不妊手術 その伍『提言』

2013年05月31日 20:30

ランとアスカをリリースした翌日の湘南海岸‥‥早朝。
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私がエリアへ到着すると、ランとアスカは待っていたように姿を現した。
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どうやらランは、自転車のスタンドを立てる音で私の来訪を感知しているらしい。アスカはその母の行動を見て間接的に察知しているようだ。


猫の聴覚は優れていて、犬よりも高音域に強いが、音の聞き分け能力も秀でているのだと再認識させられる。
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アスカが母の猫缶に横槍も入れず、トレイから離れた。珍しいこともあるものだ。


息子がいないと、ランは気兼ねなく朝食を摂れるらしく、アスカが残した猫缶にまで手を出した。
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これまた滅多にない光景だ。何にせよランに食欲が戻ったことは喜ばしい。


猫缶を残すなんて、健啖家のアスカらしくない。
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まさか今更、手術の影響が表れたわけでもあるまい。


私が海岸へ到着したのは午前7時過ぎだが、既にエサをもらっていたのだろうか。
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このエリアのエサ遣りさんは、早朝に来ることはまず無いのだが‥‥。
ところが、やはりアスカはアスカだった。



おもむろにランに近づくと、アスカは当然のように猫缶を横取りした。アスカの接近を知ったランは、すぐさま体を翻した。
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今朝のランの様子から、手術の影響はほぼ無くなったと感じた。
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野良猫の平均寿命は短いが、不慮の事故などに遭わなければ10年以上生きることも可能だ。今回の手術で、ランとアスカはいくつかの疾病には罹らずに済むのだから、親子ともども長生きしてほしい。


ひとつの食器で仲良く水を飲む母子。
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そして今度は、陽だまりで揃って毛繕いをし始めた。


ランの腹の手術痕には、ごく簡易な絆創膏が貼られているだけだ。
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まだ剥がしていないのは、ランが切開部分に痛みも違和感も感じていないという証左だ。


猫によっては縫合糸を噛み切ろとする。かといって、野良猫にエリザベスカラーを装着するなど無理なこと。
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ランとアスカが手術を受けた病院はインターン生と思われる医師からベテランの医師まで複数の医師が従事している。もしかしたらランは運良く熟練の医師に当たったのかもしれない。


開腹手術から40時間ほどしか経っていないが、野に暮らす野生の力のせいもあり、ランの回復ぶりは至って順調である。
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このまま大過なく本来のランに戻ってほしい。


復調するランの様子を見るにつけ、不妊手術を受けさせて良かったと思う。
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ただ、たった一晩とはいえ部屋に泊めたことで、ランとアスカが私にとってとりわけ気懸かりな存在になったことは想定外だ。


アスカがケージの中で、喉をごろごろ鳴らしていたのも強く印象に残っている。
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もしあのとき、アスカが安住の地を得て、もう厳しい外での生活に戻らなくてもいいと思っていたとすれば、私のしたことは大罪だ。


「アスカ、私だって苛酷な暮らしが待つ海岸へ、幼いお前を戻したくはなかった」
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許されるなら、母とともに引き取りたかった。でもそれが出来ない事情が、私にはある。


「ランも許してくれよ。私に力が無いばかりに、命を脅かす様々な危難が潜む野へ戻したことを」
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「穏やかなお前の寝顔を見ていると、心が和む一方、心配でならない」


野良猫に与えられている安息のときには限りがある。事故、病気、怪我、虐待、と懸念を数えだしたらキリがない。
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いつも側にいれば対処できるのだが、現状ではそれもままならない。
私に出来ることといえば、ただひたすら祈ることだけだ。



以来、私はランとアスカに会う度に良心の呵責に苛まれるようになった。
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今更だが‥‥、どんな形にせよ野良猫と関われば、ひっきょう胸中に残るのは悲しみと虚しさだ。



それから数日間、ランとアスカは毎朝元気な姿を見せてくれた。



そして私は、ある目的を持って休日の海岸を訪れた。
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ランとアスカに変わりがないか、まず2匹が暮らすエリアへ赴いた。
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私が訪れたとき、母子は防砂林の外に出ていた。


アスカは私の姿を認めると、「ミャーミャー」と鳴き声を上げながら体を擦りよせてきた。
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「アスカ分かった、分かったよ、腹が減っているんだろ」
この幼い海岸猫が何を訴えているのか、私には手に取るように分かる。



