不妊手術 その参『退院』

2013年05月12日 22:00

シシマルの急逝により『不妊手術』シリーズが中断したままだが‥‥。
私は、このシリーズを何とかして続けたいと思っていた。

実は、複雑でデリケートな事情が絡み、さらに2年前の父の緊急入院とそれにつづく父の死、さらに母の罹病で公表の機会を逸しつづけていた懸案事項がある。

その2年越しの懸案を解決する契機を与えてくれたのが、ランとアスカ母子なのだ




121008-09-10b.jpg

121008-10.jpg
ランは観念したようで、時折小さな鳴き声を上げるだけでおとなしくしている。


その声を聞いたアスカはキャリーの下にやって来ると、悲壮感漂う鳴き声を上げはじめた。
121008-11.jpg
母に少しでも近づこうと、アスカは支柱に寄りかかり後ろ脚で立ち上がった。


そして、哀しげな声で母を呼びつづける。その鳴き声は哀れを誘った。
「幼いアスカを、たった一晩とはいえ独り防砂林に残すのは不安だし、やはり不憫だ」

121008-12.jpg
私はランだけを病院へ移送するのを諦め、アスカも捕獲し母子一緒に病院へ連れて行くことにした。


とはいえ、アスカを簡単に捕獲出来るとは思っていない。無理やり捕まえようとしても、幼いとはいえ鋭い歯と爪を持つアスカに抵抗されたらおしまいだ。
121008-13_20130508075027.jpg
その結果、先日のランのように防砂林へ逃げ込まれるのがオチだろう。


そうならないためには、アスカ自身が納得して私に身を預けてくれるしかない。
121008-12-13.jpg
そこで私は、母を捕獲した理由を、アスカに諄々と説いた。
だが、果たしてアスカが私の想いを理解してくれたのか、確信は持てなかった。



ひとつのキャリーバッグへ一緒に入れることも考えたが、せっかく捕獲したランを逃がすリスクは冒したくない。
121008-13-14.jpg
そこで常に携帯している洗濯ネットを使うことにした。
「アスカ、おとなしくこの中に入ってくれるかい。そうしたらお母さんと一緒にいられるよ」



私の真情が通じたのか、アスカは素直に洗濯ネットに入った。
121008-14.jpg
こうして、捕獲する気負いのなかったことが幸いして、ランとアスカ母子の捕獲に成功した。


途中自宅に寄ってアスカをキャリーバッグに移し替え、動物病院へ向かった。
121008-15_20130509065322.jpg
この病院は我が家の愛猫も世話になっているし、多くの海岸猫が不妊手術を受けている。治療費がほかの動物病院と比べて割安だからだ。


そのせいか受付開始直後だというのに、待合所を兼ねた廊下はペットと人で溢れていた。
しばし順番を待ち、
受付でランの避妊手術とアスカの去勢手術の申し込み手続きを済ます。
121008-16_20130509065227.jpg
母猫のランは耳カットを頼んだが、アスカは悩んだ末に、手術痕の確認が容易で、まだ里子に出せる可能性を残しているのでカットしないことにした。


やがてランとアスカは係の人の手により病院の奥へと運ばれていった。
「ラン、アスカ、頑張れよ‥‥」私は小さく呟いた。

121008-16-17.jpg
受付で確認したら、夕方には引き取りに来てほしいと言われた。


後で分かったことだが‥‥。
この病院で不妊手術を施された場合、飼い猫は同じ料金で一泊させてもらえるが、野良猫は術後もほかのペットと隔離され、その日のうちに退院させられる。
野良猫は猫エイズ、猫風邪、猫白血病などの感染症に罹っている可能性があるための対応だと思われる。



手術時間の短いアスカは麻酔から醒めるのも早いが、ランは醒めるのに時間がかかる。
121008-17b_20130509160349.jpg
たとえ目を覚ましても、しばらくはまともに体を動かせないはずだ。そんな状態のランを海岸にリリースするわけにはいかない。


私は病院を出ると、ホームセンターへ向かった。ランとアスカを一泊させるためのケージを購入するために。
121008-17c_20130509160351.jpg
ケージに求める条件は、母子が余裕を持って起居出来ること。そして嵩張らず簡単に折り畳めること‥‥。


それらの条件を満たしたのは折り畳み式のソフトケージだった。
121008-17.jpg
これなら使用しないときの収納にも困らない。


午後5時病院へ電話をしてランとアスカの状態を訊くと、母子とも麻酔から醒めているという。
121008-18_20130509180928.jpg
私は病院へ急行し、退院手続きを済ませ、キャリーバッグに収まったままのランとアスカを引きとった。


