早朝の情景 (後編)

2014年12月05日 16:00

久しぶりに早朝の海岸を訪れた翌朝も、私の頭は目覚めから冴え渡っていた。

そこで私は朝食もそこそこにカメラを持って家を出、海岸へと自転車を駆った。

どうして急いだかというと、この稀有な状態は長続きしないし、その後に『 プチタイムトラベル 』を経験するのが分かっていたからだ。
 
前書きが長くなるので『 プチタイムトラベル 』の詳細な説明は後述することにして、さっそく本編に入る。


湘南海岸、早朝。
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私が海岸に着いたとき、ランはすでに防砂林から出て砂浜に降りる階段にいた。
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じつはこの直前に昨日会ったボランティアの女性とエサ場で遭遇し、ランは食事を終えて海岸へ行ったと教えてもらったのだ。


さらにボランティアの女性Sodaさん(仮名)は言った。「猫ハウスを作った男の方もランちゃんと一緒にいるわよ」と。
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ランに意味ありげな視線を送っているウインドブレーカーの初老の男性がその人だ。


「あんな立派な猫ハウスは初めて見ましたよ」と話しかけると「ああ、いやあ‥‥」と照れたように応えた。
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「離れたところにあるもう一つの猫ハウスはアスカのためですか?」と尋ねたら、「あれはセカンドハウスです」と言った。
ということは、アスカが居なくなってからあの猫ハウスは設置された訳だ。



顔見知りの男性にランはなぜか近づこうとせず、あらぬ方向を向いている。
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が、ランの真剣な表情を見て私は意表を突かれた。
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彼女はただ漫然と視線を送っていたのではなかった。


ランの視線をたどって振り向くと、波打ち際にリードを離された1頭の犬がいた。
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この町には浜辺をドッグランと勘違いしているニンゲンが少なからずいる。


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犬がいては、それもリードをしていないのであれば、昨日のようにランは浜に降りられない。


ランはそれならやむを得ない、といった風にその場に寝転がった。
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だがやはり犬が気になって今ひとつ興に乗りきれないようで、すぐにやめてしまった。


猫ハウス製作者の男性は、と見回すと‥‥、
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通りかかった知り合いの女性と立ち話のまっ最中だ。ボランティア仲間かも知れないが、話に割って入るほど私の心臓は強靭ではない。


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ランは依然として波打ち際で遊ぶ犬に警戒のこもった視線を送りつづけている。
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リードをしていない犬がいかに剣呑か、ランは理解しているのだろう。


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結局、ランは砂浜に降りることを諦めて、波消しブロックへ移動した。
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そして日課である毛繕いをはじめた。


「ラン、お前は利口な子だな」
以前にも述べたが、私は “ アニマルコミュニケーション ” の能力を持っていない。

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だが、そんな凡夫である私にも、ランが波消しブロックへ移動した意図は分かっている。
“ 逃走経路の確保 ” が目的だ。



積み上げられた波消しブロックには、モグラ叩きゲームの比ではない無数の穴が開いている。
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そしてブロックと地面との間には僅かな隙間がある。


小柄な猫が動きまわるには何の支障もないが、中型以上の犬が入りこめばまず身動きがとれない。
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ランは本能的にそのことを知っているのだ。


だからリードをしていない犬が近くにいても、こんなにのんびりと寛いでいられる。
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自己防衛が基本の野良猫が生き延びるためには、自分の持てる能力をフル活動させなければならない。


野良猫が生き長らえるには “ 運 ” も不可欠だが、防御本能の優劣が明暗を分ける。
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野良猫とはかくも過酷な世界で生きているのだ。寿命が短くなるのも当然である。


さっきの犬はリードをされて散歩を再開し、波打ち際を飼い主と一緒に遠ざかっていった。
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それでもなお、ランは体を起こして浜辺を見つめている。
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振りかえると、浜辺にリードを外されたダックスフンドが佇んでいた。
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こちらに歩を進めている手前の男性が飼い主のようだ。


体は小さいがダックスフンドは元々好奇心が旺盛でハンティングを好む猟犬である。
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それも狩りの際に地中の巣穴の中へ潜り込めるように胴長短足に改良された犬種だ。


そういう意味では、野良猫にとっては大型犬より危険な存在になり得る。
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ランが逃走経路と考えている波消しブロックの穴も、ダックスフンドが相手だと通用しないかもしれない。


そのことを知ってか知らでか、ランは警戒を緩めた姿勢でダックスフンドを見つめている。
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しかし野良猫の本能が危険信号を発したのか、ランは階段から離れて波消しブロックの上を歩きはじめた。
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リードをしていない犬が二度も現れては警戒心も強くなってあたりまえだ。


自分にとってどこが安全か、ランはその場所を探しているのだろう。
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しばらくすると、ランは歩みを止めた。どうやらここが安全だと判断したようだ。