ランとアスカが不妊手術を受けてから6日が経っていた。
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朝の限られた時間だが、術後の母子を観察していた私の目には、2匹がすっかり元の状態に戻ったように映る。


ランとアスカはその後も、手術痕を気にする素振りを見せない。抗生剤の効きめもあり、感染症にも罹らずほぼ治癒している。
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私としては、そろそろ術後の様子を注意深く観察しなくてもいいのでは、と思っている。


今回初めてのTNRから、私はいくつかの有益なことを習得した。
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そういう意味でも、ランとアスカには感謝している。


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腹が満たされたランとアスカは、柔らかな草むらに体を横たえた。


背を向け、微妙な距離をおく母と息子‥‥。
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適度な距離感が仲良く暮らす秘訣かもしれない。個人的に、そんなことをふと感じてしまった。


ランエリアを後にした私は、曇天の湘南海岸を、ほかのエリアへと急いだ。
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しばらくエリアの入口で佇んでいると、1匹の海岸猫が私に擦りよってきた。
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久しぶりに訪れたのに、私のことをちゃんと憶えていてくれた。


「リン、元気だったか」
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しばらく見ないうちに、リンの目付きが険しくなったと感じるのは、私の気のせいか。
もしそうでなければ、私には思い当たるフシがある。



「どうしたリン、そんなおっかない顔をして‥‥」
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「お前も気苦労が絶えないなぁ‥‥」
私は労いをこめてリンを優しく愛撫した。するとリンは気持ちよさそうに目を閉じ、柔和な表情を見せる。



実はこのとき、リンは子育ての真っ最中だった。今回は2度めの出産だが、前回の出産から4ヵ月しか経っていない。
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子育て中の母猫は仔猫の世話で忙しく、寝る暇もないほどだと聞く。そうであれば、目付きが険しくなるのも当然である。


寸暇をさいて私を迎えてくれたのだから、せめて今のうちに食事をさせてやろうと思った。
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授乳中のリンには栄養価が高く、バランスも良いカリカリを与えた。


リンはランの子ユイともども、防砂林に住まう人のテント小屋で暮らしている。
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前回産んだ4匹の仔猫は櫛の歯が欠けるように1匹、また1匹と姿を消し、ついにはすべての仔猫がいなくなった。


防砂林に住まう人からは、仔猫を可愛がっていた人が数人いたから、その人たちに保護されたのだろうと聞いている。
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私としては、その推測に異を立てる根拠も仔猫の行方を突き止める術もないので、賛同の意を表した。私もそうであって欲しかったし‥‥。


だが、どうしても防砂林に住まう人たちに賛同できないことがある。
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リンが2度めの妊娠をする前に、リンとユイに避妊手術を受けさせたいと申し入れたら、やんわりと拒否された。


そこで今回は、ランとアスカの不妊手術履行の知らせと、リンとユイに避妊手術を受けさせたい旨を再度申し入れるためにやってきたのだ。
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さっきからリンは防砂林の一点を凝視し聞き耳を立てている。ニンゲンの耳には聞こえないが、リンには仔猫たちの声が聞こえているのだろう。


リンはゆっくりとした足取りで、防砂林の中へ分け入った。
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母猫は外敵から子供を守るため、数日毎にねぐらの引越しをする。


以前はテント小屋の中に仔猫を隠していたが、今は防砂林の然るべき場所に移したのだろう。
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母猫は仔猫を呼ぶとき、低くて断続的な独特の鳴き方をする。
このときはリンが仔猫たちの声を聞き分けていたので鳴かなかったが、その鳴き声は安らぎと切なさを感じさせる。



安堵と哀切‥‥、“母の声”とはその両面を併せ持っているのかもしれない。
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やがてリンは防砂林の奥へ姿を消した。


さて、リンとユイに避妊手術を受けさせたいという私の提言への先方の返答だが‥‥。
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「そこまでしなくていい」「自然のままでいい」というものだった。彼らの様子からは、仔猫が生まれるのを楽しみにしていることが窺える。
それに対しての私の言い分は沢山あったし、自分の説が正論だという確信もあった。



