10ヵ月ぶりの訪問 その壱

2014年05月17日 23:00

防砂林の向こうに水平線が覗いている。

私にとっては、10ヵ月ぶりに見る湘南の海である。



時刻は午前8時過ぎ‥‥。
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海岸猫との遭遇率を上げる為にも、出来ればもっと早く来たかったのだが、今の私の体調を司っているのは己の不健全な心であって、こればかりは如何ともし難いのだ。


眺望のきく場所に立ち、湘南の海と向き合った私は、その情景を撮影しようとカメラを手にした。
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と、そのときである。背後から、か細い猫の鳴き声が聞こえたのは。

(動物の本能が鈍麻した現代のニンゲンであっても、長く猫と関わっていれば、他の物音に紛れた猫の鳴き声を聞き取れるようになる)


私は素早く振り向くと、周囲に視線を巡らせた。すると‥‥。


私の足許をゆっくりとした足取りで横切っていくキジトラ柄の猫の背中が、視界の端に飛び込んできた。
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「この特徴ある巻き尻尾は‥‥!」私は思わず心の中で呟いた。


「やっぱりお前だったのか!」
果たして、その猫は姉妹猫の片方であるランだった。

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ランとは昨夏、帰省する数日前に会って以来だから、やはり10ヵ月ぶりの再会になる。


「それにしても‥‥」と私は思った。
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私が海岸へ行こうと思い立ったのは今朝であり、勿論そのことをランが知る術はない。


にもかかわらず、私が来るのを知っていたかのようにランは姿を現した。何故か?
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可能性としては二つあって、まず防砂林の中から私の姿を偶然目撃した場合、それと私が自転車のスタンドを立てる音を察知した場合が考えられる。


五感の中でもとりわけ聴覚が優れている猫だから、後者の可能性が高い。
そういえば、以前も私が自転車のスタンドを立てると、防砂林の中から小走りで出てきていた。

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10ヵ月ものブランクがあったのに、特定の音を記憶し識別する高精度な猫の聴力に、私は改めて感嘆した。


私の傍らで落ち着いたのも束の間、ランはいきなり体を起こして身構えた。
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ランの視線が捉えていたのは、飼い主に連れられた散歩中の犬だ。
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理由は分からないが、この海岸猫は異常と思えるほど犬への敵愾心が強い。威嚇するだけなら問題ないのだが、ランは実際に先制攻撃を仕掛ける。


「ラン、やめときな。大人しくじっとしているんだ」
今にも飛び掛からんとしていたランを、私はそう言って制した。

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飼い犬と争って、自ら無用な恨みを買うことはない。愛犬可愛さに “子供の喧嘩に親が出る” 事態だってあり得る。


私は久しぶりに対面した湘南海岸の光景を改めて見渡した。
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少なくとも私の目には、湘南海岸が10ヵ月前と何ら変わっていない風に映った。


私が砂浜へ降りると、ランも後を追ってきた。
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ランと再会を果たしたときから、私は気になっていることがあった。
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それをランに問い質したいのだが、私の不吉な予感を彼女に裏打ちされそうで、なかなか話の口火を切れずにいる。


野良猫と深く関わっていると、楽しさや嬉しさを感じることなど稀で、大抵の場合は哀しく遣りきれない思いをする。
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当ブログの主意は、それらの実情を出来るだけそのままの形で、読者へ提示すること。


それがためだろう、以前から、私のブログを見ると切なくなる、というコメントが数多く寄せられているのは。
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でもそれは仕方のないこと。何故なら、野良猫自体が切なく哀しい存在なのだから‥‥。


もしもあなたが『 見ぬもの清し 』を標榜するなら、当ブログを訪問するのはやめたほうがいいかもしれない。
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なんとなれば、これからも当ブログの主題は野良猫の実態を活写することだからだ。


そして恐らくその内容の多くは、切なく心憂いものになると思われる。
でも柔軟性に欠ける私の性格だと、野良猫と適度な距離をおいた皮相なブログは、書こうにも書けないのだから仕方ない。



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ランは10ヵ月前と変わりなく、壮健に暮らしている様子なので安心した。
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これも、世話をしてくれているボランティアの方の尽力の賜物であり、私は常々その人たちに感謝と尊敬の念をいだいている。


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「ところでラン、お前腹減ってないか?」


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私は人目に付かない防砂林の中へランを誘い、そこで猫缶を与えた。
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私自身は野良猫への給餌を、彼らに対する贖罪と謝礼だと考えていて、衆人環視の中であっても毫も疚しさを感じないが、彼らの身の安全を考慮すれば、敢えてその存在を喧伝することはない。


だが、もし野良猫へエサを与えているのを咎められたら、間髪を入れずにその輩へ容赦ない舌鋒を浴びせるかもしれない。(普段は温厚だが、猫のことになると人が変わってしまう私だから)
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ただその結果、そういう輩の矛先が野良猫に向かうことも十分考えられるので、よほどの事態が起こらない限り穏やかに対応するつもりである。


