早朝の情景 (前編)

2014年11月25日 22:00

『 早起きは三文の得 』という諺があるが、私には皮肉にすら感じられる

なんとなれば、睡眠障害に罹ってからは早すぎる目覚めに落胆してばかりだからだ。

それに早く起床したからといって、薬の効果が残った頭は霧がかかったような半覚醒状態で、木偶のように数時間呆けていることしかできなのだから、私にとって早起きは時間の損失に他ならない。

ところが、ごく短い睡眠時間しかとれなくても、雲ひとつない碧天のように頭の中がスカッと澄み渡るときがある。

こらから記すのは、そんな稀な日にあった出来事だ。


早朝の湘南海岸。
Rarea14May01c.jpg

Rarea14May02c.jpg

Rarea14May03c.jpg


言っておくが、『 早起きは三文の得 』という諺を否定しているわけではない。
私とて早起きには様々な良い効用があるのは承知している。


そしてこの日、早期覚醒した私もその恩恵にあずかった‥‥。


黄色のウインドブレーカーを着た小柄な女性は、ランの世話をしているボランティアのエサ遣りさんだ。会って話がしたいという、ランの猫ハウスを見てからの願いがやっと叶ったのである。
Rarea14May04c.jpg
女性が帰宅を急いでいたので、長く話せなかったが、それでも私が海岸を離れていた空白を埋める貴重な情報を与えてくれた。
その情報はこれからの記事でおいおい述べていくことにする。



しばらく待っていると、朝食を終えたランが防砂林から出てきた。
Rarea14May05c.jpg

Rarea14May06c.jpg
ところがランはその場にうずくまると、険しい目付きで前方を見つめたまま動こうとしない。


後ろを振りむいて、ランが警戒している訳が私にも理解できた。
Rarea14May07c.jpg
砂浜への降り口に1頭の犬がこちらを向いて陣取っているのだ。


その犬が飼い主に連れられて立ち去ると、ランはすぐに砂浜へ降りる階段へやって来た。
Rarea14May11c.jpg

Rarea14May08c.jpg


陽光があまり当たらない防砂林の中より、日差しを遮るものが何もない海岸のほうが猫だって気持ちいいに決まっている。
Rarea14May09c.jpg

Rarea14May10c.jpg
『 野良猫だからといって、いつも日陰で怯えていることはないんだ 』
彼らが何者にも脅かされずに陽の当たる場所へ出られる日が訪れることを、私は願ってやまない。



私が近づくと、ランは何の前触れもなくばたりと横転した。
Rarea14May12.jpg
いつも思うのだが、猫はどうして寝転がるとき、卒倒するようなやり方をするのだろう。


しなやかな動きが信条の猫のことだから、もっと優雅な寝転び方ができると思うのだが‥‥。
Rarea14May13.jpg

Rarea14May14.jpg

Rarea14May15.jpg

Rarea14May16.jpg
朝陽を全身に浴びて、ランはいかにも心地よさそうだ。


ランはそれから一連の行動のように毛づくろいをはじめた。
Rarea14May17.jpg

Rarea14May18.jpg
猫はキレイ好きでしょっちゅうグルーミングをする。


主な目的は身体を清潔に保つことだが、体温調整や皮膚病の予防、さらには精神的ストレスを和らげる効能もある。
Rarea14May19.jpg

Rarea14May20.jpg

Rarea14May21.jpg
ランは殊のほか潔癖なタチで、入念に毛づくろいをする。


いつもなら‥‥。
Rarea14May25.jpg
しかし、今回はあっさりと毛づくろいをやめてしまった。やはり猫は気紛れだ。


猫が仰向けになり手招きするようなこのポーズは、「ワタシ(ボク)と遊んでよ」という意思表示である。
Rarea14May28.jpg
ランはそういう真似をしないが、馴れた猫でもこの状態のとき不用意に手を出すと、その手は爪を立てた前足につかまれ、後足による “ 猫キック ” を食らうことになる。


猫パンチが単発銃なら、猫キックは連発銃のような威力をもつ恐怖の攻撃で、まともに受けるとそのダメージは猫パンチの比ではない。
Rarea14May26.jpg
「それはともかく、ラン、ここは人目があるから後で場所を変えて遊んであげるよ」
私が海岸猫と本気で遊ぶのは、たいてい撮影を終えて周りに人がいないときだ。



なんとなれば、彼らの身の安全を考えて人馴れしていることを喧伝したくないからだ。逆に撮影時は『 この猫は多くの人に護られている 』ということを周りに知らしめる行動を心がけている。
Rarea14May29.jpg

