三度目の提言 (後編)

2014年10月24日 01:00

私は仔猫の許へ行くと思われるリンの後を追ってエリアを出た。

ところがそのとき、それまで姿を見せなかったタクローがいきなり登場。

するとリンはその場所に留まると、さらに我が子のことなど忘れたように小鳥との駆け引きに心を奪われてしまった。


リンは腹ばいになったきり1ミリも動いていない‥‥というより、動きたくても動けない、と表現したほうが正しい。
Larea14May18-74c.jpg

Larea14May18-86d.jpg
我々に気付いているのか、小鳥はこちらに近づいてくる気配をまったく見せず、20メートルの距離を保ったままだ。


母の緊張した様子を無視するように、タクローが目の前を横切っていく。
Larea14May18-75d.jpg

Larea14May18-76d.jpg
どうやらタクローも2羽の小鳥の存在に気がついたようだ。


しかしタクローは肉食獣の本能が希薄なのか、狩りに興趣を感じないようだ。
Larea14May18-77c.jpg

Larea14May18-78c.jpg
再びリンの前を横切るタクロー。息子の無神経な行動に閉口したのか、リンはついと横を向いた。


Larea14May18-79d.jpg

Larea14May18-80c.jpg
タクローはおもむろに地面に体を横たえる。徹頭徹尾、マイペースな猫である。


ニンゲンにもいるだろう、言うところの『 自己中 』とか『 空気が読めいない奴 』が。
タクローも、おそらくそうした類いの気質を持っていると思われる。

Larea14May18-81c.jpg

Larea14May18-82c.jpg
だがその気質のお陰で、防砂林で育った兄弟のなかで唯ひとり生き残ったとも言える。


野良猫が生き長らえるのは並大抵のことではない。それを今のところ成し遂げているタクローの生き様を非難することはできない。
Larea14May18-83c.jpg
無傷な右眼は、おそらく我々の想像を絶する悲惨な光景を見てきたのだろう。


Larea14May18-84c.jpg
タクローがいきなり頭をもたげた。


「やはり小鳥が気になるのか?」
Larea14May18-85c.jpg
2羽の小鳥は相変わらず獲物探しに余念がなく、我々を気にしていないようだ。


タクローは母に倣って小鳥がいる方向を見ているが、その態勢に緊迫感はまったくない。
Larea14May18-87c.jpg

Larea14May18-88c.jpg
猫もニンゲンと同様に、右眼と左眼に写る像のズレで対象物までの距離を測る。


左眼が白濁しているタクローはその機能が上手く働いていない可能性が高い。
Larea14May18-89c.jpg
そう考えると、タクローが小鳥に興味を示さないのも理解できる。


タクローは警戒しながら、私の脇を慎重な足どりで通り抜けていく。
Larea14May18-90d.jpg

Larea14May18-91d.jpg
そしてコンクリの土台に跳び乗ると、頭を擦りつける。


改めてタクローの左眼を観察すると、瞳孔はほどんどを白濁した角膜で覆われているようだ。
Larea14May18-92d.jpg
この状態だと瞳孔を狭めている昼間など、左眼はほとんど見えないだろう。


「遠近を識別できないから、怯懦で猜疑心の強い性格になったのか‥‥」
Larea14May18-93d.jpg

Larea14May18-94d.jpg
ニンゲンを必要以上に警戒するのも、それがためかもしれない。


と、そのとき、前方から一人の男性が歩み寄ってきた。


それは先日エサ場で会ったデニムのエサ遣りさんだった。
Larea14May18-95e.jpg

Larea14May18-96e.jpg
デニムの男性と私は互いに軽く会釈を交わした。


彼がカリカリをコンクリ台に置くと、リンとタクローは競うように食べはじめた。
Larea14May18-97c.jpg

Larea14May18-98c.jpg
「リンはさっき食べたばかりなのに、足りなかったのか、それともこのカリカリが格別美味しいのか‥‥」


Larea14May18-100d.jpg

Larea14May18-100e.jpg
この男性は、タクローが唯一馴れているニンゲンのはず。それなのに、ときおり腰をひいて怯えた表情を見せるタクロー。


私はこのデニムの男性にいくつか訊いてみたいことがある。
Larea14May18-99e.jpg
まず、エサ場の食器が替わった理由を尋ねてみた。どう考えても以前の食器のほうが猫のエサ入れに適していたからだ。


