10ヵ月ぶりの訪問 その弐

2014年05月26日 22:00

当たり前だが、野良猫は家を持たない。
その代わりにテリトリー(縄張り)という勢力範囲を持っている。


確かなところだと、その範囲は、メスよりオスが広く、また不妊手術を受けると狭くなる。

ただ、環境(都会と田舎・給餌者の有無)や個々の性格によっても幅が生じるし、プライベートエリアとハンティングエリアの2種類があったりと、具体的な数値を記すのは困難なので、大まかに野良猫のテリトリーは半径200mから500m位だと思ってほしい。


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私がランと連れ立って歩いた距離は、まさにこの範囲に当てはまる。

その道すがら、私はある海岸猫の姿を求めて、名を呼び、また潜んでいそうな防砂林や植込みの中を確かめていたのだ。


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その海岸猫の名は『 アスカ 』といって、母であるランと同じキジ白の被毛を持つオス猫だ。
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2012年の春、ランは3匹の子をもうけた。ところがメスのユイだけをホームレスの人の小屋に残して、オスのチャゲとアスカを連れて2ブロック離れた防砂林に移ったのだ。


人懐こかったチャゲはじきに行方知れずになったが、ランとアスカ母子はそれからも同じエリアで仲睦まじく暮らしていた。
(詳細は【チャゲの場合】を参照のこと)
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傍目からも不離一体といった風の仲の良い母子だった。


それがため、当初はランにだけ不妊手術を受けさせるつもりだったのが‥‥、
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母を慕って盛んに鳴くアスカを見て、不憫に思い、一緒に手術を受けさせたくらいだ。


我が家の猫が不妊手術を受けた動物病院へランとアスカを連れていった。
ところが、飼い猫なら同じ料金で一晩経過をみてくれたのに、野良猫だと伝えると当日のうちに退院させられた。

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猫白血病や猫エイズなどの伝染病のキャリアである可能性が高い野良猫ゆえの扱いだと思われ、それについての不服はない。


ただ、ランとアスカは麻酔から覚醒していなくて、とても海岸へリリース出来る状態ではなかった。
そう判断した私は、ふたりを部屋に一泊させることにした。

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これを契機に、私はランとアスカに特別な感情を持つようになったのだ。
(詳細は【不妊手術 その参『退院』】を参照のこと)


さっきランにアスカのことを訊いてみたが、不得要領な回答しか返ってこなかった。
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私が居ないあいだに、母子の身に何が起こったというのだ。


前述したように、去勢したアスカは発情もせず、がため行動範囲も広くはないはず。
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この春で2歳になり、ニンゲンの年齢に換算すると二十歳を超えたアスカ。
よしんば、大人になったアスカが自活の為に母の許を去ったとしても、同じ理由で、そう遠くへ行くとは思えない。



また半径500m以内に、大食漢のアスカを賄っていそうな新たなエサ場の存在は確認出来なかった。
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まず以って、あんなに仲の良かった母と息子、私にはアスカ自身の意思で母の許を去ったとは思えない。そこにランの意思ともアスカの意思とも違う、『 第三者の意思 』を感じずにはいられない。


アスカのことを尋ねる為にも、早急にボランティアの人に会う必要がある。
仄聞したところによると、その人がランにエサを与えるのは早朝らしい。

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しかしながら、私が早朝の海岸へ行ける日は限られている。というのも早期覚醒型の睡眠障害をかかえている私にとって、朝は絶不調な時間帯だからだ。


睡眠時間のいかんによらず、目覚めてから1~2時間程は頭と体の連携がちぐはぐで、木偶のように呆けている。
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ときどき明け方の3時4時に目覚めて、かつ頭と体がうまく協調する日がある。
そんな日でないと、早朝の海岸へ赴くことは叶わないのだ。



それはそうと、10ヵ月ぶりに会ったランが時折みせる表情に、憂愁の片影を感じるのは私だけだろうか。
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「ラン、お願いだからそんな沈鬱な顔をしないでくれ」


家族と離別した哀しさと、そのあとに襲ってきた寂寥感を体験した私は、例え相手が猫であっても暗い表情をされると自分も辛くなってくる。
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「ラン、お前は独りじゃないぞ。お前をいつも気遣い、愛しく思っている人がいるんだから」


