不妊手術 その四『経過』

2013年05月23日 08:30

やっとの思いで情動を抑えこんだ私は、折り畳み式のケージを急いで片付けた。
ランとアスカが一晩過ごした痕跡を一刻も早く消し去りたい一心で‥‥。

121009-15_20130519184042.jpg
今までの経験や仄聞した情報で、TNR活動の中で最大の難事は捕獲だろうと思っていた。
だが私にとっての難事は、リリースだったのだ。
ランとアスカを部屋に一泊させる予定外の事態が発生したとはいえ、この思いよらない結末に私は戸惑っていた。



ラン母子‥‥、特にランのことが気掛かりだった私は、午後再び海岸へ赴いた。
121009-15.jpg


私がエリアを訪れると、すぐにランが姿を現した。
121009-16.jpg
朝よりしっかりした足取りのランを見て、私は思わず安堵の息を洩らした。


そして、息子のアスカも元気な姿を見せてくれた。
121009-17.jpg
前日に全身麻酔で手術をしたとは思えない2匹の様子を見るにつけ、改めて猫の回復力の凄さを思い知った。


それでもランをよく観察すると、リリースした朝よりはしっかりした動きをしているが、まだ手術の影響が残っているように感じる。
121009-18.jpg
ただ下腹部を気にしている風はなく、手術痕は順調に治癒しているようだ。


アスカからは、手術の影響をほとんど感じない。やはり手術時間の短い去勢手術は、猫の体への負担も軽いようだ。
121009-19.jpg
同じ”オトコ”としては、去勢という言葉に抵抗を感じる。が、それによって望まれない子が生まれるのを防げる。そしてアスカ自身はほかのオス猫と無用な喧嘩をしなくなるし、徘徊して事故に遭う確率も低くなる。


猫缶を与えると、2匹はすぐに食べはじめた。
121009-20.jpg
アスカの健啖ぶりを見ていると、今朝の罪悪感が少し薄らいでくる。


自分のトレイを離れ、アスカがランのトレイにそっと近づいていく。
121009-21.jpg
そして躊躇わずに母の猫缶を食べはじめた。ランは頭を上げ、ついと横を見遣る。


アスカのトレイにはまだ猫缶が残っていた。
全部食べると母との間で猫缶のトレードが成立しないと、知恵を働かせているのかもしれない。

121009-22.jpg
だが、『隣の芝生は青く見える』というが、同じ猫缶なのにどうしてアスカは、毎回母の猫缶に手を出すのか?


いつもなら唯々と息子に譲るランだが、このときは簡単に引き下がらなかった。
121009-23.jpg
母子はお互いの頭をぶつけんばかりに競い合って、猫缶を食べる。


しかし‥‥、
121009-24.jpg
けっきょく最後に折れるのは親のほうだ。この辺りはニンゲンの親子関係と変わらない。


ランはほんの少し食べただけでトレイから離れた。
121009-25.jpg
まだ本来の食欲が戻っていないのか‥‥?


食欲もそうだが、やはりランの挙動は手術前より緩慢だ。
121009-26.jpg
おもむろに後ろを振り返るラン。


その視線の先にいたのは、脇目も振らず猫缶を貪る息子だった。
121009-27.jpg
去勢手術をすると太る傾向がある。アスカの今後がちょっと心配だ。


ランはそのまま植込みの奥へ行くと、地面に体を横たえた。
比較的順調な回復を見せているランだが、まだ体の状態は本調子ではないのだろう。

121009-30.jpg
避妊手術は“必要悪”かもしれない、と以前に述べた。ただ避妊手術をすれば望まれない出産を防げるし、大きな鳴き声を上げるなどの発情時の異常行動もなくなる。


そして、ラン自身もそれによりストレスがなくなり、結果長生きする。また、乳腺腫瘍や子宮・卵巣の病気からも開放されるのだ。
野良猫の場合、病気になっても病院へ連れて行けるかどうか分からない‥‥。

121009-28.jpg
そういうことを知ろうともせず、「可哀想だから」と猫の不妊手術に反対している皮相浅薄な偽善者など相手にしないことだ。


今回、私は野良猫の不妊手術を初めてやったが、野良猫を世話するボランティアの人たちにとってはごく日常的なこと。
121009-31.jpg
最近では野良猫の不妊手術に助成金を交付する自治体も増えてきたが、あくまでも費用の一部を“助成”するだけだし、予算も限られている。
だからほとんどのボランティアの人は自腹を切っているのが実情だ。



ランがいきなり防砂柵によじ登ってきた。
いくら切開部分が小さいとはいえ、激しい動きをされるとやはり心配になる。

121009-32.jpg
湘南の海を眺望するラン。彼女の胸に去来する想いは何なんだろう?


強制的に避妊手術を受けさせられたことを、ランはどう受け止めているのか。
121009-33.jpg
「おいおい、また無茶なことを」猫の運動能力の高さには一目置いているが‥‥。
「でも、開腹手術から1日しか経っていないんだぞ」



昨日今日の様子を見ていると、ランの私に対する態度に変化は認められない。ランが私の本意を感得したのだろうと、一方的に思い込んでいるのだが‥‥。
121009-34.jpg
たとえランに忌避されることになろうと、私は彼女に避妊手術を受けさせた。
このエリアには去勢していないオスが時折出没する。それにアスカとの近親交配の可能性もあったからだ。



避妊手術をした証の耳カット‥‥。
なぜ耳の先端を切るのか。それは、ひとえに重複手術を防止するためだ。

121009-35.jpg
耳カットの代わりにピアスや入れ墨する事例もある。だが、ピアスはいつか取れるし、入れ墨は毛色が濃いと見分けられない。今のところ耳カットがベストだろう


