小さな世界 (後編)

2014年10月05日 09:30

ここは防砂林の最奥部、リンの子供たちの棲家だ。

リンは我が子に授乳する為、頻繁にここへ通っている。


最後まで灌木のなかに隠れていたキジトラが、ようやく姿を現した。
Larea140517-69d.jpg

Larea140517-70c.jpg
そうして、すぐさま母親の乳首に吸いついた。


これで全員がそろった。
4匹も子供がいるのに乳首の奪い合いが起きないのは何故なのか。

Larea140517-73c.jpg

Larea140517-74c.jpg
それは猫の乳房の数が通常6~12個のあいだで、平均8個もあるからだ。


一度の出産で複数の子供を産む犬や猫などの、いわゆる『 多胎動物 』は授乳時にあぶれる子がないように、おおむね乳房の数が多い。

ちなみに、猫は普通一度に3~5匹の子供を産む。(世界記録は19匹)


4度の出産を経験したリンの場合は、決まったように4匹ずつ産んでいる
Larea140517-75c.jpg

Larea140517-76c.jpg
もしかしたら、防砂林で暮らす野良猫のリンが育てられる子供は4匹が定限なのかもしれない。


先に母乳を飲みはじめたので満腹になったのか、サバ白の子と黒い子がじゃれ合いをはじめた。
Larea140517-77c.jpg

Larea140517-78c.jpg

Larea140517-79c.jpg
仕掛けたのは、もっとも行動が大胆なサバ白だ。この子は、何事も率先するリーダー格になる資質を持っているようだ。


この時期(生後6週~2ヵ月齢)の仔猫は『 社会的 』な遊びをとおして様々なことを習得していく。
Larea140517-80c.jpg

Larea140517-81c.jpg
兄弟がいる場合、まず兄弟の行動を観察して模倣するという学習方法をとる。


また兄弟とのじゃれ合いのなかで、どの位の力で噛んだり叩いたら相手が痛がるか、という『 攻撃抑制 』を学ぶのもこの時期である。
Larea140517-82c.jpg

Larea140517-83c.jpg
その為には実際に自分自身が相手から噛まれたり叩かれて、その痛さを経験しないと、『 攻撃抑制 』が習得できずに、結果として手加減を憶えられない。


だから手加減を知らずに育ったひとりっ子や兄弟との遊びが少なかった仔猫は、将来において本気で噛みついたり、爪を出したまま猫パンチをするなどして、相手に大怪我を負わせる危険性がある。
Larea140517-84c.jpg

Larea140517-85c.jpg
この『 攻撃抑制 』は猫にかぎらず、ニンゲンにも当てはまる。確信犯を除いて、傷害致死を犯した多くの被疑者が「これくらいで人が死ぬとは思わなかった」と供述する報道をよく耳にするからだ。


にしてもサバ白は、兄弟のなかでも飛び抜けてアグレッシブな性格であることがよく分かる。
Larea140517-86c.jpg

Larea140517-87c.jpg
黒い子の反撃に遭って怯んだ、と思ったら、次にキジトラを相手に選んでじゃれ合いをはじめる。


知ってか知らでか、こうやって仔猫たちは日々、習得的行動にいそしんでいるのだ。
Larea140517-88d.jpg

Larea140517-89c.jpg
サバ白の体勢には『 ベリーアップ 』という名が付いている。仰向けになり、前脚は引っかき攻撃をし、後ろ脚はキック攻撃をするという、成猫になっても見られる行動である。


