故郷の猫 その四『困惑』

2013年02月01日 00:00

この日、私はまずホームセンターに立ち寄り、キャットフードを買った。
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晴天つづきの前日までとは打って変わり、空は灰色の雲に覆われ、気温もぐっと下がっている。


休日の昼過ぎだというのに人影が殆どない閑散としたアーケード街を通り抜けていたときだった‥‥。目の前を1匹の猫が従容とした足取りで横切っていったのは。
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「おおっ」不意を衝かれた私は、思わず声をあげて足を止めた。
私の声が耳に届いたようで、ハチワレも立ち止まっておもむろに振り返った。



そのハチワレに曳航されるように狭い路地をくぐり抜けると、そこは露天駐車場だった。
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駐車場に小さな影が散在している。「猫だ‥‥、それも1匹や2匹じゃない」


私はこのとき、白うさぎを追ってワンダーランドへ迷いこんだ少女の気持ちが、少し分かった。
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しかしなぜか、案内役だったハチワレの姿はなく、そこにいたのは全てキジトラ柄の猫だった。
駐車場の奥には3匹の仔猫が所在無さそうに佇んでいる。



私は買ったばかりの猫用のおやつを取り出して、猫たちの側へ放った。
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ちなみに、煮干しのことを西日本では『いりこ』と呼ぶ。


猫たちとの距離は十分とっているが、それでも皆、初めて見る私への警戒心を露にしている。
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それでも、小さな煮干しを砂利の中から探り当てては、音を立てて噛みしだいていく。
仔猫も大人の猫に混じって、懸命に煮干しを探している。



そんな仲間の様子を見ていたのだろう、車の下から新たな仔猫が這い出してきた。
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そして私の挙動を確認しながら、仔猫はゆるりゆるり慎重に足を運ぶ。


僅かな色の違いはあるが同じキジトラ模様‥‥、親子でなくても同じ血を分けた眷族だと思われる。
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体の大きさからいって、仔猫たちは去年の秋口あたりに生まれたようだ。


私は煮干しを放る距離を徐々に短くしていった。
成猫はそれに合わせて近づいてくるが、仔猫は警戒心が強く、私のちょっとした動きで逃げてしまう。

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駐車中の車の下に新たなキジトラが現れ、こちらの様子をじっと窺っている。


仲間が目の前で煮干しを頬張るのを見ても、車の下から出てくる気配がない。
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こういう頑固なまでの慎重居士は何処にでもいる。かく言う私も、臆病で優柔不断な性格なので、やはり近しさを感じてしまう。


これで成猫4匹と仔猫3匹を確認したことになるが、今までの経験からいって、このエリアには、まだほかにも何匹か棲息している気がする。
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付かず離れずにいるこの2匹は、母子かもしれない。


地面に落ちている煮干しを夢中で食べている仔猫。その様子を見ていると心が痛む。
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出来るものなら手ずから煮干しを与えたいが、それが叶わないからだ。


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2匹のキジ白が何かの気配を感じ、同じ方を凝視しはじめた。


その視線の先には、煮干しに近づこうとしている新たな猫がいた。
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やはり、こういう抜け目がないヤツは、何処にでもいるものだ。


猫のおやつを買い増すため、再びホームセンターへ向かっていた私の耳に猫の鳴き声が飛び込んできた。
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そこは青い看板でお馴染のコンビニだった。
その脇で1匹の猫が、私の顔を見て盛んに鳴くので、残っていた煮干しを与えた。



このコンビニ猫、グレーの部分が被毛の色なのか汚れなのか判然としないが、取りあえず白猫と呼んでも差し支えないだろう。
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コンビニ猫は、煮干しをあっという間に食べ尽くした。


そして私の傍にやって来ると、親しげに躰を擦り寄せる。
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やたらと人懐こいが、このやさぐれたナリはどう贔屓目に見ても飼い猫には見えない。


人馴れしているのは、元々飼い猫だったためか、それとも野良として生きていくために身につけた世知なのか‥‥、私には知る由もないことだ。
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人が集まるコンビニに棲みつき、食べ物をねだって糊口を凌ぐ野良は珍しくない。


確かに、コンビニにもキャットフードは置いてある。
置いてあるが、わざわざそれを買って野良に与える奇特なニンゲンは稀だろう。

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多くは、自分のために買った食べ物の一部を分け与えるにとどまる。
そうやって得た、甘い菓子や辛いツマミを食べつづければ、いずれ臓腑を毀し寿命を縮めてしまう。



このコンビニ猫、見れば見るほど薄汚れた印象を受ける。
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けれど、とぼけた顔は何ともいえない興趣があり、何故か憎めない野良である。


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だがニンゲンに取り入るため、冴えない容姿を補おうと愛嬌を会得したとしたら、それはそれで切ないことだ。


さて此処は、この野良を最初に見かけた建物の脇だが‥‥、
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地面を仔細に見ると、食べ残しと思われるキャットフードが散らばっていた。


コンビニの店員が与えたのか、ほかのエサ遣りさんが与えたのか分からないが、この野良を心に留めていてくれる人へ、礼を言いたい気持ちになる。
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ところで、この野良に決まったエサ場やねぐらはあるのだろうか‥‥?