私はランと別れて、次のエサ場へと自転車を駆った。
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その途中、ミケにあいさつをする為、墓前に参った。
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この場所でミケと向かい合うと、気持ちが落ち着くのは何故だろう‥‥。


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私はミケの遺影を見ながら、以前訪れてから今日まで自分の身に起こった出来事と、海岸猫たちの動静をかいつまんで報告した。


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かつてココには、“防砂林に住まう人”、言うところのホームレスの人の小屋があった。
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ココに住む数人の人以外にも、幾人もの防砂林に住まう人が集い、社交場の様相を呈していた。
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リンとランもここで生まれ、子供を産み、皆に可愛がられて幸せな時期を過ごしたところだった。


ところが‥‥。


私が不在だった去年の夏、火事で小屋が焼失してしまった、という。
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仄聞したところによると、出火の原因は放火だったそうだ。
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どんな理由があったにしろ、弱い立場の人をさらに苦しめる卑劣で酷薄な行為に憤りと遣る瀬無さを覚える。


留守だったのか避難したのかは聞き及んでいないが、幸いなことにココに住んでいた人たちは全員無事だった。


だが、出火が彼らのせいでなくても、火災が起こったからには、防砂林を管理する神奈川県も看過出来ず、彼らに撤去の警告を発した。
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それを受けて、防砂林に住まう人たちは別の場所へ移っていった。猫たちを残して‥‥。


辺りを見回すと、明らかにそれと分かる火事の痕跡が散見される。
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たが残っている物の殆んどが黒く炭化していて、以前の姿を計り知ることは困難だった。


そうして私が、“ここにあるべきモノ” を探しているときだった‥‥。
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国道からの騒々しい車の走行音に混じって、猫の小さな鳴き声が聞こえたのは。


声がしたほうへ歩を進めていくと、体を伏せた警戒姿勢でこちらの様子を窺っているキジ白と目が合った。
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私にとっては初見の海岸猫である。
キジ白と私は7~8m程の距離を挟んでしばらく顔を見合わせていた。



それまで身じろぎひとつしなかったキジ白だったが‥‥、
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私が声を発した瞬間、いきなり身を翻すと、松の木の陰に姿を隠した。


私は、キジ白の姿が見えるまで、防砂林の中を大きく迂回した。
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遁走することなく、ただ物陰に身を隠したキジ白の行動に、この子の性格と置かれている状況の一端を垣間みる思いがした。
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その被毛の柄から推して、おそらくリンかランの児孫だと思われる。


やはり訪ねた時間が遅かったからだろう、結局キジ白以外の海岸猫の姿を見ることは叶わなかった。
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この場を去ろうとした私が、何の気なしに自分の足許へ視線を移したときだった。


探していた “あるべきモノ” ではなく “あってはならないモノ” が視界に入ってきたのは‥‥!!





私は最初、ソレを白い枯れ枝だと思った。いや、そう思いたかったのである。
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松の枯れ葉に混じって、ソレは散在していた。


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その形状と大きさから、ソレが小動物の骨なのは明らかだった。

実は、ココの小屋が火事に遭ったことを教えてくれた人から、同時に焼け跡から猫の焼死体が発見されたと、私は聞かされていた。

だから、本来私が探していたココにあるべきモノとは “墓” だったのだが‥‥。


もしこの骨が焼け死んだ海岸猫のものなら、半年以上も野ざらしになっていたことになる。

私はその場を去りがたく、しばし呆然と立ち尽くしていた。


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「母のランを独り残して、アスカはどこへ行ってしまったんだ‥‥!?」

「そして、焼け跡へ野ざらしにされていたのは、いったい誰なんだ‥‥!?」

10ヵ月ぶりに海岸を訪れた私が邂逅したのは、やはり嬉しいことなどではなく、哀しく遣りきれない出来事ばかりだった。

しかしながら、これが野良猫の実態なのだ。

それでもなお、野良猫たちは、この厳しい現実を生き続けなければならない‥‥。



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コメント

  1. imagica | URL | -

    WABIさん こんばんは

    ”0ヵ月ぶりに海岸を訪れた私が邂逅したのは、やはり嬉しいことなどではなく、哀しく遣りきれない出来事ばかりだった。しかしながら、これが野良猫の実態なのだ。”

    衝撃が私を襲い、不安が心から溢れ出します。アスカは何処にいるのだろう???

