小さな世界 (前編)

2014年09月30日 17:00

リンの子供たちを目撃した翌朝、私は矢も盾もたまらず海岸へ赴いた。


上空には青空が広がり、前日とは打って変わった凪いだ海を太公望たちを乗せた釣り船が朝日を浴びながら沖へと向かっている。
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休日の朝7時過ぎの、海岸に沿った道路は、逍遥する人、犬を散歩させる人、ウォーキングやジョギングにいそしむ人など、様々な目的を持つ人たちで賑わっていた。

その様な人たちを横目に、私はリンエリアを目指して自転車のペダルを漕いた。


ここは前日4匹の仔猫たちと出会ったエリア。
日差しもあまり差しこまず、湿気をふくんだ病葉に地面が覆われている防砂林の奥部だ。
こんな爽やかな朝に、好き好んで防砂林に入るニンゲンは恐らく私くらいだろう。

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先刻から、私以外の脅威が存在しないか、リンは周囲を入念に窺っている。


鋭敏な感覚、とりわけ優れた聴覚で以ってあたりの様子を探っているのだろう。
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やがて、リンは防砂林の最奥部へ視線を移すと、今度はその方向に注意を集中する。
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あたりの安全を確認できたのか、リンはゆっくりとした足取りながら、ためらいなく進んでいく。
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リンはどうやら前日と同じ場所へ向かっているようだ。


リンが鳴き声を発すると、灌木の奥からすぐに仔猫たちが姿を現した。
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リンの眼光は鋭く、我が子に害を及ぼず外敵が近くにいないか、警戒を怠らない。


私の存在に気付いた仔猫たちは、揃って目を剥いた。
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すると、サバ白の子を残して、他の子は踵を返して灌木の奥へ姿を消してしまった。
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母親にグルーミングされているとはいえ、サバ白の子は逃げる気配すら見せない。


この子は好奇心が強いだけでなく、物事に動じない大胆さを併せ持っているのかもしれない。
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逃げた仔猫たちは、リンが私を警戒しない様子を見て少し安心したのか、再び灌木の奥から姿を現した。
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前日撮影できなかった黒シロの子も、このとき初めてレンズに収まってくれた。


「やあ、やっとまともに顔を見せてくれたね」私は笑顔をつくり心の中で呟く。
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こういう純真無垢な双眸に見つめられると、私はただたじろぐばかりだ。


ズームレンズを通しているから、手を伸ばせは届きそうに感じるが、仔猫と私の距離は3メートルほど離れている。
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彼らの興味の対象は私なのか、それとも私が構えているカメラなのか定かではないが、熱心に見つめ返してくる。


が、好奇心より空腹が勝ったようで、すぐに興味の対象は母親の乳房へと移った。
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サバ白と黒ネコがリンの乳首に吸い付いたが、黒シロの子はまだ私の存在が気になっているようだ。


「う~ん、お腹減ってるから母さんのオッパイを飲みたいけど、このニンゲンって生き物が気掛かりだなぁ」とでも考え、逡巡しているのだろうか。
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多種多様な性格を持つニンゲンと違って、猫の性格は『 勇敢 』と『 臆病 』に大別される、と言う。


そして猫の先天的な性格は、父親の性格で決定される。つまり、勇敢な父親を持つ子と、臆病な父親を持つ子とでは、その性格がまったく違ってしまうのだ。
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ふと視線を巡らせると、キジトラもまた、少し離れた灌木の間から、私の様子を窺っていた。
上記の説が本当なら、この子の父親は、『 臆病 』な性格の持ち主だということになる。



リンがいきなり頭をもたげて、見開いた目に警戒の色をともした。
私もさっきから気になっていたのだが、例のテントからぼそぼそ人の話し声が聞こえてくるのだ。

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あのテントを訪ねる人がいるとは思えない。挙動不審なホームレスのこと、独り言を呟いている可能性が高い。


黒い子も体を起こして、不安げな目で私を見上げる。
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高感度な聴覚を持つ猫だから、私には聞き取れない不穏な調子をその声に感じ取ったのかもしれない。


「安心しな。私がここにいるかぎり、誰にも手出しをさせないから」
私が言ったことが分かったのだろうか、リンは穏やかな表情で目を閉じた。

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そうして、仔猫も母の感情に呼応するように、安らかな顔で母乳を飲みはじめる。
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今ここには、母と子の平穏な時間が流れている。


この小さな世界を侵す権利は、いかなる者も有していない。けっして‥‥。
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『もしもこの母子を脅かす世の中であれば、そんな世の中こそ滅亡してしまったほうがいい』


私が見守っていることで安心したのか、リンは四肢をゆったりと伸ばしリラックスした姿勢を見せる。
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日頃は、小さく脆い我が子の生命を、本能をフル活動させて守っているのだろう。


それもたった独りで、4匹もの子供を擁護しなくてはならないのだから、ゆっくり昼寝する暇もないはず。
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満腹になったのか、サバ白の子はいかにも瞼が重そうだ。


この時期の猫は、一日のほとんどを寝てすごす、と言われている。とすれば、腹が満たされれば、眠くなるのはごく当たり前の反応だ。
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黒い子も満腹になったのか、腹を見せて母に甘える仕草をする。
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リンにとっては、今回が4回目の子育てだ。子供の扱いもいやおうなく熟達する。


あのとき‥‥。
保護者の意向を無視してでも、リンに避妊手術をしておけば良かったのだろうか?

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リンの1回目の出産の後と2回目の出産の後、私はリンの保護者だったホームレスの人に、避妊手術をリンに受けさせたいと申しでた。


しかし、私の2度の申し出は拒否された
(詳細は【不妊手術 その伍『提言』】【不妊手術 その七『不在】を参照)

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その保護者は当時、リンとランが生まれ育ったテント小屋に出入りしていた。が、その後は一度も会っていない。(先日会った三人の『 父親 』とは別人)


それも当然で、その頃もそれ以後も、私は神奈川と故郷を往復する、言わば二重生活を余儀なくされていたし、テント小屋も焼失したから、会う確率はきわめて低くなっていた。
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だがあのとき、リンが避妊手術を受けていたら、この子たちは存在しなかったことになる。そう考えると、複雑な心境に陥ってしまう。


『 臆病 』な遺伝子を持つ黒シロの子が、灌木から顔をだした。
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そして同じく、『 臆病 』な遺伝子を持つキジトラの子も姿を現す。


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サバ白の子がリンの側を離れると、黒シロの子はダイブするような格好で乳首に吸い付いた。


そのサバ白の子は、草むらの中に虫でも見つけたのか、前脚でさかんに探っている。
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その結果として、私との距離が縮まっても動じる気配を見せない。
この子の大胆さは、やはり『 勇敢 』な父親譲りなのだ、と確信した。



かかる状況にいる仔猫に見つめられると、後ろめたさもあり私は気圧されてしまう。
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「私は君を直接救ってやれない。ただこうやって君の姿を記録し、君の生きた証を残すことしか出来ないんだ。情けない話だよな、実際‥‥」私は自嘲をこめて、そう独りごちた。


〈次回へつづく〉



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