Rarea14May31c.jpg
ただその匙加減はなかなか難しく、自分の思いどおりの伝わり方をしているかどうか自信はない。


そのとき、1匹のプードルが通りかかった。
この子は以前にも何度かブログに登場してくれたワンコ友達の『 ミミちゃん 』だ。

Rarea14May32b.jpg

Rarea14May33b.jpg
ミミちゃんは自分が犬だと自覚していないのか、猫に親しみを感じている様子で、いつもランに近づこうとする。


でも体つきが猫とおっつかっつのミミちゃん、迂闊に近づくとランの一方的な攻撃に遭ってしまうだろう。
Rarea14May34b.jpg
「ランに親近感をいだいてくれるのは嬉しいけど、キミをそんな目に遭わせたくないんだよ」
運命的なめぐり合わせがあって猫ブログを始めたが、私は元々犬も大好きなのだ。



ランの反応が気になり振り向くと、彼女は階段を降り切って砂浜に寝転がっていた。
Rarea14May35b.jpg

Rarea14May36b.jpg
ひょうきんな表情のランは、まるで「こっちへおいでよ」と私を誘っているように見えた。


周りに人がいないのをイイことに、ランは砂浜で腹を見せている。
Rarea14May37b.jpg

Rarea14May39b.jpg

Rarea14May40b.jpg

Rarea14May41b.jpg

Rarea14May44b.jpg
「野良猫がそんな無防備な格好をしちゃダメだ」そう思いながらも、私は惹きつけられるように階段を降りっていった。


私が砂浜に降りるまで、ランは寝転がったままという無警戒ぶりだった。
Rarea14May45b.jpg


そして私がカメラを構えるのを待っていたかのように、また体をくねらせ始めた。
Rarea14May46b.jpg

Rarea14May47b.jpg

Rarea14May48b.jpg

Rarea14May49b.jpg

Rarea14May50b.jpg

Rarea14May51b.jpg

Rarea14May52b.jpg

Rarea14May53b.jpg


猫がニンゲンの前で腹を晒すのは「あなたを信頼していますよ」という親和的なメッセージもこめられている。
Rarea14May54b.jpg
それだけでも嬉しいのに、仰向けのまま見つめるという、悩殺ポーズをされると猫好きは悦楽の境地にまで到達してしまう。


こういう行為をするからといって、猫はニンゲンに愛嬌を振りまいている訳でも媚を売っている訳でもなく、ごく自然な感情の発露である。
Rarea14May55b.jpg

Rarea14May56c.jpg
最近はリンエリアに頻繁に通い、ランとまともに会うのは久しぶりで、彼女もそのことを喜んでくれているのか‥‥。


もしそうであっても、嬉しさより切なさを感じてしまうのは私の性格のせいだろう。
Rarea14May57c.jpg

Rarea14May58b.jpg
この時間帯にしては珍しく浜辺に人影は疎らで、ランが敵対視する犬の姿も見えない。


穏やかな波打ち際には、ほぼ同じ間隔を空けて釣糸を垂らしている釣人がいるだけだ。
Rarea14May61b.jpg

Rarea14May63b.jpg


こういう僅かな間隙をねらってランは砂浜に降りているのだろう。
Rarea14May59b.jpg

Rarea14May60b.jpg


こんな日は滅多にないからか、ランはまたぞろ砂の上に横たわった。
Rarea14May64b.jpg

Rarea14May65b.jpg
朝陽によって適度に温められた砂が心地いいのだろう。


「ラン、それは反則だよ」
こんな可愛い仕草を見せられると、思わず笑みがこぼれてしまう。

Rarea14May66b.jpg

Rarea14May67b.jpg

Rarea14May68b.jpg
“ 防砂林に住まう人 ” のテントで生を享けて4年、ニンゲンの年齢に換算すると30~32歳で、言うところの『 アラサー女子 』である。


3匹の子供をもうけたが、いずれも行方知れずになってしまった。2年前に私が不妊手術を受けさせたから、もう子供は産めない。
Rarea14May70b.jpg

Rarea14May71c.jpg
不幸な子を増やさないためにも、ランの身体のためにも、私のしたことは正しかったと確信しているが、独りで無聊そうなランを見るにつけ複雑な心境になるのもまた事実だ。


ボランティアの女性にアスカのことを訊いたところ、正確な時期は忘れたが去年のうちに行方不明になったと言う。
Rarea14May74b.jpg

Rarea14May75b.jpg
私が不在の間にアスカの身に何が起こったのか、知っているのは母親であるランしかいない。
しかし、何度アスカのことを尋ねても、ランは緘黙をとおして何も教えてくれない。



