神出鬼没 (後編)

2014年12月21日 19:00

私はエリアを移動したリン一家の様子を見るために、曇天の海岸を訪れた。

ところが、そこへ思いがけない海岸猫が闖入してきた。


湘南海岸、夕刻。
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サバ白が私を見つめる面持ちには、警戒心と好奇心が交じり合っているようだ。
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そこへ黒猫が慎重な足取りで近づいてきた。


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黒猫はサバ白に比べて警戒心が強い性格のようで、私を凝視したまま慎重に歩を進めてくる。


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好奇心が勝ったのか、サバ白は数歩進み出てきた。


黒猫もカメラを構えるニンゲンに興味津々といった風で、私をじっと見つめている。
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とそのとき、サバトラの授乳を終えたリンが、私のすぐ脇を通り過ぎていった。


そしてそのまま、ふたりの子供がいるエサ場へ歩を進めていく。
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母親が現れたことで仔猫たちは警戒心を緩めたのか、にわかに行動が活発になった。


リンは喉の乾きを癒やしにエサ場に戻ってきたのだ。
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母親の姿を植込みの中から発見したのだろう、黒シロ仔猫も姿を現した。これで仔猫全員の姿を確認できたわけだ。
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こうして自分自身の目で仔猫たちの元気な姿を見て、やっと安堵の胸をなでおろした。


野良猫、それも仔猫が無事に育つ確率は低く、成猫になれるのはせいぜい1匹で、2匹以上は稀だと一般的には言われている。
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リンは前回までの出産で12匹の子供をもうけたが、里子として海岸から救われた4匹以外でいま現在生存が確認できるのはタクローひとりだけだ。


ただ心配していたリンの育児放棄は、今のところその兆しを見せていない。
リンは2012年の秋に産んだ4匹の子供のうち、2匹の育児を放擲した前歴を持っている。

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幸い、当ブログを見た県内の女性の斡旋で2匹揃って同じ里親さんに引き取られた。
(詳細は【幻想家族】【警戒する猫】を参照)


ちなみにここは、以前の防砂林の深奥部のような人目につかない場所ではない。
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がために、リンは感覚をフル稼働させて、周囲に警戒のセンサーを張りめぐらせている。


それはリンの険しい表情からも知れるが、耳の向きを変えて四囲の音を聞き漏らさないようにしていることで明白に実証している。
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子供をグルーミングしている最中も、リンの両の耳は周りの物音を感知しようと向きを変えつづける。


こんな見通しの利く場所で授乳するのは、彼女が信頼している私というニンゲンが側にいるからかもしれない。
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それでも警戒を完全に解けないのは野良猫の悲しい習性だ。


ここが防砂林ではなく家の中だったら、この情景は見る者にまったく違った印象を与えるだろう、と私はつい夢想してしまう。
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こういう感慨を覚えると、たいてい私の心中には自責の念が頭をもたげてくる。


私に興味があるのか、それともカメラに心惹かれるのか、黒仔猫がすぐ側までやってきた。
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が、私が半歩前進したら、黒仔猫は慌ててリンの許へ戻っていった。


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こういう光景を見ると、私としては4匹の仔猫全員がこれからも健康に育ってほしいと願うばかりだ。というか、私にはそれくらいしかできることがない。


授乳を終えたリンは子供たちから離れて独りぽつねんと佇んでいる。
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だがリンは表情を引き締めたままで、警戒心を緩めていないようだ。


リンの視線の先にいるだろう仔猫の様子を見ようと、私が目を離した一瞬の間隙にリンはいきなり駆けだした。


私は慌ててリンの後を追った。「リンどうした、またサバトラがお前を呼んでいるのか?」
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だがリンは “ 母の声 ” を発しないで、慎重な足取りで植込みへ向かっていく。


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そしてそのまま薄暗い植込みの中へ入っていった。


1分ほど経つと、リンは困惑した様子で戻ってきた。
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サバトラを捜しに行ったのに見つからなかったのだろうか。


また何か聴覚を刺激する物音がしたようで、リンはいきなり道路に駆け降りてきた。
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リンは途中で歩度を緩めると、今度は注意深い足取りで道路を横断していく。


そして道路を挟んだ隣の植込みに鼻先を突っ込み、中の様子をうかがいはじめた。
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しかし植込みには入らず、リンはおもむろに踵を返した。
「いったい、何があったんだリン?」リンの挙動は私の目から見ても明らかに変だった。



やがてサバ白が草むらから顔を出して、常ならね母を見つめる。
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が、リンはサバ白を一顧だにせず、おもむろに体を翻した。


