想いの行方 (前編)

2015年02月14日 17:00


私は折にふれて思うことがある。
果たして、胸に秘めた想いが相手に届くことなどあるのだろうか、と。

そして『 以心伝心 』とか『 拈華微笑 』とか『 あうんの呼吸 』なんて事象は実際にあり得るのだろうかとも‥‥。


湘南海岸、夕刻。
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シシマルエリアに着いたとたんに、コジローの寛いでいる姿が目に入った。
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《 寝ているのかな‥‥ 》と思いながら、私は足音を忍ばせてコジローの正面に回りこんだ。
しかしコジローは寛いでなどいなかった。何やら難しい案件について熟考しているような険しい目付きで前方を見つめている。



「どうしたコジロー、悩み事でもあるのか?」と私がそう言って、コジローの身体に触れようとした瞬間、コジローはいきなり体を捻って腹を見せた。
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動物が腹を見せる行為を『 へそ天 』と呼ぶが、それは単に仰向けになって寝ているという意味だと私は解釈している。


猫の他にも犬、うさぎ、そして動物園で飼育されている虎、熊、猿、カンガルーなどもときに仰向けで寝る。これらは外敵のいない安全な環境にいる動物たちだ。
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だから私のブログにはへそ天という言葉は出てこない。なんとなれば、野良猫は腹を見せて寝るという無謀なことなど殆んどしないからだ。(ちなみにコジローのへそ天姿は一度だけ目撃している)


私は猫が腹を見せて体を左右に捻りつづける行為にも名称がついているのか調べてみた。
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ところが、“ クネクネする ” とか “ ゴロゴロする ” という表現ばかりで、特に名称は決まっていないようだ。


そこでこの際、へそ天のまま体をクネクネさせる行為を『 へそ天ローリング 』と呼ぶことにした。
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無論当ブログだけで通用するいわゆる隠語であり、世間一般には受け容れられない言葉なのは言うまでもない。


コジローは態勢を立て直すと、私が背にしている道路を往来する何者かに警戒の目を向ける。
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私は後ろを振り返らなかったが、おそらく散歩中の犬が通りすぎたのだろうと推測される。その脅威がなくなるとコジローは再び地面に体を横たえた。


そしてまたぞろ “ へそ天ローリング ” を始めた。
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普段はクールな “ 浜の伊達男 ” もこの日は何故か愛想がいい。


猫がニンゲンに対して行うへそ天ローリングは、その相手への信頼と「ボク(ワタシ)と遊ぼうよ」という気持ちの表れである。
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このエリアの海岸猫もその数を減らし、コジローが心を許せる身内や友だちもいなくなった。
受け止めてくれる当てのないコジローの想いはどこへ行くのだろう。



ここにも届かない想いを胸に抱えた海岸猫がいる。
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お気に入りの水上バイクの上で、シロベエは気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。


この海岸猫の出自は不明だ。ちなみに私がシロベエと初めて会ったのは2010年の夏だった。
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そのとき既に成猫だったシロベエはだから、年齢も定かではない。思うに、この子は海岸で生まれたのではなく、ニンゲンの手によって海岸へ遺棄されたのだろう。


シロベエの目付きが変わったので後ろを振り向くと、いつの間にかコジローがすぐ側に来ていた。
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それにしても‥‥相も変わらずシロベエを見つめるコジローの目は冷ややかだ。


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ニンゲンと同じように、猫にも相性の良し悪しがあるようで、コジローはシロベエとの係わりを避けて常に一定の距離をおく。


そもそもコジローは仲間とコミュニケーションを取るのを苦手としている。はにかみ屋なのか、それとも高踏的でありたいのか私には分からない。
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同じエリアに暮らす海岸猫同士くらい仲良くしてほしいという私の想いもまた、彼らに届かないようだ。


と、その時だった。
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いきなり耳をそばだてて、コジローがその眼に小さな警戒の色を灯したのは。
そして前足を地面から浮かせて、いつでも起き上がれる準備をした。



コジローが警戒するのは何なのか、気になった私はコジローの視線の行方を辿ってみた。







したところ、路傍にぽつねんと佇んでいる新参者の茶トラと目が合った。
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図らずも私と対峙する格好になった茶トラは、進むか退くか逡巡している様子だ。


ややあって茶トラは意を決したように一歩を踏み出すと、迷いのない足取りでこちらに進んできた。
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カメラを構える私へは一瞥もくれずに、まっすぐ前を見て歩を進める茶トラ。


どうやら彼は無聊を慰めるためでなく、確固たる目的を持ってここへやって来たようだ。
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「なるほど、そういうことか‥‥」と私は独りごちた。