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そんなに空腹ではなかったのか、ランは猫缶を食べるのをあっさりとやめてしまった。


トレイに盛ったのは猫缶の半分程なのに、それすら食べ残している。
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空腹でない野良猫‥‥、それは比較的恵まれた環境にいる、という証左。


私はランの世話をしているボランティアの方に出来るだけ早く会って、感謝の気持ちを伝えたいと思っている。
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加えて、私が不在のあいだのランの生活ぶりを訊いてみたいとも思っている。


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私はある目的の為に、海岸沿いの道をゆっくり歩いて移動することにした。
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その私の後を、やはりゆっくりとした足取りでランが追ってきた。


往来する人たちはそんなランの姿を見て、目を瞠ったり、振り返ったりしたが、総じて好意的な表情だ。
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それでも、防砂林の中でひっそりと暮らしているランを人の目に晒したくはない。
かといって、ランを振り切るために自転車を使っては、私の意図することに支障を来す。



それに、ランがいたほうが目的の達成が容易くなるかもしれない、という期待もあった。
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にしても‥‥、10ヵ月も不在だった私を忘れずにいてくれ、さらにこうして私を慕って後を追ってくるランを見ていると、いじらしくて胸が詰まりそうになる。


言い出しっぺは誰なのか知らないし、調べる気もないが、“猫は情が薄い” とか “猫は三年の恩を三日で忘れる ” などと、まことしやか語られている。


が、それはニンゲンの勝手な思い込みであって、愛情を持って接していれば野良猫でさえ、こうして思慕の情を示してくれるのだ。
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私に言わせれば、もっとも薄情なのはニンゲンだ。なんとなれば、猫はニンゲンを裏切らないが、ニンゲンはいとも簡単に猫を裏切るからだ。


ランと連れ立って歩くこと15分余り、私がかつて “西のエサ場” と呼んでいた場所に到着した。
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ここは2012年の夏に、ランが生まれ育ったホームレスの小屋を離れ、ふたりの子供を連れて最初に移り住んだところだ。


今はエサ場としての役目を終え、ひっそり閑としている。
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ランはここでふたりの子供と一緒に暮らしていた頃へ思いを巡らせているのだろうか。


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「ラン、お前に訊きたいことがあるんだが‥‥」私は我慢出来ずに、とうとう話の口火を切った。


湘南海岸の風景は10ヵ月前と変わりなく見えたが、人が足を踏み入れない防砂林では幾つかの変容が散見された。

そして‥‥。

このあと海岸猫の姿を求めて防砂林の奥へ入った私は、そこで無残な場景を目にすることになる。



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【謝辞】


私が故郷に滞在しているとき、神奈川の自宅に、海岸猫たちへと、猫缶が送られてきた。
それもこんなに大量の猫缶が‥‥。

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送り主は福岡在住の『 あなご 』さんだ。

家人から荷物が届いたと連絡を受けた際に、お礼のメールを差し上げたのだが、この場を借りて改めて謝意を述べたいと思う。


「あなごさん、沢山の猫缶を送っていただき、ありがとうございました。この猫缶は海岸猫に代わって私が一時お預かりします」

管理人:wabi



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コメント

  1. マコ | URL | -

    いつも読み逃げで、ごめんなさい。

    ランちゃんとの、10ヶ月ぶりの再会良かったです。
    ランちゃんも、会いたかったのでしょうね。
    待ちに待った再会の様子に感動です。

    動物が、薄情と言う方がいますが、
    その方がどれだけ愛情を持って接したかの方が重要ポイントですよね。
    冷たい人間様より、はるかに感性豊かですもの。

    会わない間に何が?
    心配です。

  2. ねこやしき | URL | ezOaKyPo

    wabiさん ご無沙汰しております。
    ずっとブログは拝見しておりましたが、wabiさんの辛い経験のさなか
    私もいろいろ身内の事で災いを体験しておりました。

    私はwabiさんの海岸猫たちに会う時の悲しい複雑な気持ちが、よく分かります。
    その気持ちを綴ってくださることは、わたしの気持ちを代弁してくださっているかのようです。
    どうか、これからもご自由に感じたままをお書きください。
    それにしても、ランとの再会の様子、びっくりしました。

    10か月のあちらでの暮らしの中で出会ったキジトラ君の結末も本当に良かった、とほっとしています。きっとこれからもかわいがっていただけることでしょう。
    どうか体調に気をつけて、お過ごしください。

  3. ネコたんママ | URL | SLJ/JtpM

    ランちゃんとの再会、よかったですね。
    ネコさんは薄情なんかじゃなく、愛情あふれる生き物だと思います。
    私はワビさんのブログ、更新を楽しみにしてるんです。
    私もワビさんと同じ気持ちで、それを代弁してくださってるような気持ちになれるからかもしれません。
    10か月ぶりの海岸、何があったのですか?
    続きが気になります。