人懐こかったアスカのことだから、優しい人に保護されて、今は家猫として幸せに暮らしている可能性が高い、と思っている。
Rarea14May76b.jpg

Rarea14May77b.jpg
それに、無理にでもそう思わないと、私の心の痛みがいや増す。


野良猫は入院させてもらえない動物病院だったので、不妊手術を受けたランとアスカを部屋に一泊させた。(詳細は【不妊手術 その参『退院』】を参照)
Rarea14May79b.jpg
生後半年だったアスカだけでもそのまま保護して、里親を見つけてやっていたら行方不明という曖昧な別れをしなくて済んだのにと悔やまれる。


あの時の判断は、長く保護できない事情が私自身にあったのと、仲睦まじい母子を離ればなれにさせたくないという、今思えば浅薄で皮相な考えから下したものだ。
Rarea14May80b.jpg

Rarea14May81b.jpg
見苦しい自己弁護と受けとられるのを承知で言うが、「私にはできる事とできない事が画然としているし、至らないニンゲンだから判断を誤ることも多々あるんだ」


「だから許してくれよ、ラン‥‥」
が、このような状況に己を追いこんだのは、私自身が無為に馬齢を重ねてきた結果である。

Rarea14May82b.jpg
‥‥どうやら、私は後悔が新たな後悔を生む負のスパイラルに陥っているようだ。


それまで砂浜でのんびり寛いでいたランはいきなり体を起こすと、階段を足早に登っていき、格好から一目でロードバイカーと分かる男性の足許に端座した。
Rarea14May83b.jpg

Rarea14May84c.jpg
てっきりランの顔見知りかと思ったが、なぜかその男性はランに一瞥もくれずリュックから取り出したドリンクボトルで喉を潤している。


ランの表情には困惑と落胆の色が見える。
誰か別の人と勘違いしたのだろう。猫の視力は存外悪く、遠くのものははっきりと識別できない。

Rarea14May85b.jpg
推察するに、顔見知りの中にやはりサイクルウェアを着たロードバイカーの男性がいるのだろう。


そのランに、黒ずくめの男性が何気ない風を装って近づいてきた。
Rarea14May86b.jpg
この男性、さっきからファインダーと私の視界に出たり入ったりしながら、意図的にランを見ないで接近するという不審な行動をとっていた。


ロードバイカーが腰をあげると、それを待っていたように、黒ずくめの男性はその場に屈み、ランを撫ではじめた。
Rarea14May87b.jpg

Rarea14May88b.jpg
ランは嫌がる様子を見せず身を委ねている。


慈しむようにランの身体を撫でる男性の横顔は、孫と遊ぶ好々爺といった風情だ。
ただ、すぐ側でその場景を撮影している私はまるっきり無視されている。

Rarea14May89b.jpg

Rarea14May90b.jpg
そうして、私に話しかけるきっかけを与えないまま男性は立ち去った。


同年代だと思われるふたりだったが、完璧に黙殺したロードバイカーの男性、気兼ねしながら接してきた黒ずくめの男性と、ランに対する態度はまるで違っていた。
Rarea14May91b.jpg

Rarea14May92b.jpg
同じニンゲンなのにどうして自分への対応が違うのか、ラン自身も戸惑っているのではないだろうか。


「大丈夫だよラン、私のお前に対する想いはいつまでも変わらないから」
Rarea14May93b.jpg

Rarea14May95d.jpg

Rarea14May98b.jpg
私の言ったことが分かったのか、ランは私の目の前でゆっくりと横たわった。


しばらくすると、朝陽を全身に浴びながらランは束の間の眠りについた。
Rarea14May96b.jpg

Rarea14May97b.jpg

Rarea14May99b.jpg
「ラン、悪いけど、私がお前の為にしてやれる事には限りがある。それを分かったうえで付き合ってくれると嬉しい」


Rarea14May100b.jpg

Rarea14May101b.jpg


〈次回へつづく〉



ブログランキングに参加中
気に入って頂けたら下のバナーをクリックしてください
にほんブログ村 猫ブログ 野良猫へ
いつも応援ありがとうございます


【 コメントに関して 】
◆コメントは承認制です。
◆非公開コメントも可能です。
◆コメント返しは次の更新後にさせていただきます。
◆地名などの固有名詞を記したコメントはご遠慮ください。


関連記事
スポンサーサイト


コメント

  1. ケン | URL | -

    wabiさん。
    おはようございます。

    ランは、元気そうで安心しました^^
    でも、アスカが急に消えたことは、どうなったのか心配ですね。

    のら猫の宿命と申しましょうか、急にいなくなるのは、普通におこってるように思います。
    いろんな地域ののら猫もそうですね。
    家猫のように、彼らをガードする物がないのが、最大の原因ですね。

