神出鬼没 (前編)

2014年12月13日 21:00

リンは生まれ育ったエリアを離れ、子供たちを引き連れて新たなエリアに移動した。

何故そうする必要があるのか私には窺い知れないけど、リンにはなんらかの心算があるのだろう。


湘南海岸、夕刻。
前日の夕方から降りはじめた雨は明け方には止んだが、午後になっても低い雲が居座り、湘南の海を暗く沈んだ色に染めている。
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私がエリアに到着するやいなや、リンとタクローが姿を現した。
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リンはためらいのない足取りで道路を横断して、私の方へ真っすぐ歩み寄ってくる。


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そして私の脚に体をべったりとすり付け歓待の意を表してくれた。


タクローは未だに私を警戒していて、母のように近づいてくることはない。
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それでも道路の中央まで進み出ると、誰に向かっているのか不明だが、「ニャーッ」と鳴き声を上げた。


大きななりをしていても、タクローはニンゲンでいえば成人前のまだまだ遊び盛りの年頃だ。
母親のリンが近づくと腹を見せて、「ボクに構ってよーっ」と甘えた仕草を見せる。

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しかしランは、そんなタクローに一瞥もくれず通りすぎてしまった。


するとタクローは母のにべもない態度に意表を突かれたのか、がばりと上体を起こした。
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そして、「え、ええっ!何で、どして?」と呆気にとられた様子で周りを見まわす。


照れ隠しなのか、それとも憤りなのか、タクローは耳を倒し目を三角にして「ニャーゴ」と吠えた。
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さらに般若の如き形相で「グルグル」と唸っている。


しばらくそうしていたタクローだったが、そこは気散じな猫のこと、起き上がれば普段の愛嬌ある表情に戻っていた。
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曇天の海岸は閑散としていて、道路を往来する人も殆どいない。
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天気が良く人通りが多い日なら、海岸猫は道路でこんな風にのんびりとしていられない。


行き交うニンゲンがいなくても、幼いタクローはやはり心が落ち着かないのか、独り防砂林へ向かって歩きだした。
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と、その途中でおもむろに振り返ると、物言いたげな眼差しを私に向けてくる。


さらに立ち止まって、再び意味ありげな視線を投げかけてきた。
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植込みの中に何かの気配を感じたのか、タクローは慌てて後ろを振りむいた。


そこから顔を出したのは、今年生まれたリンの子供だった。
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姿を現したのはサバトラだけで、ほかの子の姿は見えない。薄暗い植込みの奥に隠れているのかもしれない。


サバトラはただ一点を凝視している。
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その視線が注がれているのは私の足許だ。


実はさっきから母親のリンが私の足許にうずくまっている。
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私としては母親が気を許しているニンゲンだから、仔猫も警戒を緩めてくれないかと期待しているのだが‥‥。


同様に、その期待はタクローに対しても抱いている。
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ややあって、タクローが植込みから出、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。
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それにしても、何という格好はなんだ。
腰を折り、シッポを垂らし、おどおどした如何にも卑屈なタクローを見て私は呆れてしまった。

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「タクロー、お前はいつからそんな情けないオトコになったんだ」
しかし‥‥。

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さっきのやり取りの様に、リンが今年生まれた子供に掛かりっきりで、あまり構って貰えないのが原因ならいささか不憫である。


私がエサ場に行くと、現金なもので、タクローはさっきまでのしおらしい態度を急変させ、ニャゴニャゴとかまびすしく鳴きはじめた。
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そこへいくとリンはさすがに大人で、穏やかにただじっと佇んでいるだけだ。
しかし、実際にこちらの心へプレッシャーがかかるのは、こういう無言の訴えである。



求められるままに私は食器を洗い、持参してきた猫缶とカリカリをふたりに饗した。
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午後はまだ食事を与えられてない様で、親子揃って食欲は旺盛だ。


小柄なリンだが、今は子育て中、食べる量は通常の2~3倍に増えている。
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未だ成長中で食べ盛りのタクローは、やはりそれなりの量が必要だ。
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さしもの多弁なタクローも、食事中は一言も喋らず黙々と食べている。


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自分の分を平らげたリンは、事もあろうに息子の食べ物に手をだした。といっても、以前にもあったことで驚くにはあたらない。


それだけ育児中の母猫は栄養が必要であるという証なのだ。
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自分の食べ物を、母親とはいえ他の者に横取りされて何故タクローは怒らないのか?


猫社会にヒエラルキーは存在しないが、こと食べ物に関しては『 長幼の序 』とでもいうべき序列があり、親にかぎらず先輩猫が優先権を有しているからだ。
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タクローの器の中を覗くと、猫缶は殆んど残っていない。ふたりして器にへばり付いた欠片を舐め取っているのだ。


こんな光景を目の当たりにしては、猫缶を追加せざるを得ない。
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あとから他の海岸猫が現れたりする不測の事態に備えて、いつも猫缶を少し残しておくのだが、今回はそれらすべてを器に盛った。


ところが、リンは突然食べるのを止めると、険しい顔で前方を凝視しはじめた。
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何かを見ているというより、耳を澄ませているといった風だ。五感の中でもとりわけ聴覚が優れた猫のこと、ニンゲンには聴こえない “ 音 ” を感じ取ったのだろう。


リンは猫缶をうっちゃって足早に元いた場所へ向かっていく。
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常ならぬリンの様子に私は少々驚き、すぐに後を追った。


リンは歩みを止めると、辺りの様子を入念に窺いはじめた。
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そして独特の鳴き声を発した。低く断続的な鳴き方は私にとって聞き覚えのあるものだった。


優しさと憂いを含んだ特徴的な鳴き声、それは自分の子供を呼ぶ “ 母の声 ” だ。


すると‥‥。
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その母の声を耳にしたサバトラがまろび出るような勢いで、植込みの中から走り寄ってきた。


親は子を案じ、子は親を慕う、このお互いの情愛の在り方は猫もニンゲンも基本的に変わらない。
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ただ、どの生き物の中にも親子の情愛を持てない者がいる。区別するなら、その性情の有無で決めるべきで、別の生き物と比べても意味はない。


そこへ食事を終えたタクローも加わった。親子で寄り集まって何をしようというのか。
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先を行くリンが後ろを顧みて、歳の違うふたりの子供に目顔で促している。


そして皆、防砂ネットの隙間から防砂林の中へ入っていった。
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防砂ネットの内側が安全だと、リンはちゃんと心得ているのだ。


猫缶はほぼ完食されていた。リンの食べ残しはタクローが片付けたようだ。
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私は食器を洗い、持参したペットボトルから新鮮な水を水入れに満たした。


リンはネットの向こうでサバトラに授乳している。
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母子の大切な時間に水をささないよう、私はひとまずエリアを離れることにした。


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しばらくしてエリアに戻ると、リンの子供のサバ白がエサ場にいた。今まで何処かに身を隠していたのだろう。
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この子は兄弟の中で一番好奇心が強く、積極的な性格を持っている。


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視界の隅に動くものが入り込んだので、レンズを向けると草むらの中に黒い影があった。


私はこのあと、意外な海岸猫と出会うことになる。

その海岸猫は本来このエリアにいるべきではないのだが‥‥。


〈次回へつづく〉



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コメント

  1. おこちゃん | URL | -

    こんちは~!
    エ!続きは、、、どうなるのでしょう?
    いがいな猫ちゃん、遭遇?
    楽しみにしていていいのかなー?

  2. 冷凍SANMA | URL | TNMEEIK6

    こんにちは。

    何時もいつも楽しく、懐かしく、そして切ない気持ちで読ませていただいています。
    タクローちゃん、ホント召された我が家のお猫に似ているの^^
    続き、楽しみにしています(^-^*)

  3. wabi | URL | -

    おこちゃんさんへ

    すでに最新記事に登場していますが、
    闖入者はシシマルエリアの『ユキムラ』でした。

    この海岸猫は発情しているわけでもないのに、ときおり遠征します。
    そして妙に人懐こかったり、よそよそしかったりして、
    未だにその性格を把握していません。


  4. wabi | URL | -

    冷凍SANMAさんへ

    私自身も海岸猫と接していると、切ない気持ちになります。
    そして彼らに救いの手を差し伸べられない自分を不甲斐なく思うのです。

    タクローはひょうきんな子で、つれない態度をとられても何故か憎めません。
    私としては、これからも元気に育ってほしいと願うばかりです。

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