  4. imagica | URL | -

    ランが太って大きくなって体躯が大人びてきました。1年未満で子を産んで、やせた体で必死にアスカを育てて守っていたのには、ちょっとグッときました。人間のアスカは腐ってたけど。”見ぬもの清し”痛い言葉です。見たと言えば、危うくなる、それは、人にも該当するケースもあります。人も,生死の分水嶺をおどおどとバランスとりながら、必死に歩き渡ってもいる・私も。ただし、総数母数に対し該当数は少ない・猫ちゃんは、全くの分母子数が同数だろうから、哀惜はヒトシオデスガ・・。

  5. おこちゃんちゃん | URL | -

    wabiさん、自宅へ戻られてからの体調は 如何ですか?
    ランが10か月の空白を感じさせていないことに驚きでした。
    しかも、最初からおびえる事もなく寄ってきたという事は、他のボランティアさんにも、大切にして貰っていた証拠でしょうか。
    15分も、一緒に歩くなんて、wabiさんの事は、シッカリ覚えていたという事で、猫の習性を、噂の様に信じていたところがあるので、改めさせていただくことが出来ました。
    続きがどうなっていたのか、またまた。気になる所です。

  6. wabi | URL | -

    マコさんへ

    私にいたっては読み逃げの常習犯ですから、どうかお気遣いなく。

    こんなにすんなりランと再会できるとは、正直思っていませんでした。
    ですから、鳴き声をあげて近づいてきた時は鳥肌が立つほど感激しました。

    仰るように、情とは相互の心に芽生えるもの。
    それにはお互いが相手の気持ちを忖度し、愛情をもって接することが肝要です。
    その際に相手から見返りを求めるから、「あいつは薄情だ」と不満を感じるのだと思います。
    動物は純粋ですから、そうやって僻むのはニンゲンばかりです。
    ニンゲンは動物に学ぶべきことが沢山ありますね。

  7. wabi | URL | -

    ねこやしきさんへ

    こちらこそご無沙汰しています。

    ここ数年は、自分の体調不良や身内の不幸などで、
    ブログの更新もままならない状態が続いていました。
    結局、2年半あまりの間にサクラを含めた家族全てを喪いました。

    そんな私の心を癒してくれたのが猫たちでした。
    忽然と実家に現れたキジトラ、そして帰宅してからは私自ら海岸から保護した
    風(ふう)という名の猫の存在が、私を絶望の淵から救ってくれました。

    今まで海岸猫にも大いに癒やされました。
    私が彼らと接する際には、その感謝と救い出せない贖罪の気持ちを持ちつづけているのです。
    そんな海岸猫の為に私が出来るのは、彼らの生き様を出来るだけ多くの人に伝えること。

    しかし‥‥。
    記事にも書きましたが、野良猫と関わっていると悲しいことばかり‥‥。
    その度に、私の心は根元から折れそうになります。
    そんな状態の私を支えてくれるのは、ねこやしきさんをはじめとする読者の方の
    励ましのコメントやメールなのです。

  8. wabi | URL | -

    ネコたんママさんへ

    幸先が良くランとの再会を果たせたのですが‥‥、
    いつも一緒に居たアスカが姿を見せなかったり、
    火事の現場で海岸猫と思われる亡骸の一部を発見したりと、
    10カ月ぶりの海岸訪問は憂鬱なものでした。

    でもこれが野良猫の実情なのです。

    ネコたんママさんの仰るように、猫を含む動物は愛情をもって接すれば、
    ちゃんと情を示してくれます。
    ただその表し方がニンゲンと違うため、短絡的に「猫は情が薄い」などと
    感じるのです。
    彼らの表情や仕草を注意深く観察すれば分かることなのに、自分の尺度でしか
    物事を測れない狭量なニンゲンが如何に多いことか‥‥。

  9. wabi | URL | -

    imagicaさんへ

    アスカもですが、ランが太ったのは不妊手術のせいだと思われます。
    でもランは元々華奢な体だったので、見た目ほど体重は増えていず、
    抱き上げると驚くほど軽いのです。

    世の中のキレイな表の部分だけを見て、汚く汚れた裏の部分を敢えて無視するのは、
    それはそれで幸せかもしれません。
    が、それで豊かな人生を送っているとは、私には思えません。
    そして、そんな他人の痛みを理解出来ないニンゲンが多数を占める社会に明るい未来が
    待っているとも思えません‥‥。

  10. wabi | URL | -

    おこちゃんちゃんさんへ

    お気遣いありがとうございます。
    夜は相変わらずよく眠れませんし、心と体のバランスも狂いがちです。

    さて、この日はボランティアの方と会うことは出来ませんでしたが、
    私の印象でもランは手厚い援助を受けていると感じました。

    猫の情が薄いと決めつけたのは、おそらく猫の気質を理解しようとしなかった時代のことでしょう。
    彼らはニンゲンに服従はしませんが、受けた恩を忘れたり裏切ったりはしません。
    もしそういう態度を示す場合は、何らかの理由があるはず。
    それも表情や行動をよく観察すればおのずと知れることです。

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