裏へ回り、通用口の辺りを調べたが、それらの在り処は見当たらなかった。
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側に透明のトレイが一つ転がっていた。しかし、これだけでは何とも判断のしようがない。


世慣れた野良だから、しばらくは此処で生きていけるだろう。
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が、そんな暮らしがいつまで保つのか、それは誰にも分からない‥‥。


ホームセンターへ戻った私は、同じ煮干しのおやつとカリカリを買い求めた。
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この一画はいわゆる飲み屋街‥‥。
昼間の飲み屋街に人気はなく、まるで打ち捨てられ無人となった街のようだ。

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スナックや居酒屋が軒を連ねるその通りを、私はゆっくりとした歩度で歩いていった。


するとまた、何処からか猫の鳴き声が聞こえてきた。
その声を頼りに声の主の姿を探すと、時間貸しの駐車場で白猫を発見した。

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私が舌を鳴らすと、白猫は、まるで年来の友人と会ったように、いそいそとした足取りで近づいてきた。


勿論、単なる偶然だろうが、二度も続けて同じシチュエーションに出くわすと、この街の白猫は一様に人懐こいのでは、と思ってしまう。
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買ったばかりのカリカリを与えると、白猫は貪るように食べはじめた。


ところが、そこには初めから同じカリカリが無造作に置かれていたのだ。
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やがて、白猫は私が与えたカリカリを食べ終えると、速やかにそのカリカリに取り掛かった。


食器が置かれていないところを見ると、固定のエサ場ではないようだが、残飯ではなくちゃんとしたキャットフードを与えられている。
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改めて確認すると、そこはログハウス風に意匠された居酒屋の店先だった。


私は再び、駐車場のキジトラエリアを訪れた。
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キジトラとキジ白の2匹が胡乱な目付きをもって私を迎えてくれた。


だが、この猫たちが先程煮干しを食べていたのかどうか、にわかに判断出来ない。
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個体の識別には多少の自信があったが、さすがにこれだけ一度によく似た猫に遇うと手に余る。


つい見逃してしまうところだったが、こんなとこにもキジトラがいた。
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駐車されたばかりと思われる車のエンジンルームの余熱で、暖を取っているようだ。
よほど気持ちいいのか、私が近づいてもキジトラは身動ぎしない。



駐車場の隅には、先程の仔猫が身を寄せ合っていた。
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仔猫たちの個体識別は、はなから諦めている。


猫の数は減ったが、せっかく買ったので、捨てられていたトレイにカリカリを盛ってみた。
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離れて様子を見ていると、キジ白が慎重な足取りで近づいていく。


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このキジ白、よほど用心深い性格のようで、すぐには口を付けず盛んに匂いを嗅いでいる。


そのとき、駐車場に隣接した民家から、人の声と何かを打ち鳴らす音が聞こえてきた。
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予感がした私は、急いでその家の正面に回りこんだ。
すると、果たして玄関先に数匹のキジトラが集まっていた。さらによく見たら、エサらしきモノが入った塵取りが置いてある。



辺りに視線を巡らせると、隣の民家の軒下には初めて見る猫の姿もあった。
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玄関の扉が開き、80歳を超えていると思われる老婦人が現れて、言った。
「お向かいで飼ってる猫なんだけど、可哀想だからゴハンとパンを上げてるの」



老婦人が家の中に入っても、私はしばらく思案に沈んだままだった。
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私には、この状態が“飼っている”とは、とても思えない‥‥。
仔猫がいるからには、個体が増えることを承知で不妊手術を受けさせていないことになる。



同様に、飼っているなら、近隣の人から「可哀想」と同情されエサを貰うなど、普通は考えられない。
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それとも、“飼う”という意味の捉え方が、根本的に違っているのだろうか?
老婦人の言う飼うとは、あくまで“エサを与えているだけ”かもしれない。それも気の向いた時にだけ‥‥。



老婦人は、そんな猫たちの状況を見るに見かねて、善意から食べ物を与えている。
そんな人に向かって「猫にニンゲンの食べ物を与えないで」なんて、私には言えない。



複雑な思いのまま駐車場に戻ると、2匹の仔猫が、私の置いたカリカリを仲良く食べていた。
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やがて仔猫は食べるのを中断し、ついと視線を上げた。


仔猫に倣って空を仰ぎ見ると、灰色の空からチラチラチラチラと、白いものが舞い落ちてきた。
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そうして、私は寒々とした気持ちを抱いたまま家路についた。
冒頭に例えた少女のワンダーランドは夢と共に消えたが、私が出会った猫たちは、今も現実の中で懸命に生きている‥‥。



