生きること・死ぬこと その六

2014年01月22日 06:00

父母と弟が眠る墓地は小高い山の中腹にある。
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墓石の傍らにある霊標に、新たに母の戒名を彫り入れた。


このあと電力会社と郵便局に届けを済ませば、私が故郷で為すべき用件はもう残っていない。
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母の入院から始まった数ヵ月にも及ぶ私の実家滞在は、喪主の務めとともに一旦終わろうとしていた。


ただ心残りなのが、このキジトラだ。
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キジトラはその後も雨の日以外は、判で押したように訪ねてくる。


私が用意したエサがお気に召して、それで日参して来るのかと思っていたが、必ずしもそうではないらしい。
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こうして玄関の中にカリカリと水を用意していると、逡巡のすえ警戒しながらゆっくりと食器に近づいてきた。


躊躇いながら玄関に入ってくるからにはよほど腹が減っているのか、と思った。
ところが‥‥。

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カリカリには目もくれず、ただ水だけを一心に飲む。


そしてそのまま外へ出てしまった。
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この辺りには地下水を水源とした用水路が道沿いに走っているから飲み水に不自由はしないはずなのだが。


ではこのキジトラは何を求めてこの家にやって来るんだ。
「もしかしたら、人恋しいから、つまりは私に会いたいがために毎日訪ねてくるのか?」

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「シャアアアァァァ!」
(おっと、どうやら私の勘違いだったようだ)


近づける距離はずいぶんと縮まったが、私に心を許したわけではないらしい。
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「じゃあどうして君は毎日この家にやって来るんだ?」


「まさかこんな手入れもしていない、荒れた庭が気に入ったわけではないだろう」
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近隣には綺麗に手入れされ芝生も張った庭があることを知らないわけではないだろうに。


まあいい、今の私にお前を拒む理由はない。
ただ私はもうすぐこの家を去らなければならないし、そうなれば此処には誰もいなくなる。

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そうなっても、この家自体が気に入ったのなら、今までのように通ってくればいい。お前を追い払う者は誰もいないのだから。


ねぐらの段ボール箱を大きい物に替えてみたが、
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やはり決まったねぐらが他にあるのだろう、キジトラはいつものように日が暮れる前に姿を消してしまった。


街での用事を片付けたあと、久しぶりに山門前エリアを訪れてみた。
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開店前のスナックの店先に、白猫がうずくまっていた。


この白猫、私の記憶が正しければ2013年2月7日付の記事で門柱の上にいた子だ。
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食べているのは、どうやら鶏肉のようだ。


車の下から2匹の黒猫が現れた。黒猫の識別は難しく、面識があったかどうか私には分からない。ただ奥の幼い黒猫は初見だ。
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体の大きさからして生後半年くらいだろうか。ここで生まれたのか、それとも親と一緒に流れてきたのか。


成猫の黒猫はエサを横取りもせず後ろで静かに見守っている。その態度からすると母親かもしれない。
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幼い黒猫は腹は減ってなかったらしく、ほんの少し食べただけでその場を離れた。


親猫がおずおずとカリカリに近づいていく。
このエリアのエサの遣り方は食器などめったに使わない。

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ここの習わしに慣れていない新参者なのか?


その様子をじっと見つめる猫がいた。前回の帰省の際に会った長毛のキジ白だ。
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「元気でいたんだ‥‥」
野良猫の寿命は3~4歳とも4~6歳ともいわれ、飼い猫に比して著しく短い。だから再会の喜びはひとしおだ。



ここにも顔馴染みの猫がいた。
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このサバトラ、仲間の食べ物を横取りする厚かましいヤツだ。


だがしかし、野良猫として生き長らえるにはそれくらいの図太さが必要なのだ。おそらくは。
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こうして誰よりも早く食べ物のありかを察知する能力も、野良猫として生きるうえで不可欠な特性だ。
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野良猫は逞しくなければ生きてはいけないのだ。やはり。


さっきの白猫が近づいてきた。あの鶏肉をすべて食べたのだろうか。
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白猫はカリカリが置いてあるブロックへ足を運んでいる。


ところが急に立ち止まってしまった。
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見ると、さっきの黒猫が先んじていた。


白猫は潔くあきらめて離れていく。私はこのとき、この幼い白猫が出産したことを見て取った。
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乳房が膨れ乳首が被毛から露出している。(撮影時白猫はまだ1歳未満だった)


猫は2歳までは早熟で、1歳で人間に換算すると15~18歳、2歳で22~24歳になる。そのあとは1年ごとに人の4倍歳を取っていく。
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つまりこの白猫はニンゲンでいえば15歳以下で妊娠・出産をしたことになる。(ニンゲンと比べることに意味がないことは分かっているが、敢えて)


この黒猫がメスならあと2、3ヶ月もすれば発情するだろう。その結果、寄る辺ない子が生まれてくるのだ。
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人間の身勝手で猫に不妊手術を受けさせるのは可哀想だと喧伝する連中がいる。だが私に言わせれば、そんな輩こそ現実を直視しないエゴイストのエセ動物愛護家だ。


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幼い黒猫の後ろ姿を、私は悲痛な思いで見送った。
「劣悪な環境に屈せず、しっかり生きるんだよ」私にはそう願うしかなかった。



野良猫は野生動物などではなく、酷薄なニンゲンが打ち捨てた罪深い行為の結果として存在している。
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だから、そんな野良猫に救いの手を差し延べることに躊躇いなど感じる必要はなく、誰憚らずエサを遣り世話をすればいいのだ。そして、この贖罪ともいえる行為を誹謗中傷する破廉恥漢など無視することだ。


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で、私としてはやはりこのキジトラが気がかりだ。


今までの経緯からして、私がこの家を去っても、この子が飢えたり寒さをしのぐ場所を失うことはないだろう。
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とは思うものの、このキジトラがどうしてこの家にやって来たのか、その謎に納得のいく答が見つからないままでは、やはり心掛かりだ。


このときふと以前読んだ小説の一節が私の頭をよぎった。
それは監獄に幽閉されたある徒刑囚の身に起こったことだ‥‥。





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コメント

  1. Sabimama | URL | cbwYL0zY

    水だけ、、、だんだん痩せたら「口内炎」
    ウチの亡くなった子がそうでした。
    カリカリが食べにくい、水だけで飢えをしのぐ、
    そうあって欲しく無いです。

    ウチはたくさん猫がいるから食べた、と思っていました。
    この子は残せばわかります。
    ウチの亡くなった子は、痩せてから気が付きました。

  2. wabi | URL | -

    Sabimamaさんへ

    キジトラは日によって食べる量がまちまちで、
    この日はたまたま水だけ飲んで帰りました。
    翌日には普通にカリカリを食べていたので、
    ご心配の様な状態ではありません。

    体重も減っている様子はなく、却って最初に会ったときより
    太って見えるくらいです。

    ご心配をして頂き恐縮しております。

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