と思ったのも束の間、ランは波消しブロックから砂浜に降りてきた。
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そして、私の足許にごろりと体を横たえた。


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「やっぱりお前は利口な子だ」
ランは海岸で一番安全な場所を選んだわけだ。



周りに人はいない。撮影中にランと遊べる貴重なひとときだ。
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私は太陽が当たる場所で、海岸猫と触れ合えることの嬉しさを感じている。


と、ランは私の指を前足でつかむと、いきなり噛みついた。
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無論、本気ではなく甘噛みである。指をつかんでいる前足からは爪も出していない。


「私の手をオモチャにして、じゃれたいなら好きなだけ遊ぶといい」私は自分の手をランに委ねた。
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ランはさらに、後ろ足も私の手に引っ掛けてきた。
これは仔猫同士がじゃれあうときによく見せる『 ベリーアップ 』の体勢だ。



馴れた猫でもつい興奮して爪を立てたり、この体勢から後ろ足で “ 猫キック ” を出してくるときがたまにある。
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けれどランはいくらじゃれついても、けっして手加減を忘れない。


私の手で遊ぶのに飽きると、ランは砂浜に再び寝転がった。
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しかし周りへの警戒は解いていない。自分に危害を加える存在が近くにいないかの確認は常に怠らない。
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「ラン安心しな、私が側にいる間は誰も近づけないから」


私の思いが通じたのか、ランは再び砂に体を擦り付けはじめた。
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「お前は砂の上でごろごろするのが好きなんだな。安心していつでもこうできる日が来るといいんだが」


ランは暖かい朝陽を浴びて心地良くなったのか、まぶたが重そうだ。
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ランは柔らかなクッションやふかふかのベッドを持っていない。防砂林の病葉もそれなりに寝心地がいいだろうが、陽射しで温められた砂浜に勝るとは思えない。


「私はもう少し海岸にいるから、安心して眠りな」
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ランはやがて目を閉じると、四肢を伸ばしたままいっときの眠りについた。
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私はランの眠りの邪魔をしないよう、少し離れたところから見守ることにした。


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10分ほどそうしていただろうか、ランはやおら起き上がると波消しブロックの上にちょこんと座った。
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朝陽を受け毛先を金色に染めたランの表情は、この日の天気のように爽やかに見える。
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外敵が多い野良猫の平均睡眠時間は8時間と、飼い猫の14時間と比べて4割ほど少ない。


束の間だったが、暖かい陽射しのもとで警戒を解いて眠ったことが心を和ませたのだろう。
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こんなに穏やかで屈託のないランの顔を見るのは久方ぶりだ。


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私は海岸を去るにあたり、ランを安全な防砂林に戻すべく、波消しブロックの最上段までランを誘導した。
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私の意図を理解しているのか、ランは素直に後を付いてくる。


だが薄暗い防砂林へはまだ帰りたくないようで、ランは歩みを止めると、その場に横になった。
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ランの気持ちもよく分かる。太陽が昇るにつれ気温も上がり、日向ぼっこにはおあつらえ向きなのだから。


ランは前日と同じように、陽当りのいい波消しブロックの上に体を横たえた。
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そしてそのまま再び浅い眠りについた。


犬や猫も夢を見るし、寝言だって言う。「ランはいったいどんな夢を見るのだろう?」
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もしかしたら夢の中で、生き別れになった子供のチャゲやアスカやユイに会っているのかもしれないなと、ランの寝顔を見ながら私はふと思った。


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さて、冒頭に述べた『 プチタイムトラベル 』だが、早期覚醒型の睡眠障害をかかえている人なら経験があると思う。(ちなみにこの名称は私が適当に付けた)

簡単にいうと『 プチタイムトラベル 』とは、一瞬間に未来へ行ってしまうことだ。

ただ未来といっても名称が表しているようにごく短い時間で、私の場合長くても1時間を超えることは滅多にない。


この事象を起こすのは、何の前触れもなくいきなり襲ってくる激烈な睡魔である。

普通の居眠りとの違いは、強い睡魔に瞬間的に見舞われるため眠った自覚が毛ほどもないことだ。

そして『 プチタイムトラベル 』は時と場所を選ばず突然に、また何度もやってくる。
(幸い、体を動かしている状況では起こっていない)


私の場合、マウスを片手にパソコン画面を見ているときに陥ることが多く、目覚めるまでその姿勢を保ったままなので、初めて経験したときは時計が狂ったと思ったほどだ。

私の拙い説明では、この感覚を理解できない人も多いだろう。

もしかしたら、こう言い換えたほうが分かり易いかもしれない。
『 プチタイムトラベル 』とは、数十分もの長い時間をかけて行う “ まばたき ” だ、と。




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コメント

  1. ケン | URL | -

    wabiさん こんばんわ^^

    ランは良いボランティアの人がついていて、心強いですね。

    ところで、ランみたいにボランティアの人がついていればいいのですが、一般的に野良猫の実像はそうではありません。
    ほったらかしの野良猫の方が多いのです。
    それに比べたら、猫ハウスはちゃんと用意してくれるし、エサは毎日もらってる、、、ランは何と幸せでしょうか。