耳カットは、その猫を世話する人の存在を知らしめる役目もある。
つまり耳カットは愛されている証でもあるのだ。

121009-36_20130521195556.jpg
ところが、耳カットを残酷だと異を唱えるいう人たちもいると聞く。
念のために述べておくが、麻酔が効いている間にカットするので、猫は痛みを感じない。



それでもまだ、耳カットが残酷だというのなら、実現可能な代案を教えてほしい。
121009-38.jpg
「ラン、また明日の朝来るからな」
元気な姿を見せてくれたラン。それによって私の心がどれだけ癒されたか‥‥。



121009-37_20130521195554.jpg
実をいうと、ほかにも避妊手術を受けさせたい海岸猫がいる。


しかし、その海岸猫を病院へ連れて行くには大きな障碍が立ち塞がっていた。
121009-39.jpg
その問題を解決しない限り、捕獲の算段さえできない特殊な環境で暮らす海岸猫なのだ。


〈次回へつづく〉



ブログランキングに参加中
気に入って頂けたら下のバナーをクリックしてください
にほんブログ村 猫ブログ 野良猫へ
いつも応援ありがとうございます

関連記事
スポンサーサイト


コメント

  1. 荒野鷹虎 | URL | -

    泣けてきます。!

    何時見てもランとアスカの親子物語には感動が走ります。!
    野良猫の避妊は果たして猫のセックスを奪う行為なのか?!人間に権利があるのかと思いますが、野良猫の生きる道としては最良のことと思うように成りました。優しいボランチアの人達の愛情に慈悲を感じる次第です。言葉に詰まります。!つい最後まで引き込まれます。!素晴らしい記事と感激です。広く読まれる事を祈るばかりです。!!

  2. maru | URL | GkbuMSm.

    wabiさま、不妊手術大変お疲れ様でした。
    お気持ち判ります。
    一度家に入れてしまうと、戻すのが本当に辛く無力さを感じますよね。
    でもそれが、最善策と思います。
    不妊手術や耳カットについてはwabi様と全く同感です。
    耳カットされている猫を見ると、ホッと温かい気持ちになりますね。

    ランちゃん、今のところ経過は良いようですが傷口が開いてしまわないか、少し心配です。

  3. ゆうたん@ | URL | 4CvheNDY

    wabiさん、こんにちは!
    ランとアスカがwabiさんに対しこれまでと同様に接してくれていることに安堵しています。
    これからもここで親子が穏やかに暮らしてくれればいいなと思っています。
    これで終わりではなく、まだまだたくさんのことがありますが。

    連休中に、私が住んでいるマンションでも猫のことでいろいろありました。
    地域猫の会の方から連絡が入り事情を知ったのですが、
    本件もボランティアの方々の負担が非常に大きくのしかかっています。
    比較的自治体が理解を示している地域ですらこの状態です

    wabiさんがして下さったことはとても大きいと思います

  4. Sabimama | URL | cbwYL0zY

    避妊手術をしにくい訳はわかりませんが、
    万が一エサやりのエゴなら、
    、、、それは、まかり通らないはず、野良を増やしたり
    野良を発情で苦しめたり、それは、猫の権利を主張する理由にはならない。
    他に・・・いろいろあるのでしょう・・・

  5. wabi | URL | -

    荒野鷹虎さんへ

    進化の途上にあるあまねく生き物の最大の目的は自分の遺伝子を残すこと。
    ですから本来、他の生き物の生殖能力を強制的に奪うことは越権行為です。
    でも、犬猫の殺処分数が年間20万~30万頭にも及ぶ我が国の異常なペット事情を鑑みると、
    致し方ないと思います。
    我が国には、あまりに無知で身勝手なニンゲンが多すぎます。
    犠牲になるのは常に弱者である小さな命。
    まるで死ぬために生まれてくるような犬猫の数を減らすには、今のところ不妊手術しかありません。
    実に悲しいことですが‥‥。

  6. wabi | URL | -

    maruさんへ

    初めてのTRN、捕獲から思惑通りにはいきませんでした。
    なかんずく部屋に一泊させるという想定外の出来事が私を打ちのめしました。
    私を信頼し、ケージの中でおとなしくしていたランとアスカの姿を思い出すと、
    今でも胸が痛くなります。

    でも不幸な子を減らすためには最善策だったと、自分に言い聞かせています。

  7. wabi | URL | -

    ゆうたん@さんへ

    最近では以前のように常に一緒にいることが少なくなったランとアスカですが、
    それは子離れ、親離れが上手くいったと、私は理解しています。
    以前のタビとソックスのような仲の良い母子でいて欲しいですね。

    ボランティアさんの活動は本当に大変だと私も常日頃から感じています。
    今回私が行った不妊手術などその活動のごく一部です。
    ですから、私がしたことはけっして大したことではなく、
    TNRを具体的に分かりやすく紹介しただけなのです。

  8. wabi | URL | -

    Sabimamaさんへ

    以前茶チャママさんからのコメントで、仔猫に不妊手術を受けさせようとしたら、
    「仔猫は可愛いのに酷いことをする」と非難されたと知らされました。
    私の場合は5月31日付けの記事に紹介したようにホームレスの人たちに拒否されたり、
    また知人からはオスの去勢手術は不要だと公言している獣医の話も聞かされました。

    仰るように、人それぞれの考えがあるとは思いますが、
    今の野良猫事情を少しでも改善する方向を目指してもらいたいものです。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)