番外編である『故郷の猫シリーズ』、まだ続きます。


〈次回へつづく〉



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コメント

  1. ぱふぱふ | URL | -

    精力的にレポートされてますね
    引き込まれてほ見ふけっていますが・・・
    地域差があって・・こちらでは公園が多いせいか
    家の脇あたりには車も多いし、犬を買う家が多くて
    野良たちは公園に集まっています・・・
    餌をやる人への注意書きなどもあって
    地域住人と他地域から来て餌をやる人との
    熾烈な攻防戦?・・時に口げんかなどしてますね
    餌ばかりやらないで・・糞の始末もついでにしてとか・・
    それぞれも思惑があって大変ですが・・幸い私の住むところは
    街猫扱いにされて去勢もされて・・よそから流れてくるとすぐ捕まえて
    猫エイズ検査などして・・周辺で子孫繁栄の継続が行われていますが
    写真に見るような・・目ヤニで汚れた猫はいません
    地域の理解が大切ですね
    かわいそうですが・・去勢した猫は耳にイヤリングつけて
    町中で名前つけて保護してます・・我が家の庭の隅がトイレになってますが
    決して誰も迷惑だっていわなくなりましたね・・猫は神様ですから。

  2. ichigomakaron47 | URL | ZBwuyhXk

    始めまして。
    こう言う記事を読みますと、人間の傲慢さと身勝手さが身にしみます。
    猫は何も悪くないのに。ただ生まれて来ただけなのに。
    それさえも、きちんと避妊手術さえ施していればこんな事にはならないのに…。
    私は個人的にはペットを飼うならば、最後まできちんと面倒を見なければならない。それが無理ならば飼う資格は無い。と思っています。
    可愛いから、とか今この種が流行っているからとか言う理由で猫や犬を飼うのは間違っていますよね。
    もっと多くの人が動物の命に対して真剣に考えるべきだと思います。

  3. きなこっち | URL | -

    いわゆる野良猫に対してこれ程地域によって理解が異なるとは・・・
    同じ地球、同じ日本なのに・・・
    たまたま生まれた場所が違うだけで、地域猫として避妊、去勢をし、その一代限りの命
    を見守ってもらえる子がいる一方、闇に生まれ、闇に生き、闇に死んでいく、そんな命
    もある事を忘れてはいけませんね。

    今回のwabiさんの、故郷の猫シリーズを拝見していると、生きる事の哀愁を感じずには
    おれません。

    地球は人間だけの為に存在しているのではなく、生きる為に生まれてきた生あるもの全て
    の為に存在すべきです。

    どうか、どうか、一つ一つの命に光が差すよう、優しい手が差し伸べられる事を祈って
    います。

  4. wabi | URL | -

    ぱふぱふさんへ

    故郷の街にこれほど野良猫がいるとは想像していなかったので、つい執拗に探索をしてしまいました。

    私も、地域によって野良の棲息場所がこれほど違うとは思っていませんでした。
    一昨年の夏、漁港や公園を中心に猫の姿を求めて彷徨いましたが、
    そのときは一匹の猫も発見出来ず、諦めた経緯がありますから。

    今回多くの野良に会えましたが、詳しい事情は得られていません。
    恐らくエサ遣りさんに“地域猫”という概念は、まだ無いと思います。
    今は、可哀想だからエサを与えている、という段階でしょう。
    ただ田舎は、住民同士の繋がりが都会より親密なので、
    大きなトラブルが発生しないのかもしれません。

    でも、今の現状がいつまで続くのか、私には分かりません。

  5. wabi | URL | -

    ichigomakaron47さんへ

    こちらこそはじめまして。

    ニンゲンは生物の頂点に君臨していると勘違いして、ほかの動物を駆逐してきました。
    その結果、多くの種が絶滅しました。
    自然を破壊し、多くの生き物を殺戮し、いったいニンゲンは何処へ行こうとしているのか。

    そして、野生ではないイエネコを野に遺棄したのも我々ニンゲン。
    野良猫問題すら解決出来ないニンゲンに未来などあるはずもなく、
    小さな命を踏みにじってきたツケは、いつか必ず払うことになるでしょう。

  6. wabi | URL | -

    きなこっちさんへ

    仰るように、野良猫事情も、その土地その土地でずいぶんと違っています。
    私も今回、故郷の野良たちに接してそれを実感しました。

    ニンゲンも生まれる時と場所を選択出来ませんが、猫の場合は
    その運命を自らの力で変えることが出来ないのでよけいに憐れです。

    自然界は弱肉強食のルールに則って食物連鎖が成立していますが、
    不必要な殺戮と破壊でその法則を破っているのは我々ニンゲンだけ。

    命の重みは猫もニンゲンも同等のはず。
    他の命も自分の命と同じように大切にするべきだと思います。

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