    ただ、子供達と生き別れたのが悲しいですけどね。。。

  2. おこちゃん | URL | -

    ランちゃんが、甘噛み、後ろ脚キック体勢をしてくれて、
    信頼関係に、読んでいて、嬉しかったですよฅ^•ﻌ•^ฅ

    今日はホノボノと、安心して、微笑みながら読ませてもらえました〜。

    プチタイムトラベル、まさか、自転車を、漕いでいる時は、大丈夫なんでしょう?

    私は朝まで寝られないけど、スマホでブログを読んでいて、握りしめたまま、何分間か寝て、一晩に繰り返していることがあります。タイムトラベラーかー!
    子どもの時、今でも憧れていますけど。
    いい、表現ですね、暗くならない表し方デス。

  3. | URL | -

    TNRってアメリカでも効果がないって判断されたし多頭飼いで失敗したら即殺処分ですよ?
    ドイツは殺処分0ですがハンターが犬猫を狩ることができます。
    こんなこと言っても無駄かもしれませんが人の皮を被った生命体がいるとかいいながらあなたが人の常識がないだけでは?
    都会で猫を放し飼いにして生活被害を出したら駆除されます。
    海岸猫だって可愛いですが行政の許可が仮になければ野良猫を外飼いしてるだけです
    海岸に来る人や犬を邪魔扱いするのはお門違いです。
    あなたがやってることは公園なんかで無許可でしている他のボランティアに比べてとても配慮があると思います。
    できればそこら辺も考えてくれませんか?

  4. いちこ | URL | -

    wabiさん、ご無沙汰しています。
    厳しい環境の中で暮らす野良猫に
    私が癒してもらっています。
    太陽の温もりが伝わってくる写真を
    ありがとうございます。
    ランちゃんの顔のなんて穏やかな事。
    ぐっすり眠れてよかったね。

    プチタイムトラベル、パソコンの前でしたら安心ですけど・・・
    お気をつけくださいね。

  5. wabi | URL | 0MXaS1o.

    ケンさんへ

    私見ですが、基本的にこの世に幸せな野良猫はいないと思っています。
    猫に幸福感の概念はなく、現状を受け容れて懸命に生きているだけです。
    人間もそうですが幸不幸は相対的なモノではありませんし‥‥。

    猫にとっての幸せは愛してくれる人間と暮らすことでしか得られないと
    私は考えています。

  6. wabi | URL | 0MXaS1o.

    おこちゃんさんへ

    海岸猫と関わっていて、唯一こういう時間に喜びを感じます。
    でもその喜びも束の間で、帰宅すると溜息がでますが‥‥。

    おこちゃんさんも『タイムトラベラー』でしたか。
    残念なのはこの現象、過去には行けないんですね。
    数分だけでも過去に戻れたら便利なんですけど‥‥。(笑)

    ちなみに自転車に乗っている時は大丈夫です。
    お気遣いありがとうございます。
    おこちゃんさんの指摘を受けて加筆しました。

  7. wabi | URL | 0MXaS1o.

    名無しさんへ

    ご忠告ありがとうございます。

    しかし、私は海岸にいる人や犬を邪魔者扱いした憶えはありません。。
    どこにそんな記述があるのでしょう?
    私が非難しているのは野良猫を虐待する人や海岸のルールを守らない
    飼い主達です。(海岸でリードを外すのは禁止と注意書きがあります)
    また「人の皮を被った生命体」と述べた記憶もありません。

    外国の事情は参考にこそなれ、比較するべきではないと思いますが。
    国民性や民意が違いますから。

    ちなみに、飼い主がいないから「野良猫」と言うのです。
    だから「野良猫を外飼いしてる」という表現は矛盾しています。

    元々「野良猫」は心無いニンゲンが遺棄したから存在しているのです。
    責められるべきはそういう人達でしょう。

    それと、海岸猫を世話しているボランティアの人達は行政とも連携しています。

  8. wabi | URL | 0MXaS1o.

    いちこさんへ

    8月6日に寄せていただいたコメントへのご返事が遅れたことを重ねてお詫びします。

    冬を迎えて海岸猫の暮らしはますます厳しくなります。
    そんな彼らが暖を取れるのは太陽の光熱だけです。
    だからあまり日が差さない防砂林より、海岸のほうが快適なのでしょう。

    今のところ『プチタイムトラベル』は家の中でしか起こっていません。
    お気遣いありがとうございます。

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