このエリアのエサ場には、海岸猫たちが空腹に苦しまないよう常時カリカリが置いてある。
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茶トラはこのことを知っていて、空腹をいやすためにエサ場へやってきた訳だ。


ここで茶トラはやおら振り返ると、ようやく私の顔を睨みつけてきた。
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さらに悪鬼のごとき形相を作ると、「シャーッ」と低く小さな威嚇音を発してくる。


しかし私が平然としていると、茶トラは再び室外機の下に頭を突っ込んでカリカリを食べは始めた。
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茶トラはカリカリを殆んど咀嚼せずに喉へ流し込んでいく。よほど腹が減っているのだろう。


満腹になったのか、それともカリカリが無くなったのか私には確認できないが、茶トラは満足気に舌なめずりをしながら振り返った。
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そしてまたぞろ凄味のある形相をして「シャーッ」と威嚇音を発してくる。


しかし写真には写ってないが尻尾は下を向いたままだし、ひげも常態であるところから、茶トラが本気で怒っていないのは明らかだ。


「なあ茶トラ君、残念だけど私にはそんな虚仮威しは通用しないよ」と私は笑みを浮かべ諭すように言った。
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すると、私の態度から自分の気持ちを見透かされたことを悟ったのか、茶トラは表情を和らげた。


私はこの茶トラの様に感情を露わにする猫が嫌いではない。というか、感興すら湧いてくる。
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なんとなればこの子はこれまでの経験が教示するまま、不本意な強面役を演じているように思えて仕方ないからだ。


この茶トラの出自もまた、不明だ。どこで生まれ育ち、どういう経緯で海岸へ住み着くようになったのか分かっていない。
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腹を満たせば長居は無用とばかりに、茶トラはエサ場を後にする。ただ茶トラの足取りは飽くまでもゆっくりしたものだ。


猫が外敵から逃げる場合、必ずと言っていいほど途中で立ち止まり、後ろを振り返って相手の動きを確認する。
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しかし茶トラは一瞬たりとも立ち止まらなかったし、振り返る素振りすら見せなかった。


そんな茶トラを見送っていたのは、私だけではない。
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コジローは安全な車の下から茶トラの行動をつぶさに観察していたようだ。いかにもコジローらしい。


既に茶トラは死角に入って姿が見えないのに、コジローは身じろぎしないで執拗に凝視している。
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コジローとしては、よほど新参者の茶トラの存在が気になるようだ。


茶トラに興味を覚えた私は、彼の足取りを辿っていった。すると民家の庭にうずくまっている茶トラを発見した。
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気配を感じた茶トラがこちらを振り返った。その双眸にはこれと言った情動の兆しは見られない。


「あれ‥‥?」私はこの時、ある重大なことに気がついた。
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それが余りに僅かであったため今まで気づかなかったのだ。


よく見ると、茶トラの左耳の先が欠損しているのが見て取れる。それも喧嘩などで負った傷跡などではなく、明らかに鋭利な刃物で切り取られた跡だ。
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「お前、耳カットしているんだ」
つまりはこの茶トラ、誰かによって去勢手術を受けさせられていたのだ。



その “ 誰か ” はエリアを担当するSさんかと思ったが、耳カットの仕方が違っている。

このエリアの海岸猫も不妊手術を受けた印として以前は耳殻の先をカットしていた。
が、それは決まって右耳だ。それに誰が見ても一目で分かるように深くカットする。


要するにこの茶トラは別のエリアの、そして別のボランティアの人によって去勢手術を受けさせられていた訳だ。


と、私がそうした思いに耽っているうちに、茶トラの関心は別のモノに移ったようだ。
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「こんな状況でいったい何が気になっているんだ?」


訝った私が後ろを振り返ると、そこにはコジローがいた。
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「コジロー、お前も物見高いやつだなぁ」と私は思わず呟いた。


しかしコジローの行為は仕方ないことで、猫は警戒心も強いが好奇心も強い生き物なのだ。
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『 好奇心は猫を殺す 』。これはイギリスの諺である。
イギリスでは猫は9つの命を持っているとされ、そんな猫ですら旺盛な好奇心ために命を落とす、という意味だ。



それが転じて、『 好奇心の赴くまま何にでも首を突っ込むと、思わぬ危難に遭う 』とニンゲンに対する戒めの言葉になった。


喩えに使われるほど猫が好奇心の強い動物だという認識は洋の東西を問わないようだ。
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ただ前回載せたものも含めて、猫にまつわる日本の諺の多くが的外れなのに対して、イギリスの諺は猫の習性を的確にとらえていると思う。