すると、男性は「前の食器は無くなったんだ。ここ(防砂林)を管理している職員が片付けたんだろう」と言った。
Larea14May18-101c.jpg
しかし私はそうは思えなかった。なんとなれば、この防砂林のなかには他に片付けなければならないモノが沢山あるからだ。


それなのに、誰が見ても野良猫のためと分かる食器を敢えて持ち去るとは考えられない。
Larea14May18-102c.jpg
防砂林を管理する職員がそこまで薄情でないことは、海岸猫の墓を黙認していることからもうかがい知れる。


私は猫嫌いで陰険なニンゲンが食器を持ち去って遺棄したと推測している。
Larea14May18-103c.jpg
それというのも、過去に同じようなエサ場荒らしが何度も起こっているのを知っているからだ。


海岸で暮らす猫たちはニンゲンに迷惑をかけていない。それなのに猫を蛇蝎のごとく嫌う輩が、八つ当たり的に海岸猫たちを虐待するのだ。
Larea14May18-104c.jpg

Larea14May18-105d.jpg
こういうゲス野郎は通常、残忍な素顔を善人面で糊塗して海岸を闊歩している。
私はだから、いつかそいつの化けの皮を剥がしてやろう、と密かに機会をうかがっているところだ。



Larea14May18-106c.jpg

Larea14May18-107c.jpg
なぜかデニムの男性を警戒していたタクローだったが、やっとその警戒心を解いたようだ。


ところが‥‥。
Larea14May18-108c.jpg


何が気に障ったのか、タクローは男性の手にいきなり猫パンチを放った。
Larea14May18-109c.jpg

Larea14May18-110c.jpg
しかし本気のパンチではない。
男性が痛がる様子を見せないくらいの、手加減を加えたパンチだ。



研ぎ澄まされた猫の爪は、鋭利な凶器となる。
Larea14May18-111c.jpg
怒りや恐れが込められた力の限りのパンチならニンゲンはまず避けられないし、出血もまぬがれない。


力の入っていない猫パンチも、とどのつまりは男性への甘えの所作だったのだろう。
Larea14May18-112c.jpg

Larea14May18-117c.jpg
今更だが、猫とはこのようにニンゲンの予測不能な行動をとる不思議な生き物なのだ。


Larea14May18-a.gif


飼っている動物が自分の言うことをきかないと我慢できない傲慢なニンゲンには、猫の魅力は分からないだろう。永遠に‥‥。
Larea14May18-120c.jpg

Larea14May18-121c.jpg

Larea14May18-122c.jpg

Larea14May18-123c.jpg


私は先日リンの子供を目撃した経緯を、デニムの男性に報告した。
Larea14May18-141c.jpg

Larea14May18-142c.jpg
果たして男性は「母猫が子供産んだことは知っているけど、まだ子供とは会っていない」と言った。


私はそこで、意を決して口を開いた。
Larea14May18-143c.jpg
「この母猫はすでに4回も出産しているから、もう不妊手術を受けさせたほうがいいと思うんだけど」と努めて軽い口調で言ってみた。


すると男性は薄く笑いながら「前にも同じことを言ってきましたね」と、意外な話を語りはじめた。
Larea14May18-124c.jpg

Larea14May18-125e.jpg
私が訝っていると、「ほら、火事で焼けたテントにあなたよく来てたでしょ。あそこで何度か顔を合わせてますよ。だから以前にも母猫に手術を受けさせたい、と言ってきたことを知っている」と男性は言った。


そう言われても、私はこのデニムの男性のことをまったく憶えていない。
140405-089z.jpg

なんとなれば、あのテント小屋は当時ホームレスと元ホームレスの人たちにとっての社交場で、不特定多数のニンゲンが出入りしていたから、それらすべての顔を憶えるのは無理な話だ。