  2. ネコたんママ | URL | SLJ/JtpM

    残念です。

    人間の身勝手でお外暮らしを余儀なくされている猫さん達を、どうしてそっとしておいてくれないんでしょうね。
    そこに住んでいらっしゃった方々が無事で良かった。
    亡くなった猫さんのご冥福をお祈りいたします。

  3. おこちゃんちゃん | URL | -

    やりきれないせつない思いです。
    放火された時に、すばしっこい猫が、逃げられなかった、、?
    何か、変な感じがします。
    逃げられない様にされていたのか、、?
    放火事態が 異常ですが、、、何かもっと悪質な事が起きていたのかもしれない。

    人間が一番、酷い動物、、。と、感じてしまいます。

  4. nekonekonyanko | URL | -

    ランさんとの再会はこの上なく温かい気持ちになりました。
    アスカの姿も隣にいたなら…と思ってしまいます。

  5. マック | URL | -

    はじめまして

    はじめまして。
    このブログの存在を知ってからお気に入りに入れて毎日寝る前に更新をチェックするのが楽しみになっています。 いつかこの猫たちに会いにいきたいなあと思っていて今日ついにその機会を得てシシマルエリアに行く事ができました。 コジローらしき猫も遠くから見かけたのですが近くへ廻ろうとしている間にいなくなってしまいました。
    次に白い猫が草むらの向こうから白い猫が鳴きながら来たのですが、かわいそうに足を怪我しているようでした。 しかもそれはどうもしろべえのようでした。 車に当たったのでしょうか、、?

  6. wabi | URL | -

    imagicaさんへ

    野良猫はある日突然姿を消します。
    何処へ行ったのか‥‥、誰にも分からないのです。

    でもすべての子が不幸な目に遭っているとは限りません。
    ベンチ猫のサブのように優しい人に保護されることもありますから。
    また、そうでも思わないと野良猫と関わっていくことは出来ません。
    遣り切れなくて心が折れそうになりますから‥‥。

  7. wabi | URL | -

    ネコたんママさんへ

    まさか野良猫が野生動物だと信じている無知なニンゲンはいないでしょうが、
    野良猫を生んだのが我々ニンゲンだとは思っていない人はいるようです。
    そういう愚かで身勝手なニンゲンがいる限り、野良猫はいなくならないでしょう。
    そして、彼らの不遇な境遇も改善されないでしょう。
    悲しいことです‥‥。

  8. wabi | URL | -

    おこちゃんちゃんさんへ

    おこちゃんちゃんもそう思いますか。
    私もこの話を聞いたとき、ニンゲンより勘が鋭く俊敏な猫が、
    果たしてテント小屋の火事で逃げ遅れるようなことがあるだろうか、
    と疑問に思いました。
    ただ、話をしてくれた人も直接目撃したわけではないので、
    実際のところは分かりません。
    が、火災跡に残された白骨があったことは事実。
    ともあれ、遣りきれない出来事には違いありません。

  9. wabi | URL | -

    nekonekonyankoさんへ

    ランは私のことをちゃんと憶えていてくれました。
    こういうときが、唯一嬉しい瞬間です。
    ただやはり、アスカの不在が気掛かりですね。
    人懐こくなっていましたから、誰かに保護されたと思いたいのですが‥‥。

  10. wabi | URL | -

    マックさんへ

    こちらこそはじめまして。

    そうですか、シシマルエリアを訪問されたのですか。
    以前のこのエリアには10数匹の海岸猫がいましたが、今は数匹が残るだけになりました。
    ご懸念のシロベエの脚のことですが、3年前に2週間ほど行方不明になり、
    戻ってきたときには今のように脚を引きずっていました。
    原因は不明ですが、本人は苦痛を訴えるでもなく、日常生活に支障を来している様子もありません。

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