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コジローは伸びをするとゆっくりとした歩度で近づいてきた。


そして尻尾を垂直に立てたまま私の脚に身体をすり寄せる。
「どうしたコジロー、クールなお前らくもない」と私は揶揄を込めてそう言った。

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このタイミングで身体を寄せてくるコジローの心境を私なりに読んでみた。もしかしたら新参の茶トラへの対抗心のなせる業かもしれない。言うところの『 嫉妬、ジェラシー 』である。


コジローが現れたからか、茶トラは庭の奥へと遠ざかった。
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「これ以上近づけないから心配無用だ。どこでも往来できるお前たちと違ってニンゲン界には他人の地所へ無断で立ち入れない決まりがあるからな」


茶トラに別れを告げた私は、コジローと一緒に一旦エサ場へ戻ることにした。
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コジローは大型船を曳航するタグボートよろしく私を先導していく。
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そして私がちゃんと付いてきているか、確認のためにときおり後ろを振り返る。


更には立ち止まって私が追い着くのを待っていてくれる。
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ここまで野良猫に気遣われると、冥利に余る思いだ。それも相手がコジローときては尚更である。


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この気遣いをエリアの仲間たちにも見せてくれるといいのだが、と私は思わずにはいられない。


その時だった‥‥。
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コジローの表情が強張り、大きく目を見開いたのは。



〈次回へつづく〉



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コメント

  1. おこちゃん | URL | -

    wabiさんの作った(ヘソ天ローリング)、これ何年か後には
    普通に皆が使っているかもしれませんよ❣
    浸透しそうです。 イイ表現ですね。  😻😸。

  2. wabi | URL | 0MXaS1o.

    おこちゃんさんへ

    「腹を見せてクネクネする」という表現に替わるものがないか、
    ずっと考えていました。
    他にはブレイクダンスを連想させることから『へそ天ブレイク』という
    案もあったのですが、『へそ天ローリング』の方が直截的で字面から理解しやすい
    と思い至りました。
    普及しますかね~?(笑)

  3. くまさつお母さま | URL | LFBiOYFc

    歩みを合わせてくれるコジローさん、ジーンとするわぁっ!

    『へそ天ローリング』いいですねっ♪
    いただきましたっ♪

  4. wabi | URL | 0MXaS1o.

    くまさつお母さまさんへ

    このエリアで私にすり寄ってきてくれる海岸猫は
    もうコジローしかいなくなりました。
    いっときシロベエも親愛の情を示してくれていましたが、
    脚を怪我してから何故かニンゲンを避けるようになったし、
    シャムミックスのアイは行方知れずに‥‥。

    『へそ天ローリング』ご自由に使ってください。

  5. 未来ママ | URL | ZBGCfeOs

    wabiさんこんばんは♪
    コジローくんの男っぷりいいですね~
    『ヘソ天ローリング』絶妙のネーミングw
    私もいただきま~す♪
    わんこさんにも通用しそうだわ。

  6. wabi | URL | 0MXaS1o.

    未来ママさんへ

    コジローは繊細で少々神経質なところがありますが、
    面差しはクールでなかなかのイケメンです。
    なので、私は密かに彼のことを“ 浜の伊達男 ”と呼んでいます。

    『ヘソ天ローリング』に著作権や商標権などは発生しないので
    ご自由に使ってください。(笑)

  7. ケン | URL | -

    wabiさん、こんばんわ^^

    コジロー君と茶トラ君って、すごく仲が良いのですね。
    茶トラ君が、コジロー君のことを、まるで兄貴のように慕ってます。
    コジロー君は、かわいい弟分ができて、嬉しいでしょうね^^
    いつまでもお幸せに。。。

  8. ケン | URL | -

    wabiさん

    別の方のブログで見たんですけど、コジローと茶トラがいつも一緒にいるということです。
    でも、わたしの勘違いかも知れません。
    茶トラは茶トラでも、別の茶トラなのかも知れません。
    似ていたので、この茶トラだとばかり思っていました。

    すみませんでした<m(__)m>

  9. wabi | URL | 0MXaS1o.

    ケンさんへ

    私のブログに即時性を求めてはいけません。(笑)
    更新がままならない状況では、現実の時間とブログ内の時間との
    隔たりは埋まるどころか、ますます広がっています。

    ケンさんは勘違いしていません。
    あの茶トラは変わりました。
    ニンゲンに対しても仲間に対しても。

    今はこれくらいで止めておきます。
    私のブログが現実の時間に追いつけるまで。
    (永遠に追いつかない可能性が高いですが)

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