サバ白が左前肢を大きく振りあげた。
Larea140517-90c.jpg

Larea140517-91c.jpg
そしてそのままキジトラの額に打ちおろした。爪が出ていれば強烈な一撃になるパンチだ。


が、キジトラはダメージを受けた様子を見せず、すぐに上体を起こした。
Larea140517-92d.jpg

Larea140517-93d.jpg
と、今度はキジトラの喉くびに噛みつくサバ白。


キジトラも一方的にやられっぱなしではなく、サバ白にのしかかるように反撃してきた。
Larea140517-94d.jpg

Larea140517-95d.jpg
すると、サバ白は体を捻って投げで切り返す。キジトラの上体がのけぞる。


が、キジトラは体勢を立て直すと同時に、一瞬の隙を突いてサバ白の首に噛みついた。
Larea140517-96d.jpg

Larea140517-97d.jpg
さらに両手(もろて)で以ってサバ白の背中に爪を立てた。形勢が逆転した瞬間だ。


するとサバ白は、遊び相手を母に求めて、リンの脇腹に噛みついた。
Larea140517-98c.jpg

Larea140517-99c.jpg
リンがゆっくりと頭をもたげてサバ白を見つめる。


そしてサバ白の子をたしなめるように、リンが顔を近づけた瞬間だった。
Larea140517-100c.jpg

Larea140517-101c.jpg
サバ白のキックがリンの顎に炸裂したのは。思わずのけぞるリン。


それでもリンは怒る気配も見せず、サバ白をグルーミングしようとする。
Larea140517-102d.jpg

Larea140517-103c.jpg
この時期の仔猫の性格形成には、母親との関係も大きな影響を及ぼす、と言われている。つまり母親との親密度が高ければ高いほど、仔猫の社会的学習が促されるらしい。


その一例が、母親が側にいると、未知のニンゲンや動物が近づいてきても脅威を感じない、というものだ。
Larea140517-104c.jpg
二度目の対面とはいえ、彼らにとって未知のニンゲンである私が近くにいても、こうして遊びに興じていられるのも、リンが寄り添っているからだろう。


しばらくすると、サバ白と黒シロの子は灌木の中へ入っていった。おそらく眠くなったのでねぐらへ戻ったのだろう。
Larea140517-106c.jpg

Larea140517-107c.jpg
その後は、残ったふたりの仔猫とリンの穏やかな時間がすぎていく。リンも目を閉じて身じろぎしなくなった。
これ以上母子の大切な触れ合いを妨げないよう、私はその場からそっと離れた。



しばらく待っていると、授乳を終えたリンが近づいてきた。
Larea140517-108c.jpg

Larea140517-110d.jpg

Larea140517-109c.jpg
私が労いをこめて撫でると、リンはさっきまでの母の顔を脱ぎ去り、気持ち良さそうに目を細める。


リンを撫でているうちに、私の心の底で、ある決意が固まりかけていた。
Larea140517-111c.jpg

Larea140517-112c.jpg
「リン、もう一度頼んでみるよ。今度は別のニンゲンだから許してくれるかもしれない」


去り際に振りかえると、リンは陽だまりに体を横たえていた。
Larea140517-113c.jpg
しかし、目はしっかり見開いている。


ニンゲンが滅多に足を踏み入れない防砂林の奥にも外敵はいる。ここにはカラスやトンビの他にも、小動物を捕食するアライグマやタヌキが生息しているのだ。
Larea140517-114c.jpg
さらにオス猫ですら警戒を要する敵となる。なんとなれば、オス猫はしばしば仔猫を殺してしまうからだ。


やはり疲れていたらしく、リンはやがてためらいがちに目を閉じた。
Larea140517-115c.jpg

Larea140517-116c.jpg
リンの束の間の眠りを邪魔しないよう、私は出来るだけ音を立てずにあとずさった。


下草のなかで眠るリンのキジトラ柄は、保護色となって周りに溶けこんでいる。
Larea140517-117c.jpg
その様子は、あたかも水底で息を殺して沈潜している水棲生物を思わせた。


scenery140517-05c.jpg

scenery140517-07d.jpg

scenery140517-06c.jpg


朝はやはり体の調子が良くない。

通常、海岸に来ると2時間程度はとどまっているのだが、この日は1時間あまりで引き上げることにした。

それでなくても重く感じる身体に、新たな決意を抱えて、私は帰路についた。



ブログランキングに参加中
気に入って頂けたら下のバナーをクリックしてください
にほんブログ村 猫ブログ 野良猫へ
いつも応援ありがとうございます


【 コメントに関して 】
◆コメントは承認制です。
◆非公開コメントも可能です。
◆コメント返しは次の更新後にさせていただきます。
◆地名などの固有名詞を記したコメントはご遠慮ください。


関連記事
スポンサーサイト


コメント

  1. ケン | URL | -

    wabiさん、おはようございます。

    更新が早くなったので、嬉しく思います^^

    ところで、wabiさんのように、毎回海岸猫に関わって、お世話をする姿を見てると、胸が熱くなります。
    感動します。
    弱者の猫のためとは言え、普通の人には、なかなかできるものではありません。
    これからも、よろしくお願いいたします。