140405-084y.jpg
男性は話をつづけた‥‥。2012年の秋に、リンが育児放棄したキジトラとキジ白の仔猫を、私の仲介で里子に出したことも知っている、と言う。


「ああ、そうだったんだ‥‥」私は気のない返事をして、肝心の答を待った。
Larea14May18-126d.jpg
やがて男性は私に背を向けたまま口を開いた。そして、「手術はしなくていいですよ」と呟くように言った。


私は感情がすぐ顔に出るタチだ。なので、男性が正面を向いていたら、私の顔色が変わったのに気がついたはずだ。
Larea14May18-127c.jpg

Larea14May18-128c.jpg
私の心の中には、戸惑いと憤りがふつふつと沸き立っていた。


喉元まで出かかった言葉を、私はぐっと呑みこんだ。
Larea14May18-129c.jpg

Larea14May18-130c.jpg
私が異議を唱え不妊手術の必要性を説いても、デニムの男性と不毛な議論がはじまるのは分かっていた。


デニムの男性は去っていった。
Larea14May18-131c.jpg
男性の正体について、私はさっぱり見当がつかない。
最近では一目でそれと分かるホームレスは少なく、皆一様にこざっぱりした格好をしている。



だから彼もホームレスの可能性はある。しかし、ニューバランスのスニーカーを履いたホームレスなど、少なくとも私は見たことがない。
Larea14May18-132c.jpg

Larea14May18-133c.jpg
分かっているのは、リンとランが生まれ育ったテント小屋に出入りしていたと言っていたから、そこに住んでいたホームレスと何らかの関係があることくらいだ。


こうして、私の “ 三度目の提言 ” も拒否されてしまった。
Larea14May18-134c.jpg

Larea14May18-135c.jpg

Larea14May18-136c.jpg
「だがなリン、私はこれで諦めたわけじゃないぞ。機会を見ていつかお前に不妊手術を受けさせてやるからな。そうすればお前も長生きできる」


不幸な子を増やさないためにも、また母猫の子宮の病気や乳癌の予防のためにも、独りで生きる野良猫にとって、不妊手術は必要不可欠だ。
Larea14May18-137c.jpg

Larea14May18-138c.jpg
しかし動物愛護を唱える人たちの中には、未だに犬猫の不妊手術が一種の虐待行為だと公言する人が少なからずいる。


「その人たちは知っているのだろうか?」

望まれずに生まれてきた子を含めた数多くの犬猫が、保健所や愛護センターにおいて、どんな方法で殺されているのかを。


参考のため、記事の後にその様子を記録した動画を転載した。

もしその動画を観てもまだ、野良猫への不妊手術が虐待だと思う人がいたら、それは生命に対する観点が私と違っているからで、永久に相容れることはない。



いつの間にかタクローは防砂林の奥へ姿を消してしまった。
Larea14May18-139c.jpg


リンはなぜか仔猫が待つねぐらへ行く目的を忘れたように、草むらの中で動く気配を見せない。
Larea14May18-140c.jpg
人が疎らになった海岸には、さらに大きくなった波音が鳴り響いている。


リンに別れを告げてエリアを離れた私は、しばし荒れた海を眺めることにした。
Larea14May18-149b.jpg

Larea14May18-150b.jpg

Larea14May18-151b.jpg
白波を立てている海と同じように、私の心も少々荒れている。


デニムの男性との遣り取りを思い返し、そしてリンの現状に考えが及ぶと、私の気分はひとりでにうねってくるのだ。
Larea14May18-144.jpg

Larea14May18-145.jpg

Larea14May18-146.jpg

Larea14May18-147.jpg
「‥‥リン!」
しかし、私の声は砂浜で砕ける波の音にかき消されてしまった。



scenery14May13-07d.jpg

scenery14May13-08e.jpg

scenery14May13-09d.jpg



ブログランキングに参加中
気に入って頂けたら下のバナーをクリックしてください
にほんブログ村 猫ブログ 野良猫へ
いつも応援ありがとうございます




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

【殺処分の現実】

この現実から目をそらして動物愛護を語るニンゲンなんて所詮は似非だ!