これがそのとき受けとった領収書だ。
ランの避妊手術料金が8,000円、アスカの去勢手術料金が5,000円、そして抗生剤の注射料金が2匹で2,600円。

121008-18-19.jpg
前述したように、この病院の不妊手術料金は、平均的な料金よりかなり安価である。


ケージを運び込んだ仕事部屋へ、ランとアスカを連れてきた。
121008-19.jpg
病院へ向かうときは、キャリーの中で2匹とも盛んに鳴いていたが、退院後は一言も発しない。


前もって浴室に組み立ててあったケージへランとアスカを移した。
121008-20_20130510084412.jpg
想像したとおり、母子とも目が覚めただけで、麻酔から完全に醒めていないのは一目瞭然だ。


ランは目も虚ろで、まともに立ち上がることも出来ない状態だ。ただランは朝食を摂っていないので嘔吐する様子はない。
121008-21.jpg
一方アスカは母より覚醒している。ただ、朝少し猫缶を食べたので、何度か嘔吐した。


有り合わせの箱で簡易トイレを用意したが、ランもアスカもまともに歩けないので、横たわったままオシッコを垂れながすに任せる。そのため定期的に床替えをしなければならない。
121008-22_20130510135655.jpg
どのみち夜はあまり眠れないので、床替えをしながら午前3時ころまで様子を見ていた。


私がいることで安心したのか、ランは穏やかな表情を見せはじめ、アスカは喉をゴロゴロと鳴らしながら寛ぎはじめた。
121008-23.jpg
「ラン、アスカ、おやすみ。誰も邪魔しないからゆっくり休むんだよ」


午前7時、ランとアスカは既に目覚めていた。
ランはケージから出ると、浴室内を物珍しそうに観察しはじめた。

121009-01.jpg
目付きもしっかりしている。どうやら麻酔の効き目はだいぶ薄れたようだ。
「ラン、大丈夫か。昨日は大変だったな‥‥」。



ランはまだ食欲がないが、育ち盛りのアスカはこういう場合も食欲旺盛だ。
121009-02.jpg
昨日1日、まともに食事をしていないのだから腹ペコだったのだろう。


午前8時、湘南海岸‥‥。
121009-03.jpg


二つのキャリーバッグを自転車で運ぶ難儀さは前日経験して懲りたので、少々窮屈だったろうが、ランとアスカを一つのキャリーで運んできた。
121009-04.jpg
潮の香りで自分たちの住処へ帰ると分かったから、海岸へ向かう途中、母子は一度も鳴き声を発しなかった。


キャリーバッグを開けたら、ランとアスカはすぐさま外に出てきた。
121009-05.jpg
アスカは元気よく防砂林の中へ駆けていった。その後をゆっくりとした足取りで歩いていくラン。


麻酔の影響がまだ残っているのだろう、ランの足運びは幾分心許ない。
121009-06.jpg
だが考えてみれば、開腹手術から丸一日経っていないのだから、猫の回復力に感嘆すべきだ。


退院後のランの様子を注視していたが、切開部分の痛みはないようだ。
手術箇所に少しでも違和感があれば、舐めるはずだが、ランはそんな素振りを一度も見せないからだ。

121009-07.jpg
ランの場合切開部分はごく小さく、縫合糸も自然に溶ける吸収糸なので抜糸の必要はない。抜糸のためにまた捕獲するなど非現実的。野良猫の手術に吸収糸の使用は必須だ。


ともあれ、食欲は未だないが、ランは今のところ順調に回復しているようだ。
121009-08_20130511152848.jpg
ただ、数日間は体調の変化を観察する必要がある。避妊手術をきっかけに死亡した例も報告されているからだ。


121009-10.jpg
今は食べるより身体を休めて体力を戻そうと考えているのか、ランは植込みの奥へ姿を消した。


ランを行方を目で追うアスカ。いつもと違う母の態度を不思議に思っているのかもしれない。
121009-09_20130511152852.jpg
若いアスカは、母と違い食べることで体力を回復することにしたようだ。


121009-11.jpg


ランのことが心配だったが、いつまでも海岸に居つづけるわけにもいかず、私は帰途についた。
121009-12_20130512083310.jpg
このときの私は、ランとアスカに出来るだけのことをした、という充足感があった。