  2. ねこやしき | URL | ezOaKyPo

    wabiさん、こんにちは。体調が悪い中でも、精一杯出かけていったくださり、
    いつも猫たちへの愛情いっぱいの情報を提供してくださることを感謝しています。
    「私は君たちを救い出してやれない」とご自身を責められますが、そんなことはありません。
    避妊手術を施してくださったり、安全を確かめてくださったり、時には危険人物に恐れなく
    立ち向かってくださったり… 素晴らしいです。
    それぞれが置かれている立場の中で可能な事を行なう、それで十分だと私は思います。
    wabiさんの猫たちを怯えさせない優しい接し方、憐れみ深いまなざしがあふれるブログに
    慰めを見出しておられる読者も多いと感じます。
    どうか心と体の健康に留意されて、これからも猫たちに会いに行ってくださいますように。
    感謝をこめて。

  3. orenge | URL | iAn.OV3g

    おはようございます。

    こんなにかわいい子供たちをwabiさんに逢わせてくれるなんて
    リンちゃんがいかに信用しているかという証拠なんですね。^^
    本当に可愛いし連れて帰りたくなります。

    wabiさんの決意大いに賛成します。

    その前に体調を崩されませんように。
    この台風が過ぎ去ると、少しは気分も良くなるかもしれませんよ。

    この子達がwabiさんの心の支えになっていること、お互いに支え合っている
    とてもよく理解できます。

    この物語が何事もなく紡がれてゆくことを願います。

  4. まさっぴいの夫 | URL | -

    こんばんは!

    厳しい環境にあっても親子のふれあいを見ると
    心がなごみます。
    りんちゃんにとってwabiさんは親同然の存在でしょう。
    新たな決意がりんちゃんファミリーにとって幸せな
    結末を迎えることを期待しております。

  5. ・pokopoko・ | URL | -

    wabiさんこんにちは~(*^▽^*)

    wabiさんこんにちは~(*^-^*)

    また1匹黒ちゃんが引き取って
    いただけるということで安堵しました。

    wabiさんが何度も言われてるように
    捕獲は困難な状態なのですね。。

    何かお役に立てればと思うのですが
    知識も何もないのでただただ成功することを
    祈るばかりです。

    季節の変わり目なので
    だいぶん寒くなってきましたね。
    wabiさんお体お大事にしてくださいね~(*^▽^*)

  6. wabi | URL | -

    ケンさんへ

    ケンさん、更新が早くなったのは苦肉の策を用いたからです。
    初めての試みですが、最初から一話を前編と後編に分けて構成しました。

    更新を重ねるうちに写真点数が増え、最近は100点を超えることもあり、
    冗漫の誹りを受け兼ねないほどになったのが主な理由です。

    一話完結でなくても更新が早いのが良いのか、更新が遅くとも完結した話を求めているのか、
    読者の反応をしばらくみたいと思っています。

    ボランティアの方々の尽力を思えば、私のしていることなど大したことありません。

  7. wabi | URL | -

    ねこやしきさんへ

    過分なお褒めの言葉をいただき、ただただ恐縮しています。
    ありがとうございます。

    おっしゃるように個人が出来ることは限られています。
    私も自身のキャパを超えられないのは分かっているのです。
    ただそう頭で理解していても、実際に過酷な環境に暮らす猫たちと接していると、
    激しい情動が起こるのを抑えられなくなるのも事実。

    私の性格だと、これからも理性と感情の狭間で葛藤するでしょう。
    でも、ねこやしきさんのお言葉を胸に刻み、微力ながらこれからも猫たちを
    見守っていきたいと思います。

  8. wabi | URL | -

    orengeさんへ

    リンに信頼されていることは私も十分承知しています。
    そして、そのことについてはリンに感謝しているのです。
    仔猫のところへ行くときのリンは、用心に用心を重ねていますから
    信頼していないニンゲンの接近を許さないでしょう。

    「仔猫たちを劣悪な環境から何とかして救い出したい」
    「また、これ以上リンの身体に負担をかけたくない」
    実行には様々なハードルがありますが、私の決意はほぼ固まっています。

  9. wabi | URL | -

    まさっぴいの夫さんへ

    事情が許せば、リンの本当の父親になりたいですね。
    言葉でのコミュニケーションはとれませんが、
    親しい猫と触れ合っていると、何となく気持ちが分かりあえます。

    リンを長生きさせるためにも、私の決意は当然の成り行きです。

  10. wabi | URL | -

    ・pokopoko・さんへ

    野良猫の捕獲には頭を悩まされます。
    それも数匹のなかで特定の子を捕獲するのは難しいですね。

    我が家の元海岸猫なんて、衝動的に保護しようと決めたので、
    だっこしてそのまま家に連れてきましたが、こんなことは稀ですね。

    お気遣い、ありがとうございます。
    ・pokopoko・さんもご自愛ください。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)