が、私は何も言えなかった。
言い争いにでもなって彼らとの関係が悪化したら、リンとユイに会えなくなる。そして、そうなれば彼女らに避妊手術を受けさせることが出来なくなるからだ。

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いつかは分かってくれるだろう、という淡い期待を胸に抱いて私は帰路についた。



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コメント

  1. おこちゃんちゃん | URL | -

    こんにちは
    リンクしてくださっていたのですね、嬉しいです ありがとうございました!v-283

    私がWabiさんに共感したのは 避妊までしていることになんです。

    カワイイ、かわいそうだけで餌を与えている方もいますが、それはそれで、空腹の動物たち
    の一時の糧にはなりますが(否定も肯定も出来ずにいます。)、、、そのあと、、、増えつづけたら、、、結局、、、、
    餌、エリア争い、、死、、、殺処分。の負の連鎖へ。

    そこまでされている方がいる。
    ショックを受けました。
    最初は、外猫の写真ブログだと思っていたからです。

    我が家の犬も、前脚一本が無くて、保健所から里親会の方が引き取ってきたて、中々引取り手
    がなかったらしいですが、息子とネットで見た途端、一緒に(この子がうちの子になるってピンと来ました。)

    事情がなければ、何匹だって、飼ってあげたいですよね。
    私もそうです。
    住まい、お金、家族、近所等々、そこにはまた、問題があるのですから、、。

  2. キキママ | URL | 92eFZkuY

    野良猫にも避妊去勢手術は必須です

    そうですか
    私は猫ボラン手合いをしてます
    杉並区の野良猫はみんあn
    まるまるふとってますが

    みなさが避妊去勢手術をしてくれなくて困ってます
    私は、野良猫に餌を与えたらもうそれは、飼ってると同じことだと日ごろから思ってます
    杉並区では
    ある程度猫が繁殖して野良猫の数が増えると
    どこからか猫とり業者がやってきて猫を1夜に5、6匹いっぺんに捕獲して猫をどこかに捨てるようです
    こんな不幸を生まないためにも野良猫にえさをあげてる方は必ず避妊去勢手術をお願いします

  3. wabi | URL | -

    おこちゃんちゃんさんへ

    今回、私がランとアスカに不妊手術を受けさせたのには理由があります。

    各エサ場には複数人のエサ遣りさんがいます。
    そして、その中には海岸猫に不妊手術をするボランティアの人もいるのです。
    ランとアスカが棲むエリアにもいます。
    ところが私と一緒にいるとき、その人が「あたしは(不妊手術を)できないわ」
    と呟くように言いました。
    そのときはランもアスカもホームレスの人が世話をしていましたから、
    自分は関わりたくない、と思ったのでしょう。

    ですから今回のことは例外なのです。
    前述したように各エサ場には不妊手術を受けさせる人がいますから、
    通常は私などが手を出す余地はありません。

    以前、扁平上皮癌に罹ったミリオンという海岸猫に私が手術を受けさせたのも、
    同じような状況だったからです。

    事情が許せば、すべての海岸猫を引き取りたいです。

  4. wabi | URL | -

    キキママさんへ

    私も今の野良猫事情を解決するのは不妊手術が唯一の手段だと思っています。

    本来はホームレスの人が言うように『自然のまま』が良いのでしょうが、
    それが許される現状ではありませんから。
    死ぬために生まれてくるような不幸な子をこれ以上増やしたくありません。

    仔猫を見て、ただ「可愛い」「可哀想」などと言う人に限って問題の本質を見ていません。
    本心からそう思っているなら自分が引き取るか、里親を探すのが正道でしょう。

  5. ?? | URL | -

    なぜ野良猫の不妊手術をするのに許可がいるのでしょぅ?
    言い争いにでもなって、
    彼らとの関係が悪化すると困るのはわかりますが
    不幸な命の連鎖を止めるためには、多少強引にでも
    行った方がいいのではと思います。厚かましいコメントですみませんが。。。

  6. wabi | URL | -

    ??さんへ

    6月13日付けの記事でも述べましたが、リンとユイは通常の
    “野良猫”とは違っています。
    防砂林に住まう人は猫たちにエサとねぐらを提供していて、
    飼われている状態なのです。

    ですから彼らに無断で避妊手術を行うことは、たとえそれが正しいことであっても
    出過ぎた行為だと私は思っています。


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