ところが、国道を渡り、住宅街に入った頃だった‥‥。
121009-12b.jpg
予想もしていなかった感情の波が、私を襲ってきたのは。


私の視界はいきなり涙で滲んだ。
怒涛のごとく襲ってきた感情の正体は、“自責の念”だった。

121009-13_20130512091609.jpg
苛酷な生活を送ることが分かっている海岸へ、ランとアスカを置き去りにした自分を激しく責めはじめた。


母子を一晩看護したことで情が移ったこともある。が、とにかくランとアスカを海岸から救い出せない己が無性に情けなかった。

私はさりげなく涙を拭うと、顔を伏せてペダルを漕ぐ脚に力を込めた。


121009-14.jpg
部屋に戻り空っぽのケージを見た瞬間、それまで我慢していた嗚咽が堰を切ったように漏れてきた‥‥。


〈次回へつづく〉



ブログランキングに参加中
気に入って頂けたら下のバナーをクリックしてください
にほんブログ村 猫ブログ 野良猫へ
いつも応援ありがとうございます




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


『2年遅れの報告』

ランとアスカの保護に使用したキャリーバッグとケージの代金は、支出報告に記したように『ミケ募金』から支出した。

『ミケ募金』は主に海岸猫のエサ代に充てる予定だったのだが、幾人もの方からキャットフードをいただき、なかなか使う機会がなかった。そこで使途の範囲を拡大したのだ。

では、ランとアスカの不妊手術代も『ミケ募金』から支出したかといえば‥‥、NOだ。
実は私の手元には、もう一つプールしている募金がある。
それは『ミリオン募金』とでも呼ぶべきお金だ。今回、初めて『ミリオン募金』を使わせてもらった。


ミリオンは扁平上皮癌に体を侵され、手術の甲斐なく2011年1月16日に病院で他界した海岸猫だ。
ミリオン1007-01.jpg
ミリオンが手術出来たのは、知人T氏の尽力のお陰だが、それまでには紆余曲折の経緯があった。
その結果T氏からは、ミリオンの入院手術の件に自分が介在していることを伏せてほしいと依頼されるに至った。



またミリオンを執刀した◯◯医師からは、T氏の紹介だから手術、治療、入院にかかった費用は受け取れないと告げられた。
110114-02.jpg
頑なに固辞する医師に懇願し、何とか実費だけ受け取ってもらえることになった。その実費も外部委託した血液検査費用だから、医師の報酬はゼロである。


さらに、その実費も本人の強い要望で、T氏が支払った。そして当然ながら、このことも他言しないようT氏に請われ、私は了承した。
ミリオン0105-07.jpg
だから当時のブログには、ミリオンの治療費ついて一切触れていない。


ところが、ブログを見てミリオンの治療費の足しにカンパしたいというメールを、複数の読者からいただいた。
実情を明かせない私は、「医師の好意で安くしてもらったので」と説明し、すべてのカンパを断った。

だが、二人だけ例外が存在する。


ミリオンが亡くなった直後に帰国していた『ベルリンおばばの独り言』の管理人太巻きおばばさんと、街中で遭遇したike君のお母さんだ。
110119-04.jpg
勿論、お二人にも同じ説明をしてカンパを辞退した。しかし、太巻きおばばさんとは電話で、ike君のお母さんとは直接会って「それでも」と言われたので断りきれなかった。
押しに弱い私の性格が露呈した結果である。



このことで『ミリオン募金』をブログで公表するのに、2つの障壁が私の前に立ち塞がった。
T氏からの他言無用の要請、そしてカンパを申し出てくれた人たちへの釈明‥‥。
さらに2年前から始まった湘南と故郷との二重生活も、機会を失わせる要因となった。



あれから2年余りが経ち、文言を選べばT氏へ迷惑がかかることもないのでは、という思いと、早く太巻きおばばさんとike君のお母さんの好意に応えたいという思いで、今回公表することにした。
ミリオン110120-03.jpg
それにミリオンとは関係なく、直接手渡されたカンパが2件ある。
まず、ねこタカイさんからのカンパ。そして、今はブログを辞めてしまったが、当時のブロガー仲間のるいねこさんからのカンパ。



それらを、太巻きおばばさんとike君のお母さんのカンパに加え、さらにミリオンの治療費のお釣りを加算した『ミリオン募金』は、29,650円になる。
そして、今回のランとアスカの手術費を差し引くと、14,050円。

ミリオン-00.jpg
今後は『ミケ募金』(残金25,499円)と『ミリオン募金』(残金14,050円)を合算して『ミケ・ミリオン募金』(39,549円)として支出報告をする。
これで、私も肩の荷を降ろせる‥‥。



『お詫びとお礼』

まず、さん、◯◯先生、その節はミリオンのためにご尽力いただきありがとうございました。
私としては、お二人の名前を伏せるのは本意ではないのですが、微妙な事情が介在しているので致し方ありません。