    アスカに限らずに、急にいなくなった猫には、誰かの家に入って、家猫として、幸せをつかんでほしいものです。

  2. ねこやしき | URL | ezOaKyPo

    wabiさん、こんにちは。
    体調不良の中でも、いつもブログの更新ありがとうございます。
    「自分にできる事をすれば良い。そうする事しか出来ないのだから」と自分に言い聞かせながら、
    やはり、力不足を嘆き、過去に下した判断も、当時は善かれと思ってしたのに「更に良い決断はできなかったのだろうか」と悔やむ… 
    それは私にも、これまでいつの日も付きまとってきたものです。限界があり、仕方ないと分かりつつ…
    居なくなった猫たちのことを思う時、往々にして悪い結果を想像するのが常ですが、
    そうでないケースも後に知ることもあったので、楽観的にはなれないまでも、慰めになります。
    最近は猫ボランティアのグループや個人も増え、自分の知らないところでの活動を聞き及ぶようになったので、それも心温まります。
    私が海岸の近くに住んでいたら… などと時々妄想してしまいます。
    遠くからランたち海岸猫の幸せを願うことしかできませんが、わたしは地元で引き続き頑張ります。
    wabiさんの温かな気持ちにふれて慰められます。いつもありがとうございます。

  3. 荒野鷹虎 | URL | Nkc.7oOw

    wabiさんへ!!

    何時もながらこのようにまじめに最後まで見られるブログはそうありません。涙なく読めないすばらしい世の中への警告書と思います。永続を切に期待いたします。!!

  4. orenge | URL | iAn.OV3g

    こんばんは。

    いつもながら考えさせられます。
    過ぎたことと言えないのが辛いところ。
    私はwabiさんは間違っていないと思います。

    こんな可愛いしぐさを見せてくれると堪りませんね。
    私も犬も猫も大好きです。
    心の内を思うと・・・言葉が見つかりません。

  5. wabi | URL | 0MXaS1o.

    ケンさんへ

    海岸猫もある日突然姿を消します。
    見るからに健康を害しているならともかく、元気だった猫が
    いきなり行方不明になるのですから不思議です。

    だから本人の意志ではなく、ニンゲンが関与していると憶測しています。
    実際に保護されたとういう情報も耳に入ってきますが、幸せをつかんだのは
    行方不明になった海岸猫のごく一部でしかありません。
    ただ私が知らないだけで、もっと多くの子が保護されている可能性もあります。
    私としてはそうあってほしいと願うのみです。

  6. wabi | URL | 0MXaS1o.

    ねこやしきさんへ

    自分が健康体だったら、そしてもっと財力があったら、多くの海岸猫を救えるのに、
    とついつい考えてしまいます。
    しかし、できる事とできない事を峻別して、現状で実行可能な範囲で猫たちを守る、
    これは以前にねこやしきさんから言われたことで、箴言として心に留めています。

    私自身も後悔ばかりに人生を送ってきましたから、当時の判断を悔いても詮無いことだと
    分かっているのですが、アスカのことを考えると今でも心が痛むのです。

    完治までいかなくとも病が寛解したら、野良猫の保護活動に力を注ぎたい、と思っています。
    それに関してはひとつの構想があるのですが、まだ人に話せる段階ではなく、
    頭の中でシミュレーションを繰り返してばかりです。
    もう少し具体的な形になったら、ねこやしきさんに教えを乞うかもしれません。
    その時は宜しくお願いいたします。

  7. wabi | URL | 0MXaS1o.

    荒野鷹虎さんへ

    ご無沙汰しています。
    今回はまた、過分な評価をいただき恐縮しております。
    気力と体力がつづく限り野良猫の実態を発信していきたいと思っていますので、
    これからもご鞭撻の程、宜しくお願いいたします。

  8. wabi | URL | 0MXaS1o.

    orengeさんへ

    世の中には「犬派」と「猫派」が存在して互いに張り合っているようですが、
    私にすれば奇異に感じるばかりです。
    どちらもニンゲンにとって良いパートナーとしての長い歴史があります。
    犬には犬の、猫には猫の良いところが沢山あり、それぞれがニンゲンに癒やしを与えてくれる
    掛け替えのない存在です。

    アレルギーやトラウマがある場合を除いて、どちらか一方だけに肩入れする人を、
    基本的に私は信用していません。
    どちらかを贔屓にするあまり極端な言動に出る狷介なニンゲンは嫌悪すらします。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)