『 犬編 』



『 猫編 』





【 コメントに関して 】
◆コメントは承認制です。
◆非公開コメントも可能です。
◆コメント返しは次の更新後にさせていただきます。
◆地名などの固有名詞を記したコメントはご遠慮ください。


関連記事
スポンサーサイト


コメント

  1. orenge | URL | iAn.OV3g

    きっといつか・・・。

    やっぱり・・・という気持ちです。
    今回は残念でしたが、必ず通じると思います。
    避妊することがリンちゃんの為になると思うのですが、虐待とか
    残酷な事をするようなイメージがあるのでしょうか?

    海の荒々しさが心の重みを浮き立たせています。
    殺処分の動画はどうしても立ち直ることが出来なくなります。
    今までに何度も見ていますが。

    wabiさんの為に、もしかしたらご存知かもしれませんが、この動画を。
    癒されますように。。。

    Dog, Cat, and Rat
    http://youtu.be/D85yrIgA4Nk

  2. まさっぴいの夫 | URL | -

    wabiさんはお人柄が良過ぎて、優し過ぎますね。

    「やがて男性は私に背を向けたまま口を開いた。そして、
    「手術はしなくていいですよ」と呟くように言った。」
    「私の心の中には、戸惑いと憤りがふつふつと沸き立っていた。」
    「喉元まで出かかった言葉を、私はぐっと呑みこんだ。」
    「こうして、私の “ 三度目の提言 ” も拒否されてしまった。」
    という文章は私ならばあり得ないですね。

    私が飼い猫でないリンちゃんを不妊手術すべきと考え、それが客観的に
    正しいのですから、いちいちエサやりの兄ちゃんの承諾なんかとりませんよ。
    黙ってさっさとリンちゃんを病院に連れて行きます。

    もし仮に後でなんかインネンつけてきたら「ウルサイ!ごちゃごちゃ要らんこと
    をこれ以上言うんやったら、その減らず口が使われへんようにするぞ!
    痛い目に遭いたなかったら さっさと失せろ!」・・・これが私です。

    wabiさんからは信じられない強引で下品な男ですが、正論を言ってもわからん
    やつには最悪、暴力も辞さずで正しいことを貫くことも必要なことがあるのですよ。


  3. ケン | URL | -

    wabiさん。
    こんにちは。

    リンが野良猫である限り、リンはみんなのものです。
    デニムの男性だけのものではありません。

    wabiさん、がんばってください^^

  4. wabi | URL | -

    orengeさんへ

    知人が野良猫に不妊手術を受けさせるために病院の待合室にいたとき、
    見知らぬご婦人に「こんな可愛い子を手術するなんて可哀相」と皮肉たっぷりな
    言葉をかけられたそうです。
    こういう似非動物愛護家にはむかっぱらが立ちます。

    リンのことは諦めていません。
    いつか、必ず‥‥。

    素敵な動画をご紹介いただきありがとうございます。
    ニンゲンも宗教や人種の垣根を超えて仲良くすべきですね。

  5. wabi | URL | -

    まさっぴいの夫さんへ

    リンの不妊手術についての率直なご意見ありがとうございます。

    でも私は人柄も良くはないし、誰に対しても優しくはありません。
    ただボランティアの人とのトラブルは避けるようにしています。
    自分の出来ないことをしている彼らを私はリスペクトしているし、
    また一種の負い目すら感じているからです。

    でもリンのことは諦めていません。
    彼女のためにいつか行動を起こします。

  6. wabi | URL | -

    ケンさんへ

    私の思いは今回も相手に通じませんでした。
    しかし私はめげていません。

    現在の私は病のために行動するまで時間を要しますが、
    元々私はしつこい性格ですから‥‥。

    励ましの言葉、ありがとうございます。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)