さて、太巻きおばばさん、ike君のお母さん、ねこタカイさん、るいねこさん、
その節はありがとうございました。
幾つかの事情が重なったとはいえ、ご報告が遅くなりましたことをお詫びいたします。

そして、ミリオンのためにカンパを申し出ていただいた皆様にお詫びいたします。
せっかくのご好意を無にしましたが、私にとって苦渋の選択だったことをご理解ください。

管理人:wabi




ブログランキングに参加中
気に入って頂けたら下のバナーをクリックしてください
にほんブログ村 猫ブログ 野良猫へ
いつも応援ありがとうございます

関連記事
スポンサーサイト


コメント

  1. おこちゃんちゃん | URL | -

    堰を切った様な嗚咽、、、。wabiさんの気持ちが伝わってきます。
    過酷な環境で生きている猫ちゃん達を救っている活動に、頭が下がります。

    その後アイちゃんはどうしていますか?
    とっても気になっています。

  2. PORI | URL | -

    手術費用にびっくり~!

    こんばんわ~!いつも引き込まれる文章に感心しております。
    不妊手術費用が安いのにびっくりしてのけぞってしまいました(オーバー?)
    域差ですか?それともこの病院だけですか?
    家の子たちがお世話になっている病院では
    男の子が3万円、女の子が5万円です。その前に検査やなんやらで
    3500円かかります。結構痛い出費でした。

  3. ねこやしき | URL | ezOaKyPo

    一度でも家に入れた猫を元の場所に戻さねばならない辛さ…
    wabiさんのその気持ち、手に取るようにわかります。
    私も何度も味わってきたから。
    今は事情が変わり、捕まえた子は死ぬまで家の子にしているので、
    もうその辛さを味わうことはなくなりました。
    そのせいで、現在42匹という大世帯となってしまいましたが。(^_^;)

  4. ゆうたん@ | URL | 4CvheNDY

    こんにちは。
    wabiさんのお気持ちを思うと、どうしても軽々しくコメントできませんが
    でも、wabiさんがなされたことには敬意と共感を持っております
    ワタシなどは実行に移すこともできず、目の前のコたちをどうすることもできずにいます
    はっきり言ってワタシなどヘタレです

    ミケにミリオン・・・。懐かしい写真です
    どちらも強く、気高く、美しい猫たちでしたね
    彼女たちのためへの気持ちがこもったお金です
    一番良いカタチで使って下さったと思っております

    wabiさん、いつも本当にありがとうございます。

  5. wabi | URL | -

    おこちゃんちゃんさんへ

    愛する者を殺風景な海岸へ置き去りにした悔悟。
    自分がひどく残忍なニンゲンに思えて仕方ありませんでした。
    そのときの想いは、今も引きずっています。

    数日前、アイに会ってきました。
    名前を呼ぶと近づいてきて、体をすりすりしてくれ一安心。
    でも、やはり所在なげで寂しそうな印象でした。
    また、以前より少し痩せていました。

  6. wabi | URL | -

    PORIさんへ

    地域よりも病院によって手術費用は大きく違うと思います。
    手術前に入念に検査する病院は当然高くなります。
    また入院日数でも大きな差が生じるでしょう
    ランとアスカを施術した病院では希望しない限り、手術と抗生剤の注射のみです。
    それでも市内のほかの病院と比べると割安ですが。

    私の認識では不妊手術料金の相場は、
    メスで20000~40000円、オスで15000~30000円です。

  7. wabi | URL | -

    ねこやしきさんへ

    一晩泊めただけで、こんなにも情が移るなんて‥‥。
    世の中には経験しないと分からないことが沢山あると、痛感しました。
    そして、ランとアスカに対する私の想いは特別なものになりました。

    事情が許せば、保護してやりたいです‥‥。
    そう出来ない自分の無力さに怒りさえ覚えます。
    今はあの母子が平穏に暮らせることを祈るばかりです。

  8. wabi | URL | -

    ゆうたん@さんへ

    ミリオンが入院したとき、ゆうたん@さんはカンパを申し出てくれましたね。
    あの節はありがとうございました。
    そして実情をお知らせできなかったことをお詫びします。

    ミケのときもそうでしたが、猫との関わりより、
    齟齬、思い違い、遠慮などが介在する人との関係のほうが数段難しいです。

    野良猫に関与するのを躊躇うのは当然です。
    それも近隣住民が関わる街中の野良猫なら尚更だと思います。
    海岸猫は特別ですから、あまりご自分を責めないでください。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)