホッとしています。

    私自身も未だにミイロの非業の死を受け容れられずにいます。
    それほどミイロのことで、私の心は大きな疵を負いました。
    でも海岸に行くのを止めたところで、その疵が癒えることはなく、
    さらに疵が深くなっていくばかり‥‥。
    海岸猫で受けた疵を癒してくれるのもまた、海岸猫しかないのです。
    彼らを今の境遇から救い出す力は私にはなく、小さな命の輝きをブログを通して
    伝えることしか出来ません。
    そんな彼らの命を見続けてくれるだけでも、ありがたいと思っています。

  4. wabi | URL | -

    きょうさんへ

    私自身も未だミイロの死を受け容れられないでいます。

    ニンゲンから酷い裏切りを受けたミイロには幸せになって欲しかったですから。
    悲しさと同時に悔しさを、そしてそのニンゲンに対する怒りが収まりません。
    ですから、私はきょうさんが思っているほど強くはないのです。
    心に負った疵を癒すために、海岸猫に会いに行っているというのが実情です。

    彼らが必死にそして健気に生きている姿を見て、何とか心の均衡を保っています。
    “猫に生かされている”という言葉が、私の頭から離れません。

  5. ねこやしき | URL | ezOaKyPo

    wabiさんの深い悲しみと苦しみが伝わってきます。
    その言葉は、私を含め猫たちのことを知りたいと願うすべての人の心を
    代弁するかのようです。
    wabiさんは傍観者にはなれないと思います。
    傍観者になれば、より辛くなることをご存じです。
    wabiさんご自身がおっしゃるように、猫たちの生き様を見守り続けることで
    その疵を癒し、かつまた、猫たちを案ずる私たちを慰めてもくださっているのです。
    辛い務めを引き受けつづけてくださっていることを心から感謝しています。
    でも、どうかお体に障らないようにお気を付けくださいますように。

  6. wabi | URL | -

    ねこやしきさんへ

    私としては、海岸猫たちの言葉にならない声を代弁しているつもりだったのですが、
    知らないうちに、猫たちのことを知りたい人の声にもなっていたのですね。
    仰るように、野良猫で負った心の疵は、他のもので癒されることはありません。
    元気でいる野良猫の姿でしか癒されないでしょう。

    ミケ、ミリオン、ボス‥‥。
    他にも行方不明になった猫たちも沢山います。
    私が受けた疵を癒すには、より多くの海岸猫と接することしかないと自覚しています。
    温かい励ましのお言葉ありがとうございました。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)