ランの事情

2013年03月25日 19:00

湘南海岸、朝‥‥。
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この日ランは、本来のエサ場から数ブロック離れた防砂林から出現した。
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ランが居場所を移動しはじめたのは昨年の秋頃だ。


何者かに生活を脅かされたからか、それとも別の理由があるのか‥‥、ランは教えてくれない。
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そのとき、ふいに私の視界に1匹の猫の姿が入りこんできた。


近づいてみると、それは以前エサ場に出没した、ホームレス夫婦に飼われているキジ斑だった。
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このキジ斑はオス、それも去勢手術をしていない真正の“オトコ”だ。


ランが厭い、警戒していたのはキジ斑だったのだろうか。
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しかし、キジ斑に発情の様子は見られない。通常オス猫の発情は、メス猫に誘引される形で起こる。


ランとキジ斑が出現した場所は人通りが多い。そこで人目に付かない元のエサ場へランを誘導することにした。
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私が「ラン、付いておいで」と言うと、ランは狭い柵の上を伝って後を追ってくる。


エサ場へ戻るとすぐに、待っていたアスカともども猫缶を与えた。
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アスカの食欲はいつもと変わらず、旺盛だ。


腹が満たされた母子は朝の陽射しを受けて寛ぎはじめた。
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改めて見ると、アスカは本当に大きくなった。‥‥もっと直截的に言うと、太った。


寒さが厳しい海岸の冬に備えて、己の体に脂肪を蓄える海岸猫はいる。だが、昨年春に生まれたアスカは冬の寒さを知らない。
海岸の冬を経験し、同じ環境で暮らす母のランに体重の増減はない。

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野良の本能で厳冬を予見した結果なのか、それともただの大食漢だったのか。
「どっちだ、アスカ?」



こうして比較すると、アスカは母親のランより二回りほど大きな体躯をしている。
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膂力でも、アスカはとっくに母を凌駕しているだろう。
ランのエサ場を離れる原因が、大きくなり過ぎた息子だとは思いたくないが‥‥。



たとえ親子であっても、競合相手となりうる野良社会ではあり得ないことではない。
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気になる物音がしたのか、突然アスカが振り返り、そのまま動かなくなった。


先に動いたのは母のランだった。
ランは道路近くまで足早に行くと、周囲に警戒の視線を巡らせる。

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アスカが慎重な足取りで防砂ネットへ近づいていく。その気配を察知したランが振り返った。
動物の勘が鈍麻したニンゲンである私も、何者かの存在を感知した。

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私は急いでアスカの背後に回り込んだ。
ややあって顔を出したのはさっきのキジ斑だった。飼い主のホームレスの男性が“リュウ”と呼んでいた猫だ。



ランを追ってきたのか、それとも猫缶の匂いに誘われるまま此処へ辿りついたのか。
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さっきは気づかなかったが、左耳の周りの毛が抜け地肌が覗いている。
怪我‥‥、疾病‥‥?



キジ斑の意図を探ろうと、試しに猫缶を与えてみた。すると素直に猫缶を食べはじめた。
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耳の周りに目立つ傷口は確認出来ないが、脱毛の範囲は思ったより広い。


喧嘩で負った傷だとしても、相手はアスカではなさそうだ。
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このエリアでキジ斑と体力的に伍する猫といえば、これまでブログで紹介の機会はなかったが、アスカの父猫と思われるキジ白くらいしか思いつかない。
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だが、去年の10月11月には時折出没していたのに、12月に入ったらぱったりと姿を見せなくなった。


植込みから出てきたキジ斑は、背を向けたランに気づくと、動きを止めた。
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そして、思いを定めるようにくるりと踵を返すと‥‥、


元来た植込みの奥へ従容とした足取りで歩いていった。
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トレイには猫缶が残されていた。此処へやってきた理由は空腹のためだけではなかったようだ。
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けっきょく、何故キジ斑がランの後を追ってきたのか、私には明確な動機が分からなかった。


さらに、キジ斑が負った傷の原因もまた、突きとめることが出来なかった。
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アスカなら原因となる出来事を目撃している可能性は高いが、普段はよく喋るくせにこういうときは口をつぐむ。


キジ斑対して敵意を表すでもなく、黙殺ともいえるランのにべない態度もまた、私には不可解だ。
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だが、後ろへ向けられた耳からは、無関心を装っているだけで警戒を緩めていないことが窺える。


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何やら不穏な状況を呈しているが、いずれにせよ私としては、ランとアスカが諍いの側杖を食うことのないよう祈るばかりだ。


それから数日後。
この日私は、日没直前の遅い時刻に海岸を訪れた。

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いつもの場所で、食事をするランとアスカ。


そのとき、夕闇が濃くなった防砂林の奥から、猫の鳴き声が聞こえてきた。
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それも発情した猫が発する独特の鳴き声だ。声の主を確かめようと、私は薄暗がりに目を凝らした。


「お、お前は‥‥!」
薄闇から現れたのは、なんと、シシマルエリアの暴れん坊ユキムラだった。

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発情したユキムラは、メスを求めて自分のエリアから数百メートルの距離を移動してきたのだ。
エリアの新参者なので、ユキムラはまだ去勢手術を受けていない。



このとき、私は思った。キジ斑に傷を追わせたのはユキムラかもしれない、と。
そして、ランが警戒していたのもこの海岸猫の可能性が高い、とも。

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色気より食い気が勝ったようで、エサを完食したユキムラは哀しげな声を上げながら防砂林の闇へ消えていった。


ここで話を少し過去に戻す。


やはり去年の秋の頃だった‥‥。
リンとランが棲むエリアに、複数のオス猫の影がちらつきだしたのは。

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そこで私は行動を起こした。


防砂林に住まう人のテントに暮らすリンとユイも懸念されたが、まずランの不妊手術を優先しようと決めた。
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が、いくら人馴れしているとはいえ、ランは野良猫だ。今までの経験から、一度失敗すると警戒され、しばらく捕獲できないことも十分考えられる。
それならばと、私は慎重を期して、決行日の前に予行することにした。

ところが、結果は皮肉なものだった。



〈次回へつづく〉


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問わず語り

私は今の季節が苦手だ。

寒さが日毎和らぎ、春めいてくるこの時期とすこぶる相性が悪いのだ。
青年期までは、環境が変わるのが煩わしくて嫌悪していた。
まだ“五月病”などという言葉がなかった頃だ。

そして心を病んでからは、ことさらこの時節が疎ましくなった。
春を迎えて周りが華やいでくると相対的にも落ちこむのだ。
3月に自殺者が多いというデータも頷ける。

今年は母の罹病も加わり、さらなる低空飛行を強いられている。
PCモニターに向かう気力も長つづきせず、ブログの更新も遅延する始末。
今はただ、失速して墜落しないように操縦桿を握りしめている。

季節が巡れば上昇の兆しも見えるだろう。
それまでは息を潜め、静かに耐えるしかない‥‥。



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コメント

  1. 茶チャママ | URL | Wb6Olee.

    怪我が気になりますね

    私も苦手ですこの時期は
    パニック症候群が治りきれない上に血圧が100を切るためか
    体調不良で・・・
    これからの時期は捨て猫が多くなるので
    (何で避妊しないのか怒ってます)
    隔離室が一杯にならないよう願っています

  2. wabi | URL | -

    茶チャママさんへ

    季節の変わり目は、いつも調子が落ちるのですが、
    春を迎える時期が一番不調に陥ります。

    さて、おっしゃるように、猫は1年に3~4回発情しますから、
    これからが今年最初の出産ラッシュの時期ですね。
    そして多くの仔猫が不幸な運命を辿ります。

    私も不妊手術の必要性を訴えていきます。

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