そのときだった。
私の背後から、猫の甲高く大きな鳴き声が断続的に聞こえてきたのは。


私は急いで振り向くと、声を頼りに防砂ネットの中に猫の姿を探した。


すると、ネットの下の隙間からハチワレ猫がにゅっと顔を出した。
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「だ、誰だ‥‥お前?」
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私はそのハチワレの顔に憶えがあるはずなのに、何故かどこのエリアの海岸猫なのか思い出せなかった。


むこうも私を見知っているようで、やおら振り向くと思わせぶりな視線を投げかけてくる。
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そして私がすぐ近くにいるにもかかわらず、落ち着きはらった態度で地面に体を横たえた。


そのふてぶてしいと言ってもいい立ち振る舞いを見て、私の脳裏にある海岸猫のイメージが浮かんだ。
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「お前‥‥ユキムラだな」
私はようやく記憶の引き出しから、この海岸猫に関するピースを見つけることができた。

(ユキムラと最後に会ったときの様子は【新参者】を参照)


ニンゲンの脳は‥‥、少なくとも私の脳に限れば、物事を単独で憶えるのが不得手だ。
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通常はほかの事柄と関連付けられたあと、記憶の断片となって脳内の引き出しに収まる。たいていの場合、それは場所であったり時節であったり状況だったりするのだが。


私の卑近な例をあげると、診察の際にいつも顔を合わせている看護師と商店街ですれ違ったが、その人の正体を思い出したのは帰宅したあとだった経験がある。
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その体験と同様に、見知った海岸猫であっても違う場所で遭遇したせいで、にわかに思い出せなかったのだ。


オスの行動範囲はメスのそれより広いが、ここはユキムラが暮らすシシマルエリアから結構な距離がある。
「お前はどうしてこんな所まで出張ってきたんだ?」

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ユキムラはしかし、私の問いかけには答えず、「ニンゲンはどうして、いつもくだらない紋切り型の質問をしてくるんだ」と言わんばかりに大きなアクビをした。


それをきっかけに、ユキムラは思いを定めたように起きあがった。
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そして私に背を向けて、悠然とした足取りで防砂林の奥へ進みはじめた。私はその場に留まりユキムラを見送ることにした。


ところがユキムラは途中で進路を右に変えた。
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ユキムラが舵を切った方向にはリンの子供たちがいる。仔猫に対してユキムラがどんな態度にでるか予測できないので、私は慌ててあとを追った。


ユキムラは地面に転がっている朽木で爪研ぎをしていた。
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「ユキムラ、お前がどんな理由でここへ来たのか知らないけど、仔猫にはちょっかい出すなよ」
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するとユキムラは「何だよ、しつこいおっさんだなぁ。オレのやることにいちゃもんをつけるな」と如何にも不愉快そうな声をあげた。


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ユキムラは元の通路に戻ると、そのまま軽快な足付きで歩いていく。


私があとを付けていないか確認するためだろう、ユキムラは立ち止まり私を顧みた。
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再び歩きはじめたユキムラは、やがて防砂林の奥へ姿を消してしまった。


確かめる術はないが、リンの聴覚が感知したのはユキムラの鳴き声だったのかもしれない。
だからサバトラのことが心配になり、あんなに右往左往していたのではないだろうか。


ユキムラが登場してからリンたちはそれぞれの隠れ場所へ戻り、姿を見せなくなった。

私はそれを契機にエリアを離れ、帰路につくことにした。


そういえば以前、ランとアスカが起居していたエリアにもユキムラはいきなり闖入してきた。

その際も発情してメスを求めている訳ではなかった。

ユキムラの出自は明らかでないが、こんなに行動範囲の広い野良猫も珍しい。
まさに神出鬼没な猫である。



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私が砂浜に降りると、にわかに西の空が明るくなり青空も顔をのぞかせてきた。

すると湘南海岸の光景もグレーのとばりをめくるように、色彩を見る見るうちに取り戻していく。

その天候ライブショーを眺める私の胸の中では、様々な思いが駆けめぐっていた。



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『ご報告とお詫び』


先月の記事の末尾に『問わず語り』というタイトルで自分の体調不良について述べました。

じつはその後も体調は右肩下がりで海岸へ行く回数も徐々に減っていき、そして11月に入ってからは、ついに海岸へ足を運べなくなったのです。

申し出のあったリンの子供を捕獲しなければと気が急くのに、如何せん体が重くて外出も儘ならない状況がつづいています。

そこで12月の初旬に医師に症状を伝え、『 SSRI 』の量を倍に増やしてもらいました。

しかしこの薬は遅効性で、すぐに効き目は出ず体調が快復に向かうには、いましばらくの期間を要するでしょう。

病のせいとはいえ、仔猫の保護に着手できない現状を自分自身忸怩たる思いでいます。

仔猫引き取りの申し出を寄せていただいた方、そして募集記事を拡散していただいた各ブロガーさん方にご報告